Vtuber論考:Vtuberの「魂」という便宜的説明は本当に必要なのか?バーチャリズムという思想から考えてみる。

 さて、皆さんこんにちは。のらくらです。バーチャリズムについての2記事、お読みになって頂けたでしょうか。読んでくれた方は本当にありがとうございます。 

 この記事では「バーチャリズム」という思想の立場から、バーチャルYouTuberの「魂」という便宜的な説明って本当に必要なのか?という事を一歩踏み込んで考えてみます。
 初見の「バーチャリズムとはなんぞや?」という方のためにも、この記事でも軽くおさらいしますが、詳しい事は下記の2記事を御覧ください。

バーチャリズムのおさらい

さて、私が考えるバーチャリズムについて、軽くおさらいしてみます。もう知ってるという方は読み飛ばしていただいて構いません。

 バーチャリズムとは一言で言えば「バーチャル至上主義」になります。考えの根底にある出発点は、

「ヴァーチャル・キャラクターを見る時に、現実のことを想定するのは興が醒めるだけだし無意味だからやめよう」

という、おそらくバーチャルYouTuber好きの方の大部分は同意してくださるであろう考えです。「バーチャリズム」とは、この考えを「思想的」に定義付け、裏付けていく試みのことです。

 バーチャリズムという思想には、いくつかの基礎があります。一つは先に上げた「バーチャル至上主義」です。

 二つ目は、思想の具体的内容です。
 バーチャリズムとは、「ヴァーチャル・キャラクター」(アニメキャラクターや特にバーチャルYouTuber)を見る時に、現実というものを、一切、全く完全に、想定しないという思想です。

  そして三つ目に、思想の具体的目標が掲げられます。
 「バーチャリズムとは、二つ目のことを実現するために、バーチャル世界そのものの、現実からの「独立」を目指す思想」になります。

 これについては、ちょっと「ん?」となるかも知れません。どうして、バーチャル世界を独立させなければならないのか?という事に関してですが、私達がバーチャル・キャラクターを見て、現実のことを想定してしまうのは、現段階ではあくまで「現実」が基底にあって、「バーチャル世界」はそれに従属するという形を取っているからだと考えます。
 なので、「バーチャル世界」の現実からの実際的、特に精神的な「独立」を目指すのです。

 ちょっと分かりにくいかも知れませんが、詳しくは、上記の記事や、私のブログの「バーチャリズム」という記事をご覧になって、参考にしてください。実際この部分は、私自身完全には考えきれていない、バーチャリズムの未完成な部分でもあります。

次に、バーチャリズムが肯定するもの、バーチャリズムの意義について軽く触れます。これも詳しくは上記の記事をご覧になっていただきたいのですが、簡単に言えば、バーチャリズムの重要な理念として、

 「バーチャル世界」では「なりたい自分になれる」ということが挙げられます。

そして「なりたい自分になれる」という事を、バーチャリズムは肯定します。

バーチャリズムにおいては、「バーチャル・キャラクター」としての振る舞いを、一つの独立した「人格」として、絶対的に肯定し、尊重します。

 そのことによって、人々は生まれながらの身体的制約から開放される。これがバーチャリズムの理念です。ここまでが軽いおさらいです。

バーチャルYouTuberの「魂」という説明

 さて、この記事の本題に入っていきます。既存の考え方、バーチャルYouTuberの「魂」とは何かという事は、色々な方々が考察していますが、大体の概要は、バーチャルYouTuberファンなら何となく分かると思います。

 さてそもそもどうして、バーチャルYouTuberにおいて、わざわざ「魂」というものを説明しないといけないのか?という事ですが、これは、バーチャルYouTuberというキャラクターが、従来とは全く異なった、リアルタイム性と双方向性を持ったコミュニケーション能力を有するキャラクターに対する便宜的な説明だと私は考えています。

 実際的な、当たり前な、現実的な話をしてしまうなら、それは「中の人」がいるからです。でもこの考え方は無粋です。なので婉曲的かつ便宜的に「バーチャルYouTuberには「魂」がある」という説明をしなければならなかったんですね。

  さて、この既存のバーチャルYouTuberの「魂」という概念について、ちょっと深堀りして考えてみます。
 この「魂」という用法は、もちろん一般的に「spirit」とか「soul」とかという意味で使われる「魂」とはニュアンスが違います。具体的に言えば「キャラクター(character)」という意味合いが含まれています。

 「キャラクター(character)」という単語の、本来的な意味である「特徴」とか、「性質」とか、あるいは「人格」という意味合いは、バーチャルにおける存在と現実の存在を分け隔てる上で、うまく説明付けられています。「キャラクター(人格)」とは可分的なもので、個人がいくつもの「キャラクター(人格)」を有することは可能だからです。
 バーチャルYouTuberにおける「魂」は「キャラクター」を生み出す精神的源泉であるという言い方もできます。

 そもそも私たちは、普段から場面ごとに「キャラクター」を使い分けて振る舞っています。さらに言えば、インターネットというバーチャル空間を使用して、現実とは違った振る舞いや、匿名で様々な「キャラクター」を演じ分ける事もできるわけです。そういう意味では、私たちは、インターネットを使用する上で、既にバーチャル存在として振る舞っているとも言えるのです。

 このような、「キャラクター(人格)」を含んだ意味合いとしてのバーチャルYouTuberにおける「魂」をバーチャリズム的な観点から考えるならば、「魂」の「バーチャリズムYouTuber人格」を「人格」として尊重し、独立性を認めるということが、バーチャリズムだとも言えます。

バーチャリズムにおける「魂」の定義

 けれども、厳密なバーチャリズムの立場からは、このような既存の「バーチャリズムYouTuber」の「魂」という、あくまで便宜的な説明を全て肯定することは出来ません。「アバター」に「魂」が宿る事で、バーチャル・キャラクターが成立するという考え方では、概ね十分なのですが、それではやはりわずかでも「現実」が想定されてしまうからです。

 これを回避するためには、厳密なバーチャリズムの考え方、「画面に写って配信を行っている」、「その人」をそのまま見るという考え方においては、少し「魂」の概念を発展させて、独自に定義付けなければなりません。

 バーチャリズムにおける「魂」とは、あくまで、私達が見る、画面に写って配信を行っている「その人」が保有するであろう、本来的、一般的な「魂」の意味である精神の根源としての「魂」だと言えます。さらに言えば、前述の通り、「魂」は、複数の「キャラクター」を生み出す精神的な源泉であるという説明は変わりません。
 重要なのは、「画面に写って配信を行っている」、「その人」が持つ「魂」は、ひょっとすればどこか別の場所では他の「キャラクター」を生み出して振る舞っているのかも知れませんが、バーチャリズムにおいては、「そこにいる」、「その人」の「キャラクター(人格)」だけを見るべきなのです。
 なぜなら、バーチャリズムは、「バーチャル・キャラクター(人格)」の振る舞いを、一つの独立した人格として、絶対的に尊重する思想だからです。

そもそも「魂」なんてあるのだろうか?

 一方で、逆説的に言えば、バーチャリズムという実存的な立場からすれば、わざわざ「魂」なんていう説明をすることは、必ずしも必要ではないんです。

 だって、「目の前のその人」に「魂」があろうがなかろうが、そこに「その人」は存在するからです。わざわざ魂の説明が必要な場合があれば、前述のように定義しますが。

 でも、ちょっと考えてみてください。そもそも、私たちが普段人に会う時に、いちいちその人の「魂」がどうあるかなんて考えますか?

哲学的ゾンビ」という思考実験があります。
 曰く、「意思」とか、いわゆる「魂」のようなものを持っている人間は、自分一人だけで、それ以外の全人類は実際には「意思」なんてないのに、そう振る舞っているだけの「ゾンビ」かも知れない。そんな思考実験です。
 この思考実験は原理的に否定することも肯定することも出来ません。
 でも、実生活においては、たとえ本当に自分以外の全人類が「哲学的ゾンビ」だったとしても、私、あるいはあなたの生活は何の滞りもなく進みます。バーチャルYouTuberだってそうです。そこに「魂」があろうがなかろうが、あるいはそもそも人間がみんな「哲学的ゾンビ」だろうが、私、またはあなたに知る術はありません。つまり、現実世界における、私達が当たり前だと思っている「精神」、または「魂」の存在すら、実際は証明不可能だということです。

 けれどもそこには「意思」を持ったかのように振る舞う人がいる、それだけで私、あるいはあなたの身の回りの世界が形作られるには十分なんです。

 バーチャルYouTuberにおいても、「そこに」、「その人」がいる。その人は一つの「キャラクター(人格)」として振る舞っています。バーチャリズムにおいては、その「キャラクター(人格)」を一人の個別的な独立した「人格」として絶対的に尊重するというだけなのです。

 この記事は、私のブログの以下の記事を下敷きにして書きました。概ねこの記事と同じことを言っていますが、バーチャリズムについてより深く考えてみたいという方がいたら、私のブログの「バーチャリズム」カテゴリーの記事もぜひ読んでみてください。


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