「Charlie Watts。その代名詞〝ハイハットリフト〟について」

TBSラジオで毎週金曜日8時30分~午後1時まで放送の「金曜ボイスログ」
シンガーソングライターの臼井ミトンがパーソナリティを務める番組です。

このnote.では番組内の人気コーナー
「臼井ミトンのミュージックログ」の内容を書き起こし。
ちなみにyoutube版では動画も公開しているのでそちらも是非。

本日のテーマは…

Charlie Watts。その代名詞〝ハイハットリフト〟について


  • THE ROLLING STONESのドラマー・Charlie Watts

Mick JaggerとKeith Richardsの派手な衣装とパフォーマンスの後ろで、
涼しい顔して淡々とリズムを刻み続けたCharlie Wattsですが、もともとは
ジャズドラマーということもあるせいか、かなり個性的なグルーヴ感・リズム感を持っています。Keith Richardsのギターリフとか、Mick Jaggerの声質とかももちろんですけど、彼の8ビートを聴くとそれだけで、
「あ!THE ROLLING STONES!」という感じがするんですね。

で、彼のスタイルの一番わかりやすい特徴、例えばミュージシャンの間で
この曲はCharlie Wattsっぽくやってるよ。なんて話になると必ずやるのが、バックビートでのハイハット抜き。その名も「ハイハット・リフト」。
ちなみにこのネーミングは海外のドラマーが集うネット掲示板で使われていたものを拾って来ただけで、一般的な音楽用語ではありません。

  • 「ハイハット・リフト」とは…?

さぁ、これ、一体どういうことか?順を追って説明します。
今ここにおもちゃのキーボードがありまして、これでドラムの音を出しながら解説したいと思います。まず、エイトビートっていうロックの基本になるリズムがあって、こう言う感じ。
【※youtube版では臼井ミトンの実演がご覧いただけます】

これがなぜエイトビートと言うかというと、一小節を8分割した「8分音符」を刻み続けるからなんですよ。ハイハットという、二枚のシンバルが
合わさっている楽器で、これで、8分音符を刻み続けるのが基本です。
で、コンスタントに刻み続けるハイハットに加えて、2拍目と4拍目にスネアドラムを加えます。この2拍目と4拍目のことをバックビートと言います。
これがエイトビートの基本形。ロックの骨組みになります。

Charlie Wattsの一番特徴的なプレイスタイルとして、バックビートでの
ハイハット抜きと言いましたけど、つまりですよ、本来であれば8ビートで刻み続けるハイハットをスネアを引っ叩くバックビートの瞬間だけお休み
するんです。つまり、本来であればスネアとハイハットが同時に鳴るはず
なのが…こうなります。
スネアを取っ払ってハイハットだけにすると、こういう感じ
【※youtube版では実演しています】

本来コンスタントに刻み続けているはずのハイハットが「ツツ・ツツツ・」と歯抜けになってるんです。これがハイハット・リフトです。

スネアを叩く瞬間にハイハットを叩く方の手がピョコっと上に向くような
動作になるので海外の掲示板で「ハイハット・リフト」と呼ばれているみたいなんですが、さっき申し上げた通り一般的な音楽用語ではありません。
あまりにCharlie Wattsがよく使う奏法なので、Charlie Watts・ビートなんて呼ばれることさえあります。

  • 「ハイハット・リフト」音楽的な役割は…?

音楽的にどういう効果があるかというと、コンスタントに鳴ってるはずの
ハイハットが突然お休みするわけですから、逆にそのお休みになったところが強調されますよね。つまりスネアが鳴るバックビート、2拍目と4拍目に
一瞬大きな空間が生まれて、それらが強調されるわけです。

この2拍目と4拍目っていうのは、ジャズやロックミュージックでは非常に
重要で、2拍目と4拍目に鳴り響くスネアの音色だったり、ちょっとした
タイミングだったり、っていうのが、グルーヴを作る〝キモ〟なんです。
ドラマーの個性も出る。そんなバックビートをスネアだけに任せることによって強調しているんです。そして僕が思うにですけど、本来コンスタントにベタに刻まれ続けるハイハットが、この「ツツ・ツツツ・」のパターンに
なることで、リズムが凄く複合的になるというか、奥行きが出る感じがするんですよね。

こんな些細なことが彼の個性なの?と驚かれる方もいるかもしれませんが、ロックミュージックをやる人間にしてみればエイトビートっていうのはそもそもハイハットは8分音符を刻み続けるものと、先入観がありますので、
スネア叩く時にハイハットをお休みするっていうのは結構「エッ」って
思う、意外な発想なんですよ。

そんなCharlie Wattsの代名詞ともいえるハイハット・リフトなんですが、
実はCharlie Wattsが発明した奏法ではないんです。

  • ハイハット・リフト発明したのは別のドラマー?

最初にやり始めたと言われているのは、諸説ありますけど、The Bandというアメリカのロックバンドのドラマー、Levon Helm。
で、それを見たJim Keltnerというこれまたレジェンド・ドラマーで、
僕のアルバムでも叩いてくれている人ですが、Jim Keltnerが真似します。
そして、Jim KeltnerがGeorge Harrisonのバングラデシュ・コンサートで
ドラムを叩いているのを観たCharlie Wattsが、それをさらに真似たんです。それがいつの間にか彼のトレードマークになってしまった、というのが実際の経緯のようなんですね。

Charlie Wattsはロックドラマーには珍しくレギュラーグリップというジャズやマーチングで使うスティックの持ち方で、ロックバンドでスネアを強く
叩くためにはスティックを腕ごと大きく振りかぶらないといけない。
そうするとハイハットを叩く右手が邪魔になるから、それを跳ね上げて、
つまりリフトして、スネアをぶっ叩く左手の通り道を作ってあげる、
という意味で単純に動作的に理にかなっていたんじゃないかなと思います。

実際にこのハイハットリフト、初期にやり始めたThe BandのLevon HelmもJim Keltnerも、2人ともロックでは珍しくレギュラーグリップで主にスティックを持つドラマーなんですよね。

それにしてもロックファンにとって、このハイハット・リフトをCharlie Wattsがやり始めたのがバングラデシュ・コンサートでJim Keltnerを見て以降だというのは結構驚きかもしれません。
Charlie Wattsといえばハイハット・リフト。ハイハット・リフトといえばCharlie Wattsですから。

  • Charlie Wattsがハイハット・リフトを最初にやったアルバムは?

それを踏まえた上でハイハットリフトに注目してTHE ROLLING STONESの
レコードを聴き返してみますと、確かに1960〜70年代はこの奏法が全然出てこないんです。
70年代のライヴ映像を観ても、非常にベーシックに、8分音符をハイハットで刻み続ける普通のエイトビートを叩いています。
で、僕が確認した限りではTHE ROLLING STONESの楽曲にはっきりとわかる形でハイハットリフトが登場するのは1980年リリースのEmotional Rescueというアルバムからなんです。

Levon HelmやJim Keltner、あるいはBernard PurdieやRick Marottaがこの奏法を70年代にやり尽くしたあとで、80年代になってからCharlie Wattsは本格的に取り入れ始めてるんです。他のドラマーよりもだいぶ遅れて後からやり
始めている。それなのにこのハイハット・リフトがもうCharlie Wattsの専売特許的になってしまっているのは、Charlie Wattsが80年代以降とにかく色んな曲でしつこくしつこくこのパターンを叩き続けたというのもありますし、やっぱりTHE ROLLING STONESというバンドの知名度の凄さ、世界的な影響力の強さを証明しているっていう側面もあると思います。

そんなハイハット・リフト、ないしCharlie Watts・ビート、これがはっきりわかる曲を聞いていただきましょう。スネアが鳴る瞬間だけ何故か姿を消すハイハット、「ツツ・ツツツ・」という独特のハイハットのリズム。
そこだけに集中してお聴きください。
THE ROLLING STONESで「Love is Strong」

youtube版では動画で同様の内容をご覧いただけます。

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