Frank Sinatra三部作完結編!膨大なディスコグラフィから入門に最適なアルバムをご紹介。〝Swing〟がポイント

TBSラジオで毎週金曜日8時30分~午後1時まで放送の「金曜ボイスログ」
シンガーソングライターの臼井ミトンがパーソナリティを務める番組です。

このnote.では番組内の人気コーナー
「臼井ミトンのミュージックログ」の内容を書き起こし。
ちなみにyoutube版では動画も公開しているのでそちらも是非。

Frank Sinatra三部作完結編!膨大なディスコグラフィから入門に最適なアルバムをご紹介。〝Swing〟がポイント

まずは…ここから聴くのだけは避けて欲しいとうヒット曲

ということで、Frank Sinatra三部作の、今日が完結編でございます。
※過去配信分もご覧いただくとより楽しめます

あれだけ時間をかけて如何に素晴らしい歌手かを語りましたけど、なんせ、プロとしての初録音が1940年、最後のアルバムが1994年、レコーディングアーティストとしてのキャリアが半世紀をゆうに超えるわけですから、とにかく作品の数が多すぎるんですね。
せっかく興味を持ってもらえても、まず何から聴いてみたら良いのか。
一体どこから聴けばいいのかがわからない。という大変大きな問題が出てくるわけです。

そこで、今日は、Frank Sinatraを聴くならまずここらへんから聴いてみてはどうでしょう?というFrank Sinatra入門ディスクガイドをお届けしたいと
思います。というかですね、むしろ、どの時期もそれぞれの良さがあるんですけど、初めてFrank Sinatraを聴き始めるにあたっては、ここから聴くのだけは避けて欲しい!というお馴染みの大ヒット曲についてまずお話したいと思います。

特に日本においては、Frank Sinatraと言えばこの曲。
という感じで必ずセットで語られるこの曲です!

Frank Sinatraと言えば。の超超大名曲「My Way」でございます。
紛れもない大名曲ですよ。僕自身もこの曲本当に大好きなんですけど、
この曲はFrank Sinatraのレパートリーの中ではかなり異色な曲なので、これが彼の代表曲になっちゃうと本来の姿を適切に投影しているとは言えない。Frank Sinatraってこういうアーティストなんだって思われてしまうとファン的にはすごく困っちゃうんです。

「My Way」誕生の経緯

まずはこの曲が生まれた経緯なんですけど、60年代にThe Beatlesの世界的なブームからロック産業が大成長を遂げた時代に、Frank Sinatraがそれまで
やってきたようなスウィングジャズっていうのは完全に時代遅れになっていたんですね。ヒットも全く出ていなかった。
当時既に大ベテランだったFrank Sinatraが「俺はもうダメだ」と友人歌手のPaul Ankaに引退をほのめかしていました。

その頃Paul Ankaは、たまたま英語詞をつけたいなと思っていたフランスの
歌曲の権利を買ったところだったんですね。フランスの歌曲ということは、つまりシャンソンです。Frank Sinatraが引退を考えているという話を聞き、今まさに終ろうとしているかもしれない偉大な歌手のキャリアを思って、
そこからインスピレーションを得て「我が生涯にいっぺんの悔いなし」
という内容の英語詞をつけて「My Way」という曲名にしました。
それをFrank Sinatraに送ったんですね。

歌詞の内容も本当に感動的だし、アレンジも歌唱も素晴らしい。
なんだけど、この曲はつまり元がフランスのシャンソンなわけです。
スウィングジャズの歌手として頂点を極めたFrank Sinatraの音楽性を象徴しているかと聞かれたら答えは当然完全に「NO」なんですよ。

また歌詞の内容的に、「己を信じて、己の道を切り開き、歩き続けて来た」っていう歌詞なので、テレビ番組を始め、いろんなシーンで使いやすい曲
なんですコレが。ちょっと乱暴な言い方をすればネタ消費とも言える使われ方もしちゃってから、余計なんかダサいイメージが付いてるわけですね。
この曲は、若い頃からのFrank Sinatraの音楽を知った上でですよ、保守系のメディアに虐められて何度も低迷期がありながらも、その度にヒット曲や
ヒット映画で息を吹き返した大エンターテイナーのFrank Sinatraのキャリアの歩みについての共通認識があってこそ!シミジミとじわ〜っと感動する曲なのに、特に日本ではこの曲だけが一人歩きして「あのMy Wayっておじさんのバラードの人でしょ。」みたいな感じになっちゃってるわけです。

この曲が素晴らしい曲であることは疑う余地がないですけど、このヒット曲の存在のせいで、むしろFrank Sinatraが音楽的に正当に評価されずらくなっているという側面すらあるわけですね。
なので、この曲は若い頃のシナトラを聴き漁ってからの楽しみに取っておいてください。「My Way」から入らないでください。

My Way以外にもここから入るなというアルバムが

それともう一枚、ここから入らないでくれ、頼む!っていうアルバムが。
亡くなる直前にリリースされたデュエットアルバムです。
93年と94年に、その名も「Duets」、そして「Duets2」というタイトルで
計2枚リリースされています。

Aretha FranklinからTony BennettからNatalie Cole。あるいはU2のBonoから
オペラ歌手Luciano Pavarottiまで、これでもかというほどの世界的有名歌手がジャンルやレーベルを超えて、彼のキャリア・そして生涯を祝福するかのようにこぞって参加しています。
そしてそのデュエット相手の豪華さからサブスクで検索なんかかけると結構上の方に上がって来ちゃうんだけど、これもね、やっぱりここから聴き始めるのはやめてほしいんです。

なんでかっていうと、もうシンプルに本当に亡くなる直前も直前なんで、
歌声が弱っちゃっているんです。ファンにとっては最後の瞬間ですから本当に感動的なんですけど、初めて聴き始める人にこんなもんだと思われたくないわけです。また、Frank Sinatraとのデュエットってことでそのデュエット相手の皆さんが張り切っちゃって張り切っちゃって…
1曲目のLuther Vandrossなんかもうウキウキなわけ。
亡くなる直前の結構しんどそうなFrank Sinatraとの声艶の差がなんか悔しいのよ、ファン的には。
うちのFrank Sinatraはこんなもんじゃねーから!って。

アルバム名に「Swing」、「Swingin」と入っていれば間違いなし

じゃあ一体全体どのアルバムを聴けばいいのよって話ですよね。これあくまでも僕の独断と偏見によるチョイスにはなりますけど、特にサブスクで気軽に聴けて、そしてCDが廃盤になっていない、という条件はクリアしている
ものから選びました。

まずは、前々回までのコラムでかけた、1950年代のキャピトルレコード在籍時のアルバムはほんと全盛期なんで「外れ」がないんです。

特に「Songs for Swingin Lovers」というアルバム。

これはNelson Riddleという名アレンジャーとのタッグを確固たるものにした代表的なアルバムで、Nelson Riddleオーケストラのクレジットがあれば、
まず外れなし。と考えていただいて結構です。
ただ、アレンジャーの表記って当時のLPレコードの表ジャケットに必ず記載があるものなんですが、サブスクだと文字が小さくてわからないんですね。そこで、簡単な見分け方としてアルバムタイトルに「Swing」あるいは「Swingin」というワードが入っていればもう名盤間違いなしです。

Billy Mayという別のアレンジャーと組んだアルバムもありますが、いずれにせよ外れなしです。先にあげた「Songs for Swingin Lovers」はもちろん、「Swingin Affair」「Swingin Session」「Come Swing with Me」等。
そして、なんといってもNelson Riddleとの初共演になった「Swing Easy」
という紫色のアルバムも大名作。

このアルバムはその後、オーケストラの編成が大所帯になって豪華絢爛に
なり始める前夜。バンド編成としては中規模なんだけれども、その後の黄金時代の到来を確かに予感させます。
そんな大名盤「Swing Easy」から今日は1曲。
「I'm Gonna Sit Right Down (and Write Myself a Letter)」をお聴きください。

本当は、のちの「My Way」へと連なるバラードシンガーとしての
Frank Sinatraの名盤もご紹介したかったんですが、結局時間がなくなって
しまいまして、そこまで辿り着けませんでした。
まぁそもそも入門編ディスクガイドという趣旨からするとあんまり情報量が多くなってしまうとアレなので.
とにかく今日の結論としてはFrank Sinatraの〝Swing〟という言葉がアルバムタイトルに入っているものから順に是非聴き始めてください。

youtube版では動画で同様の内容をご覧いただけます。

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