健康診断のドレスコード
年に一度健康診断を受けている。
年末か年度末に受けることが多い。
前日まで猛烈な忙しさで、当日はその疲れを引きずってぼーっとした頭で病院へ向かうことがほとんどだ。
だから、朝、着て行く服にまで頭が回っていない。けれども、着替えがしやすい服装という点にだけ気をつけていればいいので問題はない。どのみち健診着に着替えるわけだから。
5年くらい前だろうか。
当時、私は「腹巻一体型パンツ」にハマっていた。名前のとおり、腹巻と下着のパンツが合体している、それはそれはあたたかくてお腹と背中をきっちりとあたためてくれる優れた下着を愛用していた。
腹巻といっても、毛糸のような分厚いものではなく、ヒートテックのような薄手のもので、上に着る服には何ら影響しない厚さのものだ。ただ、着用した姿は、色気もへったくれもない。別にだれに見せるものでもないし、関係ない。少なくとも普段は。
が、私はその腹巻一体型パンツを着用して健康診断の病院へ行ってしまった。しかも、ロッカー室で着替えるまで、その事実に気がつかなかった。
あっ!!
腹巻き・・・
一体型
どーする?
って、どうしようもない
ま、そんなに影響ないでしょと開き直る。
なんせ、疲れているからか、想像力が鈍りまくっていてその後に起こることに頭の回転が追い付いていなかった。
「はい、お着換えおわりましたら、まずはメタボ健診です。おへその下あたりの腹囲を測りますから、下着をできるだけ下げておいてくださいね。準備ができましたら、声かけてください」
「!!!!!!!!」
ここで、やっと私の頭は正常回転、いや高速回転し始めた。
できるだけ下げると言っても、ああ、腹巻が~~~
力いっぱい下げてみるものの、ふっといふっといルーズソックスみたいになってて、思うようにお腹はでてこない。あまり長い時間かけて準備するのも迷惑かと思うので、おばさんは開き直って「できました」と言ってみる。
恥ずかしさのあまり、心拍数は爆上がりで、冬なのにじわっと汗ばんでいる。
すごく測りづらそうだったが、私の腹巻を下におさえつつなんとかやり終えていただき、第一ステージはクリアした。
あ~、きっとあとでこの人は同僚の看護師さんに、「ちょっと聞いて、今日ね、腹巻一体型のパンツはいて来て人いたのよー、それでね・・・」と言うに違いないと思いながら、私は腹巻を元の位置に引っ張り上げた。
とにもかくにも、腹囲は終わったからあとはもう大丈夫でしょと思ったその瞬間に、声がかかった。
「はい、次は心電図です。」
「ここに仰向けになって、お胸に吸盤つけますから、両手は頭の上にあげてくださいね」
「!!!!!!!!」
私のお胸は、ただいま腹巻に覆われています。
ここでもまた、腹巻をふっといルーズソックス状態にして私は仰向けになった。こんなにドキドキして、不整脈にでもなったらどうしようと考えながら。
そのあと、マンモグラフィーを受ける時もまた、ふっといルーズソックスをつくり、もうその頃には腹巻一体型パンツなんか一生はかないって心に強く誓っていた。
健診も終盤に差し掛かり、もう大丈夫だと思ったが、最後にとどめの一言が私に浴びせられた。
「最後は内科の先生に診てもらいましょう。聴診器当てますね」
私は、あの日以来、本当に腹巻一体型パンツは着用していない。
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