グローバル選挙イヤー2024、ここまでの主要国の選挙戦と今後の選挙予定を振り返ってみた
2024年も早いもので間もなく折り返しですね。
年始に立てた目標、進捗の達成度はいかがでしょうか。
我が国では7月7日には泥仕合という他に言葉が見つからない東京都知事選挙、9月には自民党総裁選、10月までには衆議院総選挙が控えています。
せめて七夕らしく天の川でも見上げながら「カネや天下り、利権に汚くない政治が実現しますように」と願わずにはいられません。
(;>人<)☆彡
さて、今年は世界的な選挙イヤーとしても知られています。世界人口81.2億人のうち45億人を抱える約80か国・地域で選挙が行われます。
上半期、ここまでに行われた主要国やそれに影響を与えそうな選挙を振り返ると共に、下半期に向けて行われる選挙予定の国の様子をまとめてみました。
尚、私自身が投資・資産形成において影響を大きくもたらさないであろうと考えられる国・地域の総選挙・大統領選挙(★)などはJETRO*などの選挙結果をまとめたWebページのリンクを貼っております。予めご了承ください。
1月
台湾
人口2,357万人(2020年)、世界の半導体受注生産の66%を占める台湾は日本とも非常に友好的な地域です。
日清戦争後の1895年、日本は台湾を植民地として統治開始。日本が帝国大学を国内各地に設置して教育に力を入れていったこの時代、台湾には1928年に7番目の帝国大学*として台北帝国大学(現台湾大学)が設置されました。
この影響もあって台湾ではご高齢の方の中には日本語教育を受けた人たちもいて、また親日的であることが知られています。
日本は古くから孫文・蒋介石らの率いた国民党を中国(中華民国)として認めていました。
しかし蒋介石率いる国民党は(中華民国)は、毛沢東ら中国共産党によるクーデター(国共内戦)で敗北。現在の台湾本島へ逃がれ、1949年に中華人民共和国が誕生しました。
第二次世界大戦での戦勝国として国際連合が設立された際の常任理事国に中国として名を連ねていたのも「中華民国」でしたが、1971年には中華人民共和国に国連へ台湾を追放する決議が行われることになると、台湾は自ら国連から脱退。
日本は1972年に中国共産党が主権を握る中華人民共和国との日中国交正常化に伴い、台湾を国家として認めないという中国側の意向を尊重し、台湾を現在も中国の一地域として表向きは扱っています。(外交や貿易などの交流は継続)
2024年1月13日には台湾総統選挙が行われ、台中関係の曖昧維持路線だった蔡英文総統が二期8年を満了する事から後任に同じく民進党で台湾独立派の頼清徳(64歳)が出馬。
事前の世論調査の結果通りに勝利し、4年の任期が始まりました。
その一方で同時に開かれた台湾議会(立法委員)選で民進党は過半数を獲得できず、野党:国民党が僅差で立法院(国会に相当)の第一党となるねじれ議会が成立。
台湾は二大政党制ですが、民進党は2016年以来の蔡英文政権から続けての総統輩出となることが固いと確信していた有権者は、総統権限をけん制するためにあえて議会がねじれるようにするために国民党を議会第一党とする「棄保」を行いました。
インターネットや世論調査などの情報を元に、各自が思い思いに投票するのではなく自分が投票する先を振り分け与野党を意図的に拮抗させるのが棄保です。
これによって有権者が団結することで総統または議会を選挙で選べる立場を明確にし、総統の発言によって引き起こされる台湾有事および危機的状況をひっくり返すことができることを示しています。
一国二制度を約束して英国よりアヘン戦争による賠償として事実上の永久租借とされた99年租借を更新せずに1997年に返還された香港では、2014年に香港返還の前後に生まれた15歳前後の若い世代が民主化を掲げる「雨傘運動」などを率いた人物たちが成人し、議会等に出馬するようになっていました。
しかし中国当局によってこうした活動家や議員の逮捕・拘留が相次ぎ、2019年に逃亡犯条例が改正されたことを受けて事実上の中国本土と一体化されてしまいました。
(逃亡犯条例は反発の声が大きく後に撤回された)
また2020年に国家安全条例(国安法)が施行され、スパイ活動や反乱活動・扇動、外国勢力と付き合うこと等が禁じられ、中国本土で決定した法律が香港でも適用されることになりました。
中には香港の外に亡命する人たちも現れており、香港の国際金融都市としての機能は事実上の停止。
香港は中国本土内で流通されるオンショア人民元CNYと、香港内で発行されていた中国本土外で流通されているオフショア人民元CNHの交換ハブでもあったわけですが、香港に拠点を構えていた国際金融機関の中には移転を検討するところも現れました*。
一方で長年、香港に定着をしていたHSBCやスタンダードチャータード銀行など英国系金融機関はこの国安法に賛同し残りました。
これらは香港ドル(HKD)の発券銀行でもあり、英国と中国の関係は米中関係の裏の顔という位置づけになります。
台湾も海峡を挟んでいるとはいえ中国本土とは目と鼻の先であることや習近平主席が「一つの中国」を掲げていることから近い将来、香港同様に取り込まれてしまうことが危惧されています。
2月
フィンランド★
3月
ロシア
3月にはロシア大統領選挙が行われ、プーチン大統領が87%の得票率で圧勝。大統領として通算5度目の当選。
ロシアでは大統領は連続2期までとしていますが、間に他の人を挟むと事実上は何度でも大統領に就任することが可能です。
現に2008年まで2期8年の大統領任期を終えたプーチン大統領は、メドベージェフを大統領に据え、自身は首相となり、この間に任期に関する法律*を変え、2012年には任期満了を迎えた彼に代わって再び大統領に返り咲きました。
更に2020年に新たな法律が施行されたことで、これまでの任期の通算が次回選挙からリセットされることを国民投票で賛成多数となった事を受け、今回の当選でプーチン大統領は健在であれば2030年まで任期があり、更に2030年の選挙で勝てば2036年まで大統領を続けることができます。
もっともその頃まで何事もなければプーチン大統領は83歳です。ロシア人男性の平均寿命は60歳、女性73歳…いくら高度な医療を受けられる立場と言っても寿命ばかりはどうにもならないと思いますが、暗殺や大病(末期がん説もあるが)などがなければ先進国並みには生きそうな気もします。
かと言って、「プーチンの犬」として尻尾を振るだけという印象がすっかりしみついてしまったメドベージェフに、プーチン後のロシアを担えるかといえば疑問符が付きます。
ゴルバチョフ大統領の宣言をきっかけにソ連が崩壊してロシア連邦となった1991年以降、33年間でロシア大統領になった人物は代行期間を除けばボリス・エリツィン。
エリツィンから大統領を引き継いだウラジミール・プーチン、そしてプーチンが立てたドミートリー・メドベージェフだけ。
人口1億4,420万人を抱えるヨーロッパとアジア両方に接し、米国を除いて人口1億人超でエネルギー・食料自給率100%超で世界に輸出できる国はロシアだけ。
2024年1月にはBRICSがBRICSプラスへ拡大。資源大国と人口大国が脱欧米、反欧米としての結束を目指し、結束を模索している点も気がかりです。
4月
韓国★
5月
南アフリカ共和国★
6月
メキシコ
総人口1.27憶人、主要な産業は北米や南米向けの部品などの製造。
かつての宗主国スペインに倣ってカトリック教徒の多い中米で最も経済規模の大きな国です。
また南米などからの移民が米国を目指す途上にあり、米国との国境問題(不法移民の越境)だけでなく、メキシコ国内では国内の労働力に移民が加わり様々な軋轢が生じています。
カナダが米国と隣接し、経済的な影響を大きく受けることと同じく、メキシコも米国の景気・経済に大きく影響をされます。
ちなみにこんな(↑)状況であっても、また資源国としての魅力も高いと思われますが中南米は基本的に投資対象としてカントリーリスク(汚職・腐敗)が高すぎて私は絶対に行しません。
国民の金融リテラシーが高くない国は、基本的にコンプライアンスやガバナンスがおろそかになりがちです。
まるで経済の強いアルゼンチンのような状況、通貨「メキシコ・ペソ」とあるように、ペソ*と名の付く通貨は信用するには少々勇気のいる通貨です(笑)
ラテンの血でしょうか?イベリア系の国民性はおおらかで楽しいですが、経済といった点ではあまり信用していません。
メキシカン・タコスは美味しいと思いますけどね。
6月2日にはメキシコで大統領選挙の開票が行われ気象学者出身で前メキシコシティ市長のクラウディア・シェインバウム氏(61歳)が当選、同国で初めての女性首相となりました。
初の女性首相の手腕と改革に期待が集まる一方で、大統領選挙が始まった2023年6月から大統領選挙終盤の2024年5月29日までに政治家への襲撃は320件。
内93人が暗殺され、脅迫された被害者は131人、テロ被害者は77人、誘拐された人は17人と初の女性大統領誕生の陰であまりにも殺伐としています。
大統領選挙における襲撃事件の頻発も麻薬などの犯罪組織、ギャング、大企業、政治家、警察、軍人、裁判官らが互いに癒着していることで知られていて、原油・天然ガス・鉱物資源などの密売なども横行。
選挙期間中には候補者へのゆすりが長年頻発し、2006年から2023年までのジャーナリストや市民の行方不明者はおよそ1万5千人にのぼります。
クラウディア大統領はこれまでの政権が進めてきた新自由主義を格差を拡大させてきたとして批判。
メキシコ議会は女性の議員議席が半分を占め、世界的にも女性比率がここまで高いのは他にはルワンダ、キューバ、ニカラグアの3か国だけだとされています。
女性だから良い政治家、良い大統領になるかは分かりませんが、
かつての宗主国スペインの影響から伝統的なキリスト教の宗派であるカトリックを根強く信仰する保守的なメキシコでついに女性の大統領が誕生したことは大きな出来事ではないでしょうか。
インド
6月5日には総人口14億人、登録有権者数10億人に迫るインドで世界最大の総選挙が行われました。
インドは二院制(上院=ラージヤ・サバ―、下院=ローク・サバー)で大統領と首相がおり、大統領は両院議員および州議会議員による間接選挙で選出される仕組み*です。
首相は大統領を補佐し、インドの最高意思決定機関である連邦閣僚会議(日本の内閣)の長を務め、首相は下院に対して集団的責任を負います。
大統領・首相候補者は両院どちらの議員からでもなれますが、下院で多数派を占める政党または連立政権与党の議員であることが条件となります。
選挙の結果は与党BJP(インド人民党)のナレンドラ・モディ首相が勝利し3期目を迎えました。
しかし野党との議席数は減らし、モディ政権への批判や不満も現れた結果に終わりました。
人口では2023年に中国を逆転、世界一の人口大国となり、近年も高い成長率で経済成長を続けていますが、その一方で国内では格差も拡大。
コロナ禍における低所得者層などのインフレや失業などに対する対応への不満が議席数を減らした要因とされています。
モディ首相は元々はカースト制度の中の不可触民(指定カースト)で紅茶を売って生計を立てていた貧しい身分の出身。
苦学の末にクジャラート大学で政治学修士となった後で、2001年からクジャラート州首相を3期13年務め、2014年にインド人民党(BJP)の選挙運動委員会会長に就任。同年の総選挙で勝利して首相となりました。
日本ではモディ首相は、14億人を超える国をまとめているリーダーとした様子が報じられることが多いですが、ヒンドゥー教至上主義で政党名のBJPは「BharatiyaJanataParty」。
BJPの支持母体はインド独立の父マハトマ・ガンジーを暗殺したナトラム・ゴドセを輩出したヒンドゥー至上主義の極右・Rashtriya Swayamsevak Sanghであり、モディも若い頃はここの元活動員でした。
モディ首相がクジャラート州首相を務めていた頃、州内の教育方針としてヒトラーやナチスを讃えるセクションの教科書が採択されるなど選民思想の傾向にあり、イスラム教徒を敵として捉えているところがあります。
このため反イスラムを掲げるイスラエルに対して親和的です。
こうしたモディ首相への人々の批判や不満の受け皿として躍進したのが野党連合、インド国民会議(INC、会議派)率いるラフル・ガンジー氏。
ガンジー姓の通り、インド独立の父マハトマ・ガンジーを支援し、非暴力・不服従運動を展開したインド初代首相ネール・ガンジー*。
またその娘で第5代・8代首相として活躍したインディラ・ガンジー。
その息子でラジブ・ガンジー元首相などインド首相を度々輩出してきたインド屈指の名門ネール・ガンジー家の出身です。
ラフル・ガンジーとモディ首相との間には浅からぬ因縁があります。
前回(2019年)の総選挙前、インド南西部の州で開かれた選挙集会でラフル氏が「どうして泥棒はみんな『モディ』が共通の姓なんだ?」と発言したことがモディ一族の名誉を棄損したとして訴えられ、モディ首相のお膝元グジャラート州の裁判所がラフル氏に禁固2年の有罪判決を下し、服役。
2023年には議員資格のはく奪も受け、今回の総選挙議員に復帰したばかりでした。(最高裁判決が判決効力の一時停止を4月に認めた)
またINCは長らくインドの与党として君臨してきた政党でしたが、近年はBJP率いる与党連合に押されて下院で苦戦。2019年の総選挙大敗の責任を取ってラフル・ガンジーはINC党首を辞任しています。
2024年6月に行われた総選挙もモディ首相率いるBJPと与党連合が過半数を維持したものの、今度は野党連合が大躍進。2019年と比べてもその差は確実に縮みつつあり、次の総選挙ではどうなるか分かりません。
インド人男性の平均寿命は67歳、女性70歳…毎朝5時に首相官邸に誰よりも早くやってきて黙々と14億人のために働くモディ首相(73歳)。
日米など国を率いるリーダーの高齢化はここでも課題と言えるかもしれません。
7月
フランス
6月6~9日に欧州議会選挙が行われました。EUでは加盟国それぞれの国ごとに憲法・法律がありますが、EU加盟国は欧州議会で決定した内容に従うことが求められています。
つまり自国の憲法の上にEU憲法・条約があり、EU議会はそれらEU憲法や条約などを話し合う場で、加盟国はそれに合わせて自国の憲法を改正するなどの対応が求められます。
各国の国会等で活動する政党のような形で、それぞれの考え方に基づいた会派(同盟)を構成し、国を超えてEU域内に向けて自分たちの考えを表明していく方法がとられています。
欧州議会最大勢力はフォン・デア・ライエン氏(65歳)に代表される欧州人民党(EPP)。ドイツ・メルケル元首相と同じくキリスト教民主同盟出身の議員です。
ドイツ・メルケル政権下で国防大臣などを歴任した後に、メルケル首相の後任と目されていましたが、上昇志向が強すぎるとして人気は低迷。
父と同じく志していたドイツ首相への道が絶たれ、メルケル首相はフォン・デア・ライエン氏に国内では難しくとも、EU内であればと欧州委員会への転身を支援し2019年に僅差で勝利し、女性初の欧州委員長に就任。
各国がコロナ禍において自国民を守るためにEUの国境を自由に超えることを認めるシェンゲン協定を一時停止し、国境を封鎖した際にはフォン・デア・ライエン氏がこれをEUのルールを破るなと批難すると、各国は自国民を守るために仕方がない措置だと逆に批判されてしまいました。
2022年にウクライナがロシアに侵攻されると、ウクライナ全面支援を表明。またEUへ緊急加入できるよう呼びかけますが、緊急事態とは言えEU加盟の要件を満たしていない国が加盟することでEU全体が混乱をする事は避けるべきであると議会の承認を得られないなどの反対に遭います。
欧州では2009年にはギリシア・ショックもあり、経済の状態を誤魔化して加盟していたことでEUはその債務清算や生産性の上がらない国の尻ぬぐいを強いられ大きな混乱を経験していました。
またウクライナを人道的立場から緊急加盟させることで、ロシアの矛先が自国(旧ソ連圏の東欧諸国)に向かうことを危惧した声、NATOが本当に機能して守ってくれるかの疑心暗鬼もありました。
フォン・デア・ライエン氏は自身の考える理想に邁進する女性議員ですが、その考え方にはやや危うい部分も。
その他、中道左派を掲げ社会民主主義*を標榜する社会民主進歩同盟(S&D)や中道リベラルを掲げるフランス・マクロン大統領率いる欧州刷新(RE)などが過半数を握っています。
今回の欧州議会選挙ではEU加盟国の有権者4億人が各国で投票を行いました。その結果、フランスのマクロン大統領が掲げる中道リベラルは大幅に議席を減らし、右派・極右が躍進しました。
各国の同じく中道を支持する3会派を合わせると未だ過半数を維持していますが、中道リベラルは右派・極右の連合に対しては逆転を許したことになります。
右派・極右はフランス国内ではマリーヌ・ルペン前党首に代表される国民連合(RN)は、「自国のことを自国で決められず、EUがなんでも決めて押し付けてしまうこんな状況はおかしい」と主張。
欧州議会は比例代表制で選出されますが、ここにルペン前党首は現党首のバルデラ氏(28歳)を送り出しました。
ルペン前党首は2023年のフランス大統領選などで「自国民を疲弊させる不法移民を国外追放する」と発言し、賛否両論分かれる展開となりました。
しかし今回の欧州議会選挙では、イタリアの貧民街からパリの移民街へ移住してきて育ったバルデラ氏を送り出しました。
バルデラ氏はTikTokフォロワー数130万人、貧しい出自、EU域内からの移民の立場からフランスの野党の党首に若くして駆け上がったサクセスストーリーに若い世代からの庶民の苦しさを理解してくれると共感する声は強いとされています。
極右というイメージを刷新し、「EU内からの移民をフランスは受け入れよう、それ以外の地域からの移民はダメだ」と軟化。
党首の若返り、更に弁も立つバルデラ氏が演説すると会場では割れんばかりの歓声が沸き上がり、まるでコンサート会場のようだと報じられ、今回の躍進につながりました。
またルペン前党首の姪マリオン・マレシャルは極右とされてきた国民連合を抜け出し、「国民連合のやり方は生ぬるい」と再征服(R!)に入党。
これによってこれまで極右と呼ばれた国民連合が右派と呼ばれるように変化します。(そんなんアリか…)
マリオン氏は親ロシアで、英国のEU離脱はフランスにもEU離脱の可能性を示してくれたとフレグジットをほのめかす」発言も。
今回の欧州議会選挙による右派・極右の躍進を受け、マクロン大統領は国民議会(下院)を解散し、総選挙に打って出ました。
フランス大統領の任期は5年、連続2期まで可能です。
既に2023年の大統領選挙で勝利し2期目に入っているマクロン大統領は残り4年(2028年4月まで)の任期中に後継者の選出、また右派・極右の勢力の躍進をどこまで抑えられるかの課題を抱えています。
マクロン大統領からすれば下院は2022年に選挙が行われたばかりで任期5年のまだ大半が残っている状況でしたので、解散は多くの人にとってサプライズでした。
どこかの国のように支持率が低いうちは、勝算ができるまで引き延ばすようなコスイことはせず潔く速攻で解散。
一度、国民に信を問い、自分の任期も長く残っている内に早めに失敗させて(失敗することが前提)「ほら、巧く行かないだろ?だから極右・右派はダメなんだ」とわからせる作戦ではないかとされています。
その一方で、あまりにマクロン大統領ら中道リベラル(RE)が掲げる政策(年金改革・脱炭素などの地球温暖化対策や移民受け入れなど)は、移民の人々の多く暮らすサンドニ地区で暮らす人からは、「大切なのはわかるけど、あまりに性急に物事を進めようとしすぎている」という指摘もあります。
フランスは欧州の中でも積極的に移民や多様化を受け入れてきた背景があります。それはフランス人権宣言に始まる現代社会の根底に流れている思想であり、王政を倒して民主主義を先駆けて掲げた国であるという自負でもあります。
その一方で皇帝ナポレオンによって広まった民族主義や中華思想などの発信地でもあります。
様々に揺れ動く歴史の渦中にあったヨーロッパの中心地の一つであるフランスの人々は、未来に対してどのような選択をするのでしょうか。
イギリス
EU離脱派のボリス・ジョンソン政権で国民投票でまさかの僅差でのEU離脱を行った英国。
ジョンソン退陣後も混乱とコロナ禍、またロシア・ウクライナ戦争による物価高、不法移民によって仕事を奪われた人々の不満は高まり、リシ・スナク首相は2022年からアフリカの小国ルワンダへの強制移住を可決するなど強硬姿勢を示しました。
しかしこれらは人権問題ではないのか、国際問題ではないかとする意見と、不法移民は国民ではない、正規の移民に対して行っているわけではないとする主張で国内は分断。
移民問題は他の欧州諸国でも大きな問題となっていますが、その中でも海を渡るというリスクを犯してまで英国を目指す人たちがいるのは英国の社会福祉・教育への補助が欧州諸国の中でも様々な面で先進的だからです。
中でも2010年に導入が決定され、2013年から実施されている「ユニバーサル・クレジット」(UC)は、これまでの生活保護のように就労すれば支給額が減らされたり、停止する仕組みではないため懸案だった「就労意欲を削ぐ」問題を解決するアイディアとして一部の人の間で知られています。
行政のデジタル化(DX)によって、支給判定や振込の効率化が進んだこともこれらを後押しする大きな要因となっています。
但し、これらに安住する人々や移民がこれら英国の社会福祉・相互扶助をある日突然やってきて利用する事に対しての批判は収まりません。
スナク首相への不支持が根強く、2024年後半~2025年初頭と言われていた解散総選挙を前倒しで実施することを発表。
中でも経済については大きな関心事です。EU域内であればどこでも1つのライセンス届出で金融機関を展開できたOnePassportがEU離脱によって失効。
これによってロンドンからパリやフランクフルト、アムステルダムなどへ440社超の金融サービス事業者が移転を表明。
英スタンダード・チャータード銀行までもが独フランクフルトへ移転、ゴールドマン・サックスやシティグループ、スイスのUBSも欧州拠点をEU域内へ移すことを表明。ロンドンの国際金融都市としての地位が低下していました。
ここにダメ押しをしたのが「王冠の中の宝石」と呼ばれた英国の至宝、世界的半導体設計専業のarmの再上場でした。
armがロンドン証券取引所ではなく米国のNASDAQへの上場を選んだことでロンドン証券取引所(LSE)はEU離脱に続けて国際金融都市としての地位が危ぶまれています。
こうした中、米中対立の激化によってNASDAQなどへ上場を規制されている中国企業の上場先としてLSEは活路を見出そうとして誘致に動いています。
たとえば2024年6月上旬には急成長する中国EC「SHEIN」がLSEへの上場協議を開始。
SHEINは2023年の売上高でファストファッションの世界的ブランドを展開するザラ、H&Mを超え240億㌦以上に到達。売上高では世界一のファッションブランドに急成長しました。
その他に中国企業では中国国際航空、中国石油化工、その他にも韓国のサムスン電子、LGなども既にLSEに上場しています。
前述のフランスと異なり、EU加盟中も自国通貨ポンドを使い続け、独自の経済政策や島国ということで我が道を歩んできた英国は欧州の中でもまだマシな方と言えます。
しかし北海油田を有するスコットランドは経済的に自立しており、イングランドとの同盟解消を過去何度も住民投票にかけており、その度に英国内の世論も揺れています。
またその北海油田も採掘量が2000年代に入ってから長らく減少傾向にあり、今日では国内需要を100%賄いきれずにノルウェーや米国などからの輸入に依存しています。
エネルギーを巡る情勢は国際社会におけるパワーバランスへの変化にもつながります。
特に欧州は石炭から石油へのエネルギーシフトの時代以降、常に石油・天然ガスなどの資源を巡って戦争と紛争に明け暮れてきました。
第一次、第二次世界大戦も、中東戦争も、今日のロシア・ウクライナ戦争も、イスラエル・パレスチナにおける紛争状態も根っこを辿るとエネルギーを巡る争いという共通点が見えてきます。
2000年代半ばにアメリカで確立されたシェールオイル・シェールガスの採掘技術が新たな海底油田・ガス田の採掘につながることもありますし、太陽光発電や洋上風力発電、核融合発電など新たな電力の確保の技術が確立・普及するかもしれません。
しかしそれらは一足飛びに全ての代替エネルギーとはなりません。
EUという頸木から一足先に抜け出した英国は、かつての覇権国家として再び輝きを取り戻せるのか。
世界の名目GDPの約13%*を生み出し、国際連合に次ぐ加盟国46か国24億人を束ねる英国連邦が、エリザベス2世女王の逝去後に、チャールズ国王の元で結束できるのか。はたまた空中分解してしまうのか、様々な面で注目を集めています。
8月
アメリカ
6月27日、大統領選挙に先立つテレビ討論会が南部ジョージア州アトランタで行われました。
バイデン大統領、トランプ前大統領による直接対決は2020年の大統領選挙以来4年ぶりのことでした。
この後は7~8月の党大会が開かれます。
党大会はあくまでも党員による結束力を高めるためのイベント。
1月から3月にかけて行われた各州で行われた予備選挙によって各党の候補者は事実上決まっています。
7月15~18日に共和党大会が開かれ、共和党指名候補者が選出され、現在の所はドナルド・トランプ前大統領が選出される予定です。
また8月19~22日には民主党大会が開かれ、民主党指名候補者が選出される予定で、このままいけばジョー・バイデン大統領が選出される予定です。
バイデン大統領は現在81歳、米国史上最高齢の大統領です。
仮に今年の大統領選挙で勝利して2期目を迎えると82歳で就任となります。
アメリカ大統領の任期は4年ですので、ご健在のまま2期目を終えると86歳。
またトランプ前大統領は78歳、勝って返り咲くと2期目の満了時は82歳で、更に4年後の2028年にバイデン大統領が2期目への再挑戦することは想定できないためやはり最高齢で任期を終えることになります。
アメリカ人の平均寿命は2022年時点で男性73.5歳、女性79.3歳。
いずれも平均的なアメリカ人よりも高い水準の医療を受けられるでしょうから長生きすると考えても、平均寿命を超えた年齢での大統領というのは果たしてどうなのかと思います。
そこで今回の党大会で注目を集めるのが、それぞれの副大統領候補者が誰になるのかです。
副大統領は大統領が職務を遂行できない状態*になった場合に大統領の代行をすることが可能。また任期が残り2年を切っている場合にはその後、2期8年の大統領就任が可能となっています。
また大統領選挙の投票用紙はマークシート方式で、大統領・副大統領がペアで書かれています。
つまり大統領と副大統領はワンセットで投票が行われるのです。
過去、大統領が任期途中で死亡したことで副大統領から大統領に昇格した人もいます。
1963年11月22日、ジョン.F.ケネディ大統領(46歳)がダラスでのパレード中に銃撃された際、リンドン・ジョンソン副大統領(55歳)はケネディの後続車に乗っていました。
ケネディ大統領の銃撃直後、シークレットサービスが覆いかぶさるようして守られたジョンソンはその様子がテレビなどからは伺えず、副大統領も共に襲撃されたのではないか、または心筋梗塞で倒れたのではないかという報道がされました。
ジョンソンは8年前に心筋梗塞で倒れ、死の淵をさまよった健康不安のある副大統領でした。
脳をライフルで狙撃されたケネディ大統領はすぐに近くの病院へ搬送されました。銃弾は背中から喉仏にかけて貫通しており、この一撃だけであれば致命傷にはならなかった可能性がありました。
しかし弾丸はもう一発撃たれており、右側頭部を貫いたことが致命傷となりました。
病院に搬送されて、狙撃から30分後に死亡確認。
ジャクリーン夫人と一緒に病院へ立ち寄ったジョンソン副大統領は大統領の死を確認すると、犯行グループが自身またジャクリーン夫人を再び襲撃する可能性もある中でダラス国際空港で大統領専用機に乗り込み、そこで米国で8度目となる臨時の大統領就任の宣誓を行いました。
ジョンソン大統領はテキサス州出身で第二次世界大戦では海軍少佐を務め、その後、政治家(上院議員)に転身。1960年には民主党内で大統領候補の一人と目されていました。
しかしこの年の3月の予備選挙で勝ちあがってきたマサチューセッツ州上院議員だったジョン・F・ケネディによって2倍近い得票数をつけられ敗退。
党代表として大統領選に臨むジョン・F・ケネディ候補が副大統領候補者に指名したのは予備選で競った、南部の保守層からの支持を集められると目されたリンドン・ジョンソンでした。
リンドン・ジョンソン大統領はケネディの後を継ぎ、1964年初頭教書で『偉大なる社会』を掲げ、人種、肌の色、宗教、出身国を理由に差別することを禁じる公民権Affirmative Actionを確立しました。
1963年、マーティン・ルーサー・キング牧師がワシントン大行進を行いリンカーン記念館の階段の上で有名な『I Have a Dream』を演説。
歴史に残る人種差別撤廃という公民権運動の確立は、副大統領から大統領の死という悲劇の中で就任した大統領代行によってもたらされました。
奇しくも4年前の対決と同じ顔触れでの対決となる今年の大統領選挙は11月5日に投開票が行われます。
しかしその前の7月、8月の党大会でもどんな人が副大統領候補として登場するのかに注目してみてはいかがでしょうか。
それぞれの大統領が高齢ということもありますが、日本で安倍晋三元首相が銃撃されたように、世界でも、ましてや銃規制の緩いアメリカなどではケネディ大統領襲撃事件のようなことが起こらないとも限りません。
尚、明治大学が社会人向けに公開している講座リバティアカデミーでは2024年7月6日(土)に海野素央教授によるアメリカ大統領選挙についての両陣営の選挙戦略についての講座(有料)が開かれます。
海野教授は研究の一環としてオバマ陣営、ヒラリー・クリントン陣営、バイデン陣営に参加した経験やオバマ大統領、トランプ大統領、バイデン大統領に生の取材を行ったこともあり、米国政治を独自の視点から調査・分析している方です。
私も同講座はオンラインで受講予定(予約済)ですので、ご関心のある方は事前予約と決済をしてください。
9月
日本
日本の自民党の総裁選挙が行われます。自民党員以外は投票をする事が出来ませんが、フランスの国民議会(下院)と同じく二回投票制です。
日本は政権与党の党首が、総理大臣に国会で選出される仕組みの議院内閣制を採用していますので、投票権がないとはいえ日本国民としては気になりますね。
史上最低となる支持率の岸田政権では秋の衆議院選挙では勝てないとなれば党首交代となるでしょうけれど、このままのらりくらりさりげなく続投というオチも。
日本では戦後、衆議院が任期満了をもって解散をしたことは昭和51(1976)年の1回だけ。内閣の切り札である伝家の宝刀「解散権」を抜かないことは殆どありません。
しかし内政においては決断力が全く感じられない、外弁慶な岸田内閣では抜かずに終わるということも全く否定はできないかと。
そういえば菅義偉前総理からわずか1年ほどで岸田内閣に引き継がれた際にはまた少し前の民主党政権時代のようにコロコロ総理大臣が代わる時代に入ったのかなと思ったら意外や意外、2024年6月末時点で通算1000日を超えます。
決断をしなかったというべきか、よくここまで引き延ばしたというべきか。
マクロン大統領を少しは見習って保身を捨て、さっさと解散してほしかったですね。
自民党が新しい党首を立てようとも、岸田総理のまま続投しようとも10月末には衆議院が任期満了、衆議院選挙が行われます。
11月
アメリカ
11月5日、世界中からその投票と結果が注目されるのがアメリカ大統領選挙です。
これについては既に過去記事で年始に紹介していますので、リンクを貼っておきますね。
【後編】は8月党大会が終わった後、それぞれの候補者が確定して情勢が大方見えてから書こうと思っています。(予定は未定)
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