見出し画像

多義語にもさまざまな種類があるというお話(質問にお答えします)

はじめに
こんにちは。飯島尚憲です。今回はかつて、学会発表をした時にいただいた質問について考える機会がありましたので、それについて回答していこうと思います。なお、今回の記事は難易度が高いので、言語学を専門にしていない人にはついていけない内容も含んでいるかもしれません。それでも、かなりやさしく書いたつもりですので、難しかったらスミマセン。

はじめに

①いただいた質問について

僕は多義語について研究する大学院生です。認知言語学について研究をしていて、その中でも多義語という言葉について焦点を当てて研究活動をしています。さて、そんな中、ある日のこと。学会発表した時に質問が出て、後から随分と考えさせられた質問ですので、それについて書いてみたいと思います。いただいた質問は以下の通りです。

いただいた質問
多義語って一括りにしているが、多義語にも種類はあるのか

いただいた質問

②質問への答え

一応、多義語にも種類はあり、それは研究者がかなり多く指摘していることです。もっとはっきりといってしまうと、さまざまな種類があって、それは多義語研究者の数だけあるといっても過言ではないです。とはいえ、多くの研究者がいうことにも共通点があるもの。今回はその共通点をお伝えしていきますね。

③さまざまな多義語

はじめに、このブログで書いてきた、多義語の定義についておさらいしておきましょう。多義語には「言語学的な定義」がありまして、以下の通り。

多義語とは1つの言語形式に複数の関連したニュアンスを持つ2つ以上の意味のある言葉のことである(Vicente & Falkum,2017)

多義語の定義

とはいえ、意味の関連性とは「曖昧」なこともあれば「明確」なこともあります。ひとくちに「関連している」といっても、関連していることが「はっきり」と分かることもあれば、そうではないこともあります。

意味の曖昧性(semantic vagueness)は、意味の変化において重要な要素です。「曖昧さ」という言葉を思い浮かべると、「漠然とした、はっきりしない」という特徴を持ちます。事実、伝統的な言語論では否定的に扱われてきました。しかし、ウィトゲンシュタイン(哲学者だが言語学の研究でもしばしば引用される)が語彙と意味の中で家族的類似(family resemblance)を指摘して以来、むしろ言語において重要で有用な要素と考えられるようになりました。

意味の曖昧性について

ただし、曖昧性と言ってもいくつかの種類があります。以下にウォルドロンに従って4つに分類してみましょう。

①曖昧性(ambiguity):意味解釈に2つ以上の選択肢があり、どれが意図されているのか特定できない場合です。例えば、「He gave me a ring.」のような語彙的な曖昧性(ambiguity)や、「Flying planes can be dangerous.」のような統語的な曖昧性も存在します。

曖昧性

②汎化(generality):一般的または抽象的な語が使用される際に、実際にどの程度の一般性や抽象性が意図されているのか不明な場合があります。例えば、「some」「often」「huge」といった語が該当します。また、「thing」「matter」といった抽象的な語では、具体的に何が指示されているのか判断できません。このような曖昧性は、で説明された概念階層(conceptual hierarchy)や包摂関係(hyponymy)と関連しています。

汎化

③変動(variation):ある語の厳密な定義が話者の間で揺れている場合です。例えば、「honour」や「「culture」「education」「conservative」「democratic」といった語について、個人によって意見が異なります。この現象は抽象的な語に広く見られます。

変動

④不確定性(indeterminacy):指示対象の境界が明確でない場合です。例えば、「shoulder」「neck」「lip」といった身体の部位の範囲がどこからどこまでか、また「morning」「afternoon」「evening」の区別が何時なのかなど、指示対象自体の物理的な範囲が明確に定まっていない、あるいは特に定める必要が感じられない場合です。

不確定性

なお、曖昧さ、多義性、意味変化の相互関係は複雑です。特にたいていの多義語という言葉を指すときは、意味変化による多義性に基づいています。しかし、それ以外の要素も多義性を生み出す意味変化の要因となり得えます。

④最後に

そんな感じで書いてきました。まあ、多義語と言ってもさまざまな種類がありますね。そんなこんなをこの質問をしてきた方と懇親会の時に話したら異様に話が盛り上がりました。今回はそんな感じです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?