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言語派と聴くネット(中心)ラップ

 HIPHOPは文学だと思う。多くが自分の体験・経験を元にして書き、心地良い定型に乗せて放つ。音楽を歌詞中心に楽しむタイプの私がネットラップにハマったのも無理がない。自分の中の葛藤やさけびを時に痛ましく率直に、時にうつくしい結晶のように抽出してひとのこころに届ける、そんな文学のもっとも現代的なフォーマットに惹かれたのだ。

 そんなネットラップの中から特にすきな曲を紹介したいと思う。先述のように私は歌詞中心派だが、ラップはしっかり韻律が整えられているので音で楽しむタイプの方にもきっと楽しんでもらえるだろう。


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1.STAR BURST/RainyBlueBell

詰みかけてからが面白えんだ
新スキルを習得するためにLevel up
俺らならどこまでだって行けるさ
Don't stop us

 人生をゲームに例えた曲はこの世に腐るほどあるが、こんなに熱くて優しい曲をほかに知らない。例えるなら授業を抜け出した先で出会ったお兄さんが逃避行の最後に悪戯っぽい笑みですこし背中を押してくれるような、努力論一辺倒ではないのに、がんばろうと自然と思えるような歌詞だ。
 RainyBlueBellは雨天決行・AO(トップハムハット狂)・ill.bellから成る3MCクルー。魂音泉にも参加しており、ネットラップ界隈では有名。韻が堅いのが特徴。何食ったらそんなに韻踏めるようになるんだ……。


2.笑えるように/電波少女


気が済むまで持っていきな
これ以上何もないのにさ まだ奪おうとするから
作ってみたよ別人格

 ゆらゆら不安定なまま怠惰に生きてたときに出会ってめちゃくちゃ刺さった。未だに怠惰なので未だに刺さったまま。自分を犠牲にしても享楽的に生きる様がまさにインターネット。サムネのくすんだ水色がよく似合う。引用部のあとの「真夜中の公園に諦めの歌を狂ったように響かせろ」というリリックがこの曲の真髄だと思う。
 電波少女はメンバーの入れ替わりがあるものの、現在はハシシ・NIHA-Cの2MCと“パフォーマー兼ボタンを押す係”のnicecreamから成るクルー。この曲のときはまだNIHA-Cが加入していない。


3.曙光/ぼくのりりっくのぼうよみ


(この動画の1:12:50からです。コメント欄で飛べるようにしてくれている方がいるのでそっち見たほうがはやいと思います。)

機械仕掛けの壮大な舞台装置に組み込まれた
祈りの雨はもう降らない
覚束無い足取りで一人で家に戻る

 このひとの書く詞を読んでいると、脳が溶ける感覚がある。ぼくりりに関してのクソデカ感情は書き始めると止まらないので別の機会にするとして、この曲の話に戻ろう。
 明け方の空気にはある種の清々しい孤独感がある。息苦しさや寂しさに対して開放感や再生という相反するモチーフが混濁するときだ。私も朝焼け見るの大好きマンなのでわかる。それを繊細な詩で、歌い方で、メロディで、こんなに上手く表していることに感動した。
 ぼくのりりっくのぼうよみは昨年に活動を終了(辞職)したニコラップ出身のアーティスト。現在は「たなか」として転生し、壁を登りながらやきいも屋さんになろうとしている。


4.Moldy feat.ハシシ/4s4ki


本当に欲しい物散りばめた
傷はキラキラの石で埋めた
目を見張るほどに綺麗だ
痛そうな縫い目ももう見えないし
夢意識の狭間 カビは今日もげんき

 「傷はキラキラの石で埋めた」という歌詞を見たとき、私がすきなのはこれだ!と思った。痛みをきれいに取り繕ってわらうような概念がすきだった。いままで言語化できていなかったものをこの曲がぴったり言い当ててくれたような気がした。うつくしいものの裏には虚しいものがある。hookにある「ららるーららるー廻る」という不思議な言い回しと語感が癖になってずっと聴きたくなる。
 4s4kiは作詞作曲、編曲までひとりでこなす新世代アーティスト、この曲では2で紹介した電波少女のハシシを客演に迎えている。


5.空の星へ沈むころ/AO・DAM-T・Juicee

星のオブジェと陽気なstep 君も踊りませんか?
ほらDon't be afraid
パジャマのすそをなびかせたら"Great!"
って気づけばBedの上……

 お洒落なジャズ調のtrackに童話のようなリリック。聴き終わったころにはつい笑顔がこぼれるような楽しくてやさしい曲。でも歌詞には子どもがわからないであろう語彙がたくさん散りばめられていて、どこか大人が童心にかえって夢を見ているような印象を受ける。韻を踏みまくっているので聴いていて心地良い。


6.陽炎を見ないということ/間開


“生のままの、俺だけの生を、
成さねばならぬならば成すまでは生きる
何者でもない俺が何者になる、
鳴り物入りの俺なりのライフを!”

 このリリックはよめばよむほど面白い。これを歌っている間開さんはガチの日本語学徒であり、様々な言葉遊びや聴いていて心地良いような母音・子音の組み合わせが練られている。こんなに記号的な“日本語”に凝っていてもしっかりと意味が通り、さらに共感すらできる哲学的なリリックになっているのが凄い。


6.ElecTravel/VACON


あんなに急いで探していたもの
ここにあったんだ "I WILL NEVER FORGET"
綺麗なことばかりの世界で息し辛いけど
俺ら、もういいよな
受け入れてstart 終わりのない旅へ going,go!

 言わば自分探しの旅をテーマにした曲だが、諦観の先にあるどうしようもないエネルギーで天衣無縫、縦横無尽に飛び回るようなイメージを想起させる。爽やかで苦しげな歌い方は短距離走のようで、軽やかな韻はさながら連続してちからを強めていくホップステップジャンプ。リリックと韻律が共鳴してどこまででもいけるような気がする曲。


7.DON'T LET ME DOWN/KEIJOLNO

僕の臆病を理解しないラブソングならいらない
明日になれば忘れられることなら
こんな鋭利な痛みはきっとしてない

 私は基本的にあまりラブソングを聴かないタイプだ。しかし、この曲はまさにそんな素直になれない人たちのためのラブソングである。引用部はhookなのだが、verse部分では恋愛以外のことに頭を悩ませる主人公の様子が描かれており、片思い相手が悩みの尽きない日常の中で現れた一種の“救い”となっている。洞窟でみつけたエメラルドの一片のきらめきのような曲だと思う。


8.LifeLine/HaGRmA.


また吐き出したお決まりのフレーズ
「Somebody please help me...」
されどプライド捨てきれずに
どこからか湧いた尽きないデザイアのままに
散らかってくエゴに
不意に色付けされた淡色のメモリー

 この曲は本当にHIPHOP。さらに言えばインターネットの、隠遁者のHIPHOPだ。引用部で顕著だが、韻を踏みながらまるで散文のような文章を書けることには驚かされる。生々しい辛さの描写と抽象的な比喩のバランスが丁度よく、私にとってもうだめだと思ったときに決まって聴く曲になっている。


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 と、ここまで。せっかくだから、ネットラップ以外でのすきな曲も少し紹介したい。相も変わらずラップではあるが。


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9.Role Playing Soldier/SKY-HI


こきつかったり 金奪ったり
通りすがりのモンスターしばいたり
今この時も涼しい部屋で一人コントロールしてるお前のせいで俺はこの通り

 AAAのメンバーとしても活躍するSKY-HI(日高光啓)の曲。アイドル出身だからと言って侮るなかれ。この人はほんもののラッパーだと思う。(正直私もAAAに関してはあまり詳しくないので……。申し訳ないです。)
 まず、ゲーム内の勇者の視点からプレイヤーの我々を描き出すという発想に虚をつかれたような気持ちになる。verse2では下っ端モンスターの視点から悪のリーダーへの気持ちを歌っている。本音と建前、立場の利用などのテーマをRPGを通して柔軟に、皮肉的に伝えている。この曲を聴くとゲームでもうちょっと優しいプレイをしようかな、と思わされる……笑。


10.Stella/Fling Posse


宇宙は塞がり 閉じこもった暗がり
星が落とす不思議な繋がり
再びを願う心だけがじっと伝わり
熱を焚べる篝 羽化していく蛹

 Twitterをやっていれば名前くらいは聞いたことがあるであろう「ヒプノシスマイク」の曲。あくまで二次元コンテンツなので敬遠している方もいるだろうが、この曲を提供してくださった弥之助さん(AFRO PARKER)は信頼できる人なので信じてほしい。
 宇宙で元王様と山賊と科学者が出会い、一緒に旅をするという設定の曲なのだが、SFと詩が融合した綺麗なリリックだ。私は途中で出てくる「空蝉のコラージュみたいなstarlight」という表現がいたく気に入ってしまったので聴く度にため息が出る。


11.Goodtime/SALU


いつだってGoodtime どう取るかが問題
そういつもGoodtime
それ自分がどう受け取るかだろ?
ほんの小さなことで幸せになれるのに
何が僕らの足枷?

 HIPHOP界では有名なSALUさんだが、私は恥ずかしながら3で紹介したぼくりり氏のおすすめで知った。ネット出身じゃなくてバトル現場以外のラッパーは(個人的に)探しにくいのでこれを読んでいる人におすすめの方がいたら本当に教えてほしい……。
 この曲は、簡単に言うと偽物だらけの現代で生きる希望を見出す曲だ。「なにも楽しくない」と思うときに積んでいる重い荷を後ろからさりげなく降ろして、ふわっと浮かびあがらせてくれるような感じがする。引用部で言っているように、受け取り方によっては人生はいつだってGoodtimeなのだ。


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 10曲で収めるはずが気づいたら11曲になってしまっていた……。このありえない量の文を読んでくれた方には感謝が尽きない。なんでこんなに文章を書いてしまったんだ……と自分でも思ったが、ジャニーズ楽曲大賞ガチ勢なので当然かもしれない。気になった曲があればぜひ聴いてみてほしい。

 今回はYouTubeで聴ける曲縛りで書いたが、ニコ動にしかあげていないガチマイナーやメジャーでもアルバム曲・カップリング曲ですきな曲もたくさんあるのでまた書きたい。

※カバー画像は自作の二次創作物(1で紹介した曲)ですがまずかったら消します。

※4/28追記 ほかの方のnoteを読んでいてSpotifyリンクがそのまま聴けてかなり強いなと思ったのである曲はそちらも貼りました。フル用にYouTubeリンクも残しておきます。

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