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術後1年の検診

8/16、ちょうど手術から1年が経った。
奇しくも友人の命日ということもあり、ずっと頭にモヤモヤと浮かんでいた彼女の記憶を整理しておきたいなと思っていたのだけれど、複雑すぎてまだ整理しきれずにいる。

1年前を思い出すと、あっという間のような気もするし、まだ1年しか経ってないのか~という気もする。
さすがにあの頃は今がこんなwithコロナの世界になっているとは思わなかったな。

そんなわけで数日前、1年後検診というやつに行ってきた。
午後からの予定だったので会社も半休にしていたのだが、こんな日に限って仕事は走り回るほどに忙しく、楽しみにしていた外食チャンスも、掻き込むように病院近くでうどんを食べるという不本意な結果となった(美味しかったけど…)
外はまさに猛暑日という感じで、とてつもない熱気とアスファルトの照り返しに挟まれて溶けそう、いや蒸発してしまいそうだった。地獄とはこんな感じなのだろう。

検診では、採血レントゲン撮影を済ませて乳腺外科に向かう。
どちらもコロナ対応でソーシャルディスタンスやら、ドアの開け閉めやら気配りがされている。
そういえば病院入口は前回よりもさらにきちんと仕切られていて、体温測定のゲートもできていた。


乳腺外科では、超音波でエコー撮影を実施。
例の人肌に温められたヌルヌルの液体を胸一帯にかけられて、ローラーのような器具を滑らせるアレだ。
まずは健側の左胸からスタート。
油断してぼんやりエステ気分でいたところ、突然左脇下で器具が止まった。
技師は無言でモニターを睨んでいる。
嫌な空気が流れる。
頭をそらしてそのモニターを目で追うと白黒映像のなかに二つ丸が見えた。
(脇……血管だろうか筋だろうか、まさか腫瘍なんてことないよね?)
緊張が走る。
技師はターゲットを狙い定めた様子で、当該箇所をローラーで軽く行き来すると、クリアに見える位置で停止して何度か撮影し、その謎の円のサイズをモニター上で測定した。数字は見えない。
想定外の影に、動揺しなかったと言えば嘘になる。
けれどどうしようもない。何か言われたら考えよう、経験者ゆえなのか謎の落ち着きを取り戻した私は、食後の眠気に襲われながらぼんやりモニターを見つめていた。
エコーに映った私の胸部は、まるで見知らぬ惑星の地表のようだった。
TVの歴史的瞬間なんかで流れる「月への到達シーン」の映像に似た、あの白黒の地表。


超音波のあとは、マンモグラフィー再び、の巻。
術後の右胸は挟めないのでパスして、左胸だけを見るらしい。
前回の激痛と我がラブリーな乳の悲惨な有り様を思い出し、なんとか逃れられないかと考えるが、そんなわけにはいかないのでやむなく腹をくくる。
若い女性技師がてきぱきと準備をしてくれた。

撮影に際して上の服は脱ぐのだが、その際、「ケープのような布」を渡され装着した。
かつては無かった装備だと記憶しているので、術後の見た目を気にする患者への配慮なのだろう。首もとでスナップボタンを留めて、片乳を露出して機械に体を押し当てるのだ。
「痛いんですよね、マンモ…」と私が弱音を吐くと、技師は慣れた様子で頷き「タテヨコどっちが痛いとかあります?」と問うた。そこでなるほど痛みにも差があるのかと思い至ったが、記憶ではどちらも痛かった。

とかく検査は始まり、残されし我がキュートな左胸は上下でまず挟まれ、その痛さにギェェと声をあげてしまった。
「どうですか」
「ええ、痛いです…!」
答えたからとて、どうなるでもない会話。
しかもさっさと撮影して欲しいのに、「件の配慮のケープ」が撮影機材に入り込み、調整するのに時間を要した。
こんな布いらないからさっさと撮影を進めて欲しい。見た目より痛みへの配慮が欲しい。痛みは人の冷静さと寛容さを奪う。

上下のあとは左右から脇肉ごと挟み込んでの撮影。
そこで先手必勝、「ケープいらないです、私気にしないんで!」と布切れを肩にまくりあげてさっさと終わらせて欲しいとアピール。
ところが布問題が解消した今度は、先ほど昼食でうどんを掻き込んできたせいで、ぽっこり出たお腹がつっかえて手間取ってしまい、恥をかくことに。
「腹筋をシックスパックに割る」という今年の抱負をコロナ自粛のせいにして蔑ろにしてきたツケである。早々にダイエット再開を半泣きで決意した。
(ちなみに左右からの撮影は思いの外痛くなかった)
……と、これらが一連の検査だ。


検査結果を待つため一時間とすこしばかり待機。
待合ではクーラーが効いていたので体が冷えた。ホットフラッシュが出ている時だとありがたいんだけどね。

4ヶ月ぶりに対面する飛猿医師は、変わりなく穏やかでホッとする。
「その後調子はどうですか」と問われ、
「おかげさまで、それなりに健やかに過ごしております!」と答えると、
それはよかったと笑ってくれた。

検査結果は実にあっさりしたもので、「血液、レントゲン、エコー、マンモグラフィ、全て問題なしです」とのことだった。わーいやったね!

しかしながらエコーに映った影は一体何だったんだろう。
「エコーで変な影があったと思うのですが……」と声をあげると、飛猿医師は「ああ、あれね……。あれはまぁ、問題ないです」と答え、
それ以上言及しなかった。
何だ、その妙な間は。
問題ない、という回答にほっとすると同時に「じゃあアレは何だっていうんです?」という疑問が浮かんだが、「主治医が問題ないと言うんだから問題ないんだろう」と突っ込んで聞くことができなかった。あとからモヤモヤしてきて、ちょっとだけ後悔している。

兎にも角にも2020年、私は「問題なし」の称号をゲットし、「次は1年後ですね〜」とゆるい感じで診察を終えた。

17時、外に出るとまだ明るかったけれど日は傾いており、空気はあの狂暴ともいえる熱気を失っていた。
地は熱を抱いたままだったけれど、ゆっくり歩いて帰ろう、と遠回りして帰った。

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