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メタバースがIPOする日(その3) ~Roblox vs Unity

RobloxのIPOについての記事も3回目ですが、今回はS1(目論見書)から離れて「RobloxはUnity Softwareとの競合なのか」について個人的に見解を述べてみたいと思います。投資の観点からするとUnity Softwareの成功を見て「Robloxも同じくらいのリアクションがあるのではないか」と想像される皆さんも(私も含めて)多いかと思います。(なお目論見書については前回以下のように翻訳しました。無料でお読みいただけます。)

ただ、Unityはあくまでも「クリエイターのゲーム作成を支援するツールと、クリエイター同士で(例えばゲーム製作に使用できるデジタル・アセットを売買できる)コミュニケーションあるいはマーケットとしての場を提供する」目的で作られており、Robloxはメタバースという「大きな一つのエコ・システム」だというのが自分の見方です。(「メタバース」としてのRoblox社の見解は以下の記事にまとめました。)

「エコ・システム」というのは、「プラットフォーム」を論じる時によく使われる言葉ですが、Robloxはそれ自体で完結している一つの世界だと私は考えられます。Robloxのゲーム・クリエイターは、Robloxのユーザ向けのゲームを作成しているわけであり、おそらくそれ以外のユーザについてゲームを制作する場合は、(Unityを含めた)ツールを選択して他のプラットフォーム(例えばスマートフォンの利用者)向けのゲームを作ると想像できます。

記憶に新しいところで、人気ゲーム「フォートナイト」がアップル・ストアから締め出された騒動が今夏ありました。これは「フォートナイト」自体がユーザの制作したコンテンツのプラットフォームとして機能しているにも関わらず、(例えばiPhoneのユーザはアップル・ストアを通じてゲームにアクセスしているために)結果的にアップル・ストア上で「フォートナイトをその一つのコンテンツ」として提供せざるをえない、という事情が関係しています。

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「フォートナイト」はUnityとよく似た目的で作られたソフトウェアによって開発されています。クリエイターがどのソフトウェアを用いて作成するかは、各クリエイターのモチベーションによって異なります。しかしどのソフトウェアを利用しても、一般のユーザに対してゲームを配布する場合は、そのゲームがどのデバイスで走るかによって異なる「ゲーム配布のためのプラットフォーム」を選んで配布します。アップル・ストアもその一つですし、もっと言えばプロフェッショナルが作成するゲームもUnityのようなソフトウェアによって開発されていますので、それらが家庭用ゲーム機に配布される場合は、各メーカーが提供するデジタル・ダウンロード等の形になります。

目論見書に詳しく書かれている通り、Roblox社自体がRoblox内のコンテンツを常に見張っています。この部分でアップル・ストアなどの他社のエコ・システムから独立したコントロールが可能です。(逆に考えると子供向けのコンテンツを提供するというプラットフォームとしての目的がありますので、既に多くの方が指摘しているように、ここで問題が生じた時に一気に屋台骨が揺らぐ事態が懸念されます。)

一方でUnityはゲームを作成するためのツールであり、プラットフォームに限らずゲームを製作し、ユーザの責任で提供するということが大前提となっています。ツールとプラットフォームは別のものですから、その意味でRobloxはUnityと直接競合になる(一方の利益が直接他方の不利益となる状態)とは、現在のところ言えないと思います。

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さらにRobloxは、現在はユーザの多くが小学生ぐらいの年齢層であるとはいえ、将来的により詳細にアバターをデザインしてゲームのキャラクターとして操作できる機能の実装が行われています。(それについても目論見書で触れられています。)現在、Robloxでゲームを製作しているクリエイターが、仮にUnityでのゲーム製作に興味を持ったとします。だからといってクリエイターが完全にRobloxのユーザでなくなるかというとそうではなく、進化した未来のバージョンでRobloxにも戻ってくる可能性も十分あるでしょう。(もっと言えば若い新しいクリエイターがRobloxのユーザとなる可能性は今後も高く、Unityに目が向いてしまったがために、Robloxのクリエイターが絶えてしまうという状況は直ぐには考えにくいです。)

Robloxの強みは、ユーザとして子供たちの多くを取り込んでいること、Robuxという通貨を使ったサブスクリプションモデルを実現していることのみならず、ゲームの遊び手と作り手が「常に」同じプラットフォームに居るという状況をすでに実現していることにもあると言えるのではないでしょうか。これらの状況を踏まえた上で私も自己責任で投資してみたいと考えている次第です。(なおタイトル画像は先日Roblox内で開催された Lil Nas X のバーチャル・コンサートからの一コマです。大きなサンタクロースの足が見えますね。)


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