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ラーメンと丼(どんぶり)、それ自体が一つの宇宙。~ The Art of the RAMEN Bowl展によせて ~

ロサンジェルスの観光の中心と言えばハリウッド。一等地であるドルビー・シアターとひとつづきのビルの中に、Japan House (Los Angeles) は様々な展示会を行っている。パンデミック後、再び世界中から旅行者を迎えている週末、ひさしぶりに「ラーメンどんぶり展(The Art of the RAMEN Bowl)」へ足をのばしてみた。

タイトル画像は、Japan Houseの反対側に見えるエル・キャピタン・シアターでは「バズ・ライトイヤー」が公開されていた(日本では7月1日公開予定)。ラーメンどんぶり展に足を踏み入れると巨大なラーメンの模型が出迎えてくれる。このどんぶり全体は自分の部屋に飾るには大きすぎるが、ほうれん草だけならテレビの横に置けるかもしれない。(ちなみに Japan House は無料のズーム・セミナーも随時開催しており、先月は展示に関連した SAMPURU | The Art of Japanese Food Replicas (「サンプル: 食べ物見本のすべて」リンク以下)も公開されていた。)

上記のビデオを見れば分かるが、ラーメンの見本それ自体も非常に芸術的な「工芸品」と言えるかもしれない。さらには日本美濃焼を紹介する目的の展示も併設され、そちらも見応えがあった。
ラーメンの歴史が特に戦後の日本の食文化の発展と成熟なくして語ることが出来ないように、ラーメンのどんぶりも日本の工芸の歴史と深いかかわりがあることも言うまでもない。

ラーメンを日本のフード・サンプルのテクニックを用いて解剖。右は美濃焼の見本である。

美濃焼のどんぶりも、同じものが一つとないアーティスティックな工芸品である。そしてこの展示のためにデザイナーが腕をふるったスペシャルなどんぶりとも言える作品が「30丼」も(目で)味わえるというのが目玉であった。

美濃焼の芸術的な形のどんぶりに加えて、多数のデザイナーが腕によりをかけた作品を展示。

ラーメンにまつわるデザイナーの思い出がどんぶりにペイントされた作品もあった。「ラーメンに対する想い」はデザイナーの数だけあり、ラーメンとどんぶりを通してデザイナーの人生が見える、とは言い過ぎだろうか。

どの丼もどこかのラーメン屋においてあってもオカシクない一方で、作品としてデザイナーの個性が強く反映されているという二面性がうかがえる。右端の丼(Kazunari Hattori氏作)には、ラーメンを食べたい街の名前、ハワイのホノルルやロシアのモスクワといった文字が入っている。
Tadanori Yokoo 氏の作品には「とんこつラーメンを食べて骨を強くしよう」と説明が加えられていた。正論であり、さすがである。
創意工夫を競うのはラーメンそのものだけでなく、ラーメンの丼のデザインでも同じである。

別に誰が決めたというわけではないだろうが、丼の一番上の縁にぐるりとデザインされた国旗や、お椀の外側に描かれたドラゴン、そして丼の内部に広がる世界地図など、どれも見慣れたようでいて新鮮な印象を与えるものばかりであった。すべてのラーメンにストーリーがあるように、それを入れる丼には、そのストーリーを語るための世界がある、と考えれば実に納得がいく。

Gugi Akiyama氏による、ナルトを元にしたアルファベットで彩られた丼。

アメリカにはラーメン・ブームが起きて久しいが、まだまだラーメンの奥深さに世界が気づくまでには時間がかかりそうでもある。しかし、この展示で少しでもラーメンの深淵に触れたと思うことが出来るのは、日本から来た自分だけではないことも確かであろう。
カリフォルニアの青い空の下、麺をすする音が聞こえたのは私だけではあるまい。

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