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米国在住の日本人が「少し人生の自由時間を増やす」ためのメモ 4

第三章: 公的年金の確認


はじめに

少し時間が空いてしまいましたが、前回までの記事で人生の長期プランを構築するのに重要な二つの「手持ちの駒」、すなわち手持ちの資産と時間を確認しました。ここまで比較的長めの記事になってしまいましたので、今回は私自身の書くリハビリを兼ねて少し軽めに、仕事を減らした・辞めた後の収入について考えてみます。十分な資金があれば定期収入が無くても生活に困ることはないのですが、ある特定の場面においては、ストック(貯蓄)ではなくフロー(収入)で評価される場合があります。これは日米を問わず、例えば賃貸で住宅を確保したり、クレジットカードを作ることなどがこれに当たります。こういった場面では、定期収入がゼロであると何かと不便なこともあります。またカップルの場合、どちらか一方のみがポートフォリオの管理をしていると、一方が急死したり判断能力が失われた場合、どのようにストックをフローに変えるのかよく情報共有ができていない場合も想定されます。そのため、退職後も一定のフローを確保しておくと便利です。仕事をやめれば労働収入は減りますが、収入を得る方法は何もそれだけではありません。今回はW-2以外の定期収入、特に公的年金について考えてみます。

(なお初回で書いた通り、不動産投資は私が不得意な分野ですし、どちらかというと投資よりも事業の意味合いが強いのでここでは扱いません。米国不動産投資を事業としてやっておられる方はたくさんいらっしゃるので、本気で事業を行う気がある方は、そういった方の本などをお読みになることをお勧めします)

注意

以下に個人の経済活動や税、投資に関連する内容もありますが、私は完全に経済や税回りの法律の素人であり何の資格もないため、それらに関してはあくまで参考程度でお願いします。できる限り書籍や信頼できる公的サイト、あるいは専門家との対話などからの情報をもとにしていますが、内容の正確性について私は一切の責任は持ちません。実際に決断を下す時には必ず税や法律の専門家、あるいはfee-onlyのFPと話すことを強くお勧めします。

前提条件の確認

ここまで読んでくださった方は、以下のことが出来ているはずです。

  • Net worthは確認できている

    • その(ほぼ)リアルタイムでの追従が可能な状態になっている

  • ベストケースでの時間的資本(余命)と納税スケジュールは確認できている

単純な例を挙げれば、

  • 自宅を除いた金融資産がおよそxドル

  • 健康状態は、年齢なりの持病がありつつも70くらいまで行動できる可能性もそこそこある

といったレベルの把握です。この二つはリタイア後の手駒の中でも最も大切なものですが、まだそこに含めるべきものがあります。すなわちあなたがすでに持っているもう一つの資産が公的年金の受給権です。ご存じの通り、これは仕事を辞めた後に得られる収入のひとつで、米国ならソーシャルセキュリティ(SS)、日本なら厚生年金と国民年金です。「年金はもらえない」と言う年金制度崩壊論を叫ぶのは簡単ですが、現実としていきなり支給額をゼロにするといったドラスティックな形で制度を壊すのもまた政治的には非常に困難であるという事実も考えるべきだと思います。「公的年金は将来的な減額もあるのであてにならない」というのは確かに一理あるのですが、近未来、年金制度が日米ともに完全に崩壊して一円も払ってもらえないという状況を想定するのは、私はいささか悲観的過ぎると思っています。そういう未来ですと、文明社会の崩壊も伴う気がするので、もし本当にそうなった場合はどちらかと言えばそちらを心配した方がよさそうです。公的年金を長期プランに組み込む場合は、減額を想定しつつも、支払い自体はかなりの高確率で引き続き行われるものだという、ここでも極論に与しない態度が重要だと思います。そして「公的年金は少なくて意味がない」といったとき、具体的にはどれくらいの金額なのか、あなたは答えられますか?もし答えられないならば、ここでも実際の数字をできる範囲で正確に把握するのが必要です。

例に漏れず、私も以前は「年金などあてにしてはいけない。それを抜きにした計画が大事だ」と考えていました。しかし、今後10~15年以内に日米ともに年金制度自体が完全崩壊する方に賭けるか、減額のリスクを伴いながらもひとまずは継続するという方に賭けるかと問われたらどちらを選択するのが妥当でしょうか。私は後者だと考えています。公的年金は引退者全員が生活するのに十分な金額を支給するのは難しいが、いきなり制度を廃止して支給額をゼロにするのもまた政治的に非常に困難、というよりほぼ不可能であるという点は考慮する必要があるはずです。初回で触れたように、米国では4割程度の引退者がソーシャルセキュリティ(SS)を唯一の収入源として生活しています。その人たちへの支給をいきなり止めたら…という事を考えれば、完全な年金崩壊論が少々現実離れしていると思うのが妥当でしょう。したがって、今後の生活の一部を支える収入源として捉えるのが妥当です(後述するSSの定期レポートを確認するとちゃんとその旨警告があります)。公的年金は減額の可能性が常にあるので、楽観的過ぎる見通しを立てるのも危険ですが、年金制度は完全に崩壊すると見積もって必要以上にお金をため込むために時間に費やすのもまた不合理な選択です(ここでは深入りしませんが、必要以上に収入を低く見積もると、RMDの問題にもかかわってきます)。ですから、以下の章では米国の公的年金であるSSが引退後の生活にどの程度のインパクトを持つのかを考えます。

ソーシャルセキュリティとは何か?

米国で働いている期間が長い方はご存知のように、以前は毎年SS事務所から、あなた個人の加入期間や将来の見込み支給額などが書かれた年次レポートが紙で届きました(日本で「ねんきん定期便」と呼ばれるものに近いと思います)。しばらく前に紙版は廃止されてしまいましたが、以下のサイトでアカウントを作ることにより、同様のものがPDFでダウンロードできます。

以前はこの手紙が届いても、「そんな先のことを考えても仕方がないし、そもそもこの見積もりは当てにならないのでは?」と思いあまり気にしていませんでした。しかし支給開始年齢まで15年ほど、後述するように繰上げ支給にすれば10年程度で受取開始になるところまで来てしまった今、改めて現実的な見積もりはどれくらいか?そもそも自分はSSの仕組みを理解できているのか?と思い、改めて調べてみました。以下はすでにSSの仕組みを理解して、自分の現実的な支給額も把握できている方には不要だと思いますので、スキップしても問題ありません。

ソーシャルセキュリティの特徴

SSは勤労に基づく公的年金なので、日本の厚生年金に近いです。しかし、細部を検討すると様々な点で異なっている部分も見えてきます。まず思いつく限り列挙してみると、SSには以下のような特徴があります。

  • SSは税金で成り立っている。勤労で得た収入からはOASDI税という項目で天引きされる。逆に言えば、働かない人はこの税金を納める必要もなく、年金の権利もない(一部例外あり)。

  • SSは老齢、遺族、障害保険の三つから成り立つ:

    • 老齢保険(Retirement Benefits): 労働者とその家族が退職時に経済的支援を受けるための給付。62歳で早期退職給付を受けることができるが、完全退職年齢(Full retirement age。現在は66歳から67歳)まで待った方が、受け取れる給付額が増える。SSと言えば一般的にはこれを意味することが多い。

    • 遺族保険(Survivors Benefits): 亡くなった労働者の家族が経済的支援を受けるための給付。配偶者や未成年の子供が主な受給者。

    • 障害保険(Disability Benefits): 長期的な障害を持つ労働者とその家族が生活を支えるための給付。資格を得るには、一定の期間、社会保障税を支払った履歴が必要。

  • 2024年現在、平均支給額は1907ドル、カップルではspausal benefit(後述)の仕組みにより、たとえパートナーが仕事をしていなくても最低その50%増し、つまり二人でおよそ3000ドルが平均的な支給額となる。 

  • 支給額は35年間の給与平均額に基づいて計算される。SS税を納めた期間が35年に満たない場合は、足りない年月の収入はゼロとして計算される。

Social Security benefits are typically computed using "average indexed monthly earnings." This average summarizes up to 35 years of a worker's indexed earnings. We apply a formula to this average to compute the primary insurance amount (PIA). The PIA is the basis for the benefits that are paid to an individual.

https://www.ssa.gov/oact/cola/Benefits.html
  • 一人の納税者が得られる最大の受給額は、ひと月当たり4800ドルほど。従って専門職などの高収入のカップルの場合は、月々の受給額が9000ドルほどのケースもありうる

  • 支給額は収入に基づいて計算されるが、支給額の増加はリニアではなく、bend pointsと呼ばれる閾値があり、その額以下・以上で増額のカーブが変化する。また支給額・税額ともにcap(上限)がある。これは低収入の人の年金が低くなり過ぎないようにするための仕組み。

  • 40クレジット以上(およそ10年)の納税履歴があれば支給される

You must earn at least 40 Social Security credits to be eligible for Social Security benefits. You earn credits when you work and pay Social Security taxes.

https://www.ssa.gov/benefits/retirement/planner/credits.html
  • 社会保障協定により、米国と日本の加入歴を合算できる

  • 日本でも米国でも受け取ることが出来る

  • 62‐70歳の範囲で支給開始時期を調節できる。現在のFull Retirement Age (FRA)は67歳。それより早く受給開始すれば減額される

  • 受給資格がなくとも、資格のある配偶者がいるカップルならば、配偶者に対するSpousal benefitがある(配偶者の半額。当人の受給額の方が多い場合はそちらが優先されるが、少ない場合は配偶者の半額までステップアップされる)

The spousal benefit can be as much as half of the worker's "primary insurance amount," depending on the spouse's age at retirement. If the spouse begins receiving benefits before "normal (or full) retirement age," the spouse will receive a reduced benefit.

https://www.ssa.gov/oact/quickcalc/spouse.html
  • Spousal Benefitは主たる納税者のFRA時の支給額に基づいて計算される。つまり、70歳まで受給を遅らせても金額の上積みはない。

  • Cost of Living Adjustment (COLA)がある。これはCPIに基づいて算出される永続的な上乗せ額で、年金額がインフレに対応できるようにしている。従って、基本的に額面の受給額は右肩上がりに上がってゆく。

  • WEPによる減額規定がある(厚生年金を納めたことがある人。以前は国民年金にまで誤適用されていたが、最近訂正されました。従って、国民年金掛け金のみを日本で納めた人には適用されない)

https://www.us.emb-japan.go.jp/itpr_ja/wep.html

以上を短くまとめると以下のようになります。

  • 米国の経済の状況によってインフレ調整がある → 額面上はほぼ右肩上がりで増え続ける

  • カップルの片方のみが働いていたとしても、一方が条件を満たせば必ず二人とも受給できる

  • カップルの受給額が月々3000ドルを超えることは珍しくない

  • 日本に住んでも米国に住んでも受給出来る

一定の資産を持つ人にとってのSSが持つ意味

以上は全て2024年現在の状況ですが、どういう感想を持たれましたか?本稿を読まれている方は、自力で将来のリタイア生活を乗り切るつもりのある人でしょうから、公的な福祉の仕組み抜きでも生き抜く力がある人達かもしれません。しかし少なくとも私にとっては、夫婦で税抜き前3000ドルの収入(しかもCOLA付き)というのは食費や光熱費、HOAなどをカバーしてなお余るレベルのお金です。もちろん米国には高額な居住費と医療保険の問題があるので、これだけで今の生活を維持するのは無理ですが、かと言って無視できるほど少ない金額でもない、まさにSS本来の意味、つまり引退後の生活費の一部を安定的に支える程度の金額です。その場合、これを計算の外に出して長期的人生設計をするのは果たして合理的でしょうか?繰り返しになりますが、ほとんどの人にとってお金と時間はトレードオフの関係にあります。長く働いて長期で投資をすればお金は増えるでしょうが、その分自分が自由に動ける時間を確実に削っていきます。お金を増やすことそのものが人生の目的である人は良いですが、多くの人はそうではないはずです。また、最近のニュースを読んでおられる方なら気づいたと思いますが、円安傾向と日米のインフレ率の差もあり、日本でこの年金を受け取って生活する場合は、理論上、税金を払ってもなお厚生年金を受け取って生活している人よりも有利になります。ですから、一定の資産がある人がSSに向きあう態度としては、現状で考えうるワーストケース(後述)を想定に入れつつ、「もらえない」といった極端なシナリオを採用せず、自分の将来の収入の一部として計画に取り込むのがより現実に即した計画に近づく方法だと思います。

また早期(セミ)リタイアの文脈で考えると、そういった人々の生活は、大きく三つのフェーズに分割できることになります。

  1. 早期リタイア期 (50代~60代前半)

  2. 一般的なリタイア期 (60代半ば~70歳前後)

  3. 人生の終盤(それ以降。健康問題により行動に物理的制約を受ける可能性が極めて大きい時期)

これも繰り返しになりますが、自分は100歳近くまで健康的に暮らせる、と根拠なく考えるのはあまりにも危険な賭けだと思います。プランニングにおいては、ここもある程度保守的に考える、すなわち自分の健康寿命を過大に見積もらないことが大事だと思います。そうなると、健康寿命が尽き始める60代後半から70歳程度でSSがkick inしてくるので、SSはやはり本来の役割通り、長生きに対するリスクを一定程度コントロールするためのツールだと位置づけるのが適当でしょう。COLAが維持されている限り、長期でも劇的に購買力が失われるといったことはそこまで心配しなくても良いと思います。

SS周りの諸問題

このように、日本の年金に比べるとまだ恵まれた面も多いSSですが、良いニュースばかりではありません。SSの仕組みが問題を抱えているのもまた事実です。ここでは具体的にはどういった問題があるのかを見てみます。問題点を理解し、正しく恐れるという態度がここでも重要だと思います。

準備金の枯渇

米国の人口ピラミッドは、高齢者が増えたとはいえ日本に比べるとまだ健全
です。移民の影響もあり、まだ若者の人口もある程度維持できています。

しかしそれでも高齢者の増加は米国の社会保障制度に重くのしかかってきます。この問題は要するに、引退者の増加により2034年までにSSの準備金が枯渇し、このまま何もしない場合は最大3割程度の支給額がカットされる可能性があるということです。まだ引退しておらず、これからその支給額カットに向けて自身のプランを調節すればよい我々はともかく、すでに引退している人でSSへの依存度が高い(=総収入に占めるSSの割合の高い)人々は、3割カットが起きれば恐らく貧困状態へ転落したり、完全に生活が行き詰まる人も多いでしょう。しかしこの問題を放置しすることを政治的に許容できるかと言えばこれもまた困難だと思われます。ですからいくつかの対応策が議論されています。

  1. 高所得者への課税(CAPの引き上げ)

  2. 現役世代への増税(全体のSS税を引き上げる)

  3. 支給開始年齢の引き上げ

  4. 全体の減額

どれも政治的に極めて困難な解決策しかないので、政治家は誰もいじりたがりません。こればっかりは政治のゲームなのでどうなるのかを正確に言い充てるのは難しいです。が、あえて予想するのならば、1が可能性としては高い(相対的に影響を受ける人数は少ないので政治的に多少やりやすい?)のではないかと思います。

日本に住む場合の問題

日本の治安の良さや生活費の安さを考えて、日本で長期では多額の税金を払ってでも将来的に日本に住もうと考えておられる方も居ると思います。しかしその場合、在外邦人に対する差別的な課税の仕組みに悩まされるかもしれません。これは恐らく未だに当事者の間で係争状態にあると思うのですが、将来的に日本に住むことを考えている人には大きな問題があります。それは、日本の当局が「支給されていない公的な遺族年金に対して、社会保障協定の有無にかかわらず国外で納税したことのある人にだけ課税してくる」という非常に不合理、かつ差別的な徴税を行っているからです。

(日本の基準だと)大きな金額を日本に持ち込み、そこで多額の税金を納める覚悟をした人々に対する仕打ちとしては酷いと思いますが、現状ではこのような扱いになっています。

日本にも相続税には配偶者に対する(米国と比べれば極端に小さいですが、日本の基準では)比較的大きめの控除枠があります。しかしこれに納まらないケースは多いと思います。

この記事を読んでいる方は、恐らくかなりの確率でこの控除枠を超え、課税の対象者になるはずです(例えば自宅を含めた総資産で$1M=およそ1.5億円というのは、客観的に見てもCA州で早期セミリタイアするのは極めて難しい金額になるので、それよりも資産が多い方が大半だと想定されるためです)。ここに「未来の年金」額を数千万から一億程度、恣意的に遺産額に加算されれば、海外で税金を納めたという1点のみで遺族は差別的な課税をされます。この物価の差に加え相続税の厳しさもあり、非常に不公平な制度ですが裁判に訴えない限り、このように課税されるのは避けられません。従って、カップルの一方の健康状態が思わしくなく先に死ぬ確率が高い場合は、これも頭に入れて納税計画を立てる必要があります。

これに関しては裁判の行方を見守りたいですが、こういった差別的な運用が正されることを期待したいです。税金として納めたものを資産として課税するのはどう考えても異常ですから…

自分自身の将来的な収入を確認する

ここまでは、SSの概要とその問題点を見てきました。ここからは、では実際自分はどれくらいの支給額になるのか?をできる限り正確に把握する方法を見ていきます。

ソーシャルセキュリティのステートメントは、必ず定期的に確認しましょう。

my Social Security

恐らくもうすでにアカウントを持っている方が殆どでしょうが、もしまだならばぜひすぐにmy Social Securityのアカウントをセットアップしましょう。これは先に書いた通り紙のレポートを代替するもので、ここで自分から確認しない限り、自分の納めた税金がきちんと反映されているか、クレジットの数は正しいかなど、重要な情報を確認する手段がないからです。アメリカで暮らしている方ならご存じの通り、記録の間違いや抜けは日常茶飯事ですので、ここも自己責任できちんと文句を言わないとそのままにされてしまいます。

これが表示されていればあなたは受給資格があります。

まず最初にやるべきことは最新の自分のレポートを読むことですが、そこには自分の記録以外にも様々なことが書かれています。SSとはどういう役割のものなのか、どういった危険があるのか、と言った警告も入っています。言うまでもないですが、公的年金というのはそれだけで引退後の生活を支えるものではありません。SSの場合、米国で35年以上働き、67歳で受給開始した場合に現役時代の4割程度の収入をカバーできるように制度設計されています。こういった性質もきちんと理解した上で、過度に悲観的にならず将来の保険としてプランに組み入れるのが良いはずです。

Social Security is not meant to be your only source of income in retirement. You will likely need other savings, investments, pensions, or retirement accounts to live comfortably in retirement. On average, Social Security will replace about 40% of your annual pre-retirement earnings, although this can vary based on each person’s circumstances. There are many ways to save for retirement.

自身のステートメントをダウンロードするとこういった警告のページが (https://www.ssa.gov/)
「ちゃんと自分で投資してどうにかしろよ」という警告も。

SSのウェブサイトにアカウントを作ると、今までのクレジットに基づいて将来の支給額の予想ができます。これは現在の給与水準が今後続いた場合の概算なので正確ではないですが、およその額を知ることができます。また、現時点で隠退した場合、受給開始年齢を変えた場合のシミュレーションなども出来ますので、色々なパターンを試すことが可能です。

今仕事を辞めた場合の想定される年金額は将来の収入をゼロにすることにより試算できる

これは収入と米国で働いた期間によって個人差がとても大きいのですが、最も収入が多いケース、つまり夫婦二人とも長期で米国で働いた専門職のカップルあたりですと、二人で現在価値で7000ドルを大きく超えるケースも珍しくはないです。その場合、悲観的に見積もって減額や円高(最終的に日本で暮らす場合)があったとしても、恐らくベースの生活費はそれだけでほぼ賄えるケースもあり得るでしょう。この辺りはパートナーも交えて具体的な数字を見ることが大事だと思います。長期プランニングでは、概算でもいいので具体的な数字で考えるのがとても重要ですから。

そのほかの年金

米国でW-2をもらいながら働いている人ならほぼ全員が対象になるSSですが、他の年金もあります。それらにも軽く触れたいと思います。

日本の年金

「額が少ない」「どんどんゴールが逃げていく」などと何かと評判の悪い日本の年金ですが、これもまた「今日で年金制度はやめます」と言えるような力のある政権が日本にはないため、支給額の減額を繰り返しつつも今後も制度としては続くはずです。キャリアの早期に国外へ移住したり、一度も日本で働いたことのない人でも、国民年金は手続きをすれば任意加入できます。それに加えて、日本でそれなりの期間働いた方ならば厚生年金の受給資格があるかもしれませんが、これは先に触れたWEPの対象になります。先人の努力により、国民年金に関してはもはやWEPの対象ではないですが、厚生年金に関しては状況によっては当てはまるので、これに関してはどれくらい減額されるのかなど、税の専門家にご相談ください。

企業年金 (Pension)

現在Rust Beltと呼ばれる地域がまだ賑やかだったころ、米国の退職後の生活を支える柱の一つが企業年金(ペンション)でした。これは確定給付型年金(DB)と呼ばれ、SSに準ずるあらかじめ支給額を予想できるタイプの年金でした。しかし401(k)などの確定拠出型年金(DC)全盛の現在、この権利を得られるのは一部の公務員くらいです。もしあなたが連邦政府職員ならば、その受給権はSSと同じようなものとしてライフプランに組み入れても良いでしょう。連邦政府の崩壊といった劇的な事が起こらない限り、かなりの安定した収入源になるはずですので、長生きリスクのヘッジとしてはかなり有効に働くはずです。

私的年金 (Annuity)

ここまでは公的年金を見てきましたが、自分で年金を購入することも可能です。Annuityと呼ばれる年金保険商品が豊富な米国市場では、セールスマンの手数料稼ぎにしか使えないような全く意味のない商品から、一部のリスクをヘッジするために使える保守的で便利な商品まで、市場が大きいこともあり本当にありとあらゆるものがあります。これに関しては私自身が最近「実際に手を汚して(=実際に購入して)」調べてみましたので、次回少し詳しく触れたいと思います。米国では「保険会社は自分のお金を手数料で盗んでいく強欲で酷い奴ら」というイメージが強いらしく(残念ながらこれは一部当たっている面もある)なかなか冷静な議論が難しいトピックでもあると理解したのですが、投資と保険は全く異なるジャンルの商品であり、あらゆるリスクのヘッジには一定のコストがかかるという二点さえ理解していれば、使いどころさえ間違えなければポートフォリオの安定性や自分の死といったイベントに対するヘッジには確かになります。

まとめ

ここまで見たように、現在自分の手元にある資産以外にも、長年税金を納めた人には年金受給権という実感しにくい資産もあります。これは無視できるほど小さなものでもないので、長期プランを立てるときはこれらの収入も考慮に入れて時間と資産のトレードオフを考えるのが良いと思います。

次回は資産を収入に変換する商品である私的年金についてみます。


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