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massaging capsule|冬の舞踏室の記憶

 ある年の12月でした。私は友人と英国のブラックプールにいました。オフシーズンの避暑地は人もまばらで、夏には賑わう海辺の土産物店も、桟橋の遊園地もゲームセンターも閑散としていました。

 街の名所である大きな塔に併設された、旧いボールルームを見学していたときのことです。
 数歩先を歩いていた友人が、笑いながら振り返り、それから急に怪訝な顔になりました。「いま、トントンと肩を叩かれて、あなただと思って振り向いたけれど違った」と言います。またまた、と受け流しかけた私の耳に、小走りの軽やかな靴音と衣擦れの気配がしました。音の方向に目を向けると、そこには、誰もいない豪奢な廊下が続いているだけでした。

 あの衣擦れは、どんなドレスだったのか。ヴィクトリア朝に建てられ、今も現役のボールルームに移り変わりながら集う人々の装いを思いつつ、19世紀に流行したパーキン・モーヴを連想させる菫色のシルク生地を畳み、密なフリルのアームコルセットに仕立てました。

 裏地はモーヴ街へのリスペクトを込めてアブサン色、ダンスホールの陰影のように、黒いレースの当て布が編み上げの中に隠れています。

 10個ずらりと並んだボタン留めは着脱に手間がかかりますが、少しの不便さも楽しんで頂けたら幸いです。 

 暢気な観光客の肩を気さくに叩いて駆け去った、見えない悪戯な誰かの正体は解りません。なんだか楽しそうだったのは確かで、クリスマスが近づくと毎年、思い出すのです。

ブランド名|massaging capsule
作品名|塔の舞踏室のアームコルセット

[表地]シルク100%
[裏地] ポリエステル65% 綿35%
[別布1・2とも]ポリエステル100%
ポリエステルリボン/合金金具/プラスチックボタン

作品サイズ|
[長さ]約23cm(一番長い部分)手首から履き込み口までの長さ12cm
[手首]約14.8cm
[腕まわり]約18cm

制作年|2022年(新作)

*お取扱いのご案内
お洗濯はお近くのクリーニング店にご相談ください。 アイロンは当て布を使用し、低温・ドライでおかけください。
水濡れはシミや変形の原因となりますのでご注意ください。

アーカイヴ作品も展示販売中

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