英会話は体当たり1話・無駄じゃない
小3の下校中に家が近所の団地に住む友人と話していた。
ゆっちゃん凄いね!英検1級取ったんだ!!
私にはゆっちゃんがキラキラと輝いて見える。
えへへ。ちょっと頑張っただけだよ。
ゆっちゃんは照れながらも得意げだ。
紅ちゃんも英会話スクール通いだしたんだよね?
あー、弟の子守りみたいな感じだよ。
でもゆっちゃんは大人でも取れない資格だから、なんでも出来るね。
将来は海外生活かな〜?
彼女の夢を膨らませつつ、家路に着こうとした時だった。
あっ、外国人だ。
ゆっちゃん、助けに行こうよ。
あれ?
振り返れば、ゆっちゃんは団地の山手に消えていった。
でも私は外国人の青年が質問しようとして大人に声をかけても、逃げられていてばかりで気の毒になり、声をかけてみた。
めいあいへるぷゆ?
私は背の高い青年に笑顔で声をかけてみた。
青年はじっとこちらを見て
Kindergarten?
映画キンダガートン・コップで意味を知っていたので、日本のちびっ子なんて海外の幼稚園児と思われても仕方ない。
のー!ないんいやーずおーるど。
ランドセルをぷりっと見せてみた。
あいむべにこ。
わっつゆあねーむ?
I 'm Daniel
ダニエルと言うようだ。
ココワカリマスカ?
多少の日本語はいけるようだ。
どうやらスーパーを探している。
実は通学路の近くにスーパーがある。
2人で楽しいお散歩をして、カタコト同士で語り合った。
スーパーのベンチに座って待っていると、ダニエルからチョコレート菓子をいっぱい渡された。
わっつ?!
たかだか近所のスーパーを案内しただけで、貰いすぎなんじゃと思っていた。
パパトママニハナイショダヨ?
ニッコリ顔のダニエルに、私も自然と笑顔になった。
べりーさんくす。ゆーあーさんたくろーす!
ダニエルは缶コーヒーとパンを、私は貰ったチョコレート菓子を食べながら、青空の下で談笑していた。
彼は19歳のカナダ人。現地の大学生だが留学生として、このド田舎にやって来た。
自分の住んでいる山々も良いが、日本の山村もじっくり味わいたい。
そう言っていた。
住む場所はこの付近で、道わかる?
と聞かれたので、スーパーから徒歩5分くらいだと伝え、また道案内をした。
え?ここ?
なんと私と弟が通っている英会話スクールだった。
ゆーあーいんぐりっしゅこーち!
あいむすちゅーでんと!
でぃすいずでぃすてにー!
運命的にも程があると言うか、まあこのド田舎ではここしかないか。
ダニエルはしゃがんでくれて、2人でハイタッチした。
真向かいのスパルタ英才教育の保育園と幼稚園
(通ってた)
の園長先生を呼び出して、ダニエルとはその日別れた。
次はコーチとして会える。
胸が踊った。
早速家路に着き、両親と弟にダニエルの事を話した。
親は英会話スクールに通い始めて間もないのに凄いと言ってくれ、弟も早く英語が話せるようになりたいと言って、お風呂の後に練習しようと話した。
また、ゆっちゃんと下校したんだが、彼女の様子がおかしい。
私、公文辞めたんだ。
ゆっちゃんが遠くを見つめながら、ポツリと呟いた。
えぇ、なんで?勿体ないよー!!
食い気味に聞いてみた。
だって私、この田舎から出たくないし、外国人と言葉を交わす勇気もない。
怖いもん。
昨日の紅ちゃん見てて思った。
凄かったよ、笑顔で外国人さん案内してさ。
えぇぇ!いや、そ、そんな。
ただ困ってる人が、たまたま外国人だったってだけで・・・。
しどろもどろの私は頭真っ白状態。
机上の空論なんていらないよ。
それが私なんだ。
とにかく話題を変えまくって、フォローしてみたが、ゆっちゃんはキラキラしない。
でもさ、中学生とか高校生になったら、文法とか使えるし、それに内申点も良くなるって!
あっ、そっかあ。
無駄じゃないんだ!
そうだよ。無駄なことなんてないから、成績優秀なゆっちゃんになるよ。
やっとキラキラと目が輝いてきた。
ゆっちゃんのフォローも済み、ランドセルを置いたらダニエルコーチに会える。
はろー。みすたーだにえる。
ドアを開けたが、数名の生徒が首を傾げているだけ。
あれ?コーチは?
いやさ、待ってんだけど来ないんだよねー。
えー、どうしたんだろ。
15分程して、園長先生が来た。
どうやらダニエルはカルチャーショックを受け、カナダへ帰ってしまった。
園長先生がダニエルの残した手紙を読み始めた。
日本人は親切で礼儀正しい人達だと思って来日したが、優しい人は紅子だけだった。
日本人は紅子以外全員嫌い。大嫌い。
紅子はアメリカやカナダに来ても通用する。
園長先生は申し訳無さそうに読み終わった。
うーん、やっぱりか・・・。
ダニエルに申し訳ない気持ちになった。
田舎も田舎のド田舎で、英語が話せる人はいないに等しい。
ましてや外国人を見たこともない人々の住む山村。
あの時、それを告げておけば彼も少しは困らなかったかもしれない。
そうだ!ダニエルに手紙を書こう。
園長先生に言ってみた。
そうね、私たちじゃ何もできなかったから、それがいいわね。
園長先生は文法を少しずつ教えてくれたので、たどたどしいが手紙は書けた。
弟と一緒に撮影してもらった写真も添えて。
海外映画でよくある感じにしたくて、写真の裏に名前と年齢を書いておいた。
人生初、エアメール。
あとは郵便局に行って支払いを済ませ、無事届くのを待った。
ぶっちゃけ書くのに半年くらいかかったので、返信には期待していなかった。
それから数ヶ月後、10歳を目前の私に母が朝からバタバタと部屋に上がってきた。
紅子、海外から郵便来てるよー。
降りてきなさーい。
おはよー。あっ、ダニエルだ!
道案内した英会話スクールの先生だよ。
去年、園長先生に教えてもらいながら、英語で手紙書いたの。
ほぉー、そりゃすごいなー。
園長先生に読んでもらおうね。
うんっ。
英会話スクールに行き、掃除をする職員さんに園長先生を呼び出してもらった。
ダニエルからお手紙が来たので、読んで欲しい。
そう言うと、園長先生は老眼鏡をかけて読みはじめた。
親愛なる紅子へ
手紙を書けるようになってすごいね。
日本は紅子が言うように、完璧さを求めすぎ、とてもシャイな人達なのは知らなかったよ。
残念ながらもう日本には行けないけれど、紅子と一緒にマーケットのベンチで見た空の色と山の景色。
それに心の優しい紅子と話し合った時間は何よりの大事な思い出だよ。
1度でいいから、カナダかアメリカにおいで。
もっと紅子には広い世界を知って欲しい。
狭い国にとらわれないで。
日本の天使ちゃんへ。
カナダの友達、ダニエルより。
まあざっくり覚えてる範囲でこれくらいだが、幼き日にこんな異文化交流ができて、嬉しかった。
園長先生に感謝し、英会話スクールが始まる時間になった。
ここから微妙な発音クイズが生徒を苦しめる。
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