小説【アコースティック・ブルー】SecretTrack

「やぁ、ユウコちゃん、元気? ……て、こないだ会ったばかりか。
 でも、この映像がいつ君に気づいてもらえるか解らないからさ。永久に気付いてもらえなかったらどうしようかと思ったけど、君なら絶対にピックガードを剥がすと分かってた。

 もしかして、そこには兄貴もいるかな? ――だったら嬉しいな。
 二人がようやく出会えたってことだからね。

 ユウコちゃん、ゴメンね。病気のこと話さなくて。
 心配かけたくなかった。……っていえば聞こえはいいけど、本当はただ怖かっただけなんだよね。
 こないだ兄貴にだけは打ち明けたんだけど ――いつも眉間に皺寄せて、堅苦しくカッコつけてるくせにめちゃくちゃ狼狽えてさ。あんな兄貴の姿見せられたら、ほかの人には何だか言えなくて……

 俺、ユウコちゃんのこと泣かしたくないしね。
 ……て何言ってんだ俺……。

 ――実は二人にお願いがあるんだ。
 図々しい頼みだとは思うけど、俺からの最期の頼みだと思って、わがままを聞いてくれないかな。


 まずははじめにユウコちゃん。
 どうか音楽をやめないでください。

 君は何時も否定するけど、君の歌声は誰もが羨む素晴らしい才能だよ。嘘だと思うなら兄貴に聞いてみると良い。――だから絶対にやめないで。


 次は兄貴。
 ユウコちゃんの歌を聞いてあげて下さい。
 きっと兄貴も気に入ると思う。

 兄貴はいつも、自分の認めた才能以外認めないみたいだから、俺から紹介しても聞く耳持たないかも知れないけどさ。彼女の才能は本物です。
 ……だから弟からの最期の頼みだと思って聞いてみてください。


 そして最後 ――これは二人へのお願いなんだけど……

 どうかMor:c;waraをやめないでください。

 Mor:c;waraというバンドは俺が俺でいられる唯一の居場所だった。何にもない俺を肯定してくれるかけがえのない存在だった。
 だから―― 俺が居なくなったとしても、バンドは続けてほしいんだ。
 俺の代わりはユウコちゃんにお願いするよ。彼女になら安心して託せると思うんだ。
 世界で一番大好きな歌声を持つ彼女にMor:c;waraの曲を歌ってほしいんだ。俺は聞けないかもしれないから、それだけが残念だけどね。

 簡単に決められることじゃないし、ケンジ君やイチロウ君が許してくれるか解らないから、二人には迷惑かけちゃうけど…… 実現してくれたら嬉しいな。

 以上! TASKからの最後のお願いでした。
 みんな元気でね!」



 映像が終了して画面が真っ黒になると、ディスプレイには涙ぐむユウコの顔が映った。ユウコが慌てて涙を拭う。

「……これ、一体どこで……?」
「君のギターケースだよ」
「私の……?」
「スタジオからギターを引き上げた時に見つけたんだ。
 普通のCDプレイヤーだと、例の録音の音源が再生されるだけなんだが、君がピックガードのメッセージに気づいて、もしかしてこのCDにもほかのデータが記録されているのかもしれないと思って調べてみたんだよ。それでようやく見つけたんだ。 
 俺が機械に疎いばっかりに、二年も放置しちまった……」
「つまり、彼が私のためにこれを?」
「ああ、これは本来、君が受け取るべきメッセージだ」

 セイイチが差し出した表紙も何もないまっさらなクリアケースに入ったCD―Rには”アコースティック・ブルー(仮) ”と書かれた手書きのラベルが貼り付けられていた。



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