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ひとりでは起こせない「バグ」を求めて -イラストレーター killdisco-

vision trackでは昨年、見る人の「心を動かすイラストレーター」との新たな出会いを求めて、「vision track所属イラストレーター / 公募プログラム」を実施しました。選考基準は「自分にしかない『らしさ』を起点にしながら、多くの人の『好き』に応えられること」。300名以上の応募者の中から7名のイラストレーターが所属に至りました。
より多くの方に7名の魅力をお伝えするため、1名ずつインタビューをお届けしています。
第3回目にご紹介するのはkilldiscoさん。ひと目見て誰もが「かわいい」と感じるような温かさを持ち、対象物を抽象化しながらもそれぞれの個性が際立つ作品が魅力です。
今回は、イラストレーターとしての活動についてはもちろん、killdiscoさんが大切にする「他者との向き合い方」についてじっくりお話を伺うことができました。一見シンプルなイラストの奥にはどんな想いがあるのか?「バグ」や「摩擦」といった彼ならではの表現をキーワードに、「killdiscoとは」が垣間見えるロングインタビューです。ぜひ最後までお楽しみください🐱


1人なんでも屋さんをやっていたアパレル時代

ーイラストレーターになるまではどんなお仕事をされていましたか?

アパレル会社でデザイン、グラフィック制作、企画運営、印刷〜納品まで、あれもやりたい、これもやりたいと自分でプレゼンして、どんどん業務の幅が広がって、「1人なんでも屋さん」状態で働いていました。
元々DJをやっていた時に、企画したイベントをどうしたらプロモーションできるか?というところから端を発して、自分でアイデアを考えるのが好きでした。
音楽関係とのコラボ企画を考えてレコード会社へ営業に行ってみたり、今のタッチとは違いますがデザインとしてイラストを描くこともありました。会社も「試しにやってみたら?」という寛大な空気感でしたね。
ただ同時に、通常業務として月30〜40枚デザインを上げていく必要もあったので、自分の作品を制作をする時間的な余裕はあまりなかったです。

ーそこからイラストレーターになる経緯は?

会社では自分のやりたいこともたくさんさせてもらっていましたが、やはり大変で、環境を変えようかなと思って。ずっとやってきたデザイン分野に近いことで、できるだけ自前で完結できたり好きなことができるのは何か、と考えた時にイラストレーターが浮かびました。
絵を描くのは純粋に楽しかったですし、デザインをするにしても1番完成形に近いのは自分で描くことかな、と。
でも逆に、デザインで自分以外の手が加わって、自分が想像していたものとは全く違う仕上がりになる時があって、イラストの仕事はそれがすごく面白く感じます。完成形までイメージして描いているのでもちろんそのまま使っていただくのも嬉しいですが、ゲームの裏技みたいに、普通にやっていたら発生しないイベントが急に現れた時のような…。そういう「バグ」って自分だけでは起こせないんですよね。

自分だけではできないことを求めてvision trackへ

ー公募前にはポートフォリオレビューに来ていただいたこともありました。今回の公募に応募しようと思ったきっかけはありましたか?

イラストレーター仲間から公募してるよっていうのを聞いて、みんな応募してみると言っていたので「じゃあ自分も」と(笑)
自分で考えながらフリーで3年間活動してきて、展示や仕事など含めサイクルを1周した感じがあったので、自分だけでできることに限界を感じてきていて、ここらで変化=バグを起こしたいと思ったのは大きかったですね。作家じゃないけど作家に近い、という距離感の人と話してみたいというのもありました。

ー実際に所属してみて感じることはありますか?

制作も含め自分だけでもやれるけれど、それだと声が届く範囲が決まってきてしまうんですよね。vision trackの所属としてvision trackから発信してもらうことで自分だけで発信していくよりもっと広い層に届けたり、説得力が出てくるのかなと思っています。

ーこのインタビューもそうですが、我々もエージェントとして作品はもちろんkilldiscoさんの言葉や考えていること、魅力を伝えていきたいなと思っています!

新たな層に届いた実感があった仕事

BAKER × killdisco どうぶつクッキー缶

ーkilldiscoさんと言えばafternoon teaとのコラボグッズがとても印象的なのですが、他にも印象に残っているようなお仕事はありますか?

BAKERさんとコラボさせていただいた「どうぶつクッキー缶」ですね。BAKERさんのお菓子のファンで自分を知らない方がクッキー缶を買って検索してくれて、展示にも来てくれたりという反応もあって、それまでに届かなかった層にも届いた実感があり、1つの転機になったと思っています。
vision trackと取り組んだサンリオのグリーティングカードではインタビューしてもらい、作品以外で気持ちを伝えられる場があったのも嬉しかったです。
また、ずっと関わらせてもらっている新潟のアイドルRYUTistの案件では、RYUTistのファンの方が展示に来てくれたり、運営も一緒に色々やってくれるという関係が長く続いていて、信頼関係の中で自由にやらせてもらってメンバーやファンの方にも喜んでもらい、自分も新たなチャレンジができる、三方良しの良いサイクルができていると思います。

RYUTist ACOUSTIC LIVEビジュアル

ー客観的に見ていると、お仕事をされるたびに新たなファンが増えていると感じるのですが、ご自身ではその要因はどんなところにあると思いますか?

なんでしょう…気を付けているのは土足で入って行かないようすることですかね。会場や商品の雰囲気、その商品を買う人はどんなものが好きなのかをSNSで調べたり、近場なら実際に行ってリサーチして、どんな方向性にすれば喜んでもらえるかを考えて、自分の中にあるものでそこに1番近い「キワ」のところを出すようにしています。
そこから自分を知って興味を持ってくれた人には、こんなのもあるよという風に自分の世界を伝えられたらと思っているので、最初から自分のスタイルの押し付けにならないように、その「入口」の部分は意識しています。

クライアントワークは「相手を知る」ところから

サンリオ グリーティングカード

ークライアントワークでも事前にたくさん調べると仰っていましたよね。

そうですね。どんな人たちが作っているのか、どんなファンがいるのかなどWEBやSNSで調べて理解してから仕事に入るようにしています。色々リサーチして表を作ったりして、そうするとそこからヒントになる傾向が見えてきたりもします。
自分がイラストを描くことで最終的に手に取るお客さんやクライアントさんにとって良いことがあって、喜んでもらえたら自分も嬉しいですし、自己満足ではなく「お互いにいいことがある」という空気感で並走していけるくらいに仲良くなれたらというスタンスでいつも仕事しているので、相手を知ることは大切にしています。

ーkilldiscoさんにとってはまず相手を知るところがお仕事のスタートラインなんですね。ほかにクライアントワークで意識していることはありますか?

早め早めに、修正が出ても期日に間に合うように出すことは意識しています。早くて怒る人はいないですし、もしイメージと違っても早めに出してブラッシュアップしていく方が良い、という意識は会社員時代から染み付いているかもしれません。発注側だったこともあるので、やられて嫌なことはしないということも併せて、独立してからもずっと心がけていることですね。
あくまでクライアントが主役という前提の中で、頼んでもらったからにはお互いに得をする状態にできたらと思うので、独りよがりにならないようにしつつ要望の中にどれだけ自分色を出していけるか?という楽しみもあります。

書き溜めているスケッチ(写真:本人提供)

ー具体的な使用機材や制作の流れはいかがですか?

最近はアナログとiPad、仕上げは液タブとPhotoshopという感じです。
普段からその日に起きたことを日記のような感じでスケッチしていて、とくに展示の時はこのスケッチやメモからモチーフを探していったりしますが、クライアントワークの時は要望に沿ってきめ打ちでラフを出すことが多いです。

ー普段の作業環境は?

自室の本棚(写真:本人提供)

基本的に自宅で作業していて、たまに近所の喫茶店に行くのはスマホも置いて1時間集中!みたいな時だけです。
作業中は音楽を聴いたりアニメや映画を見たり、トークイベントを聴いてたりと何かしら音が流れています。子どもの頃から宿題もリビングだったので、音を聴きながらじゃないと描けないんです。
それと、写真集から哲学書まで集まった作業部屋の本棚は、自分がやりたいことが集約されている場所です。一見いろいろなジャンルがごちゃ混ぜになっているように見えて、自分の中ではすべて繋がっていると思っていて、それらを人に話すときに自分の気持ちを翻訳してアウトプットすること自体が制作のインスピレーションにもなっています。

人と話すことが1番の趣味

L’illustre Galerie LE MONDEでの個展の様子(写真:本人提供)

ー漫画や音楽などイラスト以外にもたくさんお好きなものがあるかと思いますが、中でも好きなことってありますか?

音楽、漫画やアニメ、ファッション、スケーターカルチャーなど好きなものはたくさんありますが、人と話すのが1番の趣味であり、楽しいし大事にしていることでもありますね。1人だけで考えていないで友達と話していると、自分の中で前向きな感じのバグが起きるのが安心するというか。漫画も1人で読むより、みんなで感想を持ち寄ってその漫画の話をする方が楽しいですよね。
仲の良い友達とはイラストの話をイラストの話としてしないんです。「このイラストのこの技術すごいよね」みたいな話をすることって、同業者だから分かる話で、コミュニケーションの摩擦が起きない状態。そうではなく、例えば「くだらないけど面白かった漫画の話」のような雑談って、イラストはもちろんだし、音楽や政治までいろんなところに繋がっていくので、そうやって連結していくのが楽しいんですよね。
最近スーパーの野菜高いよね、という話も政治に繋がる部分があるし、そういう繋がっていく楽しさみたいなものをみんなで共有したいよねと思っていて。展示でもお客さんとの会話を大事にしたいというのはそういうことなんです。

ーkilldiscoさんは展示の際にお客さんとお話ししたいとよく発信されています。それはイラストそのものの話というより、イラストをきっかけとした会話ということなんですね。

まず、お客さんが自分たちの言葉で感想を言ってくれるのが嬉しいですし、自分のイラストをきっかけに「私はこういう仕事をしてて普段こんなことを感じてて」みたいなイラスト以外の会話に繋がってコミュニケーションの摩擦が起きる。それが嬉しいですね。
そして、自分は好きなものがたくさんあって、その中の一面として絵を描いているので、展示に来てくれるお客さんも自分のイラストが好きということは、イラスト以外にも自分となにかしら共通点があると思っていて、会話をする中でその共通点に繋がったり、まだ知らなかった好きなことに出会うこともある。だからお話ししましょう、と言っている感じです。

ーなるほど。それってクライアントワークにも通じていて、集約してきますよね。

そうですね。例えば雑誌の挿絵などで自分にイラストの依頼が来るのもある意味そういう「摩擦」を期待されているからだと思っていて、だからこそ自分らしさの中で最大限クライアントに喜んでもらえる「キワ」のところを出したいなと考えています。
そうやって、自分が持っているものを素材として誰かが何かをしたり、感じたりしてくれるのが嬉しいんだと思います。

イラストの枠を超えていきたい

ー今後チャレンジしたいお仕事などありますか?

ブランドにも固執していないし、どんな仕事でも楽しいんですよね(笑)
逆に、今考えても出てこないような、自分では思いつかないような依頼が来たらテンション上がります。それこそ摩擦やバグが起こせるような。
それと、エッセイみたいなものをやりたい気持ちはあります。自分の日々感じていることを文章にしてイラストも描いて…所謂「イラストの仕事」の枠を超えた仕事ができたらいいなと思います。

ー最後に、3年後の自分へ一言お願いします!

健康第一で楽しくやっていてくれたらと思います。
毎朝5時まで作業してる(※)ようなところ、3時くらいまでになっていたら良いですね(笑)
※killdiscoさんはショートスリーパー

インタビュー後記

シンプルで温かなイラストの中には、killdiscoさんの幅広く奥深いカルチャーへの造詣と深い思考があることを再認識しました。その思考が他者と交わるとき、さらに面白いクリエイティブ(そしてそれ以上のもの)が生まれることを確信しています。visiontrackとの間に生まれた「素敵なバグ」を皆さんにも届け、バグの連鎖を広げていきます。ぜひみなさんもこの連鎖に加わってくださいね。


【killdisco プロフィール】
デザイン会社勤務、アパレルブランドのインハウスデザイナーなどを経てイラストレーターに。
物の形を曖昧にすることで立ち現れる個性を大切に、シンプルで温かなイラストを描き続けている。
Afternoon Tea LIVING、サンリオ、studio CLIPなどコラボレーション多数。
アーティストのジャケットや音楽フェスのグッズを手がけながら、自身もDJとして活動している。

<killdiscoに関するお問い合わせはこちらまで💁‍♀️

写真: きるけ。
インタビュー:井手美沙音(vision track)
編集:増山郁(vision track)


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