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ビジョン・クラフティング面談(VC面談)で高まる『ネガティブ・ケイパビリティ』というポジティブな力

皆様、こんにちは。VCラボのさきみです。
2024年の始まりは、大変な出来事が立て続けに起こってしまいました。
何よりもまず、被害を受けられた方や生活の変化を余儀なくされている皆様に、心よりお見舞い申し上げます。


ネガティブ・ケイパビリティ という可能性を信じる力

ここ数日のなんとも心が痛む出来事の中、72時間の壁を乗り越えて救出される方、素晴らしい緊急脱出による人命の確保など、奇跡も目の当たりにしています。
 
さきみは昨年来、ビジョン・クラフティング面談(VC面談)の効果について省察している中で、VC面談では、『ネガティブ・ケイパビリティ』を高める効果があるのではないかと考えていました。
そして、今回の出来事でも、奇跡を呼び込むことに『ネガティブ・ケイパビリティ』が役立っているのではないかと思いました。
 
『ネガティブ・ケイパビリティ』とは、ジャパンEAPシステムズが属する翠会ヘルスケアグループの八幡厚生病院に勤めていらした帚木蓬生先生のご著書でも話題になりましたが、「答えの出ない事態に耐える力」とされています。

耐えるという表現がネガティブな印象を与えるかもしれませんが、実際には、悩み迷いながらも諦めないという非常にポジティブな力だと、さきみは思っています。

羽田空港の事故のニュースを目の当たりにして

まず、いつ助けがくるかわからない、いつ火がまわってくるかわからない、そのような命が危険にさらされる、答えが見えない極限状態に耐え、乗り越えていらした皆様に敬意を表します。
 
さきみは元客室乗務員なので、特に今回の緊急脱出について、いろいろと思うことがありました。
今回対応なさった乗務員の皆様は、訓練を重ね、日ごろから注意深く業務に取り組んでいらっしゃるからこそ、こうした奇跡を起こせたのだろうというのは、既報の通りです。
 
もちろんマニュアルや基準をしっかり理解しているということも重要なことですが、それ以上に、こうした日頃の訓練や取り組みによって育まれた、「対処できる」「なんとか対処しよう」というマインドが、この事態を乗り越えた原動力になっているように思います。
自信や使命感と捉えることもできるかもしれませんが、「先行きが見えない中で、今できることを精一杯やりきる力」とも捉えられます。悩み、迷うのは、諦めていない証拠、より望ましい可能性を信じている証です。
 
実際、さきみも訓練ではこれでもかというくらいに、自分の不甲斐なさを痛感する日々でした。そのとき、教官から「不甲斐なさで落ち込んでいる暇はない。あなたが落ち込んでも、死んだ人は生き返りません!人命を守りたかったら、できるようになりなさい!」と発破をかけられたこともよく覚えています。どの業務も「乗客のため」という目的意識を持って取り組むことを徹底して訓練される中、緊急脱出の訓練はより一層「人命を守るためにやりきるんだ」という思いが強くなりました。
 
乗客の皆様の中には、「もうだめかもしれない」と思った方もいらしたかと思われます。
しかし、乗務員が諦めず(答えを性急に求めず)、各々が不安や迷いに耐え、できること・やるべきことを実践していく姿に、諦めかけた方々も励まされ、まだ答えが出ていない事態を受け入れ、ともに耐えることができたのではないでしょうか。

マネジメントでも生かされるネガティブ・ケイパビリティ

この「先行きが見えない中で、今できることを精一杯やりきる力」というものは、緊急事態でなくても様々なところで発揮されていて、VC面談でもそれを実感することが度々あります。

「自分なりに考えてみます」
「まあ迷いつつやってみます」

VC面談の回を重ねると、このような言葉が、対象の管理職の方から聴かれるようになることに気づきました。それも、今まさに職場で結構な問題が起こっている状況をお話しくださった後に出てくる言葉です。
 
VC面談は、管理職が自らと組織のビジョンの重なり合いを実感し、一般解ではない、自分の存在する環境で、自分の部下に対する効果的なマネジメントを実践していくためのサポートです。
 
EAP相談で、今生じている問題に対し早期解決に向けたご助言やご提案をすることになじみがある私は、当初これらの言葉に肩透かしをくらったような気さえしていました。
 
しかし、その次の面談では、現実の問題に対して、管理職の方が自らどのように考え、自分の特徴をコントロールし、対処をしていったのかを聴かせてくれました。自らを省みたり、認めたり、新たな気づきを得たり、その語りは様々に展開していきます。
次第に、私はそれぞれの管理職の皆様の物語を楽しみに待つような気持ちが湧いてきました。

悩み迷うことの価値

物語が展開していく中で、それぞれの管理職の皆様は、個々の長所を生かし、課題を克服しながら日々マネジメントを実践していて、この「自分を最大限に生かす」試みによって、日々の対応力・マネジメント力が上がっていることは容易に想像ができます。

ただ、それだけでなく、共通する副産物があるように感じます。それは、冒頭の言葉に表れているように、「答えを急がず、積極的に悩み迷い、実践する力」です。

こんなことをおっしゃる管理職の方もいらっしゃいました。
「以前は、迷ったり悩んだりしていることが管理職としてだめなところだと思っていたけれど、部下それぞれに個性があり、次々やることが出てくるから、迷ったり悩んだりすることがむしろ必要だと思えるようになった。悩むことへの意識が変わった」
 
この方のように、管理職は「正解をすぐに示さないといけない」「いかなるときも即断即決しなければならない」「正しい方向に部下を導かなければいけない」と思っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
管理職として、周りから期待されることかもしれませんが、そこにとらわれすぎてしまうと、このVUCAといわれる多様な時代、正解が一つではない社会では、身動きがとれなくなったり、間違った選択を突き進んでしまったりするリスクがあります。

不確実性に耐え ネガティブ・ケイパビリティを育む場

VC面談は、職場やプライベートとも一線を画す安心できる空間で、自らとじっくり向き合うことができる時間です。その中で、管理職の皆様自ら悩むこと・迷うことの価値を実感し、答えを急がず、大いに迷い悩むこと、意識的に、時には前向きにするようになっていらっしゃるように感じます。ご自分が悩み迷うことの価値を実感した管理職は、部下の悩みや迷いにもじっくり寄り添えるようになっていきます。
 
これは、まさに答えのない事態に耐える力、『ネガティブ・ケイパビリティ』が高まっていると言えるのではないでしょうか。
 
この力は、不確実性に耐えるというオープンダイアローグの基本の一つにも通じるかと思います。対話を重ねていくためにも必要な力であり、やはりポジティブな力と言えるでしょう。

今年も、皆様とともに迷い悩みながら、素晴らしい一年にできたらと思っております。
何卒よろしくお願い申し上げます。


今年もよろしくお願い申し上げます

■さきみのプロフィール
ビジョン・クラフティング研究所 シニアコンサルタント
臨床心理士・公認心理師・1級キャリアコンサルティング技能士


お問い合わせ先:https://www.jes.ne.jp/form/contact