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『わびさびというネガティブ・ケイパビリティ』

皆様、こんにちは。VCラボのさきみです。
毎日、文字通りの猛暑が続いていますが、お元気にお過ごしでしょうか。
暑いのが苦手な暑がりさきみは、梅雨明けを待たずして、この暑さに食傷気味です。
このような環境のストレスがある中、皆様、日々変わらず働いていること、これは実にすごいことだなと思います。お疲れ様でございます。同時に、そのすごさが当たり前とされることに少々違和感も覚えているところです。
日頃の相談でも、努力家であったり責任感が強かったりという強みを持つご相談者ほど、日々の頑張りやできていることを当たり前のこととして、ご自分が評価をしていないように感じられ、非常にもったいないと思っています。以前、ちびさきみを通じて、その考えをお伝えしました。

今回は、頑張ることを当たり前とした構えでマネジメントすることについて考えてみたいと思います。

完璧な管理職は、部下も完璧にしてあげたい?!

年度替わりの慌ただしさが落ち着き、今年度の目標に向かって行動し始めるこの時期、部下の成長を願う管理職は、部下本人以上に真剣になってしまうこともあるかもしれません。実際に、さきみがご相談を受けている管理職の皆様は、一人ひとりの部下と真摯に向き合い、各々の課題にともに向き合っていることがお話からよく伝わってきます。
ただ、ふと、「これだけ丁寧にみてもらえると、安心感を覚えて、緊張感が足りなくなったり窮屈に感じられたりする部下もいるのではないだろうか」と思うこともあります。
最近は、さまざまなことが概念化・数値化されて、評価制度も細やかになっている組織も多くなっています。強みや成果も捉えやすいですが、課題もより明確に浮き彫りになります。
頑張ることが当たり前の管理職からすると、課題は克服することが当たり前であり、一生懸命細やかな指導をし始めます。部下がその課題を克服する準備性が整っていないと、そこから指導が始まるわけです。
 
「強みを認めてから課題は話そう」
「意欲を引き出そう」
「こちらから答えを与えないようにしよう」
 
こうしたマネジメントにおける留意点も抜かりなく念頭に置きながら、懸命に対応します。
しかし、いずれも「課題克服」が目的であるため、その管理職の意識や思いは、部下にも期待やプレッシャーとして伝わります。
結果、精神交互作用(ある症状や感覚に注目が集中することにより、その症状や感覚をより一層敏感に捉えてしまい、ますますそこに注意が集中するという悪循環)が起き、課題に意識が集中し、一緒に創意工夫をしていくことが、オーバーマネジメント(過剰管理)になってしまう懸念が生じます。

試行錯誤する機会の損失

一方で、VUCA時代と言われる今、個々の社員に求められる重要な要素の一つは「自律」です。
自らルールを立て、それに従い行動すること、仕事においては、上司の指示を待たず、自ら考えて行動することが求められています。
そのため、マネジメントにおいても、過度な管理・マニュアル化や正解を与える指導などは控えることが望ましいとされています。相談の場でも、ご自身の対応について、「いえ、私は部下に答えを与えないよう気をつけています」とおっしゃる管理職がほとんどです。
しかし、頻回な1on1や管理職が求める答えが見える問いかけの繰り返しでは、部下が自ら考える時間すら見つけづらくなってしまうでしょう。さらには、ヒシヒシと感じる管理職の期待やプレッシャーにより、他の可能性を求めて試行錯誤する、自らの考えを試してみることすら、部下は諦めてしまうかもしれません。
管理職側の視点でも、手をかければかけるほど、努力をすればするほど、結果を期待する気持ちも強まり、ここにも精神交互作用的な悪循環が生まれる懸念があります。

マネジメントにも『わびさび』を

このような管理職のよかれと思ったマネジメントへの頑張りが、部下の試行錯誤の機会を奪い、自律を阻んでしまっていることに、管理職自身が気づいても、努力家ゆえに、この新たな課題に対しても、また「何かをしよう」と加えようとしてしまうこともよく見られます。
ただ、ここで重要なことは「引く」ことです。努力家にとって、「何もしない」というのは非常に難しいことだと思います。
そこで、さきみがよくお話しするのは、『わびさび』の心です。

侘び(わび):思いわずらうこと。閑居を楽しむこと。閑寂な風趣。
寂び(さび):古びて趣のあること。閑寂なおもむき。

広辞苑 第七版「岩波書店」

『わび』には、あれこれ思い悩むという意味だけでなく、受け入れ楽しむという意味が、また、『さび』には、時間が経過したものに美しさを見出すという意味があります。
これは、まさに、すぐに答えがでない状況に耐える力『ネガティブ・ケイパビリティ』に通じると思います。しかも、さきみが兼ねてよりお勧めしているように、ネガティブ・ケイパビリティを前向きに発揮することが、『わびさび』の心を持つことといえるかもしれません。
 
「思い悩む状態を受け入れ、楽しむ・時間の経過をも楽しむ」、こうした「楽しむ」あるいは、「味わう」という積極的な行動をとることで、結果的に引くことができるのではないかとお話ししています。
行動が変わるだけでなく、「楽しむ」「味わう」という前向きな表現により、管理職自身の逸る気持ちも落ち着き、部下に伝わる期待やプレッシャーも薄くなるという効果も期待できます。
『わびさび』の心を持ったマネジメントにより、部下の心理的安全性が増し、試行錯誤が可能となり、大きな実りを引き寄せる未来が紡げるのではないかと思っています。
 
マネジメントにおいてだけでなく、頑張ることに息切れを感じている方は、『わびさび』の心を意識して、『ネガティブ・ケイパビリティ』を発揮してみてはいかがでしょうか。 


引き算の美学…


■さきみのプロフィール
ビジョン・クラフティング研究所 シニアコンサルタント
臨床心理士・公認心理師・1級キャリアコンサルティング技能士