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所長コラム㉑パワハラと非審判的態度

 こんにちは、VCラボ所長の松本桂樹です。

 最近は「これって、パワハラだと思いませんか!?」という相談に答えるのが難しくなったなぁと感じています。相談を聞いて「それは酷い!」と思ったとしても、そのまま「それは酷いですね!」と共感的同意をすることによって、「カウンセラーもパワハラだと言っていた」と受け取られてしまうリスクがあります。かと言って「それはショックだったでしょうね」などと人ごとのように応答するのも、違和感があります。

 もし社員が「パワハラ」という言葉を使用して会社の担当窓口に訴え出た場合、会社は公的な定義とも照らし合わせて関係者に事実確認を行い、法律や社内の対応方針に則った防止措置を行わざるを得ません。しかし、パワハラに該当するかどうかという審判的視点が、現象理解を妨げてしまうことも多いように感じています。

 パワハラ対応の難しさは、被害者が発する「パワハラ」という言葉の意味と、厚生労働省が定義するパワハラとのズレにあると思われます。被害者が訴える「パワハラ」が厚生労働省の定義とズレている場合、被害者の「パワハラ」はパワハラではないということになります。しかし、パワハラであろうとなかろうと、傷ついた被害者の気持ちは本物です。

 公的な定義が定められた現在、相談者の発する誤った「パワハラ」という言葉の使用により、事実確認でこじれてしまうことも少なくありません。この言葉を使いたくなる被害者の気持ちは受容しつつ、まずは可能な限り「パワハラ」という言葉を使わずに現象を表現していく方が、建設的な問題解決につながっていくように感じています。

 私は最近、「パワハラという言葉が使用されると、パワハラに該当するかどうかという審判的視点を踏まえる必要が出てしまって、あなたのお話をそのまま受けとめることが難しくなってしまうんです」と率直に説明することもあります。

 表1はアメリカのケースワーカーで社会福祉学者のフェリックス・P・バイスティックが提唱したケースワークにおける原則ですが、相談技術においては「5.非審判的態度」が重要とされています。心のケアと審判的プロセスは、分けて考える必要があると感じています。

【バイスティックの7原則】
1.個別化の原則
2.意図的な感情表出の原則
3.統制された情緒的関与の原則
4.受容の原則
5.非審判的態度の原則
6.自己決定の原則
7.秘密保持の原則

「ケースワークの原則-援助関係を形成する技法」F.P.バイステック著、尾崎新、福田俊子、原田和幸訳、誠信書房(2006年)


■著者プロフィール

松本 桂樹(まつもと けいき)
ビジョン・クラフティング研究所 所長
神奈川大学 客員教授

臨床心理士、公認心理師、精神保健福祉士、キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、健康経営EXアドバイザー、日本キャリア・カウンセリング学会認定スーパーバイザー。