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会計freeeにおける「取引」の理解とその応用

このnoteは、スタートアップの経営管理を担う人が経営管理用のSaaSについての機能の理解を深めることで、より効率的・効果的な自社の経営管理を行えることを目的として、SaaSの解説を行う。

今回は、クラウド会計ソフト『会計freee』の独自機能である「取引」機能について、どのように解釈したら良いのか解説する。「取引」機能は、会計freeeの特徴の1つとして掲げられる機能だ。会計freeeにおける記帳手段として、この「取引」機能と、直接複式簿記の仕訳を入力する「振替伝票」機能の2つが用意されている。

会計freeeにおける適切な記帳のために、「取引」機能を利用すべき状況の適切な判断とその時の正しい利用をするために、機能を正しく理解しよう。まず、基礎的な機能の理解について解説を行い、その次に機能をどのように捉えたらいいのか、解説する。

なお、会計freeeについて以下のnoteで解説を行っており、このnoteは機能面に関する補足となる。

1.機能の理解

(1)「取引」の基本構造について

経営管理note (2)

会計freee上の「取引」機能は、「請求書を受領して、それを払うこと」の一連の流れを管理する機能だ(説明は支出を前提にしている。収入の場合「請求書を発行して、それの金額を受け取る」になる)。

ここでいう「請求書を受領」とは、発生主義的な「債務の発生」と同じ意味ではないことに留意したい。月末に支払する請求書の支払管理を主眼とおいており、その支払管理対象となった請求書のログをつけるための機能が用意されていると解釈すると理解しやすい。

「取引」機能画面を確認すると、①請求書を受領したことの記録(下図「支出」セクション)②その支払の記録(下図「決済」セクション)の2つにより画面が構成されている。

経営管理note (4)

(2)「取引」を用いた発生主義の記帳

前述の通り「請求書の受領の記録」は発生主義的な「債務の発生」を意味しない。そのため、「請求書を受領して、それを払うこと」の2つの関係性のみだと、発生主義に基づく費用の計上が上手く表現できないことがある。例えば、費用発生に先んじて支払が行われる場合(前払費用処理)や、複数期間の費用がまとめて請求される場合は、この関係性のみだと表現できない。

発生主義に基づく費用の計上が2つの関係性のみで表現できない場合にそれを修正するための機能として、支出セクション内に、「+更新」機能が用意されている。「+更新」機能を用いると、請求書の受領の記録により計上した科目(借方科目)を振替することができる。

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この機能がある結果、freee上で「取引」機能を経由して起票される仕訳は、通常の複式簿記で学ぶものと異なる場合がある。発生主義に準拠した仕訳を起票するために「+更新」機能を用いなければならない、前払費用に関する支払取引を例にあげて説明しよう(上図)。
発生主義に基づいて記帳をする場合、原則として①費用発生と②決済の2本の仕訳のペアにより記帳される(上図上段)。これに対して、freeeの「取引」機能を通じて生成される仕訳は、①請求書の受領②決済③費用発生の3本の仕訳のペアにより記帳される。

freeeの請求書の受領に伴い起票された貸方科目(例示だと未払金)は、決済に伴い帳簿の残高上から相殺されて消えるため、両パターンにおいて各月末の残高は一致する。しかし、仕訳が1本多い点・決済に際して用いられる相手科目が異なる点(上図青字部分)から、通常の会計ソフトに習熟した人ほどfreee上の「取引」により生成される仕訳に違和感を覚えやすい。

(3)「取引」に関する制約条件

経営管理note (6)

「取引」の画面上で、ユーザーは何を入力し、その結果どのような仕訳が起票されるのか。起票される仕訳とともに確認しよう。

請求書受領に伴う取引発生時に入力する記録では、ユーザーは借方科目のみを入力する(上図「A」)。借方科目については、部門タグ・品目タグ・メモタグ含め複数個の情報の入力が可能だが、貸方科目(「B」)は設定に基づいて自動で割当され、ユーザーは都度入力できない(制約①)。

上記で入力した借方科目は、「+更新」機能により振替ができる。振替である結果、「+更新」機能により起票される仕訳上では貸方科目はユーザーは指定できない(制約②)。「A」を指定した時同様、ユーザーは振替科目(「D」)を、部門タグ・品目タグ・メモタグ含め複数個の情報を入力できる。

決済時の仕訳について、請求書受領時に伴う取引発生時に計上された貸方科目(「B」)が自動で借方科目として割当られ(制約③)、決済に利用した勘定科目をユーザーが指定することになる。決済に利用した勘定科目(「D」)について、freee上にある全勘定科目は自由に選択できず、「口座」として設定されている勘定科目のみ選択できる(制約④)。

このように、「取引」機能には各種制約がある結果、各仕訳についてユーザーが自由に指定できる科目は、借方貸方どちらか片方のみとなっている(上から「A」「D」「C」)。結果として起票する仕訳本数は多いが、ユーザーに選択余地ある範囲は狭く、限定的になっている。

2.「取引」機能の再定義と応用

これまで振り返った通り、「取引」機能を通して、請求書受領に伴う取引の発生・決済・「+更新」機能による振替の3種類の仕訳が起票されている。「取引」機能により、複数仕訳がまとめて参照・編集・削除できるように管理されている点に着目したい。

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伝統的な会計ソフトにおいて保存された仕訳データについて、特定の勘定科目を用いられている仕訳のみ抽出(総勘定元帳機能)や、特定日付の仕訳データのみ抽出(検索機能)することはできる。しかし、仕訳データは各個1個ずつ保存されており、例えば"仕訳グループ"として複数個束にして保存される機能は備わっていない(上図左)。

対して会計freeeでは、会計ソフト内でのデータの持ち方として、「取引」機能を通して、仕訳データを複数まとめて管理している(上図右)。この観点から再定義すると、freee上における「取引」機能とは「複数仕訳のリレーション構造を作る機能」と言える。

「取引」機能を「未決済・決済の管理」ではなく、「複数仕訳のリレーション構造を作る機能」と広く捉えることで記帳方法の可能性が広がる。複数仕訳でリレーションを作り1つの「取引」画面に集約することにより、複数仕訳をまとめて参照・編集・削除が可能になり、個別保存する時と比較して、参照・情報加工のコストが低下する(以下例示)。

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複数仕訳について自由に束ねられるわけではなく、「1.機能の理解」で振り返った通り、格納できる仕訳について制約条件が存在する(下図)。

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ただし、制約条件について理解しておけば、「取引」機能を広く利用することができる。1回は「口座」として設定されている勘定科目を利用しなければならない、という制約条件(上図④)があるが、「口座」として設定可能な勘定科目のカテゴリには制約がなく、自由にBS科目上の任意の科目が設定できる。

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そのため、例えば、口座として指定する勘定科目について、カテゴリを「減価償却累計額」とした場合(上図①)、減価償却費の計上ならびにその製造原価への振替の一連の流れを「取引」上でまとめて行うことができる。
(ただし、この例は「取引」機能の拡張のための例示であり、当該例示の管理方法を行うことで劇的に管理コストが下がるというものではない。)

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