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【so.】栗原 信子[1時間目]

 ホームルームが終わって、面談に呼ばれたたまきが出ていった。わたしも先週に面談をしたけれど、郷さんについて知っている事は殆ど無かったから、何か原因に思い当たることはないか?と聞かれても、答えられる事は殆ど無かった。
 そんな話をたまきにしたら、三条先生から前日の事を教えられなかったかと聞かれた。埋田さんがそういう話をしたらしくって、わたしを相手にその話はしなかった事を随分訝しがっていた。

「おはよう!」

 大声で教室に入ってきた逸見先生の、現代文の授業が始まった。前の席の福岡さんが、ひどく厚着をして震えているのが気にかかる。だけどわたしが話しかけられるような相手ではないから、誰か声をかけてあげたら良いのにと思う。
 梶井基次郎の檸檬を朗読する事になって、今日の日付が出席番号になっている神保さんが朗読する事になった。
 岡崎さんはよく神保さんの顔写真を撮っている。そっちの気があるのかなと疑ったのだけれど、単純に可愛い女子が好きなだけ、と月山さん相手に語っているのを聞いた。その辺の境界線はよく分からない。
 神保さんの読み上げる檸檬の書き出しの描写を想像しながら、アンダー目の綺麗な写真が撮れそうだなと考えた。神保さんが朗読を終え、先生が何人かに当てて少し解説をして、次に当てられた埋田さんが続きの朗読を始めた。埋田さんが朗読を始めた後で、たまきが教室に戻ってきて、入れ替わりに大和さんが出ていった。自分の席へ着いたたまきはすぐに、わたしのスマホに入っているメッセージアプリのFILOに、メッセージを送ってきた。

「授業終わったら話したい」

「ジョー、マジクソ」

「終わってる」

 たまきは打ち慣れているから立て続けにポンポン送ってくるけれど、わたしはスマホに慣れていないから1つのメッセージを入力するだけでも数分掛かってしまう。

「わたし次の時間、生物係だから実験の準備しなきゃ」

 送ったらすぐに返事が帰ってきた。

「じゃー私も手伝うよ。その時話そ」

「わかった」

 そう返すと、見た事ない可愛らしい鹿のキャラクターのスタンプが送られてきた。変なの。
 埋田さんの朗読は続いている。埋田さんはたまきとも仲が良い。そこに郷さんを加えた3人で、休み時間によく雑誌を回し読みしたりしている場面を見かけた。けれど年末に郷さんがいなくなって、今日でたまきもいなくなる。残された埋田さんは他に親しい人がいないみたいで、明日からどうするのかなと思っている。そこがたまきも気がかりのようで、わたしに埋田さんと仲良くしてね、と事あるごとに言ってきた。
 わたしは漫画が好きだけど、漫画研究部に入っている川部さん荘司さんのような熱意を持った人に比べると、そこまで熱くなれなくって、漫画研究部のふたりともいまいち馴染めていなかった。そういう意味では、埋田さんと立場は近いのかもしれない。しれないんだけど、おしゃれで大人っぽい埋田さんとわたしが友達になれるとは、どうしても思えないのだった。

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