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【so.】川部 心[昼休み]

 戦慄している。悲鳴が聞こえた階段の踊場で、荘司氏栗原氏と顔を見合わせた。私の頭の中にはどうしたって、さっき裏サイトに書き込まれた文章が浮かんでくる。

「グダグダ言ってねーで行動で示せよ!口だけヤロー」

 という書き込みの後に書き込まれた意味深な書き込み。

「やってやるやってやるやってやるよ見とけよ」

 4時間目の最中に目撃したそれが、いま実行されたっていう事なんだろうか。渡り廊下の方で事件は起こったらしいけれど、慌てて確認しに駆けていくほどの勇気を私たちは持ち合わせていない。

「なんでしょうかね?」

 荘司氏が口を開いた。

「すごい悲鳴でしたね」

 私も口を開くが、栗原氏は俯いたまま黙っている。何か不穏なものを感じ取ったんだろうか。

「参りますか?」

 荘司氏の問いかけに「行きましょう」と返せるほど気乗りはしなかったけれど、どのみち教室へ戻るには渡り廊下を通らなければいけなかった。

「様子を見ながら…」

 そして恐る恐る、渡り廊下へ出る出口へと近づいていって、そこでまた足を止めた。

「人じゃない!」

 誰かの上げた声が中庭に響き、次に委員長の声が耳に入った。

「みんな安心して、これは人体模型です」

 その声に周りは安堵の声を漏らし、中庭を包んでいた静寂が晴れて少しホッとした。

「悪趣味ですよね」

 ぼそりと荘司氏が言った。

「人体模型が?」

 間髪入れず尋ねた栗原氏に、荘司氏は虚を突かれたような顔をした。

「い、いえ、その、落下せしめたことなど…」

「戻ろう」

 栗原氏はすたすたと歩いていってしまった。

「わたし何ぞ、栗原氏の機嫌を損ねるような事を述べました?」

 小声で荘司氏が聞いてきた。

「いえ、特には…」

 そう言いながら渡り廊下に差し掛かると、走ってきた三条先生が大きな声で呼びかけた。

「おいっ! 教室に戻れ!」

 その怒声は中庭を挟む教室棟と教科棟との間をこだました。

「教室で待機だ! いいか堀川、指示があるまで全員を教室から出すなよ」

 その剣幕に再び辺りは静かになって、私たちは無言で教室へと戻った。


「委員長、お昼食べていいの?」

 教室に戻ると委員長が質問攻めに遭っていた。

「教室から出るなってことなんで、買いに行ったりはダメです」

「えええー!!!」

 そんなやり取りを見ていたから、お弁当を広げていいものかどうなのか迷った。

「お弁当の人は、食べていいんですかね?」

「お尋ねしてみましょうか?」

 荘司氏とふたりでそうやってモジモジしていると、放送が流れた。

「臨時の全校集会を行います。生徒の皆さん、教師の皆さんは至急、体育館へ集合してください」

 仮にお弁当を広げたとして、いくらも食べられなかったなと思った。体育館へ歩きながら、裏サイトをまた覗いてみたけれど、新しい書き込みは何もされていなかった。


 体育館まで歩いて、出席番号順に並んで体育座りをした。真冬の体育館の床はひんやりとしていた。

「皆さんこんにちは。こうしてお昼休みの時間にも関わらず急遽集まって頂きましたことに感謝いたします」

 校長先生のお話が始まった。

「先ほど、4時間目の終了時に起こりました出来事について、ご存知の方もおられることと存じます」

 やはりさっきの出来事についてなのだ。先月の終業式のときのお話でも思ったけれど、所詮違うカーストでの出来事で、どこか私自身とは無関係なような、まるで違う国での話のように思えた。それを口にするのは憚られるけれど。

「ご存じない方のためにご説明いたしますと、本校の制服を着せられた人体模型が、屋上より落とされるという出来事がありました。」

 またお話は長くなりそうだなと思った。

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