【so.】中島 来未恵[昼休み]
「まだまだお伝えしたいことはたくさんあるのですが、慈愛の精神で、隣人…隣の席のお友達でも結構です、もう一度、皆さん、お互いのことを知ってください」
もうこれ以上、お伝えしたいことがあっても困るなと思いながら、私はいま底冷えのする体育館で校長先生の話を聞いている。4時間目が終わった後に騒ぎが起こって教室へと戻らされた私たちは、昼ごはんを食べる間もなく体育館へ集合させられた。中等部も合わせた全校生徒に先生たちがこの場に集められている。
「悩みがあれば聞いてあげてください。それが力になれることであれば、協力してあげてください」
語りたがりの校長先生の話はいつだって長い。それにゆっくりと喋るから、なおさら時間がかかって長く感じる。体育座りで座っている体育館の床は、もう午後の1時近くだというのに冷たい。空腹と床から伝ってくる冷気とで、校長先生が何を喋っているのか断片的にしか分からない。前に座っているつだまるが、やたらと足を擦っている。
「もう二度と、二度と、本件のような悲しい出来事を起こしてはなりません」
確かに。こんな地べたで震える仕打ちもセットだもんな。私は両膝の上に顔を埋めた。ほんの少しだけ暖かくて、そのまま吐息に顔を浸していたら、校長先生の長い話は終わっていた。
「いやー、長かった。2ヶ月は過ぎたかと思った」
集会が終わってみんなが無言で教室へ歩いていたら、さっちんが沈黙を破るかのように言った。
「せいぜい20分くらいだろ!」
私がそう突っ込むと、他の子たちが「でも結構長かったよね」「いつもじゃん」なんて喋りだした。
「キミ、腹減ったぁー」
「私もなんか食べたいよ。でも、一回教室戻らなきゃいけないんでしょ?」
委員長が何人にも何度でも「一回教室に戻るようにって、三条先生からの伝言です」と繰り返していた。教室に戻って、ホームルームをして、その後にハセベのパンがまだ残っているだろうか? どうも私たちのクラスのホームルームは、他の学年よりも長くなるんじゃないだろうか。だとしたら、パンもあらかた売り切れてしまう。私よりもずっと先にその考えにたどり着いたらしいさっちんは、深刻そうな表情をしていた。
「山浦でしょ? 犯人」
「マジで?」
「いないじゃん、アイツ」
タグっちゃんたちが騒ぎだした。私は集会の時にはなんとなく察していた。
「わたし、空腹と怒りで爆散しそうだ」
さっちんがボソリと言った。もし今のさっちんが山浦の顔を見たら、あっという間に捻り潰せるくらいには、怒りが凝縮されているように見えた。山浦がなんでこんなことをしたのかよく分からないけれど、サトミのことなのかなと勝手に想像した。
「ホントに死ねば良かったのにねー」
タグっちゃんがぎょっとする一言を吐いて、空気が軋んだ。次に聞こえた平手打ちの音が、廊下によく響き渡るくらいに。
「アンタが死ねば良かったよ」
埋田さんがタグっちゃんを引っ叩き、そう言い捨てて去っていった。またみんな、何も言えなくなって教室に帰った。
「今日もー寒すぎだっつーの!」
のりんが教室に入るなり声を上げた。みんなイライラしている。もしくはつぐちゃんみたいに泣いたりしている。
「クソッ!」
私も、自分の後ろにある山浦の席を蹴った。椅子が勢いよく倒れて、大きな音が響いた。みっともなくその椅子を戻した私自身も、抑えようのない怒りの処分に困っていた。
次の時間
前の時間
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?