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【小説】アラフォー女が初めてマッチングアプリを使ってみたら。

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純文学を目指した、恋愛小説です。 いつの間にかオムニバス形式になっていました。 陳腐な文章でお恥ずかしいですが、読んでいただけたら嬉しいです。 スキがもらえると励みになります。
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【第1話】アラフォー女が初めてマッチングアプリを使ってみたら。

「アリサちゃんって、今いくつだっけ?」  バーカウンターの隣に座る初老の男性のその言葉は、妙齢の女性に無骨に年齢を聞く、空気の読めないセクハラ男……というわけではない。 「恋愛小説を書きたいなら、今時の事情がどうなってるのか知るためにも、マッチングアプリには登録しておくべきだと思うなあ」  そう、彼は、小説家を目指すわたしの執筆活動に助言をくれる、編集者である。  我が強いけど、他人の助言も「確かにその通りだ」と思ったら、素直に従うことができるのがわたしの長所であると自覚し

【第2話】アリア 35歳 くすぶっていたもの

 彼のアプリでの登録名は「ふみや」だった。LINEの登録名は「タカヒロ」だった。 どちらかが本名なのか、どちらも偽名なのか、意味のない詮索をしながら彼からの着信を待った。 「もしもし……アリアさん?」 「初めまして。なんだか、変な感じですね。さっき知り合ったばかりなのに」 「わー、声もかわいい。優しそう。よかった!俺もけっこう、緊張してたから」 「うん。すごく緊張する。あ、そうだ、名前はなんて呼べばいいかな?」 「タカでいいよ!」  ふむふむ、アプリの方が偽名なのか。普通に考

【第3話】タカヒロ 27歳 厄介なウイルスのせいで

 間接照明、多肉植物、自炊写真に猫動画。たまに、彼氏感のある顔出し自撮り。 女を釣るための演出は、完璧に頭に叩き込んである。  中には、高級車とか時計とか、寿司だの鉄板焼きだの言ってる女もいるけど、そういうのには一切興味がない。一番嫌いなのが、無駄にプライドが高い女だから。 やつらほど取り扱いが面倒臭い生き物を、他に知らない。  俺は昔から、女にモテる人生を生きてきた。 あまり自分を客観的に、フラットに評価するのは得意ではないが、長身の白い肌、細身だけど程よく筋肉があるとい

【第4話】アリア 35歳 「老い」なんて、他人事だと思っていた

 「老い」なんて、20代の頃は全く想像ができなかった。 若白髪が生えるタイプでもなかったし、肌も強い方なので、シミ、しわ、そばかすは皆無、潤いなどの肌質も、10代の頃より劣った感覚はなかった。  でもそれらが、33歳くらいから、気になるようになったのだ。その時の絶望感は、なんとも形容しがたい、悲しいような、惨めなような、そんな気分だった。  そんな自分が、27歳のイケメン、しかもマッチングアプリで知り合ったよく知りもしない男の子に対して、恋心を抱くなんて馬鹿げている。それな

【第5話】タカヒロ 27歳 やっぱり変態なのかな、俺。

 あざといのか、天然なのか、読めないところと、抱きたいと思える魅力的なタイプなのに、やたらと年齢を気にしているところ、仕事に対してストイックなところに惹かれた。  アリアが悪名高いこのアプリに登録したのは、ただのヤリモクではなく、かといって恋人探しでもなく、別の理由がある気がする。それも、気になる。  だから、会ってみたい。全テクニックを駆使して誘ったら、なんだかいけそうな雰囲気になり、心の中でガッツポーズをした。  でも来週とか呑気なことを言ってるから、モチベーションを保

【第6話】アリア 35歳 フリーライター

 今、日本全国で緊急事態宣言が発令されている。 新型Cウイルスという、ワクチンがまだ開発されていない未知の感染症が、世界中で猛威をふるっているのだ。  こんな非常事態は生まれて初めてのことで、日本だけでなく、世界中が混乱に陥っていて、オリンピックも延期。わたしの年内の予定も、大幅に狂わされてしまった。 本来なら今頃、外国に長旅に出ている予定だった。  タカに聞かれて思い出したけど、わたしの昔の夢は戦場ジャーナリストだった。  小学校高学年の頃、親に連れられて行った長崎で、原

【第7話】リナ 22歳 もちろん、あたしが一番だよね?

「なんか最近、機嫌いいよね?良いことでもあったの?」  セフレであり、こっそりと愛してもいる男、タカヒロに向かってあたしは訪ねた。  彼と出会ってもう5年?忘れたけど、セフレ関係になってからはたぶん3年くらいだとおもう。 あたしの職場のガールズバーにやってきて、帰り際に名刺を渡してきたのが、プライベートでも会うようになったきっかけだった。  こいつはとにかく、イケメンで女好きでエロくて、いわゆる絶倫。あたしもたくさんの男とヤってきたけど、タカヒロほど良いセックスをする男は他

【第8話】アリア 35歳 ほんとうに、初めてなの

 出張から戻って、3日めの昼下がり。わたしはタカの指定した駅に向かっていた。 「12:54に着く電車に乗ったよ!めっちゃ緊張してるから、うまく話せなかったらごめんね?」 「了解ッ!俺も緊張してるけど、がんばって色々話すから、安心してね」  優しいなあ……と思いながら、タカと初めてマッチした日から今日までのことを、振り返ってみる。 数えてみると、知り合ってからまだたったの9日間。 毎日LINEして、通話もして、送ってくれた動画を夜な夜なひとりで眺めていたから、会うのが待ち遠しく

【第9話】アリア 35歳 カニバリズムは究極の愛

 「古い家ですが、いちおう毎日家事はしてるから。どうぞ、あがって」  「とんでもない。素敵なお家だよ。お邪魔します」  招き入れられて、まるで自分のおばあちゃんの家に行ったときみたいに、懐かしい匂いや空気感に癒やされた。 ふと、柱を見ると、子供の頃によくやった背比べの、線と名前が刻まれている。  「うわあ、素敵。なんだかもう、胸がいっぱいになっちゃうよ」  「ぎゃー、見ないで、恥ずかしいって」  「これ、タカだよね?こんなに小さかったのに、今はこんなに大きくなるって、不思議だ

【第10話】タカヒロ 27歳 気になった、薬指のアレ。

 アリアと初めてセックスした日、俺は感動していた。 同時進行で常に5〜6人はヤレる女がいるけれど、あんなに感度が良くて、愛くるしい顔を歪めて悶える女は、他にいない。  歳を重ねているからだろうか?過去に、子持ちの40代としたこともあるが、それは最悪なセックスだったと記憶しているから、そういうわけでもないのか。  ピロートークで、  「ねえ、なんでそんなに開発されてるの?戦場ジャーナリスト的な、とっておきの秘密がある?」  「もう、それはイジらないでって言ったじゃん!別に、特

【第11話】リナ 22歳 母子家庭で育ったあたしの秘密

 あたしは物心ついたときから、母子家庭で育った。父親の詳細は知らない。聞けない雰囲気を、母は常に纏っていたから。  家が裕福ではなかったから、母の勧めで看護師の資格が取れる学校に進学したけど、昔から女ばかりの場所ではイジメに遭うことが多くて、ここでももちろんそうだった。  外見は中の上くらいで、華奢な体型で背も低いからか、昔からクラスに一人はあたしのことを好きな男子がいて、まわりの女子たちはそれが気に食わなかったみたい。  ヤリマンって噂はすぐに立つし(それはまあ、事実だっ

【第12話】アリア 36歳 Happy Birthday

 タカと出会って3ヶ月。月に2〜3回は逢瀬を重ねる、セフレの関係が続いている。  もちろん夫は気付いてない……というか、わたしの生活に興味すら無いようで、自分の仕事や趣味に没入している。 無邪気に、趣味のウンチクを語り、晩酌に付き合ってくれよお〜と駄々をこねる、おじさんのぶりっ子もかわいく思える。  そんな夫を、家族、親友として近くで眺めているのが好き。失いたくない、大切な時間だ。  タカと初めて結ばれた日、どうしてそんなに開発されてるの?と聞かれ、どきっとした。 抱かれた

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【第13話】タカヒロ 27歳 ナンパ師、卒業

 自分がまさか、アラサーになってから人妻にマジの告白をするとは、夢にも思っていなかった。 でも、理性で止められるような感情ではなくて、なんて言えばいいのかわからないけど、自分の深い部分が、自分の意思とは無関係に求めるものが、アリアだった。  だから、OKをもらえた時は心の中で小躍りするほど嬉しかったし、その日の夜の乱れ具合は、俺の中でも過去最高だったように思う。 てゆうか、中に出したのも初めてだったはず。人妻に、なんてことを……  恋人同士になってからも何度か会い、夜にこ

【第14話】リナ 22歳 あなた、解剖、殉愛歌

 タカヒロから、ついに、「別れ話をされるんだろうな」っておもうLINEがきた。 様子がおかしいと思い始めてから、2ヶ月後くらいだったか。  実際に、仕事が忙しかったのもあって、あんまりよく覚えてないけど、いろんな辛いことから逃げたくて、最近は薬を飲む量が増えていた。  彼がなにを話すのか、わからないけど、あたしはなんて答えるべきか。 ずっと好きだったことを伝えるべきか。 それとも、潔く身を引いて、新しく好きになれる人を探すべきか。  もうすぐ23歳になるあたし。世間ではま