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エディターコース「書く人あれば読む人あり」~〈みんなで作文 第2弾〉~

※〈ちょこっと倶楽部・エディターコース〉メンバー向けの限定記事です
※メンバーでない方も今回は最後まで無料でお読みいただけます

久しぶりにやってみようか。
あれを。

あれってなぁに?

そんなの決まってるじゃないか。
〈みんなで作文〉だよ。

今年3月から4月にかけて3週間にわたって開催された、メンバーシップ・エディターコース伝説のイベント〈みんなで作文〉。
その第2弾をやってみよう。

ご存じない方のために、ここでおさらいをしておこう。
〈みんなで作文〉とはエディターコースメンバー限定のイベントで、参加メンバーが順に文を後ろに足して長い文章を作るという単純なお遊び。

ルールもたったこれだけ。

・参加メンバーが文を繋いで1つの文章を作る
・1人1回あたり3日以内に3文まで(3文合計で100字まで)加筆

冒頭の3文は僕が仕込む。
で、参加メンバーがその後ろに足していくのだ。

ちなみに前回は参加者7名(僕を入れれば8名)。
僕はこんな3文を冒頭に用意した。

(前回の冒頭3文)
うだるような暑い夏の日、僕は河原を少し急いで歩いていた。
川の風でも吹けば少しましになるだろうに、その日はあいにく無風だった。
案の定、僕のシャツはぐっしょりと重く、これだけで肩が凝りそうだった。

これが21日間のうちに後ろに48回も足され、5063字の小説になった。

今回の開催概要はこれだ。

[開催期間]9/17~10/4
[申込〆切]9/16(明日だ!)
[開催場所]パルケ特設会場
[参加費用]無料

そして気になる今回の冒頭の3文!

「なんで私ではダメなの?」
私は思わず悲痛な叫びをあげる。
「せっかくここまでやってきたのに…」

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これが前回、7人で紡いだ5063字の小説の全貌だ。
ご参考までに。

うだるような暑い夏の日、僕は河原を少し急いで歩いていた。
川の風でも吹けば少しましになるだろうに、その日はあいにく無風だった。
案の定、僕のシャツはぐっしょりと重く、これだけで肩が凝りそうだった。
よりにもよって、なぜ今日、この時に行かなければならないのか。
僕は、どうしてもすぐに来てほしいと言った父を心底恨んだ。
どうせ金の無心だろうと思う反面、もしかしたら体調が悪いのでは?と心配になり、この天候の中、自分に鞭を打ってより一層足を早めた。
「~♪」
突然スマホが鳴った。
「・・・こんなときに限って!」
歩みは止めないまま、尻ポケットからスマホを抜き出す。
額の汗を拭いながら着信に目をやる。
そこにあったのは思いもかけない人物…兄の名前だった。
「もしもし」
頭の上でセミが一斉に鳴き出して僕の耳を遮った。
スマホに耳を近づけると、久しぶりに聞く兄の声は何だか覇気がなかった。
「……おう、元気か?」
「元気っていうか、今はそれどころじゃないよ。この暑い中、親父のところに必死で向かってるんだけど――……」
「ってことは、もしかしてお前も呼び出されたのか?」
僕は驚いた。呼び出されたのは、自分だけではなかったからだ。
「兄さんも、親父に呼び出されたの?」
「あぁ、、、そうだよ。海外出張から帰ってきたばかりなのに、本当に嫌になるよ。」
もうかれこれ5年ほど経つのだろうか。
親父と兄と僕。
この3人が顔を合わせるのは、あの忌々しい出来事以来となる。
確かあの日も今日のようなうだるような暑い夏の日だった。
父は僕と兄をわざわざ呼びつけ、お金を僕たちから取ろうとした。
まだ学生だった僕と入社2年目の兄を相手に口論の末、取る金が無いと分かった途端、僕ら2人を殴りつけたのだ。
「気持ちは分からんでもないけど、親父、俺達が武道の有段者だって忘れてたのかな」
僕がため息まじりに言うと、兄もまた呆れながらこう言った。
「あれは勢い余って勝手に親父がスっ転んだだけだ」
「自己中な上に前のめりな性分だからな。」
おまえ性格似なくて良かったな、そっちこそだろと軽口を叩きつつ、内心は2人とも親父への憤りをたぎらせていた。
金の無心だけではない。母のことがあるからだ。
一旦電話を切り僕が家に着くと、縁側でぼんやり佇んでいる父が目に入った。
僕は言葉を飲み込んだ。
前回会った時のあの勢いはまるでなく僕には父が一回り小さくなったように思えたのだ。
程なく兄がやってきた。
兄も僕同様、息を切らしていた。
汗をたっぷりと吸いきったそのシャツはすっかり水色から青へと変わってしまっている。
兄は父の様子に一瞬戸惑ったように動きを止めた後、憎悪に満ちた表情でこういった。
「いきなり呼びつけてなんだよ、、、。あの時の事、、、今更許すつもりなんて無いからな。」
父が目を下に伏せたまま、ポツリと言った。
「母さんが、、、いなくなったんだ。」
「で、警察には?」
「いや、実はこんな置き手紙があって行っていない」
と、母の意志の強そうな癖のある文字で書かれた置き手紙を見せられた。
【神戸の「ぐるめぐる」に参加してきます。その後行くところがあるので帰らないと思います。】
焦って書いたのか癖のある字が、いつもよりも一層読みにくい。
そして父はゴミ箱からみつけたというくしゃくしゃになったメモも差し出した。
そこにはこう書かれていた。
「へんいちさん、まるごとフルコース、すっぱい柑橘類」
僕と兄は顔を見合わせ、異口同音に言った。
「ぐるめぐるって何だ?」
そして父の方を向き、同じ質問を発した。
「母さんが時々参加していたんだ。何でも神戸のグルメを楽しみながら街を巡るツアーらしい」
「でも置き手紙にはその後行く所があるので帰らないって書いてあるじゃないか」
「そもそも、母さんに携帯持たせてたよね?電話してみなよ」
「母さんは、アナログ人間だ。使いたがらなくてな、やむを得ず置き手紙にしたんだろう。でも、大丈夫。母さんには、最高の電話を新調したんだ」
父は紙コップを出し、正確にいうならばーーそれは糸電話で、その糸は神戸の方に向かって長く遠く果てしなく伸びている。
僕たちは兄弟で顔を見合わせた。
、、、嘘だろ。
父は、それが最高の傑作であるかのように、曲がっていた背中を伸ばして、どうだとばかりに胸を張っている。
それに加え、どうだとばかりに張られた糸。
そして、紙コップに口にあてる父。
もう、何がなんだか訳がわからない。
怪訝な顔の息子達をよそに、父は大きな声で話し始めた。
「あ〜、母さんか?どうだ元気か?」
そんなものから返事があるわけもなく、芝居がかった父に僕は呆れイラついた。
「で? 置手紙した母さんとその最高の電話で連絡とれるハズなのに、何を困っているの?」
一方その頃、母は神戸の「ぐるめぐる」集合場所で迷っていた。
「えっと…三ノ宮改札口っと…あらこの駅、駅名の漢字の間違ってるわ…これじゃさんみやだけど、やっぱり一旦作ったら間違ってるからって使わないわけにいかないわよね看板て高いし…それにしても誰も集まってこないんだけど…?」
母は地下鉄三宮駅の改札口を出たところでうろうろしていた。次々と人々が改札から吐き出されてくるが、みな急ぎ足で四方八方に散っていく。
突然、家の電話が鳴ったので僕が慌てて出るとそれは紛れもなく母さんの声だった。
「あら!来てたの そこにへんいちさんの連絡先のメモないかしら!」
母さんはひどく慌てた様子で、僕が出たことに驚きもせずたたみかけるように言ってきた。
そして僕が探していると、兄は僕に『へんいちさん、ぐるめぐる連絡先』と書かれたメモを渡してきた。
「母さん、へんいちさんの連絡先はーー……」
その先を僕が伝えようとすると、父が僕から電話を奪い取った。
「母さん!俺のメシはまだかっ。」
この状況で、自分のご飯の心配をしている父に、僕は呆れ返った。
電話口の母も同じ事を思ったらしく、一言も発さぬまま、ガチャンと通話が切れてしまった。
「母さん…」
そう呟きながら受話器を戻し、ひどく落胆した様子の父が、僕と兄に向かってこう言い放ったのだ。
「もう、この世の終わりだと言って泣くと思ったか?
ところがどっこい、こんな事でくたばる俺ではない。さあ、今からお前達も一緒にぐるめぐるに参加して、メシを食いに行くぞ!」
その頃母はーーー
「あのワザとらしく捨てておいたメモ書きには気がついたのね。息子たちが揃ったのも計算通りね」
受話器を戻して呟きながら目を上げると、少し先に立っている若い男性と眼が合った。
ひいでた額、鋭い眼差し、細い身体…推理小説のオーガスタス·f·s·x·ヴァン·ドゥーゼン博士そっくりの風貌である。
「何かお困りですか?」
その男性は親切にも声をかけてきた。
「あ、いえ、待ち合わせをしているのですが『さんのみや駅』がここで良いのかどうか…」
「ああ、ここは三宮・花時計前駅前です。私もこれから向かうところですので、ご一緒しましょう」 
そういった紳士の胸の襟には、ぐるめぐるVIPとかいてある金のピンバッジが光っている。
なんと、、、この紳士、いやこの御方こそが、
ぐるめぐる主催者のへんいちさん、ご本人のようだ。
「えっ!もしかしてそのバッジは、、、ぐるめぐるのへんいちさんですか?」
恐る恐る声をかける母に差し出されたのは、、、
本日の行程表だった。
その頃、我々はというと
「ぐるめぐる」の参加方法がわからず途方に暮れていたのだった。
そして、腹が減り思考能力が限界に達した父がこう言い放った。
「おい、お前から電話して3人追加を伝えてくれ。お前の電話なら出るだろ。」
もうアナログ電話どころではなく、使える方でないと意味がない。
しかし・・・読者の皆様はもうお気づきだろう。
「ぐるめぐる」はただただお腹を満たすだけ・・・そんなツアーではないことを。
へんいちさんによる神戸の街がより楽しくなる、親切丁寧な歴史のお勉強会が短くないことを。
その頃の母、バッヂの男性曰く、
「はじめまして××母さん、へんいちです。」
「どうして私のこと?」
「アナログ人間て仰ってて、公衆電話使ってらしたし、三ノ宮駅ややこしいでしょ〜あっちにみんな集まってますから。」
家ではもうわけがわからず怒鳴り散らしている父を見て兄と僕は辟易していた。
「兄さん、このメモのへんいちさんに連絡してみようよ」
「そうだな。とにかく母さんの居場所を教えてもらわないと!」
空腹に耐えかね叫ぶ父に兄が手刀をくらわせ気絶させ、沈黙が戻り電話をかけた。
呼び出し音が止んだ後、ハスキーボイスが電話の向こうで響き渡る。
『お電話ありがとうございます、ぐるめぐるのへんいちです』
「すみません、そちらのぐるめぐるに参加してる母の息子です。今からそちらのツアーに3人追加って可能ですか?」
しばしの沈黙の後、、、明るい声で、
返事が返ってきた。
『もちろんですよ。
ただし、集合場所は、少しややこしいんですが』
そして、
息を深く吸い込み、少しトーンを落とし、語りかけるようにこう言った。
「実は今回の企画はプチ断食ありの、修行としても歩きや走りの多い厳しいものになりますが、大丈夫ですか?」
「エェッ、マジか!」
「ちょうど、合流できる時間帯には、私達は坂道を上がった1番上の布引の滝にいるので、そこまでダッシュで来てくださいね!」
気絶した父を連れてダッシュ、そしてプチ断食。
僕は自分の耳を疑ってもう1回聞きなおした。
「え? それ、本気のヤツですか?」
「ええ、気絶したお父さんは駅横の断食道場で休ませて兄弟で来られては…断食明けは中華街で本場鮑の中華粥の予定ですが。」
「行きます。」
淡々としてるのに説得力のある口調で鮑粥を語られ、一発で落ちるしかない。
すぐにタクシーを呼んで兄が父を背負って車に乗せ、駅横の断食道場で父を降ろして頼み込んだ。
その後僕たちは新神戸まで行きそこから布引の滝に向かった。
「確か布引の滝は4つの滝があるはずだけど一番上のと言っていたから雄滝だろう」
そして、この地獄の暑さの中を僕たちは歩く。
「もうだめだ」と思った時に、ぼんやりと遠くに複数の人影が見えた。
霞む視界に映ったのは、、、
待ち侘びていた母の姿と、電話口で対応してくれたへんいちさんだった。
僕たちに大きく手を振ってくれている、、、。
「日本三大神滝」の一つに数えられている
布引の滝が、キラキラと反射していて、
とても綺麗だった。
久しぶりの母との再会。
相変わらず、元気で何よりだ。
しかし、一つ気になることがあった。
母が若く見える。
最後に会ったときには確か・・・こう・・・もっとおばあちゃんっぽくなっていたのに。それがどうだ、メイクもバッチリ、そして服までも。
季節らしく薄い色の上下、靴もパンツもスマートなスタイルだ。以前の母のもっさりした楽ちんさ優先のパンツと靴とは明らかに違う。
そしてファッションより変わったのはたぶん、背筋がスッと伸びた姿勢、だろう。
僕は母を一目見て思った。
(母は…恋してる…もしかしたら父の心配しているのはこれか…)
兄と僕の困惑した顔をよそに母の声は弾んでいた。
「よくきたわね!」 
声まで若返っている。これが、ぐるめぐる効果だろうか……いや、こんなことあり得るのだろうか。
僕は、疑問を頭の隅に追いやって、来る途中にかいた汗を手の甲で拭いながら母に問いを投げかける。
「母さん、、、急にいなくなってどうしたんだよ。父さんも珍しく慌てふためいていたよ。」
そして、思わせ振りに
「実はね、ぐるめぐるに参加するとね・・・」
満面の笑顔で母は言う。
「へんいちさん並みに100歳若返るって、note界ではすごい噂になってるのよ!
あなた達も、急に参加できて超ラッキーなんだから。
普通だと半年から一年待ちでやっと予約が取れるのよ」
そんなバカな、僕はそうツッコもうとしたが、へんいちさんが本気で若く見える。僕と同じくらい? それとも・・・もっと年下?
プチ断食に、坂道ダッシュ、そんなことで若返るのか?
動揺しているとへんいち氏がにこやかに「お疲れさま〜はじめまして、へんいちです。無事合流できて良かった、え、ぼくの年齢…ははは良いですよそんな…あ、一応、20代の子供2人、高校生が1人います。」
「!?」
兄と僕はあっけに取られながらとりあえずこのぐるめぐるツァーについて行くことにした。
「へんいちさん、父を断食道場に置いてきているのであまり長くは参加できないのですが…」
僕がそう言うと、へんいちさんはまるで魔法を使うように両手を広げて参加メンバーを包み込むように風を送った。

(2024/9/15記)

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