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第二回こむら川小説大賞結果発表 大賞は ナツメさんの『擬態女』に決定

 令和2年6月20日から令和2年7月25日にかけて開催されました第二回こむら川小説大賞は、選考の結果、大賞・金賞・銀賞を各一本、各闇の評議員の五億点賞、絵師さんの個人賞が以下のように決定しましたので報告いたします。

◆大賞 ナツメ『擬態女

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受賞者のコメント
この度はこのような栄えある賞をいただき、ありがとうございます!身に余る光栄です。
 Twitterでたまたま概要を見かけて、「よちよち創作あかちゃんたちにとっての砂場だよ」の言葉に背中を押されて軽率に参加しました。本当に素晴らしい企画だと思います。
 創作してみたいけどリアクションがないのがこわい……という理由で二の足を踏んでしまう人たち(わたしもそうでした)にとって最高の砂場でした。ぜひ今後も続けていただき、軽い気持ちで筆を取る創作あかちゃんが増えればいいな……と初参加者として思う次第です。ありがとうございました!

 大賞を受賞したナツメさんには、暁鴉 丹さんによる表紙風ファンアートが進呈されました。

◆金賞 山本アヒコ『やわらかい指

◆銀賞 和田島 イサキ『アリス・イン・ザ・金閣炎上

◆五億点賞

謎の有袋類賞
Veilchen(悠井すみれ)『人喰いの子
謎のイヌ亜科賞
鍋島小骨 『偽装人形の眠り
謎のストクリス賞
帆多 丁 『第4惑星の生存

◆草食ったさん賞

御調草子 『ノットヒーロー

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 というわけで、川系列KUSO草野球大会、第二回こむら川小説大賞を制したのはナツメさんの「擬態女」でした。
 おめでとうございます。
 以下、闇の評議会三名による、全参加作品への講評と大賞選考過程のログです。

◆全作品講

謎の有袋類
 みなさんこんにちは。伝統と格式のKUSO創作甲子園本物川小説大賞のオマージュ企画。こむら川小説大賞です。
 第二回もめでたく終了しました。
 川系列の伝統?に従って、大賞選考のための闇の評議員を一新しまして、今回は謎のストクリスさんと、謎のイヌ亜科さんに協力していただきました。
 本家にはがっつり参加していないお二人なので、新鮮な感想や講評が出てくるんじゃないかなと期待しています。
 今回の議長も前回と引き続き主催である謎の有袋類が行います。よろしくお願いします。

謎のストクリス
 約一ヶ月の死闘、お疲れ様でした。皆さんによって引き起こされたこむら川の氾濫も収まり、評議員一同胸を撫で下ろしているところです。
 さあ!ここからは私達の血と汗と涙の結晶!講評&選考タイムだ!どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

謎のイヌ亜科
 本物川小説大賞は第十回から参加、第一回こむら川小説大賞では五億点賞を頂きました。自主企画主催経験は何度かありますが、闇の評議員は初めてです。よろしくお願いします。

謎の有袋類
 前回に引き続き、こむら川大賞でも、本物川小説大賞と同じくそれぞれ独自に講評をつけた三人の評議員の合議で大賞を決定し、その過程もすべて公開します。
 
 以下から、エントリー作品への講評です。


1 化物/偽教授

謎の有袋類
 早い!今回も一番槍は偽教授さんです。おのれ偽教授…。
 時代・歴史・伝奇カテゴリにある通り、妖怪・あやかしのお話を雰囲気たっぷりに書いてくださっています。
 胴の面を調べてみたのですが、見た目のインパクトが大きい…。
 一見するとコミカルに見えてしまう外見の妖怪ながら、普段は服に隠れる部分に眠っていて死体に取り憑くという凶悪な性質がよかったです。
 途中で怪しいと思っていたやつを怪しくない!してからちゃんと落とすのは書き慣れている人の手腕の成せる技という感じがします。
 夏の始まりに相応しい昔ながらの落語や民話を読む気持ちで触れられる良いお話でした。
 それにしても、妖怪の恐怖と同じくらい偽教授さんのネタを探す早さと書くスピードが速くて怖いですね。

謎のストクリス
 無駄なく洗練された文章だということが一番の印象でした。まず最初の一段落で舞台設定と敵、その性質を読み手の脳にスッと差し込む様が見事。そして、憑依の解けた死骸を指して「もの言わぬ骸にようやく戻ることができた」など、一文に一文以上の情報を埋め込みつつも軽やかさを失わせない、絶妙なバランス感覚の心地よい作品でした。時代設定も相まって、語り部が歌に乗せた伝承を聞いているような読書体験でした。
 主軸となる妖怪・胴の面については「人に化け、人を喰う」というシンプルな怪異で、そしてその情報自体は最初から提示されているのにも関わらず、描写が重ねられるごとに「これは思っていたよりヤバい奴だ」と認識させられ、なるほどこのような緊張感の積み上げ方があるのだな、上手いなと唸りました。これは恐怖を積み上げるホラーというよりは、徐々に怪異の種を明かすミステリーに近いテクニックと言えるかもしれません。
 一点だけ気になったのは、化け狐のエピソードが浮いて感じられることです。良沢の怪異に対する見識の深さや胴の面への対策の困難さを描くことに繋がっているようにも思えますが、エピソード自体はその後の展開にあまり寄与しておらず、なまじ他の部分に無駄がないからこそ、この部分が余計に感じられました。もし何か意図を見落としていたらすみません。

謎のイヌ亜科
 川系企画一番槍に定評のある偽教授さん。今回も早い! テーマあり下限字数ありの自主企画に速度を乗せて作品を出せる瞬発力の高さに、いつも敬服しています。
 一番槍……ということで、物語も槍にまつわる話でした。『胴面どうのつら』という実在の妖怪にまつわる伝奇作品ですね。
 喰った者に取り憑く化物としての胴面、コミカルな見た目に反してやり口がえげつない……! 憑かれた側に自覚がないのも、戦に利用されたら大惨事を巻き起こしかねないやつだ。
 胴面への対策に苦心していた平右衛門が既に喰われていた、という部分だけでも驚く展開なのに、そこから討伐に協力した良沢が黒幕だったという展開を持ってくるのが面白かったです。意識を乗っ取られる前の平右衛門は良沢を内心疑っていたのも、疑心暗鬼を引き起こす胴面の怖いところですね……。
 この物語の実質的な主人公(だと勝手に思ってる)藩主の加藤輝政、覚悟がキマりすぎてる。藩の非常時とはいえ、取り憑かれた家臣と人の姿をした外法使いを躊躇なく刺せるのは凄い逸材ですよ。藩という事は江戸時代が舞台だと予想したんですが、一人だけ価値観が鎌倉武士とかのそれじゃないですか?

2 人の心がない私を彼が支えてくれています/こむらさき

謎の有袋類
 人外はいいぞ

謎のストクリス
 人間のフリをする者たちのお話です。主人公の女性は人の心を理解できず、そこに起因する人間関係のトラブルに悩まされている…と彼女の自己認識で描かれますが、各所の描写を拾っていくと、悩まされているというよりも「人の心が分からない私」にアイデンティティを置いた人物なのかなと思えてきます。彼女は他人の悲しみや怒り(=わかりやすい人間らしさ?)に理解を示さない一方で、恋人の前では大人ぶって苦いコーヒーを我慢する感性を持ち合わせています。経験から「恋愛契約書」が一般に理解されづらいと知りながら、人間に擬態しているハズの彼女はその特異な契約書を封じることはありません。一人称視点で描かれる文章のなかにこうした齟齬を散りばめることで「語り手の自己認識と実情との間には、ギャップがあるのではないか」と読み手に思わせる手法、じわじわと効きました。あるいはそうした齟齬を狙ったのではなく「彼女ならこう考えるだろう」というトレースのもとで生み出された描写なのかもしれませんが、その場合は想像力の凄まじさに驚きます。
 物語の後段では、彼女の擬態が剥がされる展開となります。この部分は、恋人の発言の意味を主人公が理解していなかったり、隠蔽擬態と攻撃擬態の重なりがキーになったり、これまで主人公のやってきた「擬態」の失敗と成功が反転したりと、かなり複雑な構造をしているように読めます。が、残念ながら私は一読目ではそうした構造が把握できず、擬態を解いた彼の意図も分かりかねてしまいいました。これは一人称視点ゆえに「混乱する主人公」の目線でしか事態を描写できず、状況の説明を入れづらかったのではないかな、と想像します。
 とするとこの作品は、前半では一人称視点の強みを活かし、後半では一人称視点ゆえの弱みに苦しんだ小説なのかなと思えます。語り手の知りえぬことを読者に悟らせる手法は私自身も研究しているテーマの一つで、大変勉強になりました。

謎のイヌ亜科
 胃痛とメンヘラと恋愛小説に定評のあるこむらさきさんの作品は、“人の心がわからない”カップルの話。今回のテーマにぴったりの擬態小説に仕上がっていました。
 人の心がわからない人間の女性と、人の心をわかっているような人外の男(?)。女性のエピソードが所々聞き覚えがある気がするのは、気のせいですかね……? 人外の擬態外見のあだ名が『臣くん』なのも、こむらさきさんの愛が見え隠れしていて好きです。
 読者視点で人の心がわかると思っていた人外の方も、“経験から最適解を導き出していた”だけだったのが示唆的でいいですね。その部分に関しては人間も人外も変わらない。捕食のために勉強とかしてきたんだろうな……という微笑ましさがあります。
 人外との契約とか所々ホラー的に危険な行動を恋愛要素に組み込む手管に感心しました。結果的に、命が助かったのは契約のおかげなんですよね。それが、彼女の幸福なのかはともかく……。

3 僕は小説が書けない。/あきかん

謎の有袋類
 まずは期間内に規定の文字数を書き上げて完結させたことはすごいです。
 何回か読んだのですが、多分これは特定の実在人物へ宛てたものっぽいですね。
 ちょっとどこが擬態なのか作品内からは読み取れませんでした。すみません。
 小説に擬態した私信ということなのだとしたら、私信の部分が丸見えなのでもう一捻りをして物語性を増したりすると面白いかもしれないです。

謎のストクリス
 憧れの人物への思いを綴った私小説として読みました。小説を読むことすら苦痛に感じながらも半ば義務感のもとに物書きとして活動を続ける辛さ、そのなかで素晴らしい作品に出会い作者に抱いた憧れ、その作者が迷い悩んでいる事を知り伝えずにはいられなかった思い。身の内に渦巻く思いを冷静に見つめ、切り分け、よく整理した文章であるのにもかかわらず、そこに込められた熱量を容易に想像でき、静かながら迫力のある作品でした。
 一方で、当企画のテーマである「擬態」については読み取ることができませんでした。「作品そのものが私信に擬態している」というメタ的な試みだという可能性についても考慮しましたが、何度か読み返した結果、見た目通り私信として読むことが自然なように感じられます。
 さて。ここからは作品の内容から逸れてしまうのですが、もしもこの作品が特定の誰かに宛てた私信であるのならば、果たして当企画がその発表の場として適切であったかどうか作者さんには今一度考えていただきたいと思います。何かこの場で伝えるべき事情があったのかもしれません。これが最も良い手段だと判断するに足る材料があったのかもしれません。しかしながら少なくとも私は事情を汲むことはいたしません。擬態というテーマを各人がどのように解釈・表現するかを楽しみにしていた私の目に本作は、残念ながら企画自体を軽んじたものと映ります。
 先述したように、感情の熱量を失わせぬままに観察し整理し表現する技術は確かに感じられ、力のある作者さんなのだと思います。願わくば次は盤外戦ではなく、同じゲームの卓上でお会いできれば幸いです。

謎のイヌ亜科
 率直に、評価が難しいな、と思いました。
 講評時は本文のみを評価対象とするのですが、好意的に解釈するなら『小説に擬態したラブレター』になるのでしょうか。作品に描かれている感情は血が通っていて、切り分けると痛みが伴うような生身の表現はとても魅力的です。最後の「物語と付き合って生きていくしかない」がこの作品におけるフックで、諦念の中に潜む情熱がありありと感じ取れました。
 同時に、これはラブレターの受け取り主にのみ届けるべき作品なのではないか、とも考えるのです。この熱い想いを小説という形に乗せて色々な人に読まれると考えれば、ある程度の虚構で飾る必要があるのではないか、と。
 もちろん、それを行なってしまうと作品の形は意図しないものになってしまうかもしれません。ですので、せめて冒頭に『擬態』というテーマがどこに掛かるかを明記していただければ、作品そのもののテーマもわかりやすくなるのではないでしょうか?(メタ作品自体はとても面白い試みだと思います)

4 ひとのふり/大澤めぐみ

謎の有袋類
 最近雑技団から本を出していたりする大澤めぐみ先生!胃痛がキュンとする話をぶっこんできた…。
 もももさんが繰り出すどことなく幸の薄そうな顔がいい女の子…今回は救われるのかダメになるのかどっちだ…とハラハラしながら読みました。
 こわい。
 ムルムクスの時もそうだったんですが、もももさんのホラーとか怖い話は本当に人の嫌な部分と思い込み力の強いパーソンが悪魔合体して嫌なことを引き起こす…。
 山の中で錯乱する主人公と、現実と夢がわからなくなって感情の乱高下をさせてくるところは本当にめちゃくちゃ嫌で最高でした。
 最後のオチも、人間が抱えているであろう醜い感情が増幅した主人公が思い込みで勝手に彼女は不幸になったと言ってそうなので「うわあ」となりました。
 これを即日出してくるのも併せて良いホラーでした。

謎のストクリス
一文のなかで目まぐるしく焦点の変わるモノローグを効果的に使い、のっけからガツンと違和感をぶつけてくるのが良いですね。タグにホラーとあるのを見ないままに本文を読み始めたのですが「君は顔がかわいくて親切」がしつこいほどに繰り返される辺りで、ああこれは怖い話なのだと身構えさせられました。「これはこういうお話ですよ」を読み手の脳に差し込むのが巧みですね。そして最初に受けた違和感が不和として残るので語り手の一挙一動が悪いフラグに思えてしまい、嫌な緊張感が付きまといます。怪異を信じなかったり忠告を無視したりするのはホラーにおける定番フラグなのですが、それ以外の、例えば連絡先を交換する場面だったりが致命的な何かに繋がるのではと思えたりしました。
 連絡先と言えばそのシーンで「J-フォン」という現実の商標を出したのは作品を現実に寄せるためではなく、作中の時代を演出するための道具だったのですね。この部分を最初に読んだときは唐突な気がして違和感を覚えたのですが、最後まで読むとここで時代を演出しておく必要があったのだとわかりました。現実の商標や社名、芸能人名などを作中に出すと結構インパクトが強くて、狙った効果以外にも副作用を与えやすい劇薬だと個人的には思っています。扱いが難しいのですが、本作品では面白い使い方をしているなと思いました。
 さて冒頭から仄めかされていた不穏な空気に従い、語り手は怪異に囚われ永劫の苦痛を味わうこととなりますが、その中で昏い悦びを見出します。このシーンで全てが繋がるのですっきりしますね。何かがオカシイ語り手、強調された時代設定、サブタイトルの意味。これは上手いなあと思いました。ここまでは正体不明の不穏さを演出して、君だと思ったものが化物だったり助かったと思わせておいてそうでなかったり…と「わからない」が怖さの核だったんですよね。それが最後の最後で、語り手の悦びを「わかってゆく」ことが怖さの核に変わる、ああ、あれもこれも、そういうことだったのかという恐怖。やられたな、と唸りました。

謎のイヌ亜科
 川系企画にもしっかりと顔を出される大澤めぐみ先生の作品です。若者の青春作品に定評がある作家さんだと思っていたのですが、ホラーの質感も流石、の一言でした。
 中学生の主人公が引っ越した関西の田舎。僕の出身地が近いこともあって、存在しないはずの記憶を想起させてきました。裏山の風景、肌感覚で味わったことがある気がする。
 テーマが〈擬態〉とあって怪異との二転三転する認識の表現が印象強いのですが、個人的にはJフォンの小道具が作品を通してとても効果的でした。90年代末から2000年代にかけてが舞台かと思わせて、サブタイトルは現代の日付。この違和感が時代の流れとして提示される事で、主人公と“君”の止まった時間の長さを確かな実感として伝えてくる。流石だ……。
 擬態と諺ことわざを含んだタイトルも納得感があって、とても満足する作品でした。

5 義体探偵/狐

謎の有袋類
 サイバーパンク!義体!怪しげなスラム街とハッカー集団!
 狐さんが得意な世界観(だと思ってます)で殴り込んできたこの作品は、最初読んだときに「大丈夫?これ1万字で終わる?」と心配していたのですが、すごく綺麗にまとまって驚きました。
 擬態についても、義体を利用して成り代わるのかなーという理想を裏切ってくれたのが僕は大好きでした。
 いいよね義体がスタンダードになった世界で生身に執着する権力のある男。
 前回の奮迅パルスの時にも思ったのですが、1万字で凝った設定のものを出すと、RAT気味になってしまったり、設定の説明中心になってしまいそうなのにそう感じないところは狐さんの強みの一つだと思います。
 骨子はそのままに肉付けをたくさん出来そうなので、この作品を中編とか長編にしても面白いものが出来そうだなと思いました。
 かつてのパートナーを失って引きずり続ける主人公はいいぞ…。

謎のイヌ亜科
 別に義体と擬態をかけたわけではないです

謎のストクリス
 文字数に比しての物語の重厚さに驚かされ、それはバランス感覚に起因するのかなと思いました。現実とは大きく異なる世界を描くとき、説明不足では読者を置いてけぼりにしてしまうし説明過多では胸焼けさせてしまいがちですが、本作はその塩梅が上手いと感じました。架空地名や社名、ポータルや都市迷彩といった言葉で異郷感を演出する一方で、貨幣の単位に独自のものを充てず伏せることでくどくなりすぎないように調整しているのは意図的なのでしょう。また情報屋とのアングラ感溢れるやり取りや「時代遅れの合金義手」という表現が、この世界で生きている人々は確かにここで生きてきた血肉のある存在なのだとしっかり思わせてくれます。私自身はサイバーパンクな世界観にある程度親しみをもっているのですが、本作が初サイバーパンクという人でも「こういう世界なんだ」とすんなり受け入れられる作りになっているんじゃないでしょうか。
 一点申し上げるならば、納得感のある結末ではあったのですが、前半の重厚感に比べて後半はやや駆け足かなという印象を受けました。セキュリティの突破と仇敵との対峙はクライマックスポイントですが敵側が大した抵抗もできずに倒されてしまうので、どうにも敵が強大で突破困難だという印象が薄く感じます。あるいは主人公がそれだけ準備をしてきた結果なのかもしれませんが、であれば敵の防衛を潜り抜けることが如何に困難であるかをもっと強調したほうが良かったように思います。
 とはいえ終盤は仇敵の目的の意外さや、それによって引き立つ残忍さ、「擬態」というテーマへの回答、武力で制圧するのではなく自滅を誘う決着のつけ方が物語として濃厚で、美味しく味わいました。
 世界やそこで暮らす人々の在りようがとてもしっかり作りこまれているので、同じ舞台で続編やスピンオフ(というより群像劇的な別作品?)を読んでみたくなる作品でした。

6 #折合 /海野しぃる

謎の有袋類
 擬態する宇宙からきた生物だ!めちゃくちゃ便利だなと思うんですけど、確かに自分の意識を読み取れたり記憶をいじれたりする宇宙生物怖いですね。
 知能を宿して欲しくない。
 掴みからすんなりと謎の不定形の生き物が擬態をするという説明をする親切設計はさすがプロだな…というテクニカルさを感じました。
 アレな親御さん、ショタコンの主人公、宇宙から来た謎生物、全裸中年男性…全裸中年男性だけインパクトでごり押ししようとした痕跡が見えるので、もう一捻りか二捻りした異常さのヤバな人でもよかったかもしれない…。
 でも講評っぽいことを言おうとしてひねり出したことなので、そもそも完成度がめちゃくちゃ高いです。なんだよ全裸中年男性って笑ってしまいつつ、ユーゴと同じ生物がいることの恐怖を考えさせられるというか…。
 全裸中年男性が狂うことで、ユーゴと同じ生物の危険性や恐怖を伝えてくるのもすごく構成がきれいですね。
 こっそり破壊されていくであろう日常と、これから起こるであろう混乱を主人公が達観して見ているのがしぃるさんっぽい。いいよねニヒルな女主人公。

謎のストクリス
 共同生活を営む異形と女性のお話。自由に姿を変えたり記憶を改変したりと人間に負けることは無さそうな異形ですが、それでも人目を忍んで生きる理由も作中で描かれており納得できます。納得させちゃうの凄いです。人が彼らを恐れるように、彼らもまた人を恐れる。我らと彼らが折り合いをつけて共存する世というのは、ある意味で我々の世界の滅びなのかも…と考えてから「なんだっていい」とビールを開ける、この「彼らと我ら」から「君と私」に思考が遷移するところがとても好きです。
 さて「君と私」の物語として読めば幸せで柔らかなこの作品、「彼らと我ら」が提示されたことで、カナエとユーゴには見えないところで起こっている(かもしれない)無数の「君と私」達の悲喜劇に想像が及びます。及ばせてしまいます。知らない方がよい、考えない方が良いところまで及ばせてしまった成れの果て、そのひとつの結末が全裸中年男性なのでしょうね。想像を止めたカナエと狂気に落ちた全裸中年男性、読み手たる我々はどちらに座すことになるのでしょう。
 ところで「ショタ」や「全裸中年男性」は私の中では良く言えばキャッチーな、悪く言えば軽薄な言葉で、他の文からは浮いて見えました。おそらくこれは意図的なもので、そのギャップで(特に全裸中年男性の)インパクトを強める狙いがあったのだと推察しますが、私にとってはノイズに感じられました。いやしかし、言葉とは知らぬ間に産み出されたり市民権を得たりするものですから、また数か月置いて同作を読んだとき、私がどんな感想を抱くかはわかりません。

謎のイヌ亜科
 クトゥルフ神話作品でお馴染みのしぃるさんの作品です。僕自身クトゥルフ神話に関しては知識が浅いのですが、芦花公園ホラー賞の『#山霊』と同一世界観なのでしょうか?
 ユーゴくん、めちゃくちゃ可愛くて良いですね……。愛玩動物にもショタにも理想の恋人にも擬態できる、人間にとって都合が良すぎる存在。人間社会に浸透したら、人間という種自体が滅びかねない存在ですね。子孫が必要なくなるもんな……。
 いずれ滅ぶであろう世界をどことなく理解した上で突き放す主人公も魅力的ですね。既に彼女は狂っているのかもしれないし、世界は徐々に歪んでいくのかもしれない。それでも、彼女にとっては幸福な生活なんだ……。
 どことなく沙耶の唄みを感じたのですが、その中で燦然と輝く全裸中年男性のインパクトが凄まじい。シリアスな笑いってこういう事!? 狂気に浸った人間の描写として四段飛ばしくらいしてると思うんですけど、その突飛さが若干のKUSOスピリットを感じて好きですね。川の系譜だ!!


7 ありふれた諍いの記録/瀬戸之蝙蝠

謎の有袋類
 初参加の方かな?参加ありがとうございます。
 事件の調書を作るための聞き込みのお話。
 地の文章が、主人公の口から発せられた言葉で、刑事さんとの会話を中心としてお話が進む作品です。
 同居した姑を殺害してしまった明日香さんが、殺害動機を話していくというお話で、じわじわと嫌な感じや、明日香さんのちょっとした認識や行動の「ズレ」が気持ち悪くて読者を不安にさせていくホラーに近い感覚の作品だなと思いました。
 字数に余裕もあるので、キャプションに書いてあることを1話にしてしまった方が親切かもしれないなーと思いました(自主企画概要に「キャプション等をじっくり読まないと内容が分からないものは控えましょう」と書いたのでそれを基準として書いています)
 何度か読み直してもわからなくて、僕が読み取れないだけだと思うのですが「擬態」の部分がちょっとわからなかったです。
 明日香さんにとって、佳乃さんが虫に思えて仕方ないというのがお題回収部分…でいいんでしょうか?
 作者が書いてあることというのは思ったよりも、読者に伝わらないものなので親切すぎるかな?くらい情報を開示してあげた方が伝えたいものを伝え易くなると思います。
 主人公である明日香さんの狂気や、取り調べに対しては素直に見える部分などのギャップが怖さと不気味さを引き立たせる魅力的で気味が悪いキャラクターになっていて、とてもよかったです。

謎のストクリス
 殺人を犯した女性の述懐の形でつづられる、その心境のお話でした。
 リアルな話だな、というのが一番の感想です。というよりリアルに見えるようにすごく手を込めているのですね。女性の口調や、語りながら連想が広がる様子、その連想を断片的に言葉に出すので話が繋がらない様子など、容易に脳内で映像が再現されました。また調書を取る警察のセリフはお話のリズムを整える役目を担いますが、単なる拍子役に留まらず、例えば「マスクやゴーグルはどうやって入手したのか」という質問(計画性の有無を探ろうとしているのですよね、これ)などでこちらも細かくリアリティを演出してきます。殺害に至るきっかけが「手袋とマスク、ゴーグルがあったから」だというのも突飛なようで、実際の殺人も引き金はそんなものだったりするのかなと思ってしまいます。積み重ねてきたリアリティがそう思わせます。
 テーマである「擬態」については、私基準では弱いと思ってしまいます。私は今回の擬態というテーマに対して「生存のための姿である」「他者を欺く姿である」が要件になると考えています。本作において明日香さんが手に入れた姿は、前者のみを満たすものだというのが私の判断です。とはいえお話の作り的に「汚物に触れなくて良い姿を手に入れた」以外の要素を足すとノイズになってしまうのは悩ましいところですね。その一点が殺害動機であることがこのお話の最も面白いところですから。
 ところで作品の紹介部分に事件の概要がニュース記事風に書かれていますが、こちらは企画のルール上、講評において評価対象とできません。私も一読目は先入観を得ないために読まずに本編に入りました。そうしていざ読んでみて、これは本文中にあった方が良いと強く思いました。記事から受ける印象と述懐を聞いた印象のギャップ、単なる情報だったものが血の通う記憶に変わる体験。もちろんそれを狙って書かれたのだと思いますが、やはり冒頭にあの記事が作品の一部としてあった方がずっと引き締まると思います。

謎のイヌ亜科
 とある殺人事件の顛末と、その供述調書からなるお話です。
 嫁姑の諍いは色々な場所でよく聞く話ですが、一線を超えてしまう理由は案外呆気なかったりするんだな、と感じました。小言も、ハーゲンダッツも、側から聞けば「そんなことで……」となる問題こそが当人たちにとっての深刻な積み重ねだったりするんだろうな、と。
 マスクとゴーグル、ゴム手袋で擬態し、虫を殺すように姑を殺した明日香さんを見て、カフカの『変身』を連想しました。ただ“虫”という比喩の話だけでなく、家族間の無情さや残酷さのような部分が悲劇に結びつく部分が特に近い気がします。
 姑の命を絶ったことではなく、虫を殺して汚れてしまったことを後悔している明日香さん、怖いよ……。

8 食い違う二人と独り/瀬戸之蝙蝠

謎の有袋類
 ありふれた諍いの記録の作者さん。二連続で進捗のスピードがすごいですね。
 今回は大学を舞台にしたお話のホラー作品。
 とある事件を境に比喩ではなく物理的に会わなくなってしまった友人たちに久々に主人公が声をかけられるところから始まるこのお話は、謎が多いまま終わるのですが、そこがホラーという感じで良い雰囲気ですね。
 擬態に関しては、彩乃さんが人間に擬態している何かで、真相に気が付きそうになった主人公を牽制するために姿を現したということですよね。
 内容もお題回収もすごく面白かったです。
 あえて何か言うとすれば、大学の廊下で人が話しているだけの部分と回想だけで終わってしまっていて、主人公が行動する部分が描かれていないという部分です。
 文字数にかなり余裕があるので、大学で大樹と颯太を探している場面なんかを入れてみると、もっと緊張感があったり最後の彩乃さんの不気味さなり異様さが際立つかもしれないなと思いました。
 個人的に、彩乃さんの登場のさせ方というか、元凶にパッと彩乃さんを出したのはすごく好きです。
>今朝見た新聞記事の影響だろうが という前半に張った伏線の回収の仕方が気持ちよかったです。
 授業の流れを書かないで、開幕で新聞記事について書いてもよかったかも?と思うのですが、ここは好みの問題が大きそう。
 不気味で最後にゾワッとする面白い作品でした。

謎のストクリス
 『ありふれた諍いの記録』と同じ作者さんですね。あちらの講評にも書いたのですが、登場人物の思考の脈絡やセリフ選びのリアリティが凄い。リアリティと書きましたが、現実的だというよりも説得力があると言うべきでしょうね。狼狽しつつ探りを入れる語り手とおそらくは認識を狂わされて何も不自然を感じない友人との会話のズレは、実際にこんな風になるのだろうなと納得させる力があります。
 「三人」の内訳があちらとこちらで異なっているのが分かる瞬間、良いですね。それまで散りばめられていた謎、この語り手は何をそんなに怯えているのだろうという疑問がここからスルスルと解け始めます。その心地よさに絡みつくように、語り手の恐怖の対象が姿を見せ始める。実に私好みの作りです。
 さて登場した怪異は、見た目のみならずヒトの認識までもを欺いて長きに渡り生きてきたであろう「何か」。その正体は分からぬまでも悪意はハッキリと突き付けられます。ここでの警告が「気付くな」だったのはちょっと面白いですね。「喋るな」「構うな」「関わるな」ではなく「気付くな」。怪異の片鱗に気付いた語り手(と我々読み手)ですがまだ肝心なことには気付いていない、ここで引き返せという警句でしょうか。それともこれは警告などではなく精神干渉で、通常の人間ならば文字通り何にも気づかなくなってしまうところを、何故か語り手だけは耐性があった…のような裏設定があったりするのでしょうか。妄想が広がります。
 怪異の登場するお話はどこまで謎を明かすかという匙加減が難しく、モヤモヤとスッキリのどちらも行き過ぎれば恐怖を薄めてしまうという厄介なものです。本作においてはこのバランス、とてもうまく取れていると思います。

謎のイヌ亜科
 大学デビューを機に、垢抜けて変わっていった幼馴染みの話。
 全体を通して得体の知れなさが不穏にちらついていて、少し暗い大学構内を連想しました。
 幼馴染みが一人消え、その彼女は何事もなかったかのように垢抜けた幼馴染みの恋人として居座っている。これだけでもホラー度が高いのですが、その顔と名前が数年前に失踪した女性の物であるという部分で得体の知れなさが最高潮になります。恐らく、今の彼女は何かが擬態した存在だということですね……。
 欲を言えば、字数に余裕があるので続きが読みたいです。ホラー的に正体が明かされるのは野暮かもしれませんが、もう少し情報があれば話に広がりが生まれるのではないでしょうか。

9 みんなとはここが集合場所/村上春樹

謎の有袋類
 いつもの怪文書です。
 どこら辺が擬態なのかはちょっと拾えませんでした。
 字数のレギュレーションは守れているので、正気が0ではなさそう。病状は進んでいます。

謎のストクリス
 なんというか、非常に口語的な作品です。文というよりも「語り」、読んでいるというよりも聞いているような感覚を覚えました。
 冒頭の会話シーケンスを除けば物語の大筋は合コンでしょうか。全編を通して一文がとにかく長い上に連想ゲームのように話の脱線が多発するのですが、意外にも読みづらさを感じさせないのはリズムの良さによるものでしょう。また連想部分もどうしてそっちに話が飛ぶのかが案外納得しやすく、一見の印象とは裏腹に呑み込みやすい作品です。誘われて参加した会合の場に魅力的な女性はおらず酷い目に遭い、最後は鮮やかに逃げだす…と書いてしまえばそれだけのお話なのですが、豊富な語彙と比喩表現の奔流に乗せてボリュームたっぷりに描いています。
 …と、エンターテインメントとしては楽しめるのですが、物語としての薄さはどうしても感じてしまいます。またテーマである「擬態」に関しては申し訳ありませんが読み取ることができませんでした。

謎のイヌ亜科

 村上春樹……村上春樹!? 川系大賞でものすごく似た作風の人を見たことがあるのですが、たぶん別人なんでしょう。竹内力とRIKIくらいには違うはず。
 怪文書か小説かでいえば怪文書寄りのこの作品、僕はかなり好みの文章なんですよね。表現が上手くて絶妙に読ませる怪文書、深夜ラジオの名物ハガキ職人みたいな空気感がある。ブログとか開いていただければ読むと思います。
 ただ、それはそれとして擬態要素はどこ……? モルポル……?

10 郷に入っては/芦花公園

謎の有袋類
 ホラーといえばこの人!となってきた芦花公園さんです。
 東京から京都にやってきた主人公が、わけのわからない怪文書を張られるところからスタートする怖い話です。
 友達たちが人間に擬態したなんらかの存在ということですよね?多分。
 大家さんが怪しいとミスリードを誘う部分や、冒頭にあった社寺巡りを最後に原因として持ってくる手法、怪文書のそれっぽさや、須佐も波利子の挙動パターンといいハイクオリティな怖い話でした。
 須佐が須佐之男命はわかったのですが、波利子がわからなくて調べたのですが元ネタは波利賽女なんですね。ハリが水晶を語源にしたかもとか、元々は疫病を振りまく神とか不穏な感じだ…。
 元ネタやルールが詳しい人にはわかるんだろうけど、わからなくても怖くて嫌になるというのは本当にすごいと思います。
 あの黒い女とか張り紙の意味とか、猫を助けたのがなんでダメだったのかとかお守りは本当に役に立ってたのかとかちょっとわからないまま終わるのですが、これはホラー的にはわからないで終わるのが正解っぽい(全部解明するぞ!となると現代ファンタジーになりそう)。
 あと、人外好きのツボだったところなのですが、須佐も波利子の人間には理解できないなんらかのルールに沿って動く存在がめちゃくちゃ最高でした。

謎のストクリス
 私がよく書くことですが、怪異譚は謎の明かし具合が難しいと思っています。あまりにも意味不明だと感情が恐怖まで辿り着かず悶々とする一方で、全て明らかになると興醒めしてしまうこともしばしば。その点、本作はお見事でした。何もわからぬまま理不尽にいたぶられる中盤までの怖さ、理由が見えてくると同時に差し込まれるのは悪意の怖さ。そしてそんな悪意を向けられたのは語り手が特別だったからというわけではなく、私も誰も彼も容易に、私達からすれば理不尽に、彼らからすれば当然に、罰を受けることになるという怖さ。スムーズに恐怖をリレーして、嫌な緊張感をべったりとこびりつかせたまま幕を下ろします。
 神霊との人との距離感というか、彼らが人をどのように扱うかという感覚の描き方もとても私好みです。助けてくれた須佐にしても、人に喩えるなら「芋虫を小突いて嬲る同僚を見ていてあまり良くは思わない」程度のものだったのだろうし、語り手の危惧する通りいつでも何度でも助けてもらえるものでもないのでしょう。須佐と波利子の言動から垣間見えるそうした価値観が、先述の恐ろしさを加速させます。
 と、ここまで長々と書いてきたようなことを最低限の描写で伝えてしまうのも本作の魅力です。講評のために読み返してみて、こんなに短かったのかと驚きました。あんなに戸惑い緊張していたのにと振り返るのはまさに怪異に巻き込まれた語り手が「今のは夢だったのか」と振り返るような心境でした。どのように怖がらせたいかをしっかりと意識し、効果的な言葉を効果的な順番で嵌め込み組み上げた結果なのだと思います。
 さて良質なホラーとして私はこの作品を高く評価したいのですが「擬態」というテーマに関しては解釈が異なります。これはあくまで私の感覚ですが、擬態とは「他者を欺く姿である」と同時に「生存のための姿である」と考えています。本作では人の姿で現れる須佐と波利子が擬態の主になると思いますが、何せ神霊ゆえその姿は生存のためのものとは思えません。波利子は近くで人をいたぶるため、須佐はそれが過剰なら止めるためにその姿を取ったのでしょうが、結局のところ語り手が死のうが生きようが、彼らに大した影響は無いわけです。先述したようにそうした神霊との感覚の乖離こそが本作の魅力でもあるわけなのですが。

謎のイヌ亜科
 京都にまつわるとあるルールの話。芦花公園さんお得意の湿度の高いホラーです。
 パプリックイメージとしての京都人は陰湿だとインターネット上で言われて久しいですが、それを怪異や神々の盟約に落とし込むとこうなるんだな……と感じました。
 八王子と粽、祇園祭にまつわる単語なんですね。蛇にまつわる神様も芦花公園さんの作品的には結構不穏な要素なんですけど、波利子も波利賽女からくるとは思いませんでした。クッションを突き刺していたから針子かと思った……。波利子も須佐も神々の擬態というわけですね。 

11 魔の者たちの臥薪嘗胆――都を追われた魔族が転生勇者に復讐するまで/武州の念者

謎の有袋類
 異世界ファンタジーで転生ものだ!どことなく大陸の方を思わせる世界観の描写に武州さんらしさを感じる作品です。
 この内容とボリュームで1万字ピッタリ!4話辺りでどうやって話を締めるんだろうとハラハラしましたが、投げっぱなしジャーマンではないラストにするのは流石文章を書き慣れている人の手腕…となりました。
 圧縮するところと書き込むところの取捨選択がすごく上手いのと、文章自体がわかりやすくて読みやすいのと、時代小説を思わせる硬い文体で地の文が続いていても違和感がないというのも強かったのかもしれないです。
 擬態要素は、影武者をするという点でいいんですよね?
 影武者、確かにそういう解釈が出来て面白いなと思いました。
 そして、武州さんといえば美少年。魔力が大きいほど若い見た目になるという設定をお出ししてからの美少年博覧会。
 様々な美少年が一人は王と一族のために散り、その仇討ちのために美少年たちが結束して中年性欲狂いおじさんと戦うというシチュエーションすごく好きです。
 個人的にはユウシンくんが推しです。
 しいていうなら、ラストの見せ場になりそうな転生勇者との戦いが、文字数のせいもあってあっさり終わってしまった部分だけがもったいないなーと思いました。推しであるユウシンくんの活躍を見たかった…。
 美少年を描く力と、大陸的な文化の描写という武器を活かした面白い異世界ファンタジーでした。

謎のストクリス
 剣と魔法の世界を舞台に、勇者に蹂躙される魔物の視点で戦役を描いたファンタジーです。ここまでは珍しいものではありませんが、オリエンタルな舞台や「力が強大な程に見た目は若く固定される」といった設定に個性が光ります。特に後者の設定は後の展開で登場する老いた勇者とも好対照となっていて、一種の伏線とみることもできそうです。数十年スケールの計画や情勢や戦局の解説描写は伝奇小説を思わせ、短編ながら満足感がありました。最後の戦いにおいての勝因も、変に奇を衒ったものではなくシンプルな兵糧作戦や物量作戦であったり内政の腐敗であったりと説得力があり、やはり伝奇小説を読んでいるように感じました。登場人物の会話描写、特に冒頭の影武者と主人公との以心伝心の会話シーンなどを読むに、おそらく作者さんの中で書きたい要素(伝奇風、美少年、その絆)が確立されていて、それ以外の部分を既存フォーマット(異世界ファンタジー、転生もの)で補完する形で創作したのかなと予想します。
 さて最終章において魔族軍は見事雪辱を果たしますが、その勝因は傀儡兵による物量作戦と、勇者アルスの暴政による国力低下でした。傀儡兵の用意についてはその過程が本編で描かれていますし、勇者パーティの堕落と壊滅についても第一話の描写―――決死の覚悟で滅びゆく国に殉じる影武者ギゼンと半ば遊び気分で暴虐を奮う勇者一行との強烈な対比により強調された勇者一行の軽薄さ―――が、後に仲間割れを起こし暴政を敷くこと、ひいては最終的な魔族勝利の遠因となることに十分な説得力を与えています。
 ひとつ残念なのが、実際のところ勇者の堕落に魔軍が如何ほど関与したかが物語中の描写からは窺えないところです。そのため何というか、運良く勇者たちが自滅してくれたようにも見えてしまうのです。もしかすると「人間に成りすまして密かに暗躍していた密偵」が内政攪乱の役を担ったのかもしれませんが、それ以上の描写が無いため憶測の域を出ません。大魔皇帝が密偵を用いて勇者たちの仲間割れや内政の腐敗を扇動した、あるいは対峙したとき既に勇者アルスが長きにわたり国を治められる器ではないと見抜いていた…といった描写があれば、終章の展開により強く感動できたのではないかと惜しく思ってしまいます。

謎のイヌ亜科
 美少年、中国古典、架空戦記。武州の念者さんの作品における黄金パターンだと勝手ながら思っているのですが、今回も遺憾なく発揮されました。
 異世界転生の舞台としてヨーロッパ風世界ではなく中華世界を選ばれた時点で感嘆したのですが、一騎当千の兵としての転生者が内政を蔑ろにした結果再び国を滅ぼす顛末であるとか、色欲のままにハーレムを作ることで暴君と化していく姿などは史実にありそうな空気感で語られるので納得感が段違いでした。無双するチート兵を人海戦術で倒すのも予想を裏切っていくスタイルで好みです。戦いは数だよ兄貴!
 また、タイプの違う美少年魔族5兄弟を中心とした美少年の大渋滞は熱量が高く、どれも個性的なビジュアルでありながら美少年力も高いという贅沢仕様です。影武者になった忠臣もいいよね……。
 ただ、肝心の擬態要素が影武者と草木に化けた傀儡兵でノルマ的に消費された部分が気になりました。どちらもストーリーには重要な要素なんですけど……。

12 人喰いの子/Veilchen(悠井すみれ)

謎の有袋類
 5億点!!!!!
 ひ弱な見た目を活かして狩りをする人食いの少女。同類たちからも嗤われる彼女は、人を見た目で油断させて食べて生きていくしかなかった…。
 そんな導入から入るお話で、彼女の母は、城で人間に傅かれて生きていたことや、人喰いと呼ばれて殺されたりと悲惨な過去も明かされます。
 最初は魔王的な感じかなーと思っていたのですが、そうではなかった…。
 情報開示の仕方が本当に巧みで、人喰いという存在は化けるのが得意なことや、体には鉤爪を生やすことが出来るということが本物の人喰いと出会ってから明かされます。
 女に扮していた人喰いに触れられたとき、少女が「心臓が痛みを伴って早く打つのは怖い時だ」と思った部分がすごい大好きです。そうではない場合を知らない少女というのをこれだけで表してくるのは本当にテクニカル!と唸るしかない。
 すみれさんが、主催狙い撃ちを宣言していただけあって、人喰いの本来の姿が黒髪長髪で少し荒い口調の美形という剛速球のストレートで僕の心臓は撃ち抜かれました…。
 段々と拾った子供に愛着を持ち始めて、言い訳をして世話をして、妻と夫にならないか?というけど、拾われた子供はまだはっきりと気付いていない…最高すぎますね。
 良い擬態で良い異類婚礼譚でした。二人でどこまでも駆けていって欲しい…。

謎のストクリス
「擬態」というテーマへの回答が私にとってストライクです。私の考える擬態とは、生きるために他者を欺く姿を取ること。か弱い少女に化けて獲物を誘い出すのも擬態なら、恐ろしい怪物のフリをして外敵を遠ざけるのも擬態。性質の異なる二つの擬態を描きながら、その遷移を物語の核の一つとした構成は見事というほかありません。そこから描かれる、少女が人喰いであろうとした背景が「母を殺した人間と同じ生き物でないなら良い。この綺麗な人喰いと、同じ呼び名で括られることができたら良い」へとスムーズに繋がり、それまでは脅威であったはずの人喰いと共に生きる道を選ぶことへの説得力を産んでいます。このあたり非常に丁寧に描かれているなと感じました。
 反面、人喰いの男の側が本来獲物であったはずの少女を、愛するにまで至る心境の変化は今一つ読み取れませんでした。いや、この書き方は正確ではありません。実は私自身が「人外存在が人を気に入って共に暮らし、次第に信頼を育む」という形の物語に慣れてしまっていて、最初に読んだときはそれらのバックグラウンドから人喰いが少女を愛するに至る経緯を勝手に補完してしまったのですよね。なので初読時に違和感は覚えなかったのですが、講評をつけようと分析的に考えてみてはじめて、上述のような物語のフォーマットを備えない人にはどう映るだろう、不自然な展開に見えないだろうかと気になったのです。
 ただこれは瑕疵というわけではなく、敢えてそうしているのだろうと思えます。フォーマットを備えた人をターゲットとして想定し、その想像力を刺激して(描いていない部分にまで)作中世界に奥行きを与えることを狙ったのかなと。読み返してみればこの作品は、時代設定も登場人物の名前も明示されてはおらず(「領主様を惑わせた魔女」や「剣」という単語から欧州の雰囲気を感じますが)たとえば中世ヨーロッパ、たとえば戦国時代の日本、たとえば南アジアの王国…に舞台を移そうと物語として成り立つわけです。つまり、そうした部分を読者に委ねている。大事なのは少女の身の上と心境、そして彼女が救われることであり、この作品はそこに焦点を定めていると読めます。
 テーマを物語の核たる少女の心に強く紐づけ、丁寧に描く部分と読者に委ねる部分を選り分け、それでいて全体をしっかりまとめた、短編のお手本のような作品だと思います。

謎のイヌ亜科
 人喰いに擬態した少女と、人間に擬態した人喰いの話。
 悠井さんといえば第一回こむら川の『彼女は踊った』の印象が強いのですが、この作品も負けず劣らずのパワーがありました。加点式の採点だと5億点です。
 サバイブするための戦略として、或いは母親を殺した人間と自らを区別するために『人喰い』を行う少女のキャラクターが強くて、倫理観や忌避感を置き去りにしてもなお生きると決めた悲壮な覚悟が素晴らしいのですが、そこに救いとして差し込まれる『人喰い』の存在がこれほどまでに尊いものだとは。保護者であり、夫であり、狩りの相棒であり……。擬似家族としても、異類婚姻譚としても、バディとしても理想的な関係なんですよね。
 今後の寿命差から考えると、恐らく少女の方が先に逝ってしまうと思うのですが、その時に『人喰い』はどうするんでしょうか。想像力が膨らむ、良い話でした。

13 もどき/千石京二

謎の有袋類
 開幕からヤバい男がフルスロットルでクズな行為をしてヘイトを稼ぎにくるホラーいいですね。
 職業を偽り、ある種の擬態をして女の人をだまして、お金と体を貪っているところに獲物が現れます。
 最初の文章だけで「おっ」と思うのは作者の千石さんがそういう方を研究した結果なのか、僕がそういう人を見るのが好きだからなのか…。違和感の埋め込み方がすごくよかったです。
 見るからにヤバい女の話し方、格好ときて、行動もヤバい。そして部屋に付くと匂いもヤバいというヤバさを畳みかけることによってクズな主人公も流石に焦り始めます。
 チラッと見せられたお金をなんとか奪おうとする小物感がすごくいい感じに最後の読後感の妙なすっきりさに繋がってますね。
 後半はいきなり宇宙人が登場して少しだけ驚きました。なんとなくスピーシーズを思わせるようなラストで、背中で子供を孵化させる蛙が思い浮かぶような迫力のある描写は印象に残ります。
 宇宙人のラストだけ、すごい好みが分かれそうだなと思いました。これは僕の好みなので話半分で聞いて貰って大丈夫なのですが、正体を説明されないまま体に卵を植え付けられるだけでも怖くて気持ち悪くてよかったんじゃないかなーとも思います。
 ちょっとだけ「サクラがほぼいない喰えるマッチングサイト…そもそもこれが宇宙人が作った罠なのでは?」と思いましたが、考えすぎかもしれません。
 男が擬態しているところに、更にヤバい擬態した生物が狩りをしにくる素敵な弱肉強食ホラーでした。

謎のストクリス
 酷い目に遭って欲しい奴が酷い目に遭う、期待に応えた物語です。報いを受けるために設計された主人公は読者に嫌悪感や侮蔑感を与えることを要求されますが、ここが非常に上手い。食い物にしてきた女性への態度もそうですが、個人的には怪しいと思いつつも(二度も!)100万円に釣られて機を逃がすケンヤの小物臭さ、ここに唸りました。
 タイトルと「かわいいあかちゃんがたくさんほしい」から、きっと最後は苗床にされるという予想は立てることができました。そう予想させた上で「けんこうですか?」という質問や冷たい肌、(沢山の卵を産む)魚を連想させる描写など、どんどん悪い予想を補強してゆくのが良いですね。悪い事が起こるとわかっている深みへとじわじわ沈まされてゆきます。あさみは人の常識を知らないように見える一方で、「恋はもうもく」などと言ったり「ひっこしてきたばかりなんです」と釈明を入れたりお金で釣ったりと、全くの無知でもない(ただしそれがズレている)様子が不気味です。半端に人、という感じが怖いですね。
 ここからは好みの範疇かなと思うのですが、種明かしパートで「苗床」というワードは出さない方が不気味かなと私は思いました。この文脈で苗床とはつまり、ただただ生殖のための土台という意味に取れます。…と考えるとあさみの「だいすき、あいしている」が「人として愛しているとでも思ったか、お前はただの土台だ」と皮肉を言っているように聞こえてしまうのです。しかしこの化物は騙された人間を皮肉で貶めるタイプではなく、生態として必要だから人を襲うタイプであるように思います。そのギャップがやや座りが悪いように感じました。
 もしかするとこれまで女性を食い物にしてきたケンヤへの意趣返しという意味で敢えて皮肉に見せたのかもしれませんが、ただただ「だいすき、あいしてる」とだけ言っていたほうがより自然で、より不気味だったのではないかなあと思います。

謎のイヌ亜科
 虚飾で女性を騙す男と、苗床を探しにきた人外の話。
 千石さんも川系企画常連の方ですね。色々なジャンルに強いオールラウンダーの方という印象が強いのですが、今回の作品は新機軸を感じました。
 マッチングアプリをきっかけとして組み込むのが『擬態』テーマとして示唆的でした。マッチングアプリと人外、かなり相性の良い組み合わせなんですよね。あさみさん、擬態のために人間社会めっちゃ勉強したんだろうな……。
 犠牲者枠である主人公の狡猾さとか虚飾に慣れてる感じとかが終盤で退行していく恐怖はまさしくホラーなのですが、同時にクズだった主人公への制裁として機能しているのは計算された物なのでしょうか? ヘイトコントロールとしては適しているのですが、理不尽さが因果応報で上書きされていると感じました。

14 第4惑星の生存/帆多 丁

謎の有袋類
 川バージンを捧げてくれた帆多 丁さん!参加ありがとうございます。
 惑星に擬態した生物のお話。
 第4惑星に住む知的生命体が謎の惑星らしきものを発見、観察と研究をしていく過程を描いた作品です。
 惑星のお話なので年月の規模がすごい。
 星を食べる惑星のような生命体は、繁殖行動をして、さらにその手を第4惑星に伸ばします。
 いよいよ母星が食べられる…そうなったときに、母星だったものが実はその生命体の天敵だった…という展開はすごい静かな描写なのですが迫力がありましたね。
 急な変化で惑星上の知的生命体は死ぬんですが、たまたま第4惑星に知的生命体が繁殖してしまった悲劇…でも第4惑星だったもの的には多分気にすることでもない背中に生えていた苔的なものなんだろうな…という淡々とした描写が素敵でした。
 講評には関係ないのですが、タグの「πλανήτης」が気になって調べたらギリシャ語なんですね?おしゃれタグが似合う文芸作品!というような深夜や朝方にぴったりな作品でした。

謎のストクリス
 小説は一文目がとても大事だと思っていますが、その点本作は素晴らしいと思います。端的で言葉のリズムが良く、スケールの大きさに度肝を抜かれ、何よりここから始まる物語にグッと興味を抱かせます。ワクワクする導入、パーフェクト。
 たった一行で説明される第四惑星の数十億年に、存在としてではなく現象として認識される謎の球体。冒頭で示されたスケールの大きさは失速することなく、しかし熱くなりすぎるなることもなく、淡々と物語は展開してゆきます。このバランス感覚も凄い。どこか距離を置いた、研究者の随想のような語り口は意識してやっているのでしょう。美しく、作品世界によくマッチしています。
 やがて謎の球体が生物である可能性、そして第四惑星が獲物とされていることが判明します。文字通り天体規模の星喰いなど我々の知る生物の概念とは大きくかけ離れたもの(それを生み出したアイディア力も凄い)ですが、第9惑星の顛末を先に見たことで説得力が生まれます。冒頭からずっとスケールの大きさを維持してきたからこその説得力でしょう。
 そして本作の最大の魅力はそのオチですが、オチに至るまでの導入もまた素晴らしい。迫りくる球体の脅威が第四惑星に向けられ、惑星上に住まう生命たちは混乱と恐怖に呑まれ抗い決断し…と話が進むので、私は「彼らがどう生き残るのか」に焦点を当てて様々な展開を予想し、期待しました。宇宙規模の大きなスケールから惑星規模の小さなスケールに移行するのに合わせて、そう誘導されました。ええ、誘導です。やられました。「そして何より生物らしい特徴として、この球体には天敵が存在した」の一文を読んでなお、ロケットで飛び出した者達か、惑星に残された者たちの何らかの営みが事態を動かすものだと思っていました。
 まさかそう来るとは。完全にやられました。予想外にもほどがあります。天体規模の生命という重大なヒントを与えてなお、惑星上の営為にフォーカスをずらすことで第四惑星の正体を気取らせず、一度小さく絞ったスケールを再び大きく戻して勢いそのままに終幕。見事。
 また擬態というテーマに関しても、その生存のために他を偽る第四惑星の在り様は私のテーマ解釈と完全に一致します。文体の美しさと統一感、発想の意外さ、展開の読めなさ、説得力、テーマへの回答、タイトルのセンス。全てが高水準で調和しています。個人的にイチオシの作品でした。

謎のイヌ亜科
 惑星は一つの生命が擬態した姿だった、という話。
 淡々と語られるスケールの大きい描写が独特の空気感を醸し出しています。3400字とは思えない……。
 物語はものすごくマクロな世界観なんですが、その中でのミクロな知的生命体の狂騒みたいな部分も描かれていて隙がない。知的生命体にとっては災難な出来事が惑星にとっては生存行動の一つである、みたいな部分が肝ですね。ガイア理論を感じます。
 『星がでたらめに踊る円舞台』という、それまでの淡々とした文体から一転して現れた詩的なワードが美しい……。静謐な中の美を感じました。

15 魔法使い偽シンデレラ爆誕 またはシンデレラを殺したら人魚姫に生存フラグが立った話/ジュージ

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 今流行の?長文タイトルと異世界転生で知っている物語やゲームに入り込むやつ!タイトルで思いっきりネタバレしてるけど大丈夫なの?と心配になりつつ、川系ではあまり見ない所謂概念としてのなろうっぽさのある作品なので新鮮な気持ちで読ませていただきました。
 擬態の部分は、物語の主人公の皮を剥いで身に付けることですよね?童話というギミックを活かしたのは面白かったです。
 様々なことを童話の世界なので!と押し切っていくスタイルは正直大好きなので楽しく読ませていただきました。
 スピード感のあるスタートとテンポの良い展開、誰もが知っている童話の話の組み合わせと転生によるメタ視点を持つ主人公の組み合わせがすごくよかったです。
 人によっては魔法に関するメタ視点が少し興ざめしてしまうかな?とも思ったのですが好みの範囲だと思います。
 すごく楽しく読ませていただいたのですが、人魚姫の生存フラグが立ったのはタイトルでわかるのですが、大丈夫?魔法使いが心臓の血を足にかけて確かめるのそれ王子は死ぬよね?と気になってしまった…。
 ここら辺のツッコミをシンデレラに成り代わった主人公が突っ込んでくれると個人的には笑いどころでいいのかな…と不安にならなくてすむな…と思いました。
 生存フラグが立ったところで王子がいない人魚姫…大人しく人魚同士で結婚するんですかね。魔法使いの魔法で王子は命までは失わずに済むのだろうか…。
 シンデレラに成り代わった主人公の野心溢れる感じが面白くて、小賢しいというか、無双をしたいとさえ思わなければ無事だったのかななど色々想像の余地があるお話で楽しめました。
 今後のシンデレラの皮を得た魔法使いがどういうことをしていくのかも気になる面白いお話でした。

謎のストクリス
 おとぎ話と異世界転生をベースに敷いたメタパロディ作品です。メタもパロディも正攻法というよりは奇策に類すると思うのですが、やるならこれくらい振り切っているのが気持ち良いですね。
 本編に入る前にその長大なタイトルに目が行きます。リズム感が良く、長文ながら視覚的にも聴覚的にも読みやすい。作品内容を良く表していて、力を抜いてゲラゲラ
笑うタイプの作品かなと思わせてくれます。ただ人魚姫のくだりはそれほど本編で大きな扱いではなかったのでタイトルに冠するほどだろうかという引っかかります。「人魚姫はどう関わるのだろう」と期待して読み進めていたので肩透かしを食らった格好になってしまいました。ただ童話パロディとして二作を掛け合わせる試みそれ自体は面白い試みだと思いますし、作品の枠を超えて飛び回る魔法使いのキャラ付けにも良く機能していたと思います。
 さて本編では特に、主人公の性格描写が一貫していて良かったです。作者さんの頭の中にキャラクター像が確立していて、それに適うように描いているのだろうと思えました。これは魔法使いにも同様の事が言えます。「キャラがぶれない」なんて言い方をよくしますが、しっかり地に足の着いたキャラクタを描けるのは強力な武器ですので、これからも大事にしてあげてください。
 展開としては、シンデレラ殺しから魔法使いとの対峙までのシリアス→突然の面接からのギャグ→魔法使いが本性を現し再びシリアス…と「ここから変わりますよ」と空気を操作するのが上手いなと感じました。荒唐無稽なようでいてスッキリ引き締められた物語構成。総じて、思い付きのおバカ作品のような仮面をかぶりつつ、実はかなりコントロールされたメタパロディに見えました。そういう意味では作品自体も擬態してると言ってもいいかもしれません。
 キャラクタの描き方も雰囲気のコントロールも非常に応用の効くスキルですので、この作者さんには様々なジャンルに挑戦してほしいなと期待が膨らみます。

謎のイヌ亜科
 シンデレラを殺して成り代わろうとする転生者の話。
 すごいタイトルだ……と思ったら冒頭でトラック(概念)が突っ込んできました。なんでシンデレラ死んでんの? 死んデレラ?
 童話世界転生、多少無理筋な出来事を「童話だから」で誤魔化すわりに主人公だけ初期グリム童話の倫理観持ちの残虐ファイターなのがツボです。小さい頃はカナヘビを飼い、現実世界では高校受験をする普通の女子っぽいのに、倫理観だけが残虐ファイター。別に魔法使いにならなくても王子殺して内政乗っ取るくらいのポテンシャルありますよね?
 シンデレラの魔法使いを人魚姫の魔法使いと同質化する手法はとても面白かったです。一つの童話が救われたんですね……。


16 人の振り見てメランコる明日の身/@dekai3

謎の有袋類
 でかいさんの性的嗜好が詰め込まれた作品が来た…。
 電脳偶像にサイドルというルビを振るのも好きだからこそという拘りが感じられますね。
 義体やAIが広まり旧時代と呼ばれる世界の遺物と呼ぶサイバーパンクな世界観で、可愛い僕っ娘アイドルとジーさんと呼ばれる主人公がスイーツを食べる平和なお話。
 擬態要素はどこだろう…身分を偽っているところかな?と思っていたらどんでん返しがあって「おおー」となりました。
 ジーさんってそういうことね!AIが器によって発言の出力というか、立ち振る舞いが変わるというのも面白かったです。
 人間でも服装とかアバターに引っ張られたりするもんね…。
 これは僕の我儘なのですが、文字数に余裕もあることですし、サイドルのカスタマイズした見た目をバッチリもっとねちっこく描いてしまっても良かったと思います。
 僕の中ではばっちりシンデ○ラガールズの幸子で想像しましたが…。
 ジーさんもドレスということなので、せっかくですし、好きを全体的に過剰に盛って擬態のお題はおまけじゃーい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!くらいに振り切れてしまった方が個人的には好みだなーと思いました。
 これからもレッツ良い無機物娘。

謎のストクリス
 レトロフューチャーな世界で繰り広げられる会話劇。
 まず舞台、前時代の文化復興として上流階級にのみ開かれたスイーツビュッフェという舞台設定が良いですね。珍しいスイーツに大興奮のあざと可愛い電脳偶像(この造語センスも好きです)と苦労性の女性。そんな乙女二人の会話から出てくる単語は「上流階級」やら「遺跡漁り」やら「政府高官」やらどこか不穏。富める者にとっては享楽的で、そうでない者にとっては過酷な世界が垣間見えます。説明過多にならずにそういった背景を伝えるのが上手く、会話を読み進めるうちにどんどん背景に色が付き、生活音まで聞こえてきそうです。
 上記と関連しますが、メリハリというか緩急というか、説明するところとしないところのバランス感覚が卓越しているとも感じます。描写の端々から少しずつ覗かせるのが上手いですね。こういうスキルは中長編だとさらに活きるように思います。
 そして終盤で明らかになる電脳偶像、そして語り手の正体(いや、どちらかの姿を正体と呼ぶのは違う気もしますが)はあまりに意外。明かされるまで全く予想もつきませんでした。少女型端末から装甲車制御システムに替わった際のギャップを我々は感じますが、当の本人は「ドチラモ私デス」なのが非常に良いですね。擬態というテーマに対しての回答であるとともに、機械の力で姿形を自由にカスタマイズできる未来において生命とは人格とは何なのかというSFの問いにも一つの回答を投げています。テーマをうまく自分の作風に取り入れ、鮮やかに料理したなと思います。

謎のイヌ亜科
 スイーツビュッフェに潜り込む下層の遺物漁り《スカベンジャー》たちの話。
 最初に見たタイトルでおおっとなったのですが、被造物、密室に続く『でかいさんサイバーパンクバース』の新作ですね。スカベンジャー側の話も気になってたんですよ! 世俗的な荒廃世界、好きです。
 今作の『擬態』の肝は電脳偶像《サイドル》。まさしく“偶像”というだけあって、義体端末と装甲車管理AIの本体にギャップがある。本体の方は戦闘用プログラムとかされてるんですかね?
 サラッと明かされる相棒の正体も面白いですね。元が爺さんだから『ジーさん』か……。固形物が食べられないことに対する理由付けが上手い。
 いつの時代も人は見た目で判断する。そういった部分に対する皮肉めいたものも感じた、良い短編でした。

17 ただ君を救いたくて/王星遥、或いは濃茶

謎の有袋類
 退魔!百合!人外!と僕好みの組み合わせの作品です。
 少し説明的になってしまっている部分があるので、字の分量や一つのセリフの長さに圧倒されてしまう部分はあるのですが、キャラクターの関係性や感情の描き方は丁寧で好感が持てます。
 退魔師であるにも関わらず、怪異にわざわざ名乗りを上げるところや、道具の使い方がわかっていないという違和感をさらりとやってから怪異が金森時雨に擬態していたという種明かしはすごく上手だなと思いました。
 字数がギリギリなので難しいのですが、冒頭で怪異と戦うシーンを入れて、その後に誤解されがちな金森時雨を書くなどした方が「退魔師というものは難儀な存在だ。」という一文に説得力を持たせてロケットスタート出来るかもしれません。
 内容やキャラクターはとてもいいので推敲をして、構成などを見直すだけでもっと良くなるポテンシャルを秘めた作品だと思います。
 百合部分なんですが、学校や家などに併せて自分の心を擬態していると言われ、その化けの皮を剥がしたいと朽縄に言わしめた金森さんへの感情も僕は大好きです。
 いいよね自分の前で弱音を吐く強気な女の子。

謎のストクリス
 叙述トリックがお見事。ネタを空かされるまで気付かなかったし、最初は金森のものだと思って読んだ「恩知らずめ」のようなモノローグが、朽縄のものとして読むと意味が変わってくるのも面白いです。それでいてきっちりヒントもありました。蛇(クチナワ)の名を冠する人物がいるのに、それを差し置いて金森の方が蛇に纏わる呪具を使うシーン。その呪具の使い方が今一つスマートでなく力業で押し切るシーン。力業で押し通せるほどの実力者のはずなのに未熟者扱いされているシーン。実はこのあたりは講評の際のツッコミどころかなあと思いつつ読んでいたので、しっかり拾われていてとてもスッキリしました。
 またギミックに頼りすぎることなく物語も丁寧に描かれています。呪いとして産まれた朽縄が人格を得て、次第に仇敵のはずの金森を愛おしく思い、救いたいと考えるようになる過程。それが金森に信じてもらえまいと、ただただ真っ直ぐに思いを伝え続けるひたむきさ。それを受け、堅固に纏った「化けの皮」を脱ぐ決意をした金森。良いですね、グッときます。
 ふたつ気になるのは、いずれも朽縄が金森家にかけた呪いについてです。
 まず朽縄自身も言っているように、もっと酷い目に遭わせたいところを妥協してここに落ち着けたということで読者としても若干の苦々しさが残ります(私の性格が悪いだけかもしれませんが)。ただここは呪縛から解放された金森の幸せそうな顔を頭に描けば、まあ、ほら、きっと朽縄と同じく、満足です。
 もうひとつは聞き流しても構わないのですが、私には「共感能力を高める呪い」がやや都合が良すぎるように思えました。やろうと思えば完全に精神を支配下に置けるうえで今回は指向性を持たせた、ということなのでしょうがそれだと万能すぎるかなあと…。個人的には、たとえば朽縄の生まれるキッカケとなった呪いの性質を共感性と絡めるなど、物語の前段で伏線となるような描写があればより納得できたかなと思います。

謎のイヌ亜科
 退魔師の少女が抱えた秘密と怪異との奇妙な関係の話。
 五億点です。重い感情を抱えた人外、家族からの期待に応えようとする少女への救い、本来敵対すべき種同士の友情……。
 擬態の示す意味がいくつも提示されて、『化けの皮を剥がしたくなる』というセリフが救いになる。その流れがあまりにも綺麗で、確かに愛を感じました。
 怪異自体は元々弱い存在だったというのも後から効いてくるんですよね……。金森さんもいつか強くなるのかもしれない。その時に二人は敵対するのか、共存するのか。個人的には退魔師としてしっかりと敵対する未来もあるのかな、という想像が働きました。

18 巍然屹立(ぎぜんきつりつ)/神澤直子

謎の有袋類
 いつもはホラーテイストな作品を描いている神澤さんの弾けた作品です。
 どうしたんですか?と心配になってしますスタートだ…。
 我こそはおちんちんビンビン侍!じゃあないんだよ!
 こういうものなのかもしれないのですが、時代小説チックに描いた場合は多分文体を硬めにして、言い回しも今風ではなく時代設定に合わせた方がトンチキとしての威力が高まってくると思います。
 擬態…下ネタの連続のあとについでに擬態というテーマ回収をした感が出ているように感じてしまいます。
 全裸中年男性も普段は一般男性の中に擬態しているんだ…。それは確かに怖いのですが、全裸中年男性を描きたかったのか、時代物でトンチキをしたかったのか、普段は変態だって一般男性に擬態してるんだが描きたかったのかがわからなくて威力が半減してしまったように思えます。
 ですが、新たな作風にチャレンジして完結させたという点は素晴らしいと思います。
 伝えたいものを最大火力でぶっぱなすKUSOの精神を胸にこれからもがんばってください。

謎のストクリス
 厳めしいタイトルから堅めの作品かなと思って一文目でやられました。フェイントからの先制パンチ。こういうナンセンスなお話は先制パンチで怯ませたらそのまま勢いで畳みかけるのが大事だと思いますが、タイトルでフェイントを入れた分一発目が重く響きます。良いスタートを切りました。エレクシオン(素晴らしい)!
 しかし続く前半はやや失速気味かなという印象を受けます。というのも、時代物の割には現代的表現やカタカナ語が散見され、統一感のブレが気になってしまったからです。おそらくこれは意図的に統一感を壊してナンセンスさに拍車をかけることを狙ったのだと思いますが、今回は逆効果になってしまったように思います。
 一転、終盤に差し掛かってからは勢いを取り戻します。特に「DICKとCOCK」!これは本作を特徴づける名表現だと思います。エレクシオン(素晴らしい)!音韻も良いしインパクトも強く、あっこの作品はそう読むのねと強く伝える力があるので、このくらいのパワーの語彙をもっと前半から散りばめるとより素晴らしかったと思います。イチモツを刀に見立てて果し合いが始まるのかと思いきやガンマン紛いの早撃ちだったり、変態に見えたけどイイ奴なのではと思わせてやっぱり変態だったりと、クライマックスは鮮やかなラッシュでしたね。笑いました。
 ひとつ申し上げるなら、もっと弥助を描いてあげて!です。せっかく中盤で存在感を強めていたのに、そのままフェードアウトしてしまうのは勿体ないです。

謎のイヌ亜科
 江戸時代を舞台に謎の侍が登場する話。
 「我こそはおちんちんビンビン侍」……うーんこれは香り立つKUSOの香り。これでこそ川系企画だ!
 イチモツを刀に例えるのは理解できるのですが、そこから早撃ち対決になったのでめちゃくちゃ笑いました。早撃ちというより早ヌキ対決じゃねぇか!! 西部劇でやれ!!
 気になった点として、擬態のテーマがおざなりだった点と、油屋の弥助が唐突に出てきて特に何も起きずにフェードアウトした点があります。主人公が夜道を歩く理由付けのために弥助が登場したとすれば、少し勿体無い気がしました。主人公を娶るにせよ、おちんちんビンビン侍に成敗されるにせよ、その後のフォローが欲しかった……。

19 やわらかい指/山本アヒコ

謎の有袋類
 5億点!!!!!と取り乱すほどに良い異類譚ですね…。
 最初「二本腕?腕だけのプレゼント?」と思ったのですが、読んでいくとすぐにそれが二本腕と呼ばれる何かだと言うことがわかります。
 それだけでこの物語を語っている存在は二本腕ではない特別な見た目をしていることがわかるのですが、情報開示の仕方もすごくいいですね。
 食生活も体の大きさも違う。盲目故に怖がらないか弱い二本腕に対して心を開いていく四本腕のプルイ。
 すごく好きなポイントなのですが、四本腕の独自の挨拶や仕草が設定されているのがいいですね。
 あと、スーサ以外の二本腕には執着をしていないのでスーサと近い見た目になるために二本腕の皮を自分に張ってみるという常識や倫理観の違う人外描写大好きです。
 お題の回収の仕方も「好きな相手を怖がらせないように姿を模倣しようとする」という手法はすごく好きでした。
 スーサはスーサで、主人が自分のために姿を変えることを知らない振りをしているけれど好ましく思っているのがわかってよかった。
 最後まで読んでもう一度タイトルを読んでから「やわらかい指」がなんのことなのかわかってグッとくるのすごくよかったです。グレイト。
 好きすぎて講評というよりも最高ポイントの羅列になってしまいました…。
 世界観、お題回収、登場キャラクターの関係性、エモさ、全部よかったです。

謎のストクリス
 四本腕と二本腕。異種間の奇妙関係を描いた作品です。
 読んでみて思ったのは、これは「あなたたちと私達」ではなく「あなたと私」の物語だということ。だからこそこれほどに愛おしく感じるのでしょう。
 不思議なタイトルと、説明もなく突然出てくる「二本腕」。なんだなんだと読み進めてゆくうちに徐々に輪郭が濃くなり色彩が増してゆく。次第に明らかになるタイトルの意味。ああ、優しい物語だなあ…ときて、最後にスーサの「気付かないふり」が明かされる。ここで一気に愛おしさが溢れます。この構成は凄いなあと思いました。タイトルが回収されて静かに終わる物語なのだと思ったのですよ、そこに最後のトドメ。やられました。
 そうした感情の揺さぶりを下支えするのが彼らの暮らす世界のリアリティでしょう。四本腕達の生活描写、二本腕たちへの態度はもちろん、何気ない会話なども自然。想像上の世界を自然に見せるのは大変。センスが凄い。特に四本腕達の二本腕への(同じく二本腕の読者からすると悲惨に思える)扱いを作中で「悪」ではなく普通のこととして描いたのは特筆に値すると思います。これにより世界のリアリティはより色濃くなり、同時にプルイのスーサへの特別な思いが際立つのですよね。
 「擬態」に関しては他にないアプローチでした。本企画の講評に当たり、私は擬態を「欺くための姿」かつ「生きるための姿」と定義しました。そこで想定される擬態を見せる相手は獲物か天敵なんですよね。ところが本作においてプルイとスーサの関係はそのどちらでもありません。ではテーマから外れている?いやそうではない。スーサに受け入れられるために姿形を変えて二本腕に近いふりをするプルイ、そのプルイの正体を知りつつ知らないふりをするスーサ。彼らの擬態は「相手を欺く姿」であり、そして「“共に”生きるため」の姿と呼ぶべきでしょう。ああ、こんな解釈があったとは。

謎のイヌ亜科
 支配層の主人公と被支配層の盲目の少女との生活を描いた話。
 人外主人と人間のペア、いいですね……。
 王道かつ、所々にエッジの効いた箇所があるのが印象的な作品でした。例えば、スーサの種族が『二本腕』と呼ばれていた部分。ここだけで、主人公の種族が人間ではないこと、彼らにとって腕が二本あるのは特異なことだ、という背景をスムーズに理解することができました。
 また、プルイが特別視しているのはスーサだけであり、それ以外の『二本腕』に関しては興味がないのではないか、と感じられたのも支配層のリアリティを感じました。二本腕と話したいが苦手、という最初の段階から自らの身体を変えていくまでになった関係性はこの二人だからこその物なんですね……。
 盲目であるスーサがプルイの姿を理解していないからこそ成立したパターンかな、と思っていたのですが、スーサは眼で見なくても全て分かっていたというオチが来て凄く納得しました。意味のない擬態を続けているのも、気付いて黙っているのも、どっちも愛なんですよね……。

20 ネコ/ももも

謎の有袋類
 これはねこです。
 彼女が拾ってきたよくわからない存在と共存していくお話です。
 タイムラインにここ数日流れてきたパワーワードを詰め込んであって、それを把握しているとふふっと笑ってしまうメタ視点が多めの内容ですね。
 完結したら速攻で講評をする川系大賞の仕組みをハックしたチャレンジ作です。
 瞬間最大風速はあるし、トンチキなネタはちりばめられているのですが、これはどれか一つのネタに絞って同じ文字数を使った方が個人的には好みだったかな?
 ムーの洗礼を受けた世代だと聞いたことがあるヌコの曰く付きの話、ネコらしきもの VS Twitterで胡乱話をしていそうなイヌーとの対決、認識が狂った彼女、ネコとイヌの豆知識、ネコらしきものとの共同生活と大量の話題を詰めるには一万字だと足りない気がします。
 もももさんの描く作品は取り扱う内容のおもしろかったですし、文章も読みやすかったので、威力のあるワードに頼らずに胡乱な話題を掘り下げて行きましょう。
 面白いアイディアをパワーワードやパワー概念の数で勝負をしないで、一つのパワーワードや概念を掘り下げていくと読む人をもっと強く読者を殴れると思います。
 これからも一緒にKUSOの一撃を極めて一緒にKUSOで成り上がっていきましょう!

謎のストクリス
 ネコ(ネコではない)との奇妙な共同生活を描いた不条理ドラマ。
 奇妙で軽妙、テンポが良くて突飛。随所のネタと会話劇が良い潤滑油で、スルスルと読めてしまうのが大きな魅力です。こうした要素が序盤から出てくるので「この作品はこう読むのね」と早いうちにマインドセットを作りやすく、それも読みやすさに寄与していると思います。また全体的に細かいところは気にするなスタイルでありながら、ヌコが人類と共生するに至るくだりなど作り込まれているところは作り込まれており、緩急のつけ方も上手いなと思いました。
 前半の、猫を定義できなかったり深海の猫を否定できなかったりしてなし崩し的に謎生物をネコとして買うことになる物語運びは個人的に滅茶苦茶好きです。屁理屈が道理を押しのけてふんぞり返るお話はとにかく愉快。そしてこの常識と非常識の綻びは終盤に向けて徐々に拡大してゆくのですが最後までキッチリ手綱を握って制御している印象を受けました。随所のパロディネタには実をいうと少し胸焼けしてしまいましたが、元ネタを知らずとも大意は通じるよう配慮されていることもあり、ここにも制御が効いているなと感じます。
 キャラクタ造形も魅力的ですね。傲岸不遜ながら人情派のネコ、大らかを通り越して受け入れ容量のバグった彼女、ツッコミ役なのに順応性の高すぎる語り手、敵役ながらどこか憎めないイヌー、要所要所でしっかり役目をこなすMIB風二人組。気付けばその誰もを好きになっていました。
 不条理だけど破綻させず、訳が分からないのに愛してしまう。結構な離れ業をサラッとやってのけるのは素直に凄いです。

謎のイヌ亜科
 ネコらしき怪生物を飼った主人公と、世界の真実の話。
 かの藤子・F・不二雄先生はSFを「すこしふしぎ」と訳されましたが、この作品はまさしくSF(すこしふしぎ)なお話ですね。「世にも奇妙な物語」とかテレ東の深夜枠のドラマみたいな空気感。
 古事記・イヌーときてまさか、とは思ったのですが、吸った覚えのある与太のエッセンスが濃厚になってくる中盤でめちゃくちゃ笑いました。バンブーエルフもパワー・アントワネットも講評出す頃に賞味期限切れてないですよね!?
 与太話に引っ張られることなく、起伏がありつつも穏やかな展開で乗りこなした手腕に感服しました。これぞワザマエだ……!

21 そこにいたもの/@styuina

謎の有袋類
 前回は擬音を多用した不思議な絵本風なホラーを描いてくれていた作者さんです。
 今回も擬音を多用した作風なのですが、これはちょっとわからないですね…。
 死んでいたと思っていた少女がものすごい音を立てて動き、墓守の少年と会話をして、共に暮らすようになるというお話なのですが……。
 読み取れていない部分が多いと思うのですが、せっかくの擬音も多様しすぎると文字数稼ぎに見えてしまいます。
 3600字の中、擬音が半分以上を占めるという特殊な表現方法はよほどうまく調理をしないとなかなか自分の意図を伝えられないものだと思います。
 ここぞというときに擬音を使用したり、繰り返すというものを狙うともっと思っていることが読者に伝わるのではないでしょうか。
 擬態に関しても僕には読み取ることが出来なかったです……。すみません。
 他の作品もいくつか読ませていただいたのですが、内容と擬音のバランスや使い方は「ふゆのかいぶつだん」がちょうどよかったなと思います。
 素敵なお話を書ける作者さんだと思うので、今後も作風と伝えたいことのバランスを考えて頑張って欲しいなと思います。

謎のストクリス
 路上に少女の死体という異常事態から幕を開ける、童話風のお話。死体を前にして内容のあるような無いような会話をする二人組…を中心に物語が展開するのかと思いきや舞台は死体安置所へ。そこにいた少年と蘇った少女の会話が始まります。その現実離れした物語と脈絡のあるような無いような展開、そして「死後硬直しているのに動くからすごい音が出る」などの奇妙な理屈は、どうにも夢を見ているようだと思わせます。童話風の文体とよくマッチしていますね。
 何と言っても目を引くのは画面一杯の「ぎぎぎ」。そしてそれが繰り返される。蘇った少女が硬直した身体を無理やり動かすための擬音ですが、これはもはや文というより絵に近い。視覚的表現と言うべきでしょう。事態の異常性を痛烈に訴え、強烈なインパクトを産みます。…のですが、本作ではさらに二度、三度とこれが繰り返されます。ここまでくるとやや過剰、胸やけを起こしてしまいます。何か狙いがあってのことだとは思うのですが、申し訳ないですが読み取れませんでした。

謎のイヌ亜科
 死体の少女と、死体集めの少年の話。
 童話調で語られる不思議な話です。穏やかな中にある確かな不穏さが良いですね。
 ぎぎぎぎ……という擬音が繰り返される手法は意図的なのか、ホラーとしての演出としての効果と字数稼ぎの境目が曖昧だったのですが、彼女がもらった『お腹が空かないお薬』や通行人が納得した理由などの説明が欲しいパートに文章を割いてほしい気もしました。
 おそらく擬態は彼女の正体に掛かるテーマだと思うのですが、情報が少なくて読み取ることができませんでした。ごめんなさい。

22 手の触れる距離/味付きゾンビ

謎の有袋類
 いつも僕をキルしにくることでお馴染み(?)のゾンビさん。
 今回もマジカル数字がある……。
 読み終わって「え?これ5000字なのか」と思うほどの情報量と、読んだ後の満足感はやはり書き慣れている生き物の業…!と言える気がします。
 病院でのワンシーンから始まり、なんらかの不穏なログ、そして徐々に明かされていく秋村 香の真実…。
 視点が切り替わるのは結構疲れちゃうことが多いのですが、ゾンビさんの作品はそういう負荷も少ないことがすごいなと思います。
 今作はしかも、秋村 香さん視点で記録が描かれていても不自然じゃない理由があとからわかるのもすごい。
 擬態というより義体???
 安らかな人生の終焉のための擬似的な人としての体験が擬態の回収で大丈夫なのかな?
 ログの意味や、カウントダウンの意味がわかってからもう一度読み直すと解像度が上がって楽しいのと「え?順番待ちすごいのでは……」ということがわかってしまうのは情報圧縮の仕方がめちゃくちゃうまいなと思いました。真似したいこの技術……。
 私事なんですが、Stellarisを始めた瞬間にこれを投稿してくるのは……僕の思考を盗聴してましたね?
 水槽脳と火星移住というSF二大ロマンをぶつけてきたのに滑稽にならずに書き切った怖い作品でした。おもしろかった。

謎のストクリス
 寂しくも暖かいSFで、五千字強に収まっていることに驚く重厚な良作でした。
 会話劇の章と記録の章が交互に呈されることで徐々に輪郭が見えてきて、答え合わせとなる終盤では現代の倫理観とは乖離した、しかし確かに人の温かさを感じるその制度が描かれて物語は幕を閉じます。描かれている内容は将来現実に起こりうることで、「水槽の脳」やそれを実現させるテクノロジーの描写から、科学的・人工的な雰囲気を纏う今作ですが、これはむしろ未来の神話として読むほうが適切なのかなと思いました。
 自分たちの世界の礎となった異界の者への畏敬。その死を看取り魂を安らかなる異界へと還す儀式。その営みが人を人たらしめるということ。神話を語る際に「まだ神々とヒトが共にあった頃」という表現が使われることがありますが、本作はまさにその、神話時代を生きる人の視点で描かれた物語と言えるでしょう。そう思うと、死後に宇宙に旅立った秋村さんは安らかなる故郷へ向かう魂というだけでなく、星座となった英雄たちにも重なって見えてきます。
 さて本作、私はとても好きですがテーマである「擬態」への回答は私の思うところと若干異なります。私の思う擬態とは「生きるため他者を欺く姿を取る」こと。火星で生きるために姿を変えた秋村さんは欺く姿ではなく、秋村さんを欺いたイチカワは安らかに看取るためにその姿を取りました。もちろんそれが本作の魅力を成す要素の一つなので悪い点だと言うつもりは全くありませんし思いません。単なる解釈の違いとご理解いただければ幸いです。

謎のイヌ亜科
 未来世界の終末期医療の話。
 秋村さんの語りから想像していた前提がひっくり返る面白さが印象的でした。“忘却”が間に入ってくるから違和感なく読み取れるんですね……。
 何度か読むと主治医と報告担当者の名前が別な事に気付いたんですが、対応キャラクターを通して擬態しているという解釈もできました。
 水槽脳自体は冒涜的なモチーフにもなるのですが、看護師や主治医を担当している人の手厚いコミュニケーションや祖先を敬う態度が看取る側の誠実さを感じさせていて魅力的でした。イチカワさんが“主治医”というキャラクターではなく、個人の記録として感謝を示した部分が特に好きです。
 大国間の戦争から小惑星の衝突が起きたのが5世紀以上前という事は、水槽脳で火星に移住すると相当な延命が行われる感じなんですかね? 秋村さんは500年以上前の記憶を抱いたまま最期の日々を過ごしたんだな……。

23 イシャーの娘/イトリトーコ

謎の有袋類
 毎回、独特な世界観を描いてくれるイトリさん!
 今回は聖書を元にしたお話ですね。
 アダムとエバの後に作られたイシャー。彼女も知恵の実を食べて楽園を追い出されます。
 人が生まれてからの長い間、アダムとエバの娘をうらやみ、エバの娘に擬態して増え続けたイシャーの娘たちの話を聖書の逸話に沿って描いていく物語。
 結構血なまぐさい描写もあるのですが、これはイトリさんの特徴なのか、そこまでドロッとしたものではなくてさらっと読めてしまうと言うか、刺激はあるんですがしつこくなくて、なんとなくツルッとした透明感のある世界での出来事みたいに感じられるのがすごいなと思います。
 アダムとエバ、ノア、キリストと有名どころのお話を引用してくれるおかげで聖書があまりわからなくても物語が楽しめました。
 イシャーの娘たちがみな美しいという部分も好きなのですが、伴侶が欲しいと渇望して自らを醜く擬態させたり、それでも神がそう作ったので男性の伴侶は得られないという物語のルールがとても面白かったです。
 擬態が必要なくなったイシャーの娘たちの永遠に続く閉じられた世界……。ハッピーエンドだ……。
 5000文字以内で終わるとは思えない満足感のある掌編でした。

謎のストクリス
 創世記の裏側。孤独と羨望、嫉妬と失望を抱えて生き延びてきたイシャーの娘たちが解放されるまでの物語。
 楽園の追放から始まり審判の日に至るまでの創世記の出来事、魔女という実在の概念と組み合わされることで、全く架空のはずのイシャーの娘たちがまるで既知の存在であったかのように認識に差し込まれてゆきます。これは文章の巧さや神話に上手く絡ませたというテクニックの面もあるでしょうが、何より我々がイシャーの娘に相当するような、規範から弾かれ苦しむ存在を知るが故なのでしょうね。この物語が描くのはおそらく、現代を生きる我々です。
 知恵の身を食せど裸身を恥じることはなく、誘惑と姦淫によって生を繋ぎ、禁忌を犯して目的を達さんとするイシャーの娘たちは神の教えに逆らう存在でありながら、神により定義されたその在り方に逆らう事は出来ず羨望と失望を抱えたまま、それでも生き延び続けます。抗いようのない大きな力に心身を削られ苛まれ、それでもなんとか息継ぎをしながら日々を繋ぐ。そんな経験をしてきた、今まさに続けている人間は少なくないように思います。自分自身とイシャーの娘たちを重ねて読んだ方も多いのではないでしょうか。抗いようのない力に抗う事は出来ないのか、我々は安寧を得る事は出来ないのか。
 イシャーの娘たちは一つの解を提示します。世界は自分たちを見捨てた、自分たちも世界を見捨てよう。見方によっては投げ遣りで、おいそれと真似できる事でもありませんが、彼女らの選択は、作られた(あるいは自ら作り上げてしまった)世界の在り方に縛られ苦しむ人にとって、ひとつの希望に映るのではないかと思いました。

謎のイヌ亜科
 創世記の裏に存在した女たちの顛末を描いた話。
 伴侶を得ない存在として形作られたイシャーが欲望や願望を得ていく過程が生々しくて良いですね。エデンの蛇でさえ神にそうあれとして造られた中で、羨望という感情が一人歩きしていく……。
 アダムとイブやノアの方舟、キリスト再臨など、イシャーが重要な場面で伴侶に擬態するのがこの作品におけるキーポイントですね。イシャーそのものは美しく魅力的であるのに、聖人たちは伴侶以外と姦淫に至らない。そう考えると、その後の彼女たちの行動が神に逆らっているようで興味深いです。子孫を作ることを目的としたイシャーが同性を伴侶にしたのも、神への反抗に見えてくるんですよね……。
 最後の選択でイシャーだけの世界へ飛んだ彼女たちを神が良しとするのも、世界に不要だとされているようでただのハッピーエンドではないビターさを感じました。

24 アタック・オブ・ザ・キラー・ダイコン/武州の念者

謎の有袋類
 美少年の武州さん!二作目の投稿ですね。
 今度はB級ホラー的なコミカルなお話。そしてやはり美少年は出てくる……。
 変死体が発見され、襲われながらも生き延びた一人は真相を訴えるが誰も相手にしない、やたらアクのある探偵、美少年科学者と女刑事とB級ホラーに出てきそうな組み合わせに美少年をねじ込む胆力はすごい。
 なんでも爆発させるメイスンさんすごく良いキャラで大好きでした。残念な美形だ……。
 ダイコンに擬態している謎生物か?と思ったら変異していたダイコンだった!ミスリードにしてやられたー!となりました。
 この微妙にガバな設定もB級映画あるあるという感じで好きです。
 一万字の作品で、山場をいくつも作り、ダブルスパイの設定を押し込むと少し駆け足気味になってしまうかもしれません。
 ポンポンと出来事が起きて咀嚼する前にお話が進んでしまうのでどことなくRATを見ている気持ちになってきます。
 文章力や、お話を運ぶ力、魅力的で最高のキャラクターを書ける才能は十分なので、文字数によって物語の規模を調整していけると更に最高!となるのかもしれません。
 3万字くらいでじっくり読むトンチキB級サスペンスとして読みたかった!あと、メイスンさん大好き!
 次回作は生き残っていたキラーダイコンが空を飛んだり、宇宙へ進出して欲しいですね。

謎のストクリス
 小さな被害を見過ごして後手後手に回る事態、曲者揃いの特殊対策チーム、謎のマッドサイエンティストと馬鹿らしすぎるその野望、ピンチに陥っては能力と機転と運で乗り越える展開。ああ、これはB級映画! 短い物語なのに盛り上げどころが多くて満腹感があります。具体的には100分くらいの映画を見た感じです。
 各章のタイトルが勢いがありつつ頭が悪くて良い味を出してます。その章で何が起こるのかわかるので展開を予想するのですが、大抵バカな方に裏切られます。きっと狙ってやっていますね。終盤に明かされるダイコンの弱点である曲、そのメロディはメイスンが歌っていたものだった…というくだりには黒幕の過去に絡むような裏話がありそうな気配を感じますが、特に触れられないのは気になるところ。というかダイコン、聴覚あるんだな。あ、ダイコンの着ぐるみで誤魔化せていたということは視覚もあるのか…と掘り下げるのは馬鹿らしいですね。最後の締めもこの手の映画(本作は映画じゃないけれど)お決まりのパターンで、ニヤリとさせられました。くっだらない続編出るでしょう、これ。
 登場人物もシンプルかつオーバーなキャラ付けが為されていてB級感に拍車がかかります。それでいて見せ場ではしっかり格好いいのもナイス。ただ千秋君、君は現場にいない方が強いのでは…というツッコミどころもまたB級感を強めています。設定のブレやいい加減さが逆に作品の空気を確立するのは面白いですね。

謎のイヌ亜科

 突如現れた殺人ダイコンを討伐せんとする特殊捜査チームの話。
 良いKUSO小説でした。まんまトマトじゃん!となるほど本家のリスペクトに溢れてますね。ラストのスタジアムで音楽を聴かせて倒すシーンとかモロですし……。
 美少年要素は無いかな……と思わせておいての千秋くんの登場もこだわりを感じて好きですし、メイスンさんの胡散臭さ満載のキャラクターも雰囲気作りに寄与しています。
 一つ気になったのが、桜さんの二重スパイ関連です。ストーリーに起伏をつけるための要素として配置されたものだと思ったのですが、あまり効果的ではなかったように感じました。B級映画らしいといえば、らしいのですが……。

25 化け猫まつり/帆多 丁

謎の有袋類
 帆多 丁さんの二作目です。
 物の怪の血を与えられて長生きをした老人の元へ、とある学者さんが尋ねてくる物語。
 最初の作品とはまた全然違った文体で、老人の語り口調が地の文になっていてすごく雰囲気があってよかったです。
 ルビも雰囲気作りに合っていて世界観が素敵でした。
 疫鬼、化け猫、魔女、猫の王、龍の災厄、蛇神様、吸血鬼と豪華な人外のオンパレード!そしておっぱいですよ。おっぱいはいいぞ……。
 化け猫というタイトルから予想していた見た目ではなく、頭だけ猫という点と、猫の目が振動で話すという点が個人的なツボです。
 あと名乗り!名乗りがすごくエモでした。ここで1億点加点!最高。
 擬態…擬態の部分は化け猫と吸血鬼が人の振りをしている点でしょうか?
 雲にしか見えない天舌かな……。
 既存作品のスピンオフとのことで、化け猫ちゃんが気合いを発するときの呪文?鳴き声?的な「リィィィーーールーーーー!!!」の元ネタは多分そちらを読まないとわからないのかもしれない…。
 最終話で視点が学者先生になって、そこで彼が化け猫に名を与えた存在だとわかるのですが、そこだけ唐突だったかなと思いました。吸血鬼は大好きなのでご褒美なのですが。
 最後で一気に色々ネタばらしをするターンを、作中のあちこちでもう少し化け猫さんが仄めかしていたりすると唐突感が減ったかもしれません。
 化け猫ちゃんの構成要素も山盛り過ぎて、ここで全部説明するのはちょっと唐突感があるので、全部説明しなくても良かった気がします。スピンオフなので既存作品で明かしている正体を全部ここでも説明したい!というのはすごくわかるので難しい…。
 とはいえ、講評なのでちょっとしたことを敢えて書いているだけで、本来は最後のネタばらしボーナスタイムも含めて雰囲気があり、すごく面白い作品でした。
 キャプションを読んで既存作のスピンオフ的な話なのかな?と気付いたのですが、これ単独で読んでも違和感の少ないので、これが好きな方は作者ページから化け猫シリーズへGO!

謎のストクリス
『第4惑星の生存』と同じ作者の方ですね。こちらはガラリと雰囲気を変えて民俗学ベースでしょうか。疫鬼、猫娘、天舌、みさんご様。様々な妖怪・怪異が登場しますが彼らのビジュアル描写や怪異としてのルールが良いですね。疫鬼の近くに寄るほどに瘴気に当てられることや、名乗りを上げて神格を得ること、竜は互いの縄張りを侵さないこと、どれもこれも面白い。特に名乗りはその格好良さもあって非常に良い見せ所でした。
 過去の思い出を語る形で物語が展開するのですが、大祭司の語り口がまた良いですね。口語表現が臨場感を産み、物語世界にじっくり浸れます。猫娘・月のからかうような、それでいて好意は真っ直ぐ向けてくるような口調に惹かれますし、まだまだ未熟な過去の少年と老成した大祭司のギャップも魅力的です。『第4惑星の生存』では人物描写を最低限に削ぎ落した硬質な語り口が魅力的でしたが、キャラクタを書かせてもこれほど生き生きとして血の通った魅力を出せるとは、作者さんの力量が窺えます。
 最終章ではこれまで聞き手であった男へと語りが映り、数々の謎の種明かしが始まります。この部分では過度に説明的にならずに自然な会話やモノローグの中で情報を明かしてゆくよう配慮されていますが、なにぶん情報量そのものが多く、ここに詰め込みすぎかなという印象も受けます。小さな島から西洋にまで一気に広がるので、その展開スピードに虚を付かれる格好でした。どちらかというと短編よりもシリーズ物の中の一話という印象で…と思っていたのですが、あらためて紹介文を読むと、実際にシリーズ物のなかの一話だったのですね。

謎のイヌ亜科
 物の怪を狩る猫の少女と村の祭事を継ぐ少年の話。
 恐らく過去に作者の方が書かれたシリーズのスピンオフ作品だと思うのですが、この作品単体でも世界観やキャラクター性が掴める魅力的な作品でした。
 和風ファンタジーを思わせる硬質な文体の中に、ユエちゃんの俗っぽいセリフが良い意味で浮いてて最高ですね……。彼女にとっては100年など些事だし、それでいてマインドは15歳なんだろうな、と感じました。「初い初い」から溢れるお姉さんぶりたい感じ……!!
 ストーリーラインも王道で、特に名乗りのシーンが盛り上がり的に最高潮で好きです。神様というレイヤーがあることで名乗りのシーンに違和感がないの、作劇の妙ですね……。
 ユエちゃんの活躍をもっと見てみたいので、シリーズの他作品も読みたいと思います!

26 わたしたちは平凡で凡庸な普通の女子高生です/ささやか

謎の有袋類
 ささやかさんらしいポップというか、キャッチーというかテンポ良くガンガンと突き進みながら脳にささやかさんワールドを叩き付けてくる作品。
 平凡で凡庸な普通の女子高生(平凡で凡庸な普通の女子高生とは)たちがわいわいと自分の秘密を共有しあってキャッキャする日常もの!
 宇宙人、異世界人、幽霊、そして彼氏持ち…彼氏持ちじゃあないよ!一話まで読んでゲラゲラ笑ってしまったのですが、B面の伏線回収がすごく気持ちよくて結末は予想がちょっと出来たのですが「きたきたきた」という感じで楽しかったです。
 こういうなんらかの大集合シーンってカタルシスがあっていいですよね。
 擬態のお題回収の部分は「平凡で凡庸な普通の女子高生」を装っている女子高生たち的なあたりでいいのかな?
 バレバレな擬態の連続からの妙子ちゃんという一番上手に擬態が出来ている子へキュッとフォーカスするのが僕はすごく好きでした。
 それにしても、さくらちゃんと友達でいられる女子高生のみなさんかなり心が広すぎるでしょwww
 なんだろう。特にアドバイスとかないな…これは完成形では?となる面白い作品でした。

謎のストクリス
 軽妙でテンポ良く極彩色の何かが踊るささやかワールド。
 このタイトルにして始まるガールズトークの第一声が「実は私、テヌラペコ星人なんだ」。序盤からフルスロットルですね。何が平凡か、何が凡庸か、何が普通か。さて異星人であることを告白した彼女を友人らは驚きつつもすんなりと受け入れます。そして呼応するように互いの秘密を打ち明けるのですが、実は異世界人、幽霊、彼氏持ち。彼氏持ち?これが他の3人と同格の秘密に思えてきたからすっかり作品世界の深みに嵌ってしまいました。精神浸食ともいいます。
 本作を彩るのは思わずそんな脱力するような会話だけでなく、その独特な表現。私のお気に入りは「さくらは比喩的意味合いにおいて涙した。具体的行動としてはチキンナゲットをやけ食いしだした」ですね。何を食べたらこんな表現を思いつくんだ。チキンナゲットか。
 さて本作は2部構成、後編たるB面では場面一転、どんでん返しが起こります。主人公たる妙子の本当の秘密が明かされるのですが、ここで前半の伏線が怒涛の回収を見せます。戦闘民族ギーノ将軍、第三賢者スウォルチー、狂科学者リバイバル東条。ギャグだと思って笑い流したものが伏線として聞いてくるのはこう、何とも言えぬ爽快感がありますね。そうやって広げた展開を彼氏からのlineで収束させるのはスッキリしていてお見事。
 ただ違和感というか、ささやかさんにしては後編が綺麗にまとまりすぎて予定調和というか、過去作などと比べると今回は手綱を強めに握ったのかな?という印象を受けました。いや決して物足りないとかつまらないとかではなくて、大変楽しく読んだのですが。作風の変化なのか持ち球の一つなのか、あるいは私の訓化が進んでいるのか…。

謎のイヌ亜科
 仲良し女子高生グループの他愛の無い会話と、秘密の話。
 緩急がしっかりした作品だな、と思いました。
 A面の会話パートは各センテンス毎に面白いポイントがあって流れるように読めますし、女子高生の適当さとか気軽さで重大なことを明かされる雰囲気がボディーブローのように腹筋を刺激してきます。この手法は書く側と読者側の空気感が一致しないと事故りかねないのですが、作中展開される会話へのツッコミも含めてクスッとくるワードが上手い。
 A面時点で十分面白いのにB面はどうなるんだ、とドキドキしながら読んだのですが、与太話みたいな会話が伏線だとは思いませんでした。ギーノ将軍もリバイバル東条博士も第三賢者スウォルチーも、地球を満喫しすぎじゃないですか?

27 赤いキッチンタイマーが私を翻弄する/rei_

謎の有袋類
 前回は聖書をモチーフにした作品を書いてくれたrei_さんの二作目です。
 Twitterにいそうな先生の話。この先生絶対Twitterにいるし、バチバチバトルをしてるしフォロワーは3000人くらいいるでしょ……。
 平凡な私立校の中でちょっと独特な先生として現れる村瀬先生のことを主人公である「私」が見ている話なのですが、これ話の構成としてすごく好きですね。
 一話で赤いキッチンタイマーを取り出すどことなくおかしな先生としての村瀬先生を書き、二話で身近になった村瀬先生のパーソナリティーを掘り下げるんですが、三話目で急にビックリさせるところがすごく上手だなと思いました。
 主人公がそんなクソ女なことある?!唐突感は感じなかったのでそういうヘイトコントロールというか雰囲気を作るのがすごく上手なんだなーと思います。
 村瀬先生は村瀬先生で「実際、村瀬先生はそんなに神経の太い人間ではない。自分が変人扱いされてるという自覚はあるし、そのために他人から距離を取られることに傷ついてもいる」という一文と二話を使って描かれた周囲から浮く要因のお陰で、かつての生徒と付き合ってしまえる危うさに違和感を抱きにくいキャラクターになっているのがすごくよかったです。
 最後も赤いキッチンタイマーで締めるのがすごく美しい終わり方ですね。結末の陰鬱さも、然るべき処遇というかなんというか。
 擬態のお題回収は……多分村瀬先生なのかな。突き抜けた変人で我が強く見えるけど実際はそうではない?みたいな。
 文章も、改行があるからか段落はじめの一字下げがなくてもすごく見やすくて全然気にならなかった上に文章もかなり洗練されているのでスラスラ読めました。
 お話をまとめる、キャラクターを描くことはもう満点!という出来なので今後はもう少しお話を暴れさせるなどして実験をすると一回りも二回りも強くなっていけると思います。 
 具体的にはゴリラとか核実験をこの川でやりましょうということです。
 また企画に遊びに来てくれるとうれしいです!

謎のストクリス
 奇人・村瀬先生に興味を抱いた女子高生が彼について語る物語です。どこかズレていて、でも不思議な魅力、いや魅力と呼ぶほどキラキラしたものではない何かを持っていて、読んでいる側も次第に興味を惹かれてゆきます。
 村瀬先生の奇人描写は大変リアリティが高く秀逸なものだと感じました。奇矯な言動の端々に独自の哲学が垣間見え、周囲に馴染めるほど柔軟でもなければ孤高を貫くほどに狂えてもいない人。第2話にて描かれる「多様性のない社会」への彼の考えは、きっと彼自身の悲鳴でもあったのでしょう。
 それを踏まえて第3話に進むとその展開に驚かされます。村瀬先生の悲鳴を、抱える闇を認識しつつ「私なら変えられる」と交際を始める主人公。画一的な価値観から弾かれて苦しむ人間をその価値観で塗りつぶして順応させようと、それを正しい事だと信じて行います。それが功を奏さず立ち行かなくなったら全て放り出し、結果的に失職にまで追い込んでしまいます。いやはや凄まじい。
 本作の一番の魅力はこの人物描写の巧みさでしょう。先述した村瀬先生の奇人描写に加え、主人公の心理描写。彼女本人としてはごくごく自然な帰結として選択し行動しているわけで、自分の事を悪いとは思っていない。そのため文章上は露悪的にならないのに、読んでいる側からすると何と身勝手で酷いやつだ、とわかるのです。これが上手い。
 主人公の末路は言ってしまえば自縄自縛なのですが、ここにきてタイトルにもなっている赤いキッチンタイマーが活躍するのは良いですね。前半と後半、どちらも彼女の心を揺さぶるタイマーが、全く別の働きをするのは面白い手法だなと思いました。

謎のイヌ亜科
 高校時代の変わった先生と、『私』の話。
 変わった先生のエピソード、たぶん世間の学校の数だけあるんじゃないですかね? 作中の村瀬先生ほどではないにせよ、その個性が3分割くらいされた先生はなんか馴染みがある気がする。
 冒頭から語られる村瀬先生の変人エピソードと終盤の『私』の話がこの作品の重要ポイントだと考えたのですが、それを結びつける『多様性』についての授業がエッセンスとして上手いな、と思いました。村瀬先生と同じくらい主人公も中々な恋愛をしているのですが、それも含めて多様性なんだろうなぁ……。暴力振るってくる彼氏とは別れたほうがいいと思う。
 変わっている人は擬態しているけど意外とそこら中に居て、村瀬先生は出る杭として打たれてしまったんだろうな、という無常感を感じました。赤いキッチンタイマーを見るたびに思い出しそうな話。

28 ノットヒーロー/御調草子

謎の有袋類
 御調さんの作品!
 肌の色をコロコロと変えるシギと呼ばれる男と、それを調査に来た主人公のお話。
 シギと呼ばれる男の別名「トゥイ・ハンラシ」の由来を丁寧に書いている部分、世界観を掘り下げるためだと思っていてすごいなーと思っていたんですけど、それが二話目でグルンって裏返るというか、伏線として回収されたのがすごく綺麗で気持ちよかったです。
 カメムシが由来の名前だということ、主人公の感覚に無理やり近づけて訳すならば「カメレオン男」だということがたった一言のセリフだけで「こういう意味があるのか!」とわかった瞬間のアハ体験みたいなの狙って出せるのは本当にすごいですね。
 お話も綺麗にまとまっているし、キャラクターも魅力的で、更に二話目で「実は一話の主人公の姿は偽りのものだった」という意外性と伏線回収がお見事です。
 普通に商業作品の短編集にあったら得をしたと思えるような素晴らしい出来だと思います。
 でもやっぱりここは魑魅魍魎溢れる川なので、御調さんにはゴリラを出すとか、普段なら絶対しようとは思わない核実験のようなチャレンジを今後して欲しいなという欲が出てきてしまいますね…。
 実力も瞬発力も十分出しましょう!ゴリラ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

謎のストクリス
 擬態について調べていて「体色を変化させるカメムシがいる」ということを知って思いついたお話です。

謎のイヌ亜科
肌の色を自由に変えることができる男と、彼にインタビューを行う男の話。
 強い、強すぎます。シギのキャラクター性とか擬態の印象が語り直されて変容していくストーリーとか主人公とシギの所属元に抱く感情の違いとか……。的確に僕のツボを刺激して離さない、そんな作品でした。
 自分を弱く見せる擬態を行っていたのはシギだと作中で語られるのですが、主人公も村人に警戒されないために記者のふりをしたという点で一致するんですね。また、村の救世主ではなく自らの生存のために能力を使うシギは確かに正義の味方的なヒーローとは言い難いのですが、主人公が所属する軍を崩壊させるかもしれない存在としての彼は読者視点から見ればヒーローなのかな、と考えました。主人公がいつかシギに裁かれることを望んで待ち続けてると良いよね……。
 また、その姿を変えるシギのことをカメレオンではなくカメムシと形容する表現は興味深かったです。それもただの意外性ではなく、ちゃんと理由があることで村の実在性が一気に高まる効果があると思いました。

29 あといくつ食べれば/アリクイ

謎の有袋類
 胃腸がキュン!胃腸がキュンですよ!!!やめろ!!!と途中で耐えられなくて
Twitterに耐えられなかったところを呟いてしまった僕の胃腸をズタズタにした作品です。
「どうして慎二はいつもそうなの?理屈ばっかりで全然私のこと考えてくれないじゃん!!」の部分なんですけど、こう、なんだろう。僕と元カノの喧嘩を見ていましたか?となる非常に胃腸に来るやりとりでよかったですね。
 お気持ち全開でキレ散らかす女と、無になって音ゲーをする男の組み合わせ。
 事件が起こってるので心配して欲しいなーという乙女心をわからない男がわかれるのかなーと思って読み進めていたのですが、後半で男が「君は襲われない」と言った真相がわかるの結構好きです。
 タイトルにもかかってくる「あといくつ食べれば」の意味が最後でわかるのはかなり好みです。人外の造形もすごく好き。異形と人間はわかりあえないのだ…。でも、異形は涙と悲しみを得られたのでハッピーエンドです。
 字数が下限ギリギリなのでこれを叩き台にしつつ、もう少し二人の関係性や事件についてのやりとりを加えて、もう少し男が人ではないみたいなほのめかしを入れると最後の種明かしがもっと気持ちよくなるかもしれない…。
 こういう胃腸がキュンシリーズ大好きなのでこれからもどんどん書いて欲しいですね!

謎のストクリス
 感情の機微に疎い男性と、それが気に食わない女性の会話劇。
 何気なく差し込まれた不審死事件は単に男性の無配慮を演出するための舞台装置かと思いきや、終盤への伏線となります。急展開は急であるゆえの面白さがありつつ、唐突すぎると読者を置いてけぼりにする面もあります。丁寧に伏線を張って、急展開に驚かせつつその展開を納得させるのが上手いですね。
 さて男性の正体は人を喰うことによってその人生を吸収し、人の心を手に入れて欠落感を埋めようとする怪物。食人欲求があるわけでもなく、身を護る手段でもなく、不快な相手への攻撃ですらなく、ただただ欠落を埋めるための悲しい営為。ヒトとして生きるためにヒトを欺かなければならなかったのですね。私の考える擬態というテーマによくマッチします。
 双眸から流した雫はまた一つの命を奪ったがゆえに新たに手に入れたものなのでしょうか、それとも奪ってなお人の心は遠いと悟って流したものなのでしょうか。

謎のイヌ亜科
 とある男女の不和と、その裏に潜む事件の話。
 アリクイさんの作品は悲恋や失恋をテーマにしたものが多い印象があるのですが、この作品にもそれが存分に発揮されていました。二人の価値観の違いを表す会話とか、めちゃくちゃリアルで嫌な汗が出てくるんですよね……。
 中盤以降のサスペンス展開に伏線があったのが好きです。慎二が葵に「狙われない」って言ったのも当然なんですよね。そもそも襲う側の存在だったから、彼女の心配も普通に受け流せる。
 慎二が人間になりたくて情報を貪り食ってたのも人外の論理なんですよね。彼が真の意味で人間になることは今後一生ないんだろうな……。

30 終焉によせて/夏野けい

謎の有袋類
 ご新規さんです。参加ありがとうございます。
 灼熱の砂礫を歩く人を寄せ付けるために植物の群生地帯へ擬態をした地球外生命体は、人間のデータを集めるために目の前の男へ手を伸ばす…という始まりのお話。
 思考核がヒトでいう人格であり、他の個体と意思疎通は出来たり価値観が違うものの一応一つの個体であるみたいな仕組みの生き物なのでしょうか?
 会話の様子を見ると結構他の個体とフランクなやりとりをしているので、人間味が強いなという印象でした。
 好みの問題だと思うのですが、地球外生命体の口調をもっと硬くしたり、システマチックにしてしまうとより強い人間と地球外生命体である彼らの価値観や性質の違いが描けたのかもしれません。
 あなたたちは滅亡しますと残酷なことを人間に伝える地球外生命体の発言から、この星はなんらかの事情で人が減ってしまい、男が妻を亡くしてしまったのだということがわかります。
 一瞬男が発狂したのかな?と読んでいる方も思ったのですが、不明瞭な声を出しただけだったので、少しだけ混乱してしまいました。
 かつて地球外生命体と接触した個体が発狂してしまうことがほとんどだったことの説明部分は、男とコンタクトを取る前に懸念事項として地球外生命体に説明させてもいいのかもしれません。
 地球外生命体たちが、男の妻に姿を変え、男の気持ちを不本意ながら救ってしまう部分がすごく素敵でした。
 地球外生命体と男がわかりあえないし、共感も出来ないと言う部分が個人的にはすごく好きです。
 文章がわかりやすく、情景が浮かべやすいので3000字ちょっとの短編ですが読んでいて字数に驚いてしまいました。綺麗にまとまっていてすごい。
 「愉悦に震えるわたしたちは、彼らのように笑いはしない」という一文がすごく美しくて印象に残る作品でした。

謎のストクリス
 集合意識を持った知的生命と人間との語らいを描いたSFです。
 生命らの目的はこれから滅びの道を辿ることになる人間という種の観察と記録。この「観察」という態度が徹底しているのが良いですね。観察対象の男はなかなか悲壮な身の上なのですが、生命の方は変に情にほだされることなく彼を純粋に観察対象として見つづけます。その観察を続けるなかで結果的に彼らは男の心に安らぎを与えることになりますが、そのことに対しても生命の側はただただ事象として記録する。この徹底っぷりが異種との関わりを描く作品としてとても好きです。
 さてこの生命は単一の意識・単一の身体を持つ我々とはだいぶ異なる精神の在り方をしていそうです。劇中では幾度となく彼らの内なる対話・議論が交わされ、終幕では物理的に離れた「わたしたち」との知識共有が行われます。そのような特性を持った知的生命がどのような精神構造を獲得するのかは想像が大変に難しいのですが、本作では「埒が明かない」と苛立ったり「さっさと帰りたい」とぼやいたりと、種全体で一つの存在という意識を持ちつつ構成する個々の意識は個性的に見えます。言い方を変えると、案外人間に近しい精神に見えました。それを正解・不正解と評する事は出来ませんが、作品を通して徹底されているこの生命の異質感とはややアンマッチな印象を受けました。ただ、ではどうすればマッチするのかと問われれば私も答えを簡単には用意できないのですが…難しいですね。
 観察者と観察対象、相容れないふたつの存在が関わり、ちょっとした気まぐれから一方は救われる。しかし他方はそこに興味はなく、一瞬交わった意図はすぐに解けてそれぞれの旅路を行く…突き放した中にある優しさというか、そういうSFらしさの味わえる良い短編だと思います。

謎のイヌ亜科
 ヒトという種の終わりと、それを観測する擬態生命体の話。
 樹木に擬態していた外宇宙の生命体が群体生物なのがツボです。彼ら(彼女ら?)は群体であるが故に、個とか心に対しての価値観が面白い。男が想っていた女に擬態したのも、ただ男の要求に従っただけなんだな……という、隔絶された種同士の価値観の違いがしっかりと描かれているのを感じました。
 男が最後に“つがい”に化けることを願ったのもウェットな感情を強く感じました。男は生殖のためではなく、自らの想いを晴らすために記憶を再現する。それが偽物であることなんて彼は理解してるけど、その上で最後に叶わなかった思いを叶えたんだな……。

31 誰か来た/河童

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 部屋でゲームをして退屈をしていると、空き巣と鉢合わせたお話。
 最初「ん?」と思った違和感が、最後に回収されるのはお見事です。男の趣味とわざわざいう引っかかりの使い方が上手だなーと思いました。
 自分のアイデンティティすら曖昧になる生活をしている主人公は、ずっと独り身でその生業をして生きていたのか……などラストで話のタイトルである「自己の所有権あるいはそれ自体の所在に関する考察」に繋がるのが良いなと思いました。
 リアリティラインとしては「ってことは一言も話さずに侵入してきた空き巣たちと合流してわかれたの?」と謎な点も残るので派手な種明かしをするときには細かい疑問点などを取り除くか、力業でなんとかするともっとお話に対しての没入感みたいなものがうまれるかもしれないなと思いました。
 でも、自分が化け物と言っているので、実はこの主人公は人外的なサムシングで、声色くらいは変えられるのかもしれない…と考察の余地があるので、僕が読み取れていないだけなのかもしれない。
 文章も読みやすく、ミスリードのさせ方も上手な作者さんなのであまりミステリーを読まない自分でも楽しく読むことが出来ました。

謎のストクリス
 一人で家にいると誰かがやってきた。まさか強盗か…という導入から始まり予想外の結末を迎えるミステリー。こちらの作者さん、きっと私の同類と見ました。嘘とか罠とか好きでしょう。ポケモンなら悪タイプかゴーストタイプ、RPGならシーフ使いでしょう。
 さてお話を読み進めると、まずいくつかの違和感に気付くと思います。語り手は暫く仕事から離れてだらけている様子なのに「仕事柄耳が良い」と臨戦態勢だったり、まるで危険を察知していたかのようにスタンガンを用意していたり。妙な引っ掛かりを残したまま物語は進行し、警察にでも行くのかと思った語り手が家を捨てて「もう戻らない」というところで最高潮を迎えます。そこから種明かしパートでそれらを余さず回収し「なるほど!」と思わせるのはお見事!気持ち良かったです。
 家人かと思えば空き巣、男かと思えば女…と二つもギミックを詰め込むのは最初は欲張りすぎて胸焼けするなあと思ったのですが、その胸焼けが後段のアイデンティティクライシスに説得力を持たせるのがトリッキーで面白かったです。そこでサブタイトルに繋がるのも良いですね。
 ギミック重視の話作りをするとキャラクタが魅力の薄い舞台装置になってしまうことがあり、実を言うと本作にもややそのきらいを感じかけていたのですが、そこにアイデンティティクライシスというアイデンティティを与えることで逆にキャラ付けに転じさせるのも面白いです。
 好みの問題かもしれませんが、個人的には少し種明かしが丁寧すぎるかなと感じました。たとえば「仕事柄耳が良い」を種明かしパートでも繰り返したところなどがそれにあたります。せっかく仕込んだネタに読者が気付いてくれないと悲しいものですが、案外読者は細かいところも読んでくれるので、もっと信用して投げてあげても良いのかなと思います。そうすると持ち味のギミックがより洗練され、スタイリッシュになると思います。

謎のイヌ亜科
 誰もいない別荘に一人で住む者と、現れた空き巣の話。
 とにかく読者に情報を与えることが上手い作品です。序盤で敷き詰められた違和感から、家主の正体が空き巣であることは何となく理解できたのですが、そこから明かされるもう一つの正体の開示が上手い。性別誤認系の叙述トリックは定番であるが故に取り扱いが難しい印象なのですが、見事に術中にハマりました。完敗です。
 読みやすく洗練された文体の中に潜む桜の描写も味わい深いですね……。作品自体の深みとコクを増す、いい味わいでした。

32 愛の尻拭い/ロッキン神経痛

謎の有袋類
 う、うわーーーー!ハッピーエンド!
 ロッキンさんのホラーを限界集落オブザデッドぶりにみた……。
 黒猫ちゃーーーーんじゃあないんだよ……。
 なんでもめんどくさがりなヤバな気配がする主人公をとりまくヤバな環境の話なんですが、途中からギアが入って場面がグルンとするのがロッキンさんという雰囲気の作品。
 黒猫に擬態した龍喜、大人しい女に擬態して男遊びをしていたメンヘラの元カノの二段構えの擬態で良いのかな。
 てっきり柚美を弄んだ主人公のトモくんかと思っていた…。
 地縛霊の生まれる瞬間という感じのお話で、これがスピンオフで龍喜と柚美が大活躍?するやばいホラー作品とかがありそう。
 好みの問題だと思うのですが、もう少し柚美と龍喜の関係性とか黒猫じゃない仄めかしを仕込んでくれるともっと気持ち悪い気持ちよさ?的なものが増えたかもなと思いました。
 最終的に生きがい(死んでいるけど)を見つけられたのでこれはハッピーエンドです。すくすく育ってくれよな龍喜。

謎のストクリス
 不条理ホラー。タイトルの時点で嫌な予感を感じさせます。尻拭い。
 語り手の男は人並みに怠惰で自堕落で、何か悪いトリガーを引きそうな雰囲気を感じさせますが、読み進めていくと因果も引き金も無く、ただただ柚美の「愛」に巻き込まれたのだと分かります。強いて言えばLINEのブロックが引き金になったのかもしれませんが、遅かれ早かれ同じ結末を迎えたでしょう。龍喜の造形といい柚美の身勝手さといい「尻拭い」の理不尽さといい、恐怖に先んじて嫌悪感が襲ってくる作品です。
 そして殺されてからはそれまでの切迫した緊張感から一転、淡々と死後の様子を語ります。この切り替えが巧いですね。恐怖のピーク、苦しみのピークを過ぎて解放されない怖さ。幽霊は死の瞬間を永遠に繰り返すと聞いたこともありますが、当事者視点で語られるとじわじわと効きます。永遠の苦しみの中で恨みも憎しみも全てがどうでもよくなり、遂には尻拭いの象徴たる異形の成長に安堵を求めるようになるのは、(当然そんな経験をしたこともないのに)ひどくリアルに感じました。
 テーマの「擬態」に関しては、私は上手く読み取れませんでした。私は「生きるために他者を欺く姿を取る」ことが擬態だと考えています。清純な彼女の仮面を被っていた柚美は合致しそうですが、物語時点においてその仮面は既に剥げ彼女は擬態役を担いません。黒猫の姿を借りて接近した龍喜も近い気がしますが、龍喜の意思や能力としてそうなったのかが分かりませんでした(もしかすると「父を求め、父の愛を得られる姿を取った」ということなのかもしれません。そうであればこれは擬態と呼ぶべきですね)。

謎のイヌ亜科
 愛された男の不幸の話。
 後味が悪いホラーです。主人公がとにかく理不尽な目に遭うのはホラーの定番要素なのですが、あまりにも不条理な末路。愛の尻拭い、言い得て妙ですね……。
 柚美の虚言癖持ちストーカーとしての質感とかのリアリティがこの作品における重要なポイントで、自分が悪いくせに謝罪しまくるのとかバイト先とかの外堀を固めるのとか、実例がありありと浮かぶんですよね。胃が痛くなる……。
 テーマの擬態要素は黒猫に擬態した龍喜ですかね? 黒猫も13も不吉と結びつく物だから、主人公は黒猫を触ったことが一番の悪手だったのかな……。

33 雪と小屋/草食った

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます!
 雪山の管理のために一人で山にいる主人公と、そこへ尋ねてきた人物の話。
 最初は雪山と山小屋ということで尋ねてきた人物のことをおじさんだと思い込んで読んでいたのですが、途中で「これはもしかして女性…」と気が付きました。
 ムキムキロン毛のおじさんに押しかけられた人がいなくてよかった。
 独特な地の文を書く人で、途中で季節にインタビューが挟まるのがすごいなと思いました。
 こういうものなんだな!という脳のチューニングが必要な読み口の作品なので人によって好き嫌いが分かれるかもしれないのですが、僕は好きだなと思いました。
 僕の読み方が悪かったのと、多分季節の性別を固定したくないみたいな作者さんの思い入れがあると思うのですが「女性のように見える」のように登場人物の外見の補足を一言でも書いてくれると読者にとって親切かもしれません。
 季節の概念が人に擬態している(お題に合わせた言い方)というファンタジーな設定と、少女マンガのようなキュンの組み合わせ、僕はすごく好きで、最後の告白も意図的に主人公のセリフとして書いていないのめっちゃよかったです。
 まだカクヨムでは一作しか書いていない草食ったさんなのですが、すごくおもしろかったのでどんどん作品を書いて欲しいなと思いました。

謎のストクリス
 現代のおとぎ話といった風合いの、人の姿を取った「季節」との生活を描くお話。
 まず情景描写が上手いですね。冒頭で主人公の置かれた状況とそこに至る経緯、時代や文化水準といった舞台背景がスッと頭に入ってきます。客人たる「冬」が訪れるところから物語は動き出しますが、この滑り出しというか、日常が非日常に向けて動き出すところの自然さも良いですね。留守を預かっている身だと説明したり、戸惑いつつも身を案じて招き入れたりといったごくごく自然な振る舞いが、後に登場するこの物語で最も現実と離れた要素を際立たせます。
 そう、物語世界において春夏秋冬の「季節」たちは、人格と実体を有した存在として認知されています。ラジオから聞こえる「冬が行方不明」は当初は比喩かと思いましたが、読み進めるうちにどうやら文字通りの意味らしいと分かってきました。こうした風変わりな設定を読者に呑み込ませるのはなかなか難しいのですが、本作では「冬」の振る舞いを見た主人公にそれを冬と認識させたり、夏にラジオで語らせてみたりして不思議な設定を明かします。特に後者は面白い手法でした。突如現れた異質さを「これはそういうお話なのか」と受け入れるのは物語に慣れた人でないと難しく、そういった意味で人を選ぶ表現だと思いますが、私は好きです。それにラジオという舞台装置が良いですね。冒頭から登場させて冬小屋らしさを演出し、隔絶された二人の世界から舞台を移さないままに外の世界から描写を補完する役割を果たし、役割を終えた後は途切れがちにすることで余計な情報まで言及させず、さらには物語の締めくくりを再びラジオ番組風にすることにも繋がる。幾重にも役をこなしながら主役の邪魔はせずに脇に徹する、ベスト小道具賞を差し上げたい。
 少し気になったのは「徐々に花が開いていくような朗らかな笑顔」や「桜色の舌」という描写の春色が強すぎることでしょうか。こうした描写が早い段階で出てくるので、私などは何故主人公が客人を「春」ではなく「冬」と思い続けているのかが不思議に思っていました。くしゃみと吹雪が連動する様子や色の少ない恰好は確かに冬らしくありますが、それらを相殺してなお印象を残すほどに上二つの描写は強く春を想起させました。冬ではなく春だった、というのは本作の見どころの一つでしたので、もう少しぼかした表現にするとなお良かったかと思います。
 ただそんなことより本作の最大の魅力はやはり冬あらため春の愛おしさでしょう。主人公の男が最後に何を言ったのか、それを受けて春はどう思ったのか、どうなったのか。これらすべてを伏せて伝聞で語るのに、それだけで十分すぎるほどにその笑顔を想像することができました。ああ、なんて愛おしい。

謎のイヌ亜科
 降り止まない雪の中、人の形をした季節と一緒に暮らす話。
 童話のような世界観で、随所に挿入される季節へのインタビューが独創的な作品でした。“彼女”のカラフルな描写と雪山のモノトーンがコントラストのようで素敵ですね。
 擬態要素は「自分を冬だと偽っていた春」だと思うのですが、僕は単純なので真相が明かされるまで冬だと信じ込んでいました……! 細部の描写を読めばちゃんと春っぽいんですね。上手い。
 主人公が春のことを好きになっていく描写が丁寧で好きです。一緒にいたくて嘘を吐き続けてた春ちゃんのいじらしさ、特に好き……!! 綺麗なオチも含めて、完成度の高い短編だと思います。

34 純白の幼児、リリオネル。/ろじ

謎の有袋類
 川系の参加は5回目のろじさんです。
 企画の注意書きに「自作のスピンオフの投稿や、応募した作品同士に関連性を持たせるのは構いませんが、基本的に一つの作品内で物語を完結させてください」と書いてあるのですが、多分これはステータスは完結になっているけど明らかにお話の途中なのでは?
 よくわからないまま設定とキャラクターを羅列されてしまうと、多分戸惑う人が多くなってしまうと思います。
 自作のキャラが大好きで紹介したいという気持ちもわかりますが、読み切りの短編でそれをすると、読者と作者の温度差がすごいことになるのでこういうものは長編の番外編として長編の読者さんへ向けて書くのが最適だと思います。
 文字数の規模にあった人物と物語を書いてみる練習をするともっともっとはじめましての方に親切な作品が出来上がると思います!
 過去参加した第八回本山川小説大賞第十回本物川小説大賞芦花公園ホラー賞 こむら川小説大賞 の講評を見返してみると同じ事をいろいろな方から言われていると思います。講評を貰える企画に参加するメリットを享受してどんどん強くなりましょう。

謎のストクリス
 幼き魔王と従者が勇者一行を観察に行く物語。
 大きな魅力は作りこまれた登場人物でしょう。転生者である幼魔王と彼の世話に奔走する三重鎮。それぞれの容姿やバックグラウンド、考え方や喋り方の癖、話を展開する上でどのような役割を担うのか…といったキャラクタ設計がしっかり為されており、容易にその姿を思い浮かべることができました。また魔族の人間への認識が「敵対的だが、か弱く保護すべき対象」と語られるところなどは独創的で面白かったです。独創的、魅力的な世界とキャラクタを存分に味わってほしいという力があふれる作品だという感想です。
 気になる点としては、中盤から終盤にかけて物語の展開が説明不足のように思います。序盤の「人間(そして勇者)を見てみたい」というリリオネルの動機、それに応える三重鎮の「社会勉強に良いかもしれない」「幼き主君の愛らしい姿を見たい」という動機。ここは大変分かりやすく、上手く物語を動かしていると思います。ところが勇者と出会ってからの行動は今一つ噛み合いません。勇者の無礼な言葉遣いや危機感のない装備に怒りを燃やす重鎮たちの態度には、人間を保護対象・見学対象と認識していたときの余裕と整合しませんし、そのように敵対していた筈の勇者達の魔界への行き方に頭を悩ませる動機も今ひとつわかりません。悪魔族のもとへ勇者らを仕向けることが何やら魔族にとって都合が良いことは読み取れますが、その背景が語られないままだと唐突に感じてしまいます。また、ラビタルが「勇者が言霊を使う」と警告するシーンや、使命に対して盲目的になっている勇者の浅慮を描くシーンがありますが、これらは前後との繋がりが見えず、何のためのシーンなのか混乱してしまいました。
 おそらく作者さんの頭の中では繋がったストーリーがあるのだとは思いますが、描きたいシーンを急ぐあまり「繋ぎ」の描写が不足になっているのではないかと思います。誰にどのような理路や感情の動きがあって、どのように作用しあって、その行動を取るに至ったのかといった流れを一度整理するとグッと読みやすくなると思います。先述のように、魅力的なキャラクタや世界観を生み出せる作者さんだと思いますので、彼らを上手く動かすストーリー運びを意識することでより持ち味を活かせると思います。

謎のイヌ亜科
 無邪気な幼年魔王と、それに付き従う従者の話。
 恐らく作者の方の過去シリーズと世界観が一致する作品だと思うのですが、この作品単体のストーリーについて講評をするのは非常に難しいです。高級なコース料理の前菜だけ出された状態に近いので、字数に余裕もある事ですし、主菜の様子をもう少し見たいと思いました。
 とはいえ、キャラクター同士の掛け合いや世界設定、容姿の描写などは卓越したものを感じました。長編作品を切り出して短編にするのではなく、起承転結がしっかりした短編を読みたいです。

35 スカート一枚/鈴野まこ

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 百合。これは超良質な百合です…。めちゃくちゃよかったーーー!
 佐藤あやめと先輩の物語です。
 男装をして「あっくん」と呼ばれる一人の女子生徒を描くのに最初にスカートの描写から開始するのすごく印象に残るやり方ですね。
 甘いものに対するひとつまみの塩のようにこの「スカートを履いた佐藤あやめ」という先輩にだけ向けられた彼女の固執を描くことを際立たせているのですよ(早口)
 チヤホヤされるのが好きで、そのためなら一人称も日常生活も変えて、まるでカメレオンが擬態するかのように自己を変えていく佐藤あやめという一人の女性と、佐藤あやめの擬態には騙されない、あっくんではなく佐藤あやめとして自分を喜ばせようと試行錯誤する彼女を愛しく思う先輩が二人きりで放課後に語り合う。
 この時が永遠になればいいのに…と読んでる側が思ったら百合もラブコメも恋愛も大勝利だと思うのですよ。
 百合ポイントが高い部分なのですが「賞賛を求めて足掻く姿だ」ですよ。この少し歪んだ愛着。素晴らしい。
 鈴野まこさん、まだこの一作しかカクヨムに作品を投稿していないのですが、こう…今後も百合をどんどん書いて欲しいです。めっちゃよかったです。

謎のストクリス
 普段はスラックス姿の女子高生と、彼女が唯一スカート姿で臨む先輩との静かで蠱惑的な駆け引きのお話です。
 まず一番の魅力からいきますね。「私が好むのは彼女の(中略)賞賛を求めて足搔く姿だ。なにより、この女には何が効くのかと値踏みする彼女の目だ」。ここ!良いですね、ゾクゾクします。自分という存在が相手に影響を与えている、相手の在り方を変えている、相手を狂わせている。そうした相手を愛おしく思う自分もまた相手の影響を受け、互いに狂わせ絡み合い…とそんな昏く愉しい駆け引き。繋いだ手の先から相手の呼吸を読んで繋げる舞踏のようでもあり、三十一文字に想いを込めた相聞歌のようでもあり、即興で奏でるセッションのようでもあり。少しバランスが崩れれば瓦解する儚さ不安定さの中で今この瞬間の営みを途切れさせずに続けるような、ああ、何と表現すればよいのやら。直接的な表現は何もないのに、大変に官能的です。
 この魅力が最後の最後まで伏せられているのも良いのですよね。駆け引きという言葉に乗るなら、最初は佐藤さんのターン、最後は「私」のターンでしょうか。変幻自在に振舞って周囲の心を奪ってきた佐藤さんは表面に見せる軽い言動とは裏腹に、(おそらく半分は無意識に)周囲の心を惑わす愉悦を求めているんですよね。そのいわば悪意を、最後にさらなる悪意で包んでしまう「私」。美しく危険で蠱惑的です。
 擬態というテーマも上手に物語の核に絡みついていて、上手く料理したなあという印象です。姿を変えて忍び寄る者と、擬餌で誘う者。どちらも擬態で、どちらもその生の在り方のため相手を欺く姿なのですよね。大変良い物語を頂きました。

謎のイヌ亜科
 普段から異性装をしている後輩と、それを眺める先輩の話。
 一通り満足した読後感の後に字数見て驚きました。約3600字に濃厚な百合、めちゃくちゃ良い……。
 佐藤さんのスラックスを履く動機が「周囲から承認を得るため」というのが面白い視座だと思いました。他者に望まれて何かを演じる普段の生活が演劇部の部分にかかってくる作劇の妙はもちろんですが、彼女がそれを作戦の一つくらいに思っているドライさが特に好みです。周囲のリアクションのグロテスクさに対して、それを己の欲求を満たす手段にする強さを感じました。
 周囲がスラックスを履いている方に関心を向けるなか、恐らく主人公だけがスカートを履く彼女がスカートを履く姿を望んでいる展開も見事でした。周囲の求めに対して完璧に擬態をしている相手が不意に見せる隙とか、そういう文脈なんですよね。
 これ、主人公が求めてるのが「自分の前でだけスカートを履く佐藤さん」だったらめちゃくちゃ良いな……。

36 私は百合が描きたかった/神澤直子

謎の有袋類
 神澤さんの二作目です。
 作者の気持ちがあふれ出たタイトルの百合作品。いいですよね、こういう付き合わない百合。
 神澤さんはこういう絶妙に気持ち悪くて、自分の気持ち悪さを自覚しているし、ちょっと無礼な主人公を描くのが上手だと思ってます。
 第一回こむら川小説大賞のカレーの話にいた主人公の系譜を書けるのはすごいと思っていて、好き嫌いは分かれると思うのですがこういった方向性の、どちらかというと内向きにぐいぐい来る作品をこれからも武器の一つとして磨いていって欲しいなと思いました。
 擬態のお題回収は、憧れている相手の真似をするというところでいいんですかね。たまにいるよね、こういうストーカーチックな生き物…でも理想と離れた!と攻撃しないところが嫌悪感を覚えさせない絶妙なバランスで僕は好きです。
 かなり文章のお作法的には粗がある作者さんなのですが、こういう内容で魅せていく魅力はあるし、すごく見難いというわけでもないので、今後も、のびのび好きなものを描いて欲しいなと思いました。

謎のストクリス
『巍然屹立』の作者さんですが、がらりと雰囲気を変えてじっとり湿った執着と愛を描きます。
 私、百合というジャンルにそれほど造詣が深くないのですが、その構成要素として「二人だけの世界」があるのかなと思っています。そして、本作を読み解くにはそこが鍵になるのかなと思っています。語り手の有紀は美少女・凪子に憧れ、その姿格好を模倣しはじめます。それは確かに好意ゆえだったのでしょうが、模倣を察した凪子が有紀に向けるようになる感情とは別種のものであったと思えます。
 どちらも相手の事が好き、それは間違いない。でも有紀は周囲の目を気にしたり自分自身を分析したりするのに対して、凪子の目には自身と有紀の他は異物としか映っていないように見えるのですよね。凪子が望んだのは「二人だけの世界」で、有紀が望んだのはそうではなかった。そのズレが後半の展開に繋がってゆきます。こうした、人の感情の歪みやズレを描き分けるのが上手いですね。
 擬態というテーマに関しては、表面的には憧れの美少女を模倣する有紀、本質的にはまるでハナカマキリのように美しい姿に寄せられた獲物を狩る凪子がその役を担うでしょうか。もしかすると前者はミスリードかもしれませんね。面白いテーマ解釈だと思いました。

謎のイヌ亜科
 クラスメイトになりきる内気な女子と、そのクラスメイトの話。
 少し陰のある百合作品ですね。作者の方の前作がおちんちんビンビン侍なので落差が衝撃的なのですが、この作品にも神澤さんらしさが溢れていてとても良いと思います。
 主人公の有紀が決して褒められない人格なのが特徴的だと思いました。冒頭の凪子へのストーカーじみた執着は自身の外見への劣等感の裏返しだし、大量の隠し撮りから考えても面食いな人間なのでは? だから彼女の干渉に辟易しだすし、崎村の顔が良いとわかればときめく。
 凪子の有紀への感情が百合的なものであることは読者視点では察しがつくのですが、その本質が自己愛という点が凄まじい。同時に、服を真似させた理由に納得が生まれるのが作劇の上手さを感じました。
 この二人の関係が破れ鍋に綴じ蓋となるか、学生時代の気の迷いとして処理されるのか。この感情の末路にまで思いを馳せてしまう、とても味わい深い作品でした。

37 道化少女と僕と/五三六P・二四三・渡

謎の有袋類
 毎回濃いお話を投下してくれる五三六Pさんです。
 えーーー!めっちゃいい…キュン…5億点ですね。
 今回、5億点が豊作だ…。
 地の文が主人公の純くんの会話から入る畳みかけるような軽快な会話から入るこのお話は、一人の少年と道化の役割を持つ生き物のお話です。
 多分「道中」の冒頭が、エピローグにつながってるんですよね?頭を落として大丈夫?ホラーか?と思ったけど違った。
 いきなり出てきたワライカブリという存在も、グイッと引き込ませる描写で「なるほどそういうことね」とすんなり飲み込めた不思議。
 僕もよくやらかすのですが、すごく良い作品なだけに誤字がちょこちょこあって「これは伏線なのか?誤字か?」と悩んでしまった部分が勿体ないなと思いました。
 でも、誤字は誤字で置いておいて、そんなことは些事!というくらいお話の内容がよかったです。
 擬態が解けて全身がバラバラになりそうになった話の途中と、二人が付き合った後のおっちょこちょいの描写としての頭が落ちる描写の対比も美しいですね。
 おっちょこちょいで頭が落ちるの黒瀬さんは普段の生活でもやってそうだし、そういうのも含めての「私で良いの?」が強烈なパンチとして読者を襲ってくるのもすごく威力が高くていいなと思いました。
 なにより、再擬態をしたあとの純くんと黒瀬さんのやりとりがすごくいいですね。人でないことを誰よりもわかっている相手が自分のことを好きなのが信じられないのと、性格&性質も相まって茶化してしまう部分がすごく好きでした。

謎のストクリス
 照れ臭く幸せなラブコメ。幸せな作品でした。
 まずとにかく構成が上手く、緩急のコントロールがよく効いています。頭を落っことす謎の「彼女」らしき黒瀬さんとの、しかしその正体を探るにはあまりに他愛のない会話から始まり、擬態が解けることで物語は大きく動きます。第三章はまるごと擬態生物の解説パートですがここでストーリーが中断されたと感じないのは、これまでに散りばめてきた謎にここで答えているからでしょう。そしてこの章で読者に新たな疑問を植え付けます。すなわち、単体では知性を持たない集合生物たる黒瀬さんとの冒頭の甘酸っぱいやり取りは、はたして人格を持つ存在との会話と言えるだろうか、純君の思いは向けるべきでないモノに向けられているのではないか。…ときて「純君はそんな疑問とうの昔に通過済みだ!」とアンサーを叩きつける終章とエピローグ。いいですね、痛快。
 もう一つの魅力はやはり、本作の核となる存在「ワライカブリ」の設定ですね。虫のような生物が集まって人型を成し、単体では持ちえない群知能を手に入れる。なんと面白い! そしてこの大嘘を実際の人類史に差し込んでみたら何が起こるか、どんな社会に発展するか、どんな事件が起こるか…を大変丁寧に描いています。たくさんの小さな嘘で一つの大嘘をうまく現実に馴染ませてしまう巧さ。突飛な設定の生物を現実に居うるものと思わせてしまう説得力。素晴らしいと思います。

謎のイヌ亜科
 幼馴染みの黒瀬さんと、原付で送迎をする青年の話。
 五三六Pさんの独特な世界観は大好物なのですが、今回の作品もかなり響きました。
 冒頭の「おっちょこちょいな彼女は、思わず頭を階段に落としてしまった」という文章で読者に違和感を与え、そこから繰り出される黒瀬さんと主人公の小気味いい会話で一気に引き込ませる。そして中盤に明かされる彼女の正体、人間に擬態する虫であるワライカブリの集合体という事実で五三六Pさんワールドへ誘っていく手腕! 読者を翻弄するのが上手い方だな、という印象はありましたが、今回の作品でさらにその思いが強まりました。
 ワライカブリの設定もケレン味があって好きです。作中世界においてワライカブリと人間の共生関係は終わりつつあって、その中で思いを伝え合う二人の関係性ですよ……!! ラストの永遠の関係を願うような主人公の独白も含めて、5億点……!!

38 偽装人形の眠り/鍋島小骨

謎の有袋類
 毎回僕の心の5億点をかっさらっていく鍋島さんです。
 今作のジャンルはSF。これだけみて、サイバーパンクな九龍城的なアレかな?と思ったのですが、ちがった。
 作風が幅広いのも鍋島さんの素晴らしいところですね。
 今作は、主人公のジークと、その相棒ヴィゴの物語。
 ルビの使い方がすごく上手で、単語の積み重ねで世界観を読者に魅せていくのがとても上手だなと思いました。
 ジークが突然ヴィゴの姿に擬態した何かを突然解体してから、視点が切り替わる部分も、ジークが情報を読んでいるのかなと思えるので唐突でも飲み込める視点の切り替わりというのが素晴らしい手腕だな…と。
 ヴィゴの本体はあまり出てこないのですが、ジークがこれでもかという位に彼を「特別」だと言っているお陰で、陰が全然薄くない。
 一話で捜索されているマルグリットがどういう存在なのか、ジークは何故即答したのかわかるのも後からわかるのがすごく良いのと、冒頭の「本物がどこにもいなくなれば、分身が本物になる」という言葉が、本物がどこにもいなくなり、分身もいなくなったマルグリットは死んだと続くのもすごく好きです。
 そして「ヴィゴが僕の名を選んだ」ここですよ。ここ。拙者名を与えられて名も無きものや行き場のないものが何者かになるのが大好き侍……。
 名を与えてくれて唯一の安心を与えてくれる存在ーーーー!好き!5億点!
 このお話の設定は中編や長編に使えると思うので次の長編などに使っても良いのではないでしょうか?
 安定したクオリティの作品をバンバン出してくれる鍋島さんにするアドバイス、ほぼないのですが、やはりここは川。ゴリラを出して暴れさせて見るのはどうでしょう?
 ゴリラの手綱を握り、5億点を出してくれるのを心待ちにしています…!

謎のストクリス
 人間と区別のつかない人工存在を作り出せるようになった未来のお話。
 そのような存在を作り出せる社会で何が起こるのか、という想像図が丁寧に描かれていて、しっかりした物語だと思います。
 特に凄いと思ったのはウィゴの存在感です。彼自身の出番は殆ど無いにも関わらず、ジークのウィゴへの信頼が物語の端々から伝わってくるため、彼の存在が非常に大きく感じられます。「眠り」というタイトルに対しての「毛布」。彼が登場してからの安心感はそれまでの重く暗い影を確かに拭いました。
 それから第2話、ジークによって終了を迎える偽ウィゴの起動から停止までを描いた一連がとても良いです。全体からすれば異彩を放つシーンですがこれを入れた意味は大きく、ここで物語全体の陰鬱さを印象付けるのが巧いです。読んだ我々は、偽装人形が自我無き人形でもなければ騙そうという悪意も無く、コピー元自身と変わらぬ自我を得て行動していると知ってしまいます。これが後の展開に効く。すなわち、生まれ壊されてきたマルグリット達の痛みをありありと想像させられるわけです。
 そんな忌まわしきマルグリットからジークになれた僕と、そうさせてくれたウィゴ。彼らの出会いであったり名付けの経緯であったり、あるいはウィゴの戦闘能力であったり、多くは語られぬ部分にも刻まれてきた絆があるのだなと想像が膨らみます。また細かいところにも技が光ります。名前から察するに霍見は日独の共同メーカーでしょうか。外装(スキン)関連は英語圏が強いのかもしれません。ルビや造語に加えて、こうした小さなギミックも世界観にそっと色を足します。多くは語らず背景を想像させるのは文章に慣れている方の技巧ですね、見習いたい。

謎のイヌ亜科
 偽装人形が蔓延る未来世界で起こる事件を解決する、探偵と元軍人の話。
 めちゃくちゃ好きです。未来世界で、若い探偵と中年の軍人のコンビで、バディ同士の巨大感情? 良いんですか、こんな贅沢??
 ジークの性格がとにかく好きです。強くもあり、弱くもある。クールなようで、ヴィゴに擬態した敵にめちゃくちゃキレてるの良いよね……。親の元から自発的に離れてヴィゴと出会ったからか、すごく信頼してるんだろうな……という感情が隠し切れてない。好きです。
 偽装人形の農場周りの設定も大好物ですね。ヴィゴに化けた偽装人形はマルグリットの孫引きの1人なのかな、と思ったのですが、彼らは暖かな海に戻ることを幸福と捉えている。そう考えると、完全な善意でジークを連れて行こうとしたのかな……という怖さがある。プログラムされた幸福とか役割に殉じる幸福、アンドロイド物で重要なファクターとなる要素を描ききる筆力に感服しました。
 今回の作風はかなりハードボイルドの路線を感じたので、ジークとヴィゴの活躍をもっと見たいです!

39 彼女はもう死んでいる/千石京二

謎の有袋類
 千石さんの二作目です。
 一作目とは違った作風の物語で、いきなり彼女が「今日わたし死んだらしいんだよね」と言ってくる綺麗なスタートダッシュを決めた作品です。
 擬態のお題については、謎の胡散臭い外国人に擬態していた神様の部分で良いんでしょうか?
 もう死んでいる彼女と、それを受け入れられない主人公が思い出を作っていくお話で、やるせなさと切なさが感じられる素敵な恋愛小説です。
 そのせいか、奇跡を起こす神様のクロノスが正体を現したのが少し唐突かな?と思いました。
 チューリップの球根を手の上で咲かせてからまた球根に戻す、アジの干物を鮮魚に戻してぴちぴちいわせたあと、また干物に戻してみせるというのは確かに時間を操作しているのだなーと後から読んで納得はできるのですが、いきなり異次元に吸い込まれるのに結構ビックリしてしまいました。
 これはビックリするのが好きな人も居るので好みの問題なのですが、ミキがもう少しカルロスさんに対して神様的なことをほのめかしてくれたらビックリよりもスッキリする気持ちよさが勝ったかもしれないな…と思いました。
 千石さんは、人の死を扱う物語がとてもうまいと思っていて、第一回こむら川小説大賞の時に出していただいた「幽霊には足がない」やホラー作品もそうなのですが、テーマと人ではなくなったものの書き方が独特で読んでいて引き込まれます。
 これからも長所をどんどん磨いて素敵な作品を描いて欲しい作者さんです。

謎のストクリス
 覆せぬ死の運命にありながらも、アディショナルタイムを得た彼女との最後の数日間を描いたお話。
 悲壮感を煽るような描写は控えめに明るく心地よく緊張感の薄い会話が続きますが、あっけらかんとして見える彼女の態度が読み進めるにつれてむしろ逆にその運命を決定的で抗えないものにしていると印象付けてしまうのが切ないです。もっとポップであっても、もっとシリアスであってもこの味わいは出せなかったでしょうね。凄いバランス感覚。暖かいのに寂しくて、明るいのに冷たくて、繊細な作品です。
 中盤では受け入れているようでいて「死にたくない」「でも死んじゃった」と話す彼女の様子に胸が詰まります。もう死んでいるのに「死にたくない」、死にたくないのに「もう死んじゃった」。この短いセリフの中で、絶望と受容とが綯い交ぜになっていて、それを想像すると苦しくなります。
 もうひとつの魅力が正体を現した時の神とのコミュニケーション。異存在との、言葉は通じても規範や価値観は通じない会話。これを「近い意味合いの単語群」という形で表現するのは凄いなと思いました。異存在感を出す技法としても優れていますが、それ以上に、そんな存在に理屈や感情をぶつけても決定を取り消してはくれないし、それは罰でも厳しさでもなく、ただただ摂理なのだとわかってしまう。そこが凄い。技法の面でも物語としても、大変良いものを読ませていただきました。

謎のイヌ亜科
 死んだ彼女が動き、死を受け入れるまでの話。
 最初の読み口のポップさが読み進めていくごとにどんどんほろ苦くなっていく味わいの変化が魅力的な作品でした。死別の後に彼女の分も生きることを選ぶの、良いよね……。
 カルロスさんのキャラクター性が好きです。胡散臭くて、奇妙な宗教家の老人。ユーモラスなカタコト喋りの裏に隠された、神の側面。教会の要素でキリスト的かと思わせておいて、ギリシャ神話由来のクロノス神だったという意外性にやられました。クロノスは時間を司る神で、死は管轄外っぽいんですよ。だからこそミキちゃんの人生におけるロスタイムを用意できたのかな……。

40 神田ベリーは何か怪しい/木船田ヒロマル

謎の有袋類
 ヒロマルさんの作品、今回はこう……弾けていますね。
 実験的な作品なのではないでしょうか。
 怪しすぎる女子生徒が怪しくてすごいことをして終わるというお話で、これはヒロマルさんなりのゴリラにチャレンジしたんだなと言うことは強く伝わってきます。
 下限ギリギリのこの作品、かなり実験的な内容ですね。ヒロマルさんは川系の覇者ですし、かなり高い文章ちからがあると思っているので、この実験作をもう少しコネコネして欲しかったなーと思います。
 アイディア段階というかプロット段階で、お話に一捻り入れるとゴリラに深みが増して強度が増したのではないでしょうか。
 ゴリラ、やはり突飛な者だけに「ゴリラだった」で終わってしまうのはゴリラに呑まれてしまった状態とも言えます。
 前半に置いてある仄かな恋愛フラグの回収をしてみたり、飼育小屋のウサギに関してもう少し伏線を入れるなどヒロマルさんになら出来ると思うので、次回は是非暴れたゴリラを見事に乗りこなす……そんなヒロマルさんのひねり出して練り上げた綺麗なKUSOを見たい。そう思いました。
 チャレンジすることは素晴らしいです。この調子でどんどん核実験場やゴリラ闘技場としてこの場を使っていって欲しいなと思いました。

謎のストクリス
 奇行少女を探る少年のお話。
 目を引くのはわかりやすさ。導入部分で主人公の立ち位置、神田ベリーなる存在とその奇特性が示され、ああそれは確かにオカシイと納得させる。会話のテンポが小気味よく、時折入る竹田のツッコミが緩急を与えて読みやすいのはおそらく意図したコントロールでしょう。後半では物語が急展開を迎えますが、ここでも何が起こっているのかわかりやすい。戦闘のように激しく動くシーンは何が起こっているか混乱しがちですが非常にスッキリまとめていて、地力の高さを伺わせます。
 ただですね、上位存在が地球の保護のために仮の姿を取り潜入していた、というストーリーラインは大変素直で、こういう読み方はよくない気もするのですが、ヒロマルさんならもう一捻り入れそうだと期待していたのでこのストレートな結末は意外でした。前半で奇行の一つとして挙げられていた金魚との会話が回収されるのは面白かったですが、まだインパクトに欠けるかな…というか。いや、私自身もインパクトやスピード感というのを自作のなかで上手く扱いきれていないので偉そうなことは言えないのですが…。

謎のイヌ亜科
 奇妙な少女、神田ベリーの話。
 とにかく神田ベリーの存在が面白い作品です。名前は明らかに偽名だし(イギリスの地名みたいな名前)、人の振りをしようとしていないような奇行が目立ちます。その正体が明かされるシーンで、ジャンルが一気に別作品になるんですよね。このコントロール不可な要素は……概念ゴリラ!
 ウサギ小屋に潜む外宇宙の犯罪者(ここも擬態要素っぽい)とか、彼女の正体が金魚とか、後半からの畳み掛けるようなスピード感はまさしく川系企画の実験作って感じでした。欲を言えばもう少しこの後の展開が見てみたいですね……。

41 したいのぼくら/修一

謎の有袋類
 独特な作風でお馴染みの修一さんです。
 結末や詳細を読者に委ねるスタイルは多分作風なのだと思うのでそういう前提で講評をしていきたいと思います。
 したいのぼくらというタイトルからして、多分溺死をして、そこから主人公が彼女に導かれてと言うか、置いて行かれて生き返るという部分はわかったのですが、擬態や「なんにでもなれる」がどういうことなのかはくみ取ることが難しかったです。すみません。
 なにかの歌をイメージして文字起こしをしたような綺麗で透明感のある作品です。
 主人公である「私」が「彼女」と一緒になりたがっていること、「ぼくら」といっている存在が水に溶けたり、なにかに擬態することが得意と言うことは伝わってきます。
 まさに物語に出てくる「彼女」のように、透明でふわふわして捉えどころの無いワンシーンの連続は、絵本のように水彩画が添えられるととても幻想的でロマンティックな作品なのだろうなと思いました。
 多分、修一さんはこういった読者に委ねるような表現が好きで書いていると思うので必要ないのかもしれませんが、もう少し自分の頭の中にある情景や、設定などを詳しく書くと読む人の間口が広がるのかもしれません。
 でも、この作品は「彼女」の透明さと得体の知れなさも含めてこういうふわっとして綺麗な表現が合っているのかもしれない。そう思わせられるような作品でした。

謎のストクリス
 淡い水色の印象が残る、夢と現の間を漂うような作品でした。
 先に言い訳をしますと、私は本作をちゃんと読みきれているのか自信がありません。物質的・直接的な描写を避けて、語り手の心象を通して見た世界を描いているため、どこまでが事実でどこからが幻想なのか分からない…というより、おそらく本作はその境界を意図的に溶かした、事象と心象を切り分けずに読むのが正しい作品なのだと思います。「彼女の擬態とは具体的に何をしているのだろう」と悩むのではなく、「彼女は周囲に囚われず笑うけれど、僕は周囲の注目を集めてしまう」と語り手が思っていることが重要。もしかすると具体的に何をしていたかという答えは作者さんの中にはあるのかもしれませんが、その正否はさして重要ではない、そういう作品なのだと思います。
 生きるために擬態の必要があったということは、雑踏を成す人々と「私」や彼女は何か異質な存在だったのでしょう。彼女が海に融けたのは逃避だったのかもしれないし解放だったのかもしれない。でもそれは陰鬱なものではなく、寂しくも明るい事だったように見えます。「私」も続こうとしますが、その願いは彼女によって遮られます。彼女は擬態から解放されてなんにでもなれるようになったけれど、「私」は下手な擬態をやめて、そうしたらなんにでもなれるよ、と。もしかすると擬態が上手かったからこそ彼女は海に融けるしかなかったのかな、とも思えます。おそらくは雑踏の人々と同じく異質な存在であったはずの両親の愛を目にして、これからの擬態を解いた生き方に希望を示して「なんにでもなれる」と物語は幕を閉じます。
 先述したように私が読み慣れていないタイプの物語なので、技法の面で良し悪しを論ずることは難しいです。それでも感想を書かせていただけるのなら、淡く仄かながら希望の持てる、優しい作品だったと思います。

謎のイヌ亜科
 擬態の上手い彼女と、擬態が下手な「私」の話。
 詩的で幻想的な作品だな、という印象です。修一さんの文体はカラフルな水彩画のような雰囲気を感じる唯一無二な文章だと日頃から思っているのですが、この作品からもその風格を強く感じました。
 描写からは、白昼夢のような、死後の世界のような風景を想像しました。彼女はすでに死んでいて、主人公は臨死体験から醒めたのかな……。そう解釈すると、彼女と主人公の『何にでもなれる』という文脈が異なるんだな、と気づきました。恐らく彼女は概念的に何にでもなれる(擬態)で、主人公は生者として何にでもなれる未来がある、ということでしょうか?

42 死出虫の娘/QAZ

謎の有袋類
 QAZさんが今回も参加してくれました。ありがとうございます。
 芦花公園ホラー賞ではじめて小説を書いてみてくれたQAZさん、書くたびに小説が上手くなっている気がします。
 そして……これはペガサス……ペガサスだ!久しぶりに着たペガサス概念でテンションが上がってしまいました。
 悲惨な運命、百合要素、残酷描写、死、バッドエンドとおそらく好きな要素を全部盛りしたであろうこの作品は、多分QAZさんのしたいことが大体描けたのではないでしょうか?
 主人公である「私」の住んでいた場所が比喩表現なのか本当に腐った泥に住んでいたのかなど、物語の設定とリアリティラインの位置がわからなくて混乱することもあったので、今後は舞台設定や景色の描写にも力を入れるとグッと作品の輪郭が洗練されると思います。
 生き延びるために、一日だけ友達になったリリーに擬態した「彼女」はつかの間の幸せを得て、自分を「シデムシのようだ」と自嘲気味に思うというアイディアや、虫は所詮虫であり、更に上の捕食者によって喰われるという結末はすごくよく出来たギミックだったと思います。
 この調子で、どんどん作品を書いていって欲しいなと思います。

謎のストクリス
 唯一の友人の死を利用し過酷な運命から逃れようとする娘の話です。
 まず序盤から陰惨な生い立ちが語られます。耳を塞ぎたくなるような身の上なのですが、淡々と語る様子が却ってリアリティを与えます。また「結局私にも隣の部屋の少女にも、選択肢など無かったのだ」は後半の展開にも繋がります。選択を重ねているようで運命からは逃れられない絶望という本作の核はこの時点で既に示されています。
 さて悪趣味な神の悪戯か、彼女は死んだ別人に成り代わり、その家庭に潜り込むことに成功します。自分の運命の延長線上にはなかったはずの幸せな生活。彼女は動物の死骸を餌とし托卵の生態を持つシデムシを自身に重ね、最も成功したシデムシとしてシデムシの姫を自称します。その糧となったリリィに申し訳なさを覚えつつも、自分が生きるためには仕方がなかったのだと自分を納得させます。納得させたということは罪悪感が芽生えていたわけで、彼女は生い立ちからは信じられないほどに良識を備えています。またラジオで聞いた昆虫を自身と重ねて自嘲する知性も備えています。この良識や知性が無かったならば、偽物のリリィに対する両親の態度の機微を感じ取るほど賢くなかったのなら、両親を長く悩ませることなくケジメをつけてから出ていこうという心遣いが無かったのなら、あるいは彼女は「終わりの始まり」を迎えることはなかったのかもしれないと思うと非常に皮肉で残酷なことに思えます。そのように生まれついてしまったこともまた彼女が運命に縛られていたことの一端と読めるかもしれません。
 伏線も丁寧で、「リリィは目が悪いのであまり外に出ることがない」が「私」がリリィに成り済ます際にも、両親がその擬態を解く際にも働き…と良い仕事をしています。先述した「選択肢など無かった」の繰り返しなど、構成もよく練られた物語でした。いやはや、最悪な読後感(誉め言葉)です。

謎のイヌ亜科
 過酷な生活から抜け出すために友達に成り変わった少女、その家族の話。
 作品全体から感じる濃厚な死の匂いがシデムシというモチーフで繋がる妙は、圧巻の一言でした。幸せを知らない地獄のような生を歩んできた主人公にとって、リリィとの1日だけの友情は蜘蛛の糸のようなものだったのかもしれない。主人公の嫉妬によって成り代わることを選び、実は悪人が化けていたリリィの両親に殺されるのは因果応報のようなものを感じました。それでも、彼女の過酷な人生に救いはなかったのか……と考えてしまいますね。
 愛されることを求めていた主人公が今際の際にリリィとの友情を回想するシーンが好きです。リリィは、出来る限りで主人公を危機から救ったんだな……。

43 全人類俺化計画/双葉屋ほいる

謎の有袋類
 いい加減にしろ!!!!!!!!!!!ちょっといい話で終わった!
 毎回ジェットコースターみたいな作品を書いてくれるほいるさんの作品です。
 「おぎゃーーー!! ママーーー!! 期末試験頑張ったでちゅーーー!! よちよちしてほしいでちゅーーー!!」じゃあないんだよwww
 ほいるさんのすごいところは、出オチではなく、このパンチの威力を殺さずに最後まで火力を増やして読者の脳を揺さぶってくるところですね。
 神様いい加減にしろ!と思わず笑ってしまった。
 さらっとやっているのですが、ほいるさんは本当に読者に設定や都合をわからせるのが得意だと思っていて、荒唐無稽な設定も「なるほどな」とつい納得してしまいます。
 あと、ところどころに挟まれるパワーワードがしつこくないのがすごい。
 地力の高さと、読みやすい文章が支えているこのKUSO小説力……というような妙な圧力を感じます。
 今作は、普通の人間に擬態していた主人公が性癖お漏らしをして自殺を選ぼうとしたら、同じ推しを持つ神様(ヤバい)が職権乱用をするというお話。
 バブみが当たり前になってしまった世界で感動していた主人公だったが、推しは活動を停止してしまっていた……と常識改編ものというか、一つの思考実験のような作品にもなっていてたかがKUSO、されどKUSOといった味わい深い小説になっています。
 最後の結末も「恥ずべき事無く己の性癖を誇って生きていこうな」とちょっといい話になって終わるのはハピエン好きの僕としてもかなり大満足な結末でした。
 余裕が出てきたら、ゴリラを暴れさせるシリアスものなどにも挑戦して良い時期だと思います。
 ばぶーーーー!!! ママーーーー!!と叫びたくなる良いバブみ小説でした。僕は巨乳のママ派です。

謎のストクリス
 世界改変とその思わぬ副作用、そして主人公の決断を描いた思考実験的物語。
 人々の認識が変容したらどんな世界が訪れるかという実験要素と、マイノリティな嗜好のゆえに苦しむ人間はマジョリティ側に移れば幸せかという問いかけの要素を含む、KUSOを極めたような滑り出しに対して意外にも真摯で丁寧な物語でした。作品を彩るのはその豊富な語彙と表現の妙。私は基本的には下ネタって苦手なのですが「俺の股間がつかまり立ちしてしまいそう」「あまりにも急すぎる乳離れ」など、こう、感心が不快さを薙ぎ払ってしまうので爽やかに笑えます。
 このような独特の表現にアクの強い性癖を混ぜるので荒唐無稽に見えがちですが、ストーリー構成は大変しっかりしていて、起・承・転・結のお手本のような作りだと思います。これは少し講評で言及すべきか迷ったのですが、この作品って順次投稿された連載形式の作品なのですよね。全て書き上げてから構成を練り直したりせず、一話ごとにこの順番で書かれ放たれてきたわけで。なんというか勢いに任せたような執筆スタイルでこれだけ綺麗に構成するのは凄まじいです。
 さて作品が投げ掛けた問い「自分の嗜好がマジョリティであれば幸せか」に対して主人公は「オレのママは真間川くるみだけなんだよ!(中略)いくら俺が恥ずかしくなくなったって、飛び降りたことがチャラになったって、推しがいなくちゃ意味ねぇよ!!」と答えを出します。力強く明確な、作品としてのアンサー。強く響きます。これは主人公とはまったく別種の嗜好を持つ人間にもやはり強く響いたのではないかと思います。双葉屋さんらしい、良い作品でした。

謎のイヌ亜科
 とある大学生が盛大に性癖バレをかまし、人生を後悔する話。
 清々しいまでのKUSO小説です! 双葉屋さんの唯一無二の言語感覚から繰り出される下ネタとギャグのジャブがボディーブローのように効いてくるのですが、その裏に一貫した性癖賛美があるんですよね。『好きなものを好きと語れ!』というメッセージ性を感じる。『たらちねオギャ野郎』と『股間がつかまり立ち』に腹筋がクリティカルダメージを喰らいながら、そう思いました。
 性癖の肯定にVtuberを接続したのも個人的に凄く魅力的なポイントでしたね。
 真間川くるみちゃん、恐らく第一次vtuberブームである18年4月から活動している古参ですね。性癖コンセプト型であり、FANB○Xをマネタイズに使ってるあたりからくるみちゃんは個人勢で自分の身体を自分でデザインするタイプのVかな、と思ったのですが、個人勢のVにとって3ヶ月間活動するためにはある程度のモチベーションが必要な印象があります。くるみちゃんがオギャらせたい性癖持ちだと考えると、通常の世界線で2年間も活動を続けているのはオギャりたい性癖のリスナーが一定数居るんじゃないか、と推察できます。
 そこから、オギャりを特殊性癖だと思っているのは主人公だけで、決して認められないものではないのではないか、という現実が見えてきます。それは、確かな救いなんですよね。
 他人の迷惑にならない範囲で性癖を語っていこうな……!!

44 ご存知のとおり人として私は/大鳥居平凡

謎の有袋類
 はじめましての方ですね。参加ありがとうございます。
 センター試験の話です。机やベンチを木の死体、鮭の切り身を鮭の死体と書く独特な視点を持っている主人公の一人称で綴られている小説です。
 ひたすらセンター試験についてや地球の気候についてなど説明をされ、猫が話したり、とにかく主人公がなにかについて終始説明をしていて、文章を書くことが好きで慣れている方の作品なのかなと思いました。
 多分、書くことがとても楽しくて書けることをすべて書いているのと、なんらかの意図があってすべてを詳細に書いていると思うのですが、目的やどんな話なのかがわからないまま説明が続いてしまうので、文章を読み慣れていない人には少しだけ不親切な作品かもしれません。
 擬態に関しては、よく読み取れませんでした。多分、僕が文学や読み取る力不足だと思います。すみません。
 おそらく主人公が人間ではなく、人間に擬態しているなにかなのだろうとまではわかったのですが……。
 独自の言語を駆使した猫の言葉?も、ストレスを好まない読者にはかなり負担が大きいかな?と思いましたが、国語や言語が好きな人には多分興味深いと思うポイントだと思うので、かなり読む側の間口を狭めたソリッドな作品だなという印象を受けました。

謎のストクリス
 徹底的に前提を共有する、という実験的な作品ですね。
 小説、物語としては賛否別れるところだと思いますが、私は好きです。本作を読んでまず初めに思い出したのはWikipediaの「ヒト」の項目です。いったい誰が読むことを想定したものなのか、ヒトならばご存じであろうことを事細かに解説しています。そしてもう一つ思い出したのはAIにおけるフレーム問題というトピック。ここでは詳述しませんが、ヒトの無意識の思考切り捨てって凄いよねという話です。
 さて本作は皮肉にも「ご存じの通り/人として」などという二語をタイトルに冠する、前提共有の不足を埋める物語です。一応ストーリーとしては受験に向かう朝を描いていますが、そちらは重要ではないでしょう。語り手は多くの人間ならば無自覚に前提条件としてしまう事柄を逐一自覚してしまう、あるいは自覚しようと努力している人間であり、その生活を描いた物語と読むべきでしょう。それは作中に頻出する言葉の定義にとどまらず、たとえば美しく降る雪を眺めながら「この雪が難渋を引き起こし、恨む者が出ているかもしれない」と考えるなど、「雪は美しい」の裏にある自分の前提を彫りだしたりしています。こうした文を読んでいくと、特に英語と漢語を混ぜた猫の発言などが特徴的ですが、我々が無意識に追いやっている暗黙の前提を明るみに出して並べてまた仕舞うという面白い体験を得ることができます。主人公を通してこの体験を与えることが本作の目的だったのかなと思います。
 テーマである「擬態」に関しては、このような厄介な思考に取りつかれる主人公が表面上は普通の人間として暮らしていることがそれにあたるのかなと思って読みましたが、もしかすると「そもそも人間でないモノが人間の在り様をトレースしている」ということなのかもしれません。この部分はちょっと判別ができませんでした。
 さて主人公にとっては大変に疲れる生き方でしょうが、最後の最後で「それでも私はどこか楽しい気分で、今しばらく雪を見続ける」と締めます。ここで雪を恨む人のことや、自分がそうなる可能性についての思考を捨てるのですよね。思考の切り捨てを成功させる。正直なところこれをどう読むべきかは迷いますしが、個人的にはさっぱりと晴れやかな物語であったと感じました。

謎のイヌ亜科
センター試験当日の朝を巡る、日常の話。
 面白い試みの作品だと思いました。脚注のような単語説明を繰り返す文章の意図を中盤まで読みかねていたのですが、猫の「少しでも通じるように話す努力がいっそうわかりにくくする」という台詞でこれが主人公なりの価値観のすり合わせだとわかる。人間が無意識的に行っている情報の前提共有を形にするとこうなるのか、と感じました。
 物事を理解するのに時間がかかる主人公と、人間社会に妙に適応している猫との対比が面白さを加速させていて魅力的でした。
 一点、今回のテーマである擬態要素が見出しにくかった点が気になりました。主人公が社会に溶け込むために情報のすり合わせを行う部分が擬態なのかな?
 分かりにくいことが作品の魅力に寄与しているので、説明を入れるのは野暮なのかもしれませんが……。

45 アリス・イン・ザ・金閣炎上/和田島 イサキ

謎の有袋類
 ゴリラよりもナウシカが強い!!!油断していたらやられた!
 アナル日本酒こと和田島イサキさんが今回も参加してくれました。
 百合ー!超良い……。閉じた環境で与えられた紛い物の男の役割をまんざらでもなくやってのけた主人公と、彼女の目の前に舞い降りた天使(生粋の日本語話者)……。
アナル日本酒のインパクトが忘れられなかったので、今回は真面目な百合かな?ずいぶんしっとりとした導入だなーとふんふん読み進めていると、影を見せるゴリラ。
 いや、ゴリラは本当にジャブでした。ほうほうイマジナリーゴリラ……しかしやはり実在ゴリラの方がインパクトは……などとゴリラソムリエ気取りをしていたら、現れましたね。
 金色の野に降り立つ青き衣……どういうことだよ!!!!!ギアを一気にあげて畳みかけてきたところで笑っているうちに見事にタイトル回収をする鮮やかな手腕に感動してしまいました。
 擬態の回収もよかったですね。張りぼての獣、初心者向けの男概念の女。好き。
 そして百合的にもですね……この無邪気装い誘い受けですよ。ねぇアリスちゃん?
 眠ったふりをして誘い受けをしていたかと思えば、猛攻ですよ。
 タバコの下りが最高によかったですね。あとナウシカ降臨。
 読む側も、主人公と同じ位お腹いっぱいになりました。よかった。

謎のストクリス
 リズムよく語感よく紡がれる言葉の奔流。目に耳に心地よく刻みこまれてゆく作品でした。何という言語感覚をしているんだろう。
 思考はあちらこちらに飛んで脱線し、時系列も何度も切り替わるのに、読んでいて混乱が少なく、何を思っているのか何が起こっているのか大変分かりやすいのがまたすごい。これはあちらこちらに話題が飛んでも、物語の軸をアリスを前にして「男」で在ろうとする主人公の葛藤から外さないよう意識されているからでしょうね。事実、終盤の終盤でアリスが正体を現すまで彼女の葛藤が続き、最後も「私が男に生まれてさえいれば」と締めるので一本芯が通っています。
 テーマへの回答も素敵です。かつて少女たちの中で求められ「男」を演じ、今宵また「男」で在ろうとする主人公。しかし本物を知らぬ不完全な擬態ゆえにそう在り切ることができない葛藤。これは確かに「生きるため」「相手を欺く」営為であり、私の考える擬態にマッチします。そして葛藤を断ち切ったかに見えて行ってしまう奇行と、それによって明かされる無垢の仮面の下で獲物を待つアリスの顔。これもまた擬態。
 あちらこちらに配置された小道具、ライターや煙草だったり、冒頭の「私が男に生まれてさえいれば」だったり、ミッション系スクールの出身という生い立ちだったりが後半で鮮やかに回収されてゆくのもまた気持ちが良く、読んでいて楽しい作品でした。私の感覚としてはこれは音楽に近く、文章の意味内容に先んじて目や耳が受け取る刺激が心地よく、次第に意味が解釈されてじわっと味が広がるような体験でした。

謎のイヌ亜科
 美しい友人に情欲を抱く女子大生の、20歳の誕生日パーティの話。
 タイトルから吸引力が凄い。ティム・バートンと三島由紀夫がどういう繋がりを、と思って読み進めると、確かにアリスと金閣炎上の話でした。というかアリスの金閣が物理的に炎上する話でした。どういうこと?
 百合で酒が絡んできた時点で脳内にチラついた『アナル大吟醸』を振り払いながら読了したのですが、主人公がパンツを脱がした段階で嫌な予感が凄かったです。結果的に燃やされたのは前の方なんですけど。
 テーマである擬態要素は主人公の過去ですね。恐らく彼女は女性ばかりの環境にいて、その中で求められていた「男性としての役割」に辟易していた。誰かを満たしていた自分が満たされるために言い訳を重ねる。実に人間らしくて魅力的ですね。
 展開自体はめちゃくちゃバカな大学生のノリなんですけど、その根底に潜む関係性とか感情とか性別に対するあれこれとか『大人になること』とかの要素の取り扱いがとても上手い。やりとり一つ一つが微笑ましくて、それでいて主人公の内的動機はとても納得できるものなんですよね。結果的に出力されたのが『おけけライター黒岩』なんですけど。なんで?

46 滞空日和/狐

謎の有袋類
 狐さんの二作目です。
 いつもの雰囲気とはがらりと違った作風ですね。
 とあるハンディキャップを抱えたマイノリティである架空の存在「有翼人」を主人公にしたお話です。
 この有翼人の設定が個人的にすごく好きですね。鳥が好きなので。
 翼があるだけでも不便なんですけど、更に足が退化してしまっているのは正直めちゃくちゃ大変だと思うのですが、そういう読者の想像を予想した上で「可哀想とだけ言うな」みたいなアナーキーさを感じるテーマの作品ですごくいいなと思いました。
 どんなハンディキャップを抱えていようが、マイノリティだろうが自分は自分だけど、リアルな肉体はどうしても身体的な要素に引っ張られる。それを悪くはおもっていないけれど、それでもただの自分として擬態をしてインターネットに身を投じるというのはすごく良いお題の使い方だなと思いました。
 個人の好みなのですが、1メートルほどの高さを滑空するとなると、やはり有翼人専用レーンみたいなものもあるんですかね?
 文字数に余裕があるのでさらっと道路情報なんかの描写もあると僕が個人的にめちゃくちゃテンションが上がりました。
 最後の「僕は滞空の用意を始めた」でタイトル回収するのもすごく綺麗でよかったです。
 雨が続くこの時期に読むからこそグッとくる素敵な物語でした。

謎のイヌ亜科
 翼がある者の苦悩を書きました。

謎のストクリス
『義体探偵』でサイバーパンク世界を展開した狐さんの2作目です。
 舞台は大きく変わって現代社会。ただし稀に翼を持った人間が生まれる世界です。作中でも暗示されますが、有翼人は現代社会でいうところの身体障碍者にあたる扱いです。歩行に特化した「普通」の人の生活様式に彼らが合わせるのはなかなか大変で、止まり木のようなバリアフリー化が進んでいるものの未だ過渡期という時代。主人公は飛行も歩行も人並みにはこなせぬ身体に生まれ、劣等感とともに生きてきました。作中時点ではもはや「有翼人」と一括りにされて向けられる妙な期待ににも哀れみの視線にも慣れ、笑って往なせるほどになっていますが、決して心地の良いものではないでしょう。翼も足も無い電脳空間では剥き出しの自分でいられることに心地よさを覚えつつ、それは実体を隠した欺きの生き方だとも考えます。
 しかしながら彼は、不便さも窮屈さも依然として続く世界において「まさしく滞空日和」だと笑って自分が自分であることを肯定するのです。劇的なことなど何も起こらない日常のワンシーンでありながら、いや続きゆく日常の一コマであるからこそ、歪みも弱みもひっくるめて自分を愛せる、優しく爽やかな物語でした。

47 スマッシュブラジャーズDX/JN-ORB

謎の有袋類
 ぬっちくんの小説です。これが書き始めて二作目の作品かな?
 前回は北海道は現代ファンタジーが息衝く土地ということを教えてくれた作者談ですが、今回はかなり解像度の高い狂人を書いてくれています。
 狂人と言いはしましたが、もうこれはね、わかる。わかるよ……としかいいようがないのです。
 そう、おっぱいを愛する者ならば一度は願いますよ。愛するおっぱいのために役立てる存在にならねばならないと……。
 作者の熱いパトスが伝わってきて、読みながら僕は泣きました。
 主人公が非常に好感度の高い紳士であることも高ポイントです。
 自らの目的を邪魔する国家権力にも声を荒げず、あくまで相手を人間として尊重して対話をする。
 そう、ブラジャーになったとしても、やはり大きなおっぱいに相応しい高潔なブラジャーであれ。そういうことですよ。はい。
 惜しむべきところは、文字数に余裕があるのでおっぱいに対しての情熱、愛情、おっぱいとはどのようなものなのかを5000字くらい使っても良かったのではないでしょうか?というところです。
 あと、擬態に関してですが、本当に擬態でいいのか?この主人公が擬態で満足するのか?彼が目指すならやはり本物を目指すと思うのですよ(ろくろ)
 しかし、ぬっちさんはまだまだ小説を書き始めたばかり。この小説を書いたときのような自らの欲望全ぶっぱをした気持ちを忘れずにこれからも作品を書いていって欲しいですね。
 あとアポカリプスエットって名称すごく好き。

謎のストクリス
 おっぱいを愛する狂人の物語。論理は前提が正しければ導かれる帰結も正しい事を保証しますが、もし前提が狂っていたならば。
 主人公の行動意図が明確なうえ、彼の目を通した状況描写が簡潔であるため物語の動きが大変分かりやすく、スピード感を損ねずに駆け抜けます。無駄を削ることで作品の核である彼の精神性に完全にフォーカスされ、非常に良い安い作品であったと思います。
 そして問題のその精神性「全てのおっぱいのために自分は存在する」という信念を疑わない一点において主人公は狂い、そのほかの面ではむしろ紳士然として常識をわきまえた人物であること、そのギャップがこの作品の魅力でしょう。特に顕著なのが、会社に欠勤の連絡を入れることを常識と捉えており、しかしその常識に応じる動機が「社会人としての責務も果たさず愛を叫ぶのは私の愛する全ての胸部に失礼ではないか」という部分。ここは彼の狂いぶりを一文で表した名シーンだと思います。
 さてここまで紳士や狂人という言葉を使ってきましたが、本作主人公の、自らの確立した意志を以て惑わず行動する様はニーチェの言うところの「超人」が最も近い概念なのではないかと思えてきます。人は安寧のため、快適さのため、あるいは軋轢を避けるため、少なからず妥協して生きるわけですが、超人は信念に殉じます。この男はそう呼ばれるに相応しいでしょう。と考えれば本作は哲学コメディとでも呼ぶべきなのかもしれません。
 テーマである「擬態」に関しては、むしろ(言ってしまえば他者の目を意識した営為である)擬態を真っ向から否定する、アンチテーゼ的なアプローチで面白かったです。そう意識して書かれたものかは正直わからないのですが、私にはそう読めてしまったのでそう書きます。

謎のイヌ亜科
 女性の胸部に執心した男が辿り着いた、ひとつの終着点の話。
 無断欠勤ブラジャー怪人だ!! 現代の法では裁けないタイプの邪悪の話でしたね。(責任能力的な意味で)
 この手の狂人って思考の終着点として狂う印象があるんですが、この作品の主人公は前提から狂ってます。無断欠勤を些事だと考えてる時点でよく今まで働けてたな……。
 あと、所々で自分を客観視してるのが本当に怖い。ボディペイントの時点で変態ブッチャー感出てることに気付けよ!!
 孔子は『四十にして惑わず』と言いましたが、惑わないのも考えものなんだな……。

48 禅士院雨息斎のゴーストバスター劇場/ジュージ

謎の有袋類
 魔法使い偽シンデレラ爆誕の作者さんの二作目です。
 名前がわかりやすいwと最後まで読んでめちゃくちゃ笑ってしまいました。
 偽シンデレラ爆誕の時も思ったのですが、かなり軽快なお話が得意に見える作者サンですが、プロフィールや他の作品を見るとホラーが得意とのことなので、他作品がどんなものなのか気になってしまいますね。
 個人的な好みとしてはシンデレラ爆誕よりも、こちらの作品の方がすごいです。
 ずーっと「」じゃない意味はなんだろう……と思っていたら最後にこの視点はカメラを構えていた主人公のものだったというオチ。
 主人公は禅士院雨息斎だと思っていたのですが、まんまと騙されましたね。
 擬態のお題回収がいくつもあるのですが、これがすごい。ポルターガイストになりすましていた人でも、インチキ霊媒師でもなかったし、種明かしをしても理不尽ではないのが本当に上手!
 伏線や違和感の入れ方とヘイトコントロールが絶妙ですし、軽い読み口で油断させられたー!と爽やかな読み口で終わるのは最高だなと思いました。
 このカメラを向けていた主人公と今後の禅士院雨息斎がどうなっていくのかも気になります。

謎のストクリス
 幽霊屋敷を舞台とした陰謀渦巻く短編でした。とにかく禅士院のキャラクタが良いですね。胡散臭い出で立ちと芝居がかったセリフ回し、特に幽霊を追い詰めたときの「君のような自称幽霊がひとり住み着いているくらいがちょうどいい……とは思わなかったのがこの屋敷のオーナーだが」は魅力的です。相応の洞察力と格闘の心得もあり、充分に主役を張れる器でした…が、物語の最終盤で彼は主役の座から落とされます。真の主役にして黒幕は「私」。テーマ「擬態」の回収は、ニセ幽霊の柳、それを看破したニセ霊能者の禅士院、さらにそれを嵌めた「私」と。大きく予想を裏切るギミックにまんまと引っかかりました。よく読んでみると黒幕以外のセリフはすべて二重の鉤括弧で統一されていて、なるほど監視カメラ越しの音声だという演出が為されていたのですね。
 さてこの主人公の交替というギミックは大変面白かったのですが、このような構成の場合、後に出てきた「私」は先代主人公と同格以上の魅力を求められると思います。本作ではこの部分が不十分かなと個人的には感じました。おそらくギミック開示後はダラダラと続けず幕を閉じた方が良いという判断だと思うのですが、黒幕の描写が少なく魅力が十分に伝わらないのが勿体ない。「私」の計画は禅士院の弱みを握る事なので、禅士院が①旧葛木邸の除霊依頼を断らない②自らの正体を暴露する…と2つの罠を踏まなければならないのですが、本編中の描写からは禅士院が罠に誘導されたり、罠を踏まない道を潰されたりしているようには見えませんでした。その辺りの描写があると、奸計に長けた黒幕として「私」の魅力も更に上がると思います。
 上述のように、お題を多重に回収してみせたり読者ともども主役を罠に嵌めてみたり、括弧を使った伏線を張ったりと仕掛けの巧い作者さんで、別作の「魔法使いシンデレラ」の方でも書きましたが像の確立したキャラクタを描くスキルも高いので、ジャンルを問わず様々な作品に挑戦してもらいたいです。

謎のイヌ亜科
 イケメン霊能力者が幽霊屋敷に挑む話。
 顔のいいインチキ霊能力者、いいよね……。この作品のテーマである『演じること』において最高の役者ではないでしょうか。
 キャラクターの名前から主人公が胡散臭い霊能力者であることは自明なのですが、推理力もすごい。たぶん探偵の方が向いてるんじゃないかな? ポルターガイストを演じていた柳くんと即席のコンビ組んで事件解決してくれ……。
 また、最後の種明かしパートは普通に意表を突かれました。三人称だと思っていたものがカメラ越しの一人称だった部分で「あー!!」ってなる構成の妙。全てが嘘だったってことか……!!
 雨息斎を強請るつもりだった人、たぶん旧・葛木邸に向かったら殺されるんじゃないかな。本物の幽霊屋敷になって終わるオチになりそうな予感がしました。

49 喰らう箱と死なない少女/神崎 ひなた

謎の有袋類
 カクヨム甲子園《テーマ別》「キミは絶対に騙される」部門で大賞を取った神崎さん!来てくれましたね。
 今作はいつも川で見ているものとかなり雰囲気が違う作品でした。
 神崎さんはラノベ!ペガサス!って感じの作品が多いと思っていたのですが、最近作風を広げていて、インプットの分だけ上手になっててすごいなーと思っていたのですが、これもすごくよかったです。
 なんとなく絵本や童話を思わせる語り口調で始まるミミックと一人の吸血鬼が出会うお話です。
 言葉もあまり通じない上に、一方的な愛情を押しつけていくミミックが徐々に吸血鬼の少女と心を通わせていく描写がすごく素敵でした。
 時々文体が乱れてしまうのは、書き慣れてない文体だからかなーとは思いましたが、文体の統一なんて後からやればいいんですよ……。
 相互の理解が断絶している状態から、徐々にお互いがお互いにとって大切なものになっていく様子や、贈り物をお互い与え合う様子。
 吸血鬼の少女の血の効果や、鎖の音なども気になるのですが、この作品の場合は敢えて語らない美しさというか想像の余地として効果的に働いているのもいいですね。
 理由はわからないけど、とにかく彼女の言葉を守ったミミックに感情移入が出来るポイントになっていると思います。
 すごい心配なまま読み進めていたのですが、エピローグでハピエンだったので5億点です!!!めっちゃよかったー!
 作風も広がって、表現の幅や語彙などもかなり増えた神崎さんは本当に作品を見るたびに強くなっていてすごいなと見習いたいです。
 今後も応援しています!この調子で長編にチャレンジしてみてもいいのでは?

謎のストクリス
 宝箱に擬態する魔物ミミックと、落ちこぼれの吸血鬼少女を描く物語。
 全20章+エピローグという短編としては異質な構成を持ちます。これはおそらく作者さんの狙った通りだと思うのですが、昔語りのような口調の文体とワンシーンごとに章が変わる作りから、絵本のページを捲って読み進めるような読書体験を得ました。面白い試みを楽しませて頂きました。
 言葉どころかコミュニケーションの常識が全く違う一体と一人の心が次第に繋がってゆく様子をじっくりと丁寧に描く作品で、大変真摯に向き合ったのだと感じさせられます。展開を急がず、かといって徒に文を連ねるでもなく、短く繊細な言葉が少しずつ重ねられる変化を綴ります。一つの転換点である「ある種の理解ってのは、あらゆる理屈を吹っ飛ばして、急に湧き上がるものなんだよな」のシーンが私は大変好きです。言葉や行動の意味など分からなくても、例えば笑顔というサインが、例えば贈り物という行動が、それ自体が心をつなげてゆく。異種間の交流をこんなに繊細に描いた作品はなかなかありません。
 もうひとつ大きな魅力として、物語の展開に対する説得力がとても強いと思いました。登場人物たちが物語の筋に引っ張られて(=作者にとって都合よく)行動しているのではなく、彼らのバックグラウンドと個性に基づき行動したから自然の帰結としてこの物語になった、と思わせる力が強い。これは私が物語を書く時も強く意識する部分なのですが、本作ではごく簡潔な描写の中でそれをやってのけるのが凄い。一例を挙げれば「ミミックに相手を喰らうことしかコミュニケーション手段が無かった」事が、不死の少女がミミックの交流相手になる展開への理由付けにもなっているし、少女の側が(魔物としての格を上げた)ミミックを退けられない理由付けにもなっている。その展開になるべくしてなったという説得力が凄いんですよね。
 実験的な作風を確かな文章力で支え、繊細な心のつながりを描き切った大変良い作品だと思います。

謎のイヌ亜科
 他者に興味を示すミミックと、吸血鬼の少女の話。
 神崎さんの得意とする異種族同士の関係性が魅力たっぷりに描かれているのですが、この作品のさらなる特徴として童話的な語り口の地の文があります。それが幻想的で優しげな雰囲気を醸し出していて、この物語そのものの穏やかさを浮き彫りにしていると感じました。
 ミミック、調べてみると生物学における『擬態』が語源だとか。まさしく今回のテーマを象徴するような生命体に対比される、吸血鬼としては未熟な少女。他者を理解するために捕食をし続ける宝箱の魔物と、不死身の身体を持つ少女。あまりにもベストマッチな関係性です。ミミックが宝物を吐き出したりして少女を笑顔にさせようとするの、良いよね…….。
 終盤の別れのシーンは不穏で、悲恋に終わるかドキドキしていたのですが、エピローグではそれをひっくり返すような理想的なハッピーエンドでした。長い時の流れも、彼らにとっては「行ってきます」と「ただいま」になるほど永く生きてるんだな……。

50 擬胎/春海水亭

謎の有袋類
 初参加の春海水亭さんです。ありがとうございます。
 春海水亭さんの作品、メスガキ羆を読んだことがあったので「え?」とめちゃくちゃビックリしてしまった。
 作風の幅がすごい。
 今回の作品は、想像妊娠をするまりあという十歳の子供と、その姉である春のお話。
 作品の構成がとても独特だと思いました。
 物語の合間に登場人物が調べているという体で、補足知識をWikipediaから引用してくるのがすごい豪腕の成せる技というか大胆な試みで感心してしまいました。
 僕っ娘のラフカディオちゃん絶対偽名でしょ!小泉八雲が好きな拗らせ異能者か、小泉八雲の転生した姿か?というめちゃくちゃ怪しい存在が割と素直に怪異をどうにかしてしまったのが意外でした。
 ラフカディオちゃんの行動の目的がわからないまま終わってしまうのが不気味なのですが、多分この子は他作品の主役とか、このお話が他の話のスピンオフ的なものだったりするのでしょうか?
 この話単品で見ると、ラフカディオちゃんの目的がわからない部分や、少し不親切かなーとも思いました。
 文字数に少し余裕があるので、もう少しラフカディオちゃんをうろうろさせて行動の目的なんかを書いて上げると、単独の作品として見た時にわかりやすくなって初見さんに優しいのかなと思います。
 この作品が、スピンオフやシリーズの中の一話として考えると、もう既にラフカディオちゃんのパーソナリティなどが掘り下げられた後だと思うので問題ないと思うので、ここは好みや、こむら川のレギュレーションが独特というだけなのであまり気にしなくても良いかもしれない……他の話に読者が興味を持つ可能性もあるので塩梅が難しいですよね。
 天使に擬えた産女という解釈めちゃくちゃ好きでした。
 そして妖怪は認識の生き物であり、信仰を集めれば神になる……妖怪は神が堕落した姿みたいな説もありますし、こういう設定も大好きです。
 そっとぬらりひょんみたいな他の妖怪に言及してる部分も好きです。ラフカディオちゃんはなんらかの理由で妖怪を追っているというのがその一文でわかるのはすごい。
 あと男友達とのやりとり……これは次はガチ受胎の予感なの……こわ。
 独特さはありつつも読みやすい・読むのが止まらないといった作品が得意な作者さんだと思うのでこれからも、個性をそのままにガンガンいろいろな話を書いて欲しいなと思いました。

謎のストクリス
 妊娠したと主張する10歳の少女と、彼女の身を案ずる姉の話でした。
 妖怪の存在が強く示唆されつつもその姿も証拠もなく、結局本当のところは何が起こっていたのか分からないという終幕は妖怪譚としてすごく好きで、作中でも語られる「妖怪というのは、認識の生き物です」を読者にも体験させてくれる良作です。まりあやラフカディオといった名前で人物の役割を暗示するのも憎い演出ですね、こういうの好きです。
 序盤の膨れた腹を愛おしむ少女自体やそこから想起される性犯罪のおぞましさ、ラフカディオが登場してからの事態が好転し謎が解けるという期待、最後に「10歳以下でも妊娠するケースもある」と一抹の不穏さを置いての終幕。空気作りがお見事です。そして大変読みやすい。漢字と仮名のバランスや、音としての響きやリズムの良さを考えて作られた文章という印象を受けました。誰が何を考えているのか、何が起こっているのかがよく整理されているのも一因でしょう。簡単に見えてなかなか同じようには書けないタイプの文章だと思います。
 ところで作中ではラフカディオは霊媒師のような立ち位置にありましたが、どうにも私は彼女こそが姑獲鳥なのではないかという考えを捨てきれません。血の様に赤いリボンタイと血で印を付ける習性、白目をむいて倒れたまりあと姑獲鳥に襲われた子の罹るという無辜疳。どちらも部分的な符合なのでこじつけ感もありますが、もしもこの物語の真相がラフカディオの語った通りではなく「産女の宿した子を姑獲鳥が奪った」であったならとても面白いなと思いました。

謎のイヌ亜科
 10歳で突如として妊娠した少女の話。
 作者の方はメスガキ羆とか地上最強力士のようなパワーのある作風の印象が強いのですが、今作のような湿度のあるホラーも雰囲気があってとても良いと思いました。確かな腕前に裏打ちされた作風の幅だ……。
 初潮が起きる前である10歳で妊娠する少女の名前がまりあで、処女懐胎に準えたのか、という読者の予想を産女という妖怪の存在で上書きした展開は、認識によって存在を証明する妖怪らしさがあってすごく好みでした。天使の姿を取った妖怪もまさしく擬態といった趣ですね。ラフカディオが行った対処はその擬態を暴くことだったのですが、終盤のWikipediaの引用から彼女に憑いた存在が産女ではなく姑獲鳥だった可能性もあるんですよね。子を渡したのではなく、将来的に生まれるはずだった子を奪った可能性がある。それがこの作品の後味の悪さに寄与していて、メタ視点でのモヤモヤを加速させる作用として機能していました。
 また、ラフカディオそのもののキャラクター性も好きです。名前から現代に蘇った小泉八雲か、と予想したのですが、中性的なデザインはあまり見ないアプローチで意外性がありました。妖怪を観測する存在なのも八雲らしさがありますね。

51 そろそろおちる/大鳥居平凡

謎の有袋類
 大鳥居平凡さんの二作目です。
 今回の作品は高校生に擬態した仙人?のお話です。
 一作目の「ご存知のとおり人として私は」を読んだときにも言ったと思うのですが、とても文章を書くのが好きな作者さんなんだろうなと思いました。
 カクヨムに投稿作品はないけれど、他の場所で作品を書いていたとかなんらかの経験者っぽさある……。
 こちらは一作目よりもコミカルで明るい語り口ではじまるお話で、登場人物の序盤の話し方の違和感がすごいですね。
 多分、人間ではないんだろうな……と読み進めていくと、仙人だということがわかります。
 人の太ももに執着する仙人という謎の存在、嫌いではないです。
 演出として、ひらがなで会話をさせるというのは多分作者さんの拘りだと思うのですが、読み手に負担が大きい作品だなと思いました。
 全部ひらがなでもいいのですが、読点をたくさん入れるか、単語と単語の間にスペースを入れるなどすると、読む側に親切な作品になると思います。
 仙人という謎の存在が急に提示されて、そのまま男子高校生の姿に変わって去るシーンでお話が終わってしまうのが少し残念でした。
 こういう余韻のたくさんあるお話が好きな人もいるので、難しいのですが、個人的には冒頭だけで終わってしまって物足りなく感じてしまったので、もう少し仙人という存在を掘り下げたり、一波乱入れて見ると読者の間口が広がるかもしれません。
 文章自体は、ひらがなの連続以外はとても読みやすくて、描写や設定もすごく素敵な作品でした。
 二人のやりとりもどことなくコミカルで魅力的なキャラクターを書ける作者さんだと思うのでこれからも、作品をたくさん書いて欲しいなと思います。

謎のストクリス
『ご存じの通り人として私は』の大鳥居さんの二作目。実験的なあちらとはまた風合いが異なりますがこちらも独特のクセのある作品でした。
 謎の存在が唐突に現れて話が始まります。会話を聞いていてもこの存在が何なのかわかりませんが、呑気なようで時代の変化を憂いているようで、長い期間を生きている存在のようです。エログラビアを手にしつつ「よくじょうってのはね、ちがうんだ。このせかいのじつざいのてざわりにぜんしんがかんのうしながら、ああなつだ、ああひとはだだって」などと哲学を披露したり、深遠なのかコミカルなのか判別しづらいこの存在に愛着が沸きます。この会話パートは漢字を一切使わない演出のため大変読みづらいのですが、それによって醸し出される独特の掴み所のない空気もまた面白く、一長一短と言ったところでしょうか。
 さて後半の種明かしパートにてようやく気付きました。これは「久米仙人」の伝説を下地にしたパロディだったのですね。クメという名前で気付くべきでした。空飛ぶ仙人が川にいた娘の太腿に欲情して神通力を失い堕ちてしまうという逸話を、仙人という生物の生態としてアレンジしたのは大変面白いアイディアですね。そして当の仙人たちにとっては死活問題である若い娘のふとももやグラビア雑誌というアイテムが、地上形態になってしまうと思春期男子のエロトークにしか見えなくなってしまうギャップがまた面白い。この面白さを形容する表現がちょっと見つからないのですが、とにかくこれを狙って出せるのは凄いなと思います。
 一方で『ご存じの通り人として私は』の方にも共通しますが、人を選ぶ作風だなあとも感じます。久米仙人の伝説を知らない人には魅力半減でしょうし、漢字無しの会話パートは読みやすさを捨てて空気感を取りに行っています。同好の士に刺されば本望!という創作スタイルなら問題ないですが、広く多くの人にリーチすることを狙うならば、何も知らない読み手が何処で躓くかというケアを考えると良いかと思います。
 ただ、個人的にはすごく刺さりましたし、本作、めちゃくちゃ好きです。

謎のイヌ亜科
 春が終わると地上に降りてくる、とある生き物の話。
 仙人をひとつの種族として生態観察する作品です。マイペースで太ももへの執着が凄まじいクメと、ぶっきらぼうなナルカミのやり取りが魅力的ですね。
 霞を食べるとされる仙人が都市化の波に負けて地上に降りてくる。そのための擬態(変態?)手段として欲情するというアプローチは、一見トンチキなように見えて無欲な仙人と欲深い人間の差をまじまじと突き付ける興味深い描写でした。確かに男子高校生は性欲の塊みたいなところあるもんな……という妙な納得があります。グラビア雑誌はどこから手に入れた?
 街に潜む仙人に想いを馳せたくなる作品でした。

52 わたしの私/宮古遠

謎の有袋類
 わたしと私……二面性のある主人公が「先輩」に恋い焦がれている状態から始まるお話です。
 先輩に好かれて、先輩と仲良く出来ている私を、本来のわたしがうらやましく思い、わたしは目を潰してしまう。
 わたしは、わたしが壊れてしまったと思っているけれど、最初から壊れていたというようなホラーにも感じられて怖いですね。
 何度か読み直して、わかったのですが、目を潰す直前にわたしと私が入り交じって、最初は鏡を壊して、それから目をやったんですね。
 最後に「わたしが壊れて死ぬときに、先輩を食べて仕舞えるよう」と書いてあるので、ここが擬態要素なのか比喩なのかちょっとわからなかったです。すみません。
 わたしが元の自分で、私が明るくて先輩と仲が良い自分で、元々は根暗だったけど明るく振る舞っている内にわたしと私が乖離した……まではわかったのですが、残念ながら数回読んでもヒントが見つけられませんでした。
 怖くて嫌なホラーだったというのは確かですし、種明かしをしすぎないのもホラーとしての怖さや不気味さなので、個人的には好きな作品でした。

謎のストクリス
 強烈なコンプレックスから身の内に「もう一人の魅力的な自分」を作り上げ、次第にそれが自分自身と同一の存在とは認識できなくなる狂気を描いた作品です。
「普通の人間として生きるのが難しい、私は人間のくせに人間に擬態している」という切り口で「擬態」を扱った作品は本企画にも数多く寄せられましたが、その中でも本作は最も切実に内面を描いたものだと感じました。「自分で自分だと認識する自分」のほかに「他人に認識されることで存在する自分」というものがあり、本来であれば後者は他者の認識の中でしか生き得ないはずなのに、本作主人公の「わたし」は、自分で生み出した「私」を自分から切り離し、そこに他者から見られる存在としての「私」をも取り込んでしまったのでしょうね。もはや他人に成り果てた「私」を殺してしまったは良いものの、先輩と交流を続ける以上は、そして「わたし」が「私」を他人としている以上は、「私」は何度でもそこに存在します…と私には読めたのですが読み方が当たっているか難しいところです。
 ラストの「先輩を食べて仕舞えるよう」は更に難しいのですが、「私」という虚像に釣られてやってきた獲物を「わたし」が食べる、という構図なのかな。てっきり「私」が死なないことで絶望に堕ちるラストのかと思いきや、最後の最後で暗闇の中から手を掴み獲物を逃がさまいとするのは意外で、それは決して煌びやかなものではないものの、ずっと失っていた生物としての力を取り戻しているようにも思えました。
 技巧的な面では「私」を殺そうとする直前の混乱、ここが素晴らしかったと思います。「音がしないのに音がする」といった撞着表現や、思考が次々塗り替えられる様を表現し、見えている事象と妄想が入り混じる様子。そして最後に一言でプツンと切れる「いたい」。ゾワッとさせられました。

謎のイヌ亜科
 「わたし」が作り出した理想の人格である「私」について苦悩する話。
 思い出したのは、「鏡に向かって『お前は誰だ?』と言い続けると狂う」という話です。自分の中にいる人当たりの良い自分を切り離してしまう主人公は、自己評価が低くて自分を肯定できない悪循環に陥ったのかな……と思いますね。「わたし」と「私」の剥離に悩む主人公の狂気に落ちる瞬間などは鬼気迫る物があり、擬態したつもりでも本質的な差異に悩んでしまう終盤などは彼女の救われなさがしっかりと表されています。主人公がもっと「私」を肯定できたら話は変わっていたのかな……。

53 狩人になるための心得/こむらさき

謎の有袋類
ヒックとドラゴンです。

謎のストクリス
 こむさんの二作目ですね。狩人に憧れる少年ニコと希少種の大烏ヴォルトの絆を描いたバディ物語です。
 まず導入が巧いですね。冒頭の数行で本作の敵である泥岩河馬とその脅威、対峙する主人公の出自や性格を紹介する。「この物語はこう読むのか」をサッと提示するのであっという間に引き込まれます。続いてニコが泥岩河馬を観察に行くシーンからヴォルトに助けられるシーンまでは世界観の深掘り。登場する様々な生物の習性や生態を描くことで彼らの息吹が聞こえだすと同時に、ニコ少年の狩人としての能力が(一定水準以上ではあるものの未熟な面もあることも含めて)掘り下げられます。また、その合間合間に後半に繋がる伏線を仕込んでいるのも巧いですね。
 ニコとヴォルトの、言葉が通じないながらも少しずつ絆を結んでゆく描写が見事でした。元々は別々に暮らす一人と一羽、しかもきっかけは誤射とはいえ攻撃から。そんな二体が心を通わせるのは、早すぎても納得いかず遅すぎると物語が締まりません。けれどここで展開を焦らずにじっくり書いていて、物語全体に深みを与えています。
 終盤では伏線とテーマを回収して本作における「擬態」の披露。動きがあって格好良くて、空駆ける影を強くイメージできる映像的な魅力にあふれます。またニコの知識と機転、ヴォルトの飛翔能力を合わせて一つの生き物として振舞ったことは、互いに失った機能を補って共に生きることとなるラストへの暗示にもなります。これは凄い。
 こむさんファンタジーの持ち味である奥行きのある世界観と映像的な描写に加えて、伏線の活かし方や導入の巧みさなどの小技も磨かれた、大変気持ちの良い物語でした。

謎のイヌ亜科
 狩人見習いの少年と幼い大鳥(ニフト)が天敵を倒そうとする話。
 四本脚の鳥類というニフトのビジュアルが個性的だと思いました。最初、実はヴォルトはドラゴンの幼体でニフトの幼鳥に擬態しているのかな、と思ったのですが、ニコの角笛を使って天敵に擬態する形でテーマを拾ったのは意外性があり、面白かったです。
 ニコとヴォルトの関係性もいいんだよな……。どちらも戦いによって五体満足ではなくなり、足りないものを補うようにこれからもコンビを続けていく。二度と自分が傷付かず、親友を傷つけないためにふたりで力をつけていく展開は、王道だからこその魅力って感じですね。
 あと、泥岩河馬(ベヘモト)の格が高い!ベヒモスっぽい名前で現実のカバに近い生態なのですが、カバは普通に強いらしいですからね。ドラゴンが唯一の天敵であるのも頷ける、動く災害のような存在でした。ニコとヴォルトが協力しても倒せなかったベヘモトがあっさり雷に打たれた理由は、自然現象か、ニフトの秘めたる力か。いつか2人でベヘモトを狩れるといいね……。

54 クダのいる家/いぬきつねこ

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 クダのいる家に住む菫という名の少女と祖母のお話。
 シックスセンスなオチでしたが、嫌な気持ちにならずにスッと種明かしされてすごい心地よかったです。
 エピローグで、祖母が菫ちゃんと会話のようなことを出来ている示唆がされているのもすごく親切でよかったです。
 伏線の張り巡らせ方や、回収の仕方、季節の表現の仕方も、一人称に合ったメイク道具の言い表し方など、どれをとっても一定の水準は超えているとても面白い作品でした。
 それだけに、小さな粗が目立ってしまうと言うか、改行もしているので読めないというわけではないのですが、この作品の場合は段落はじめの一字下げをした方が読みやすいのかな……と思いました。
 なにか効果を狙ってのものなら、残念ながら効果よりも読みにくさの方が目立ってしまっているように感じます。
 カクヨムのサイドバーから「記法と整形」という項目を選ぶと、段落先頭を「」を除いて一律字下げをしてくれるので、そういうツールを利用してみると便利だと思います。
 それ以外は、表現方法も、伏線の置き方も、物語の発想も、世界観も本当に素晴らしくて、短編集を買ったときにこれが入ってたらそれだけで元が取れたってわくわくしちゃうな……と思えるような完成度でした。
 管狐と狗神の伝承が元になっているお話だと思うのですが、こういうあやかしすごい好きなのでめちゃくちゃよかったです。
 カクヨムにはまだ一作品しかないのですが、もっと作品を読みたいなと思いました。

謎のストクリス
 クダと呼ばれる守り神の住む家の少女の話です。作中で明言はされていませんが、管狐の伝承を元にしたお話ですね。
 味方のようでありつつ何か秘密を抱えた祖母、友好的だが祖母に警戒される犬飼、肉親のはずなのに赤の他人のように振舞う父。登場人物の奏でる不協和音と、冒頭の「終わりが来るよ」というクダの予言が、手の届かぬところで何かが破滅的に向けて動き出しているような居心地の悪さを感じさせます。そうした不和、違和が見事に回収されたオチは見事。菫ちゃんの目を通して見ていた事象の一つ一つは何だか不揃いで収まりが悪いのに、最後の1ピースが嵌まった途端に全ての整合が取れるのですよね。大変満足感のある物語でした。
 と、謎の提示と開示が大変巧いことは前提として言うのですが、第4話から第5話にかけての種明かしパートがやや過剰かなと個人的には思いました。というのも4話の最後で完全に正体は明かしてしまっているので、5話を読んだときに勿体ぶってテンポが削がれたように感じたのです。ただ第5話の、それまでの物語から外したところで一歩引いて物語を描写する展開は非常に面白いですし祖母の態度など物語の細部を補完する役目も担っていますので、うーん、そうですね。たとえば第4話の最後の方で「この屋敷は終わりだ。次の屋敷に移ろう」以降の正体を明示するパートをもっとぼかすか、削っても良いのかなと思いました。一意見としてご参考ください。
 と余計なことを言ってしまいましたが、ミステリーとして大変完成度が高く面白く、怪異譚らしくザラザラした後味の残る素晴らしい作品だと思います。

謎のイヌ亜科
 人とも獣ともつかない生き物、クダの住む家に住む少女の話。
 『管狐』という憑き物と座敷童を足したような生物であるクダにまつわる因習がこの作品における重要な点だと思いました。主人公の菫が妙に浮世離れした少女であることも、会話をしている父親と目が合わなかったことも、全部納得できる形で『擬態』というテーマに落とし込んでいたのがとても魅力的でしたね……。
 菫の祖母が家族の中で唯一会話ができたのは、血筋というよりは信仰なんですかね? 緑内障で視力が低かったのも何か関係があるのかな、と思いました。
 壊される家が時代の流れによって失われていく因習を表しているようで、不思議な寂寞感がありました。人間にとっての窮屈さとクダの窮屈さは異なっていて、祖母の時代はなんとか折り合いをつけていたのかな……。

55 終末のフリークス/綿貫むじな

謎の有袋類
 今はウィザードリィ風の異世界ファンタジーを描いているむじなさんのエントリーです!
 デッドライジングだ!と最初ははしゃいでいたのですが、ちょっとちがった。いつ犬好きババアが出てきてバリケードを壊すのかドキドキハラハラしてしまった……。
 ゾンビパンデミックもので、ピンチに車に乗ったり、ショッピングモールに向かうお約束を踏襲しつつも、ゾンビ的な奇病の設定や結末には一工夫加えた作品です。
 エヴァンはゾンビが視覚に頼って仲間を見分けていると予想をして、見た目だけをゾンビ(仮)に擬態するというミスリードはうまかったですね。実は電波のようなもので仲間を見分けているという設定も、最終的にはエヴァンが電波をキャッチできるようになってるとさりげなく描くことで「ひえ……順調に身体が変わっている」となるのもすごく良い演出でした。
 一話一話の引きもすごい上手で、これは普段連載作品をしていることの効果では?
 ラスト、これは映画なら絶対2でエヴァンがどこかの街を支配してるパターンじゃーーーん!ってなりました。
 適合者がいるらしい仄めかしを作中に織り込んでくれていると最後の結末に突然感が出ないかな……と思うのですが、これは好みの問題というのが大きそう。
 むじなさんの得意なポストアポカリプス要素と、日々の連載で培ってきた能力が存分に発揮されている良いパンデミック作品でした。

謎のストクリス
 チープな終末論が現実に起こってしまったゾンビ・パニックです。
 いわゆるゾンビ物のセオリーを踏襲しつつ、擬態という要素を上手く取り込んで独創性を出していますね。感染者からは運動能力的には逃げられる筈なのに恐慌状態では時に致命的なミスをしてしまうという描写や、ショッピングモールの従業員通路は比較的安全だという描写、警備員室に籠る主人公が他の生存者を見つけても安易に合流せずむしろ観察対象と割り切っている描写、都市部と田舎で情報格差のある描写など、冒頭の終末論のチープな雰囲気から一転、妙なリアリティが光ります。演劇などではセットはハリボテでも役者の演技次第で一気にリアルに感じたりしますが、それに似た感覚を覚えました。
 テーマ「擬態」の活かし方が面白いですね。感染者を観察し、姿や動きを真似て擬態に成功した…と思わせておいて実はそんなもの全く意味がなかった、という展開。この部分で「エヴァンの努力とは全く関係なく結果があっただけ」と突き付けられたのは、エヴァンの目的である帰郷を果たしても…と暗示しているようで嫌な予感がしたのですが、まったくもってその通りでした。大変に意地が悪い。さらにはその後の、死にたくても死ねない身体になってしまうのも、もしかすると示されていたのかもしれませんね。
 せめて医者の言葉の通り、東へ向かったエヴァンに新人類の始祖として少しでも希望ある残りの人生を送ってほしいものです。

謎のイヌ亜科
 隕石が落ちたことによるゾンビパニックに巻き込まれたとある男の話。
 ゾンビ物の王道を外すことなく押さえていたのが特徴的でした。近年のゾンビ作品の主流であるウイルス感染系パンデミックは時世的にも意味深な物を感じますし、ショッピングモールに潜むのもあるあるだな……。
 作者の方はハードボイルドで硬質な作風のイメージが強いのですが、この作品の主人公であるエヴァンスもタフでとても好みです。ゾンビ化した同僚や上司も意に介さないし、擬態のためなら豚の血を被ることも辞さない。危険を冒してたどり着いた故郷の両親がゾンビ化していても狼狽えることはなく、ただ同じ境遇の仲間を探して不死身の身体を動かしていく。葛藤を表に出さないタイプなのが作品の雰囲気にぴったりで、好きです。
 人にも死者にもなれないエヴァンスが、今後どうなるのか。適合者を狙って国家が牙を剥いたりするのかな……。

56 きみをさがして/イトリトーコ

謎の有袋類
 イトリさんの二作目です。
 まさかのゾンビもの二連続。これはまた違ったゾンビものでおもしろいですね。
 主人公は意思のあるゾンビですが、声も出せないし、身体もボロボロです。意識はあるけれど、意思疎通の方法を持たなければ、それは生者にとっては見分けがほとんど付かないという着目点はすごく好きです。
 ゾンビなのにゾンビではない主人公は、たった一つの希望、左手の薬指に残された指輪を心の支えにして長い旅をします。
 心身共にゾンビに擬態して川のように群れなしていくという表現がすごくよかったです。
 最後まで意識を保ち続けた主人公が報われて良かったー!となるハッピーエンドでした。
 長い時間が経ったと言うことは、ゾンビはなんとかなりつつあるのか、それとも戦いの渦中なのか……そこが個人的に知りたかったな……と思いましたが、これは読者の想像に任せる形なのがスマートな場合もあるので難しいですね。
 ゾンビになった主人公の名前が最後まで伏せられているのもイトリさんらしいなと思いました。

謎のストクリス
 イトリさんの2作目。何の因果か『週末のフリークス』に続けてゾンビ物が連続してしまい闇の評議員一同、非常に困惑&大笑いしておりましたが、こちらは擬態・ゾンビの両テーマを扱いつつ全く異なる物語でした。
 愛。愛の物語ですよ。気が付いたときには何もかも遅く、身体は腐り落ちて思考能力も鈍り、言葉すら発せられず、生物を見れば襲いたくなる存在になってしまった主人公。そんな状態にありながら人としての意識を保っているというのは地獄でしょう。それでも彼が身体を動かすのは妻と会うため。何の手掛かりも無く、ただただ「自分の周囲の腐乱死体に妻の姿は無かった」という一点の希望のみで動く。「周囲の腐乱死体」と呼んでいたそれらをいつしか「僕ら」さらには「仲間」と呼ぶようになってなお頑なに食欲に耐え人を襲わずにいたのは、人として妻に逢いたかったからなのでしょう。
 イトリさんの持ち味というか、今回はなかなか直接的にグロテスクな描写があるにもかかわらず、その生々しい空気から膜一枚隔てたようなサラリとした触感があるのはとても不思議です。ここでメカニズムを解明して見せられたら講評っぽくなるのですが、なんでしょう「起こっていることを描いているのではなく、起こっていることを受けて現れた心の動きを描いているのだ」という印象なのですよね。具体的にどの部分がそう思わせているのか(あるいは細分化すると失われてしまう構造があるのか)、今の私では説明ができません。今後の課題とします。
 次第に薄くなる希望がとうとう潰える直前に起こった奇跡。しかしもはや奇跡に耐えるほどの力は残されておらず、それでも残酷な運命に抗った最後の抵抗。もはや腐乱死体であったとき以上に人としての形はとどめていない彼でしたが、最後には間違いなく人として再会できたのだと思います。

謎のイヌ亜科
 身体が腐り落ちた男が、見失った妻を求めて彷徨い歩く話。
 愛の話でした。ゾンビ化した主人公が妻を探すために始めた行動は、意思のないゾンビが集団に加わることで奇妙な行進になる。
 意思のないゾンビに擬態する形で思いを遂げようとする主人公の想いは、そのままゾンビが故の悲哀に繋がっていきます。読者的には、人間の理性よりゾンビとしての本能が勝ってしまうのではないか、と思ってしまうわけですね。
 だからこそ、ラストの美しさに繋がったときは凄くグッときました。意思を保ったまま土に還ることで、やっと再開できたんだな……。

57 空蝉/草食った

謎の有袋類
 草食ったさんの二作目です。
 一作目の「雪と小屋」とは違った作風です。これは所謂ペガサス小説……!(※本物川小説大賞で生まれた死を取り扱った作品などに使われる概念)
 残酷なことに勤しむ年頃ってありますよね。そういう子供が周囲から浮いているとなおさら何らかの意味や物語性を見いだされてしまう……。
 そういう少しほの暗くて湿度のあり、そして切ないお話でとてもよかったです。
 バッドエンドものは後味が暗くなりがちなのですが、これはそこら辺のコントロールもうまくて、大人になって良い意味で鈍くなり、ノスタルジックで苦い思い出として昇華されているように思えます。
 死や残酷さを取り扱う小説って凄惨な描写を入れたくなったりする方が多いのですが、これは最低限の残酷描写ですごいバランスがいい作品だなと思いました。
 かつて浮いていた彼と少しだけ近くなった主人公は、あの日の思い出と蝉の声を思い出してこれからも擬態を繰り返して生きていくのでしょう……。
 あ、あと、蝉の幼虫は穴に水を入れると出てくるので捕獲の時はそれがオススメです(???)

謎のストクリス
 子供の頃の思い出を語る物語です。夏は活気に溢れ生命力に満ちた季節でもありますが、同時に死の陰が濃くなる季節でもありますね。蝉の大合唱と短い命はそれをよく象徴していると思います。
 虫の命を弄んで孤独を紛らわせていた「彼」。死んだと思っていたらまだ生きていた蝉の命の輝きが、その彼に何かしらの変化を与えたのだと語り手は悟ります。酷薄な振る舞いの彼に現れたその変化はきっと良いものだと思った矢先に、皮肉にも彼は命を落としてしまいます。それが大人になった今でも記憶に留まり、語り手をあの夏に引き戻します。語り手の現在の境遇について多くは語られませんが、社会に上手く馴染むため仮初の自分を纏い生きてゆくのはじわじわと心を蝕むものなのでしょう。
 もしかすると「彼」は蝉をきっかけにそのしがらみから解放されたのかもしれません。直後に命を落とすことになったけれど、抜け殻であった彼の空洞はあの日、一匹の蝉によって埋められたのではないかと思わせられます。対比するように同じく抜け殻として魂を磨り減らす今の「私」(最後の一文まで一人称が出てこないのも意図的なのでしょう)の空洞は、蝉に埋められることはなくその声を足音で掻き消してしまうラストが、彼のようにはなれないであろうことを暗示していて印象的でした。生きたセミを持ち帰った彼と抜け殻を探した私、死んでしまった彼と生き延びてしまった私という対比もよりその印象を強めます。

謎のイヌ亜科
蝉にまつわる、幼少期の友達との夏の記憶の話。
 川系でいうペガサス的な話でした。子供特有の無邪気な残酷さを虫に対して発揮する親友と、夏の爽やかさと、濃厚な死の匂い。それらが作品の中で綺麗に交わる雰囲気がとても好みです。
 蝉の抜け殻と友達の空虚さは近似していると感じたのですが、主人公がその空虚さによって死を選んだと理解したくないのが物悲しいですね。生きている蝉を飼うことで少し感じた変化に期待していたのは、彼の抜け殻のような生活に良い影響が起こることへの期待と地続きなわけで、蝉を握り直したことと彼の心境の変化に関係はないかもしれないのに、そうであることを望んでしまう。そうでないと救われない、という感情を強く感じました。
 社会に埋没するように自分を殺す主人公の大人としての擬態は、友達が選んだ死とは真逆のようで近いのかな、と思いました。彼は擦り減るように生きることを結果的に避けたのかな……。

58 どこにいますか、伏見くん/芹沢政信

謎の有袋類
 絶対小説、講談社タイガで好評発売中!作中にもサブリミナルのようにダイレクトマーケティングを入れてきた……為三先生!参加ありがとうございます。
 ひどい!これぞ本物川小説大賞!(本物川小説大賞ではない)と言った作品です。
 完全に身内向けのショットガンをぶっ放してきたこの作品、流石プロの作品だけ合って文章力は高いし、内容だけ見れば創作に葛藤した少年の心を人に戻すという結構感動的なお話に見えるのが本当にこれぞKUSOといった味わい深い作品です。
 単なる悪ふざけだけに終わらずに、しっかりとわかりやすく擬態要素も回収してきたのが怖い。
 確実に特定個人二人に向けた重すぎるなんらかの感情がオブラートを突き抜けてダダ漏れているのがいいですね。
 気のせいかもしれないのですが、伏見くんのブリーフのおじさんとタコがレースする話、僕も読んだ気がします。面白かったよねブリーフのおじさんとタコがレースする話。
 これは他の二人のフラットな視線からの講評が楽しみです。
 絶対小説、講談社タイガで好評発売中!

謎のストクリス
 挫折した文学少年を立ち直らせる、というのが大筋のお話なのですがそう纏めてしまうと色々取りこぼします。創作者の罹る山月記病なる奇病。元ネタの通り、臆病な自尊心と尊大な羞恥心に呑まれた者が人の姿でいられなくなる病のようです。創作者として行き詰まる伏見君の姿はまさに創作に携わる我々と重なり、とても他人事には思えません。ポップな文体ながら創作者の苦悩をテーマにした実は硬派な…と思っていたのも中盤まで。治療法を説明するあたりから急加速します。伏見君が登場してからはトップギアで走り抜けるというよりも、急発進と急ブレーキを繰り返すような独特のテンポでしたね。特に異形のフライング・スパゲッティモンスターに変貌した伏見君を見ての「でもそういうオリジナリティがあるところも、伏見くんの魅力のひとつ」には大笑いしました。その後に続く宣伝はこの作品の見所・笑いどころの一つなのだと思いますが、私にとっては若干悪ノリが過ぎるなあという印象でした。ただ、すぐに本筋に戻るのであまり引っ張られる事はなく、このあたりの塩梅が上手いなと思いました。
 全体としては創作者の苦悩という重たいテーマを主題に置きつつナンセンスな悪ノリで激しく緩急をつけ、最後は伏見君と同様に憑き物の落ちたような読後感を与える、よくコントロールされた作品だったと思います。これだけふざけているのにまとまっているのは凄いなあ。

謎のイヌ亜科
『山月記病』という創作者が罹る奇病の話。
 なんかすごい物を読んでしまったぞ……。いわゆるKUSOなんですけど、書籍化作家の方の本懐を目に焼き付けた気分です。作品内で自作の宣伝をするムーブ、強すぎる。
 山月記病自体は古今東西の創作者が少なからず抱えているもので、感想を得ることによって救いを得るシステムは身につまされる思いです。そんな創作者の業の深さを否定することなく肯定し、『物語を消費することに満足できなくなった』という創作の初期衝動を思い起こささせる。主人公と先生は理想的な読者ですね……。
 伏見くんが擬態先に選んだのが虎でもゴリラでもなく空飛ぶスパゲティ・モンスターなのも、インパクト重点ではない皮肉めいた物の現れという部分が好きです。人が作り出した神である、という点が一致するんだな……。
 創作者にとっては作者の人格的な好悪よりも作品の好悪に一喜一憂してしまう。自分を慕う人間がいるだけでは満足できなかった伏見くんの気持ち、多かれ少なかれ創作者なら感じる気持ちじゃないですかね……。

59 今にも流されてしまいそうな橋の上で/君足巳足

謎の有袋類
 第八回本山川小説大賞では銀賞を勝ち取り、第十回本物川小説大賞ではイラストで活躍してくれた君足さん!参加うれしい。
 君足さんの作品は、毎回不思議なリズムと力強い腕力を持っていると思っているのですが、今回は途中でぐるん!といきなりラリアットを喰らったような展開がキマるのがすごい気持ちが良いですね。
 あと「川の名は去邑川(こむらかわ)という」じゃあないんだよwwwすきw
 音が聞こえない・話せない主人公の密は、人の皮を被り人間に擬態しています。
 様々な人に擬態して生きてきたように話しているので、もしかして長い時間生きてきたのかもしれない……。
 莢とも長い付き合いだったらいいなと思いました。
 悩み相談をしていたあと、不意に謎かけのようなことを持ちかけられ、密は雨の日に呼び出されるのですが、そこからの展開がすごい。
 突き落とされる?どうなるの……とハラハラしていたら、まさかの変身だったし、持っていた焼き鳥の串は刀になる!
 こういうパワープレイかなり突飛なんですけど、僕はめちゃくちゃ好きですね。皮は革になるし、変身をする。革を被るとヒーローになる。
 どういうことだよ!でも、実際に変身はしたのできっとこの世界ではこういう理屈なのでしょう!
 個人的には、無事に川に擬態した何かをばりばり倒してくれたらよかったなーと思います。
 莢ちゃん、一体何者なんだ……多分ヒーローものでいう博士のポジションなのですが……。焼き鳥屋なのは多分擬態なんだよきっと。
 いろいろと続きが気になる面白い作品でした。

謎のストクリス
 人の皮を被り人に擬態する生物を語り手とした物語です。こういった設定だとその正体は誰にも気づかれていないとする場合が多いのですが、本作の場合は秘密を知る友人が登場しており、彼女との会話を中心にストーリーが進むという珍しい展開でした。
 言葉に対する遊びとこだわりが随所に見られます。音の介在しないコミュニケーションしか取り得ない語り手だからこそ人一倍に言葉への執着が強いのかもしれませんね。そんな彼女(便宜上そう呼びます)の「密」という名前も面白いです。密かに人間に紛れる存在であり、皮の内側に密閉された存在でもある彼女をよく言い表していると思います。そうすると「莢」という名前は外側で、莢と密は二心一体の存在なのかなという気もしてきます。
 莢との会話は迂遠な言い回しでなかなか言いたいことが伝わらないのですが、会話が進むにつれて重要そうな要素がいくつか強調されます。そして急展開。皮、革ときて川。言葉遊びを踏襲しつつ、これまで散りばめてきた疑問を一気に回収してそのまま走り抜ける痛快なラストでした。多くを語らないのもスッキリしていてよいですね。

謎のイヌ亜科
 耳の不自由な人間にしか擬態できない『人ではないもの』が、自らの擬態に思い悩む話。
 言葉遊びが面白い作品でした。擬態しているが故に擬態語を駆使し、視覚情報に頼るが故に同音異義語がわからない。『不完全な擬態』を反転させて『完璧な擬態』とは何かの定義から始まる葵ちゃんの丸め込みかたも凄いのですが、遠回りだったとしても密への確かな救いとなるような行動を選んでいくのも凄い。完璧な擬態ではなくてもヒーローに変身できる、というカタルシスが魅力的な作品でした。
 こむら川を川の名前にした小ネタも個人的には好きです。本物川の系譜なんだよな……。

60 雨に紛れて、非情に無上/一志鴎

謎の有袋類
 前回のこむら川小説大賞では、偕老同穴の祈りを書いてくれた作者さんです。
 ホラーが得意な作者さんというイメージなのですが、今回は現代ドラマでエントリーしてくれました。
 それぞれの視点に寄ったカメラが短いスパンで切り替わり、最後に真相がわかるというシリアルキラー的な人物の話です。
 最初と最後の関連付けが綺麗で印象的でした。
 ルカくんが美術が得意なことや、公園の絵を描いた理由がどういう伏線になっているのかまでは読み取れなかったので、もし伏線があるとしたらもう少しヒントがあると読むときに読者に対しての負荷が減るかもしれません。
 毎年、誕生日に誰かを年齢の数だけ刺しているルカくんなのですが、去年は大柄な人を選んで十六回刺したということですよね。
 ニュースになっていないということは、もしかしてキルをしたのは今回が初めてで、前回までは命までは奪えていなかったということでしょうか。
 中盤の同級生との微笑ましいやりとりと、結末の温度差がすごくてぞっとさせる良い作品でした。

謎のストクリス
 不穏な冒頭から始まり、場面は変わって男子高校生の日常。そして種明かし、という三部構成のお話です。主題は「多面性」ですね。一人の人間も様々な顔を持っていて、一面しか知らないでいると隠れていた面が異様に見えたりするものです。
 おそらく他の読者もそうだと思いますが、第二部の日常パートは物語を追いつつも第一部の殺人に繋がりそうなヒントを探しながら読んでいました。が、イズミが野次馬程度に興味を持っていたくらいで、なかなか関連が見えません。彼らが事件に巻き込まれるのかと思いつつ読み進めていると、最後に意外な犯人が明かされます。
 他のミステリー作品だったならば、犯人の種明かしが唐突だと突っ込むところですが、本作においてはその唐突さこそが狙った効果だったのだろうと思います。長年連れ添ってきて様々な面を知っている友人でも見たことのない一面。本人にとっては大切な、しかし常人からは理解の及ばない動機。これらがするりと開示されるのはまさしく本企画のテーマ「擬態」のようで、今の今まで花だと思っていたものが虫だったり、岩だと思っていたものが魚だったりしたことに気づいた瞬間の驚きに似ていて面白かったです。

謎のイヌ亜科
 秘密を抱えた少年と、それに気づかない親友の話。
 イズミとルカのやりとりが魅力的でした。美術的な才能が周囲に認められているルカの素顔を、イズミは唯一知っているという自負がある。それは誕生日プレゼントとして彼が好む飴を用意したことからも明白で、それでも彼の擬態には気付いていないグロテスクさ……!! イズミが物事を調べる事を好む性格なのも相まって、本当は理解できていない友人を理解していると言い張っているような物悲しさがあります。他人を理解しているつもりでも、完全に理解するのは不可能だと暗に語っているようでした。
 また、誕生日プレゼントを断絶の象徴に持っていく作劇にも唸らされました。プレゼントされた飴は擬態しているルカにとっては好ましい物でも、彼が自分のために用意していたプレゼントは人の死だった。溶けていく飴は解けていく擬態を暗示しているようで、今後の崩壊するかもしれない関係性に思いを馳せたくなりました。

61 君のおっぱいになりたい/成井露丸

謎の有袋類
 パンツと青春といえばこの人!成井さんが再びおっぱいでこむら川にカチコミしにきてくれました!
 前回Fカップだったことに謎の有袋類がボリュームが足りないと言っていたのを覚えていた成井さん……。Hカップで来るとはね……感服です。
 お話は、かなりオーソドックスな余命純愛ものなのですが、そこに思い切りトンチキをぶっ込んでくるパワープレイがすごいですね。
 神様にお願いをしたからって人間がおっぱいに「擬態」が出来るようになる。どういうことだってばよ……。
 こまけえこたあいい!とばかりに、お話はドンドン進んでいきます。
 ずっと一緒だった幼馴染みと、水野くんのやりとりで水野くんが自分の持っている行為を誤魔化す描写が何度も繰り返されていて警戒していたのですが、やっぱり綺麗に回収してくれましたね。
 ラストの「そうやって、誤魔化すんだ」を裏切ってくれたときのカタルシスは、来るとわかっていても気持ちよくて、見えているのに防御できない必殺の一撃という感じがすごくよかったです。
 今回は、ブラジャーになりたいという狂人紳士と、おっぱいになりたい純愛ものという異色のおっぱい対決が起こるという素晴らしい大賞ですね。
 こちらのHカップおっぱいは、最後ちょっと感動してしまう良い純愛作品でした。
 成井さん……おっぱいや、パンツへの執着をもっと解放して良いんですよ?次回も参加してくれたらうれしいです!

謎のストクリス
 余命幾許もない少女と、彼女を愛する少年の物語。残酷な運命にある彼女の幸せを心から願った少年の結論は「きみのおっぱいになる」。どうしてそうなった。
 読み進めると一心にみはるを幸せを願い、そのための道具に徹する慎二の心の清らかさが分かってきます。美しい文体も相まって清涼感と透明感のある、青春純愛小説といって良いでしょう。その清涼感と透明感の裏で「他人のおっぱいに擬態する」なんて訳の分からない事態を神の御業と片づけたり、その擬態に気付いたみはるがさほど混乱もなく事態を受け容れたり、みはるの恋の悩みが胸のサイズに集約されていたりと、パワープレイっぷりも凄まじい。今作の場合は「純愛」という物語の本筋をしっかり抑えて、そこを邪魔しそうならリアリティも整合性もバッサリ切ってしまうというのは思い切りが良く、大変参考になりました。これは私にはなかなかできない技で、どこまでリアリティを削いでも物語が成り立つかみたいなところを上手く嗅ぎ分けている印象でした。
 その一方で繰り返される「そうやって誤魔化すんだ」が最後の「もう誤魔化さない」に繋がったりと、物語の本筋はとても丁寧に作られているんですよね。ナンセンスさをしっかり飼い馴らし、真面目に締めるべきところとおどけて見せるところを意識して描き分けた、パッと見の印象とは裏腹にしっかりした短編だと思います。

謎のイヌ亜科
 余命幾ばくもない女子高生と、最後の恋を応援したい幼馴染みの話。
 タイトルで嫌な予感はしたけど、キミスイじゃねーか!!!(失礼しました)
 いわゆる難病モノの恋愛小説としては王道なこの作品。ですが、擬態している白い双丘おっぱいが強い個性として根深く結びついています。おっぱいがなければこの作品は成り立たないし、おっぱいを出す(作中に)(露出の意図ではない)必要性がちゃんと計算されてるんですよね。狂ってるけど、感動する。そんな不思議な話でした。
 金村先輩のおっぱい星人っぷりは業が深いんですが、男子高校生の性欲だしな……という妙な虚脱感があります。せめてTPOは考えようよ……とはなるけど!
 みはるちゃん、余命幾ばくもない難病のわりには最後まで元気そうで、そうであるが故に主人公が1人になったときの虚脱感は激しいんだろうな……と思いました。二度とない幸せを抱えたまま、彼は生き続けるのかな……。

62 けだしあやかし side-G/藤原埼玉

謎の有袋類
 ゴリラ処女を捧げてくれた埼玉さんです。
 妖狐の里に住む一匹の狐が、色々あって人里に降りていくお話。
 すごいエモだし、設定も世界観も文体もかみ合っている!すごい!と思うと同時に「これは中編や長編向けの舞台ですね?」となりました。
 1万字や2万字以下の短編だと、複雑な人物同士の関係性や、捻りを二回入れるということはかなり難しいので、メインの登場人物は多くても三人くらいにするといい感じの物語の規模になると思います。
 けだしあやかしでいうと、鵲とばっちゃだけの物語にした方が短編としてはすっきりしたかな?
 最後のゴリラは、こう……がんばったね……。そうオチに使えるのもゴリラ。
 苦し紛れ感はどうしても出てしまうのですが、これは懸命にシリアスから飛び立った覚悟が現れていて僕は好きです。
 ゴリラじゃない方のエンドも後で読むからね……。
 物語の設定や、世界観、狐の里にある掟の設定もすごく興味深かったので、これは中編や長編として活かしてもいいのではないでしょうか?
 埼玉さんの作品を見たところ、一番多い文字数で3万字以下くらいなので、せっかくですし、この物語の世界観や設定を利用して5万字チャレンジなんかをするのもいいと思います!
 色々チャレンジして、短編に最適な舞台選びと、中編・長編のちがいなんかを体感してみると、もっともっと伸びる作者さんだなと思いました。

謎のストクリス
 人の心を知るため死んだ子に化けて老婆のもとに潜り込む妖狐の話…を最後まで読ませてほしかった!純朴な幼狐の主人公に、飄々としているようで何か企みの在りそうなお屋形様。真面目ながら若さゆえの未熟さを覗かせる丙に、老練の崔。そして狂人と成り果てても孫への愛を抱き続ける老婆。不老の妖狐とヒトの感覚のズレを少しずつ埋めてゆきつつも、不穏な影は膨らみ、ついに…というところでメカゴリラ登場。何事でしょうか。
 それまでの展開をぶち壊す急加速は面白いのですが、適度に謎を散りばめつつ丁寧にじっくり描く作風から、勢いで全てを呑み込む展開への移行は振り幅が大きく、ついていけないでいるうちに物語が閉じてしまった印象でした。というよりも、最後のゴリラターンを際立たせるためにそれまでの展開をしっかり描いてきた狙いがあったのだとおもいますが、前半が魅力的過ぎて、その文脈が失われてしまった残念さが超展開を楽しむ悪ノリ心に勝ってしまったという印象です。ゴリラの手綱を握るのは難しいですね。ちょっと予防線の入った章題からも察するに、作者さんも本当はこれゴリラ出さない方が纏まるだろうなと思いつつの挑戦だったと思うのですよ、きっと。その挑戦的な姿勢を評価したいです。こういう悪ノリも身内企画ならではですし、きっと作者さんに何らかの知見と経験値を与えたと思います。
 最後の『END2』というのはマルチエンディングゲームの手法を取り込んでいて面白いですね。すなわちどこかでルートを間違えてしまったというわけで、別エンドを見るために何度かトライしたいと思わせるだけの力はあります。

謎のイヌ亜科
 人と関わってはいけないという掟のある妖狐の集落と、人の感情を知りたい幼い妖狐の話。
 ゴリラが来ると身構えながら読んでいたのですが、いざ出てくるまでその存在を忘れていました。だからこそ凄まじいインパクトで殴りかかってきたんですけど!
 ゴリラ以外は完成度の高い和風ファンタジーでした。妖狐たち皆々に個性があって、特にお屋形様が好きです。最年長であるが故の超然的な態度と掟への柔軟さが好きだな……。
 村の老婆も、哀しい人なんですよね。突如として子を亡くした現実を理解できずに狂ってしまったけど、子思いで星空を「うつくしい」と思う感性は失われていない。鵲が出会った中でも一番感情的な人間で、だからこそ擬態を解いた鵲に強く当たったのかな……という想像が働きました。
 一点気になった部分として、概念ゴリラはゴリラである必要がなかったのでは?? 老婆は実はロボットが擬態していたコンピュータおばあちゃんだったというオチで十分面白いので、そこにゴリラを挟むプロセスはちょっと過剰かな……と思いました。ゴリラの制御、難しいからね……。

63 嘘をつかねば仏になれぬ/けだま

謎の有袋類
 初参加のけだまさんです。ありがとうございます!
 芦花公園百物語で怖い話を書いてくれていたけだまさん、こむら川にもホラーを書いてくれました。
 死骸を置いておくと知らない間になくなってしまうという祠がある地域のお話ですね。
 最初は、子供なので遺体を保健所とか近所の人が回収してるのを知らないで、なにかやらかして神様的なものを怒らせるのかなーと思っていたのですが、ちがった。
 ホラー要素もあるのですが、現代ファンタジーでも通じそうな設定で、僕は結構好きです。
 忘れたいものを置いていく祠には、かつて悲劇的な成り立ちがあったということや、彼岸なので神様もどきが話しかけてくるという現象もすごい好き。
 ここは個人的な価値観や好みのお話なのですが、神に擬態している怨霊もどきでも、神だと信じられていればそれは本物なのでは?と考えさせられてしまいました。
 タイトルの「嘘をつかねば仏になれぬ」だけ、ちょっと物語からは読み取れなかったので、何か意味がある場合はわかりやすく物語で回収してくれると個人的にはスッキリして、良い読後感に繋がるのかなと思いました。
 神様もどきのキャラクター性や、一話の最後から二話のラストに繋がるお話の流れや伏線の活かし方はとても綺麗で、完成度が高い作品でした。

謎のストクリス
 亡くなった大切なものを彼岸に渡すための祠にまつわるお話。
 二部構成になっているのですが、第一話で完結したかのように綺麗にまとめた後にぐるんと視点を変える第二話、という構成で面白かったです。死んでしまった愛犬との絆を描くほろ苦くも優しい一話に対して、二話は失望と怨嗟に満ちています。かといって二話のどす黒さが一話の優しい読後感を損ねているか言うとそうでもなく、二つのエンドを絶妙に絡めて両立させていました。上手い。
 口減らしのため騙され見殺しにされた少女たちの成れの果てが、極楽や地獄に行くことも叶わず、かといって騙された通りに神となることも叶わず、ただただ生者が生きるために捨てていくものを取り込むだけの存在という発想は感服しました。身の上に起こった事の実態を把握していながら恨みや憎しみに憑り付かれるわけでもなく、淡々と神としての役割をこなす現象のような存在になってしまうことに虚しさを覚えました。ただ、私は擬態を「生きるために他者を欺く姿を取ること」と考えており、その視座に立てば本作の偽神は定義から外れています(この部分は解釈の違いですのであまり気になさらないでください)。
 それと細かいところでは偽神の口調、すごく好きです。もし本当にこういう存在がいたらこういう話し方をするんだろうな、と。こういう部分部分のリアリティが作品全体をキュッと締まりのあるものにしていきますね。

謎のイヌ亜科
 町の祠にまつわる、忘れられたものの話。
 いいホラーでした。前半に『神にされたもの』の正体を明かしてしまう構成は大胆なのですが、これは後半で主人公が行った行為の凄まじさを際立たせる効果があるように感じます。母親がパピの死を忘れたいものとして祠に捨てたことが、主人公に遺体を捨てられる因果になるわけですね。忘れたくなかったパピは心の中に、忘れたい母親は祠に……。人間の残酷さですね。
 自らの都合で絶やしてしまった命を都合よく昇華する概念としての『神』が、その実それに擬態した何かの集合体である、という設定から感じるシニカルさも魅力の一つだと思います。人間の悪性の話でもあるわけですね……。

64 車止めのオッサン/ドント in カクヨム

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 奇妙な格好をしているオッサンに心配して駆け寄った青年のお話です。
 オッサンの身の上話もそうなのですが、主人公の会社での出来事がこう……めちゃくちゃ精度が高いというか、鮮明ですね。
 作者の方の体験談もかなり混じっているのでしょうか?お疲れ様です……と心の底から思ってしまいました。
 オッサンは、社会に疲れてある日突然車止めになるという突飛でギャグになりかねない設定をうまく乗りこなしていて、殺伐としすぎないお話になっているのがすごいですね。
 擬態に関しては、これは社会から身を守るための擬態?変身?と難しいテーマをこう解釈したのかと興味深く読むことが出来ました。
 文章も読みやすくて、人が突然車止めに変わり、最後にはその他のオブジェや椅子に変わっている可能性すら示唆されるのですが、どことなく温かな雰囲気になっているのに驚きました。
 社会の世知辛いことに耐えられなくなった人にも安らかな時間が訪れる。それはそこまで悪いことではないかもしれない……そう思わせるようなお話で、世にも奇妙な物語に出てきそうな不思議な雰囲気のある良い物語でした。

謎のストクリス
 面白い!私、こういうのに弱いんです。何気ない日常の中に一つだけ常識はずれなところがあって、でもその常識外れには彼らの道理があって、その世界の綻びというか、彼岸と此岸の境というか、そういうところを見つけてしまう物語。アウターゾーンだったりトワイライトゾーンだったり、世にも奇妙な世界だったりしますね。
 足を踏み入れてしまった人には不幸が訪れることも多いのですが、本作では「消えたいけれど消えたくない」ほどに魂を磨り減らせた人々にとっての安楽の姿として車止めが登場します。読んでいて某漫画の「激しい喜びも深い絶望も無い、植物の心の様な平穏な人生」というフレーズが頭を過りました。
 現代社会で心を磨り減らす人にはそれぞれの背景と理由があるのでしょうけれど、このお話の主人公やオッサンを見ていると、どうやら「良い人」なんだろうなと思います。そんな彼らが公共物、地味で目立たないけれど実は様々な人の役に立っているものになれたというのは、その魂の在り方を示唆しているようにも見えます。もしかするともっとロクでもない人間はロクでもないモノに変身しているのかもしれませんね。どうやら不可逆な変化であろうことや、他人を欺いているわけではないことから、私の考える「擬態」とは少し外れているのですが、大変面白いアイディアでした。
 さらに面白い点として、車止めになってしまったオッサンと主人公、もしかすると他の公共物になってしまった人もいるかもしれないわけですが、彼らは互いの目にもやはり公共物にしか映らないんですね。俗世の喧騒を離れ、独りだけれど孤独でない、不思議と穏やかな空間に想いを馳せてしまいます。

謎のイヌ亜科
 車止めの中に背中を丸めた中年男性を発見した、とあるサラリーマンの話。
「世にも奇妙な物語」の一編のような話でした。ストレスの多い現代社会における仙人めいた、俗世と隔絶される車止め生活。物に擬態することで誰かとの密な触れ合いが発生し、孤独を感じなくなるという描写から、ただの与太話ではないひりつくようなリアルさを感じました。
 主人公の上司のスカム言動も、凄くリアルな質感が伴っている気がします。異世界ではない、現実と地続きな世界だからこそ、このような状況に陥る人は実在するんだろうな……。

65 as・if/和泉眞弓

謎の有袋類
 前回は月へ行く作品で爪痕を残してくれた和泉さん。
 今回は、ペガサスですね。これは綺麗なペガサスです。
 年頃の少女の倒錯した感情、死の気配、執着、自傷行為……とペガサスの要素が詰まり煮詰まった作品。
 過食嘔吐という大発明をして、友達にも馴染んだと思ったら、その仮面も一度の失敗で剥がれ、線になりたいという想いもバレエの前では否定されてしまう。
 そんな追い詰められた主人公の行き着く先が、病室というのはすごい綺麗な下降線で、自分を受け入れてくれなかった両親への復讐のようにも思えます。
 和泉さんは、前回も今回も不登校の人物を主人公にしているのですが、今回は一時的にとはいえうまく学校に馴染んでいるのが珍しいなと思いました。
 摂食障害というテーマも、非常に生々しく精度の高い描写をしていて、多分似たような体験をした人は引き込まれるのではないでしょうか。
 書きたいテーマと自分がしたいことは、もう十分出来ている作者さんだと思うので、今後は読んだ人をどんな気持ちにさせたいかを考えて書いていくともっと威力の高い一撃を放てるようになると思います。
 これからも、好きなテーマで自分の武器を研ぎ澄ませて欲しいなと思いました。

謎のストクリス
 美を追求するバレリーナのお話。主人公の彼女にとっては線、一切の無駄が削ぎ落された姿が美の理想でした。
 まず文章が美しいですね。特に好きなのは「それは月には裏側があると知ったときのように、あるいは夜景をなす灯の数だけ生活の営みがあると気づいたときのように」。これ「食べても吐けば太らない」と思いついたときの描写なんですよね。美を追い求める彼女の言葉らしく、あるいは水面下でバタつく足を見せない白鳥らしく、その言葉の裏にある生々しさを美しく覆う言葉が既に、後に理想の「線」になるために命すら手放さんとする彼女を暗に示しているようにも思えます。
 摂食障害は私自身が体験したことは無いので想像するしかありませんが、真に迫った描写のように思えます。食べてしまったときの罪悪感や吐き出すまでに時間がかかり消化が始まるのではないかと焦る気持ち、食べた者が出てこない焦り。どれもこれもリアルに、自分の経験のように感じられました。こういう、狂気に蝕まれてゆく人間の心理描写は作者の和泉さんの強みの一つですね。
 擬態というテーマに関しては難しいところですが、これは「擬態していられなかった」という話ななのかなと思います。自身のあるべき姿とは異なる姿でいることに我慢がならなかった、生きるための姿では生きてゆけない、そういう話なのだと私は解釈しました。アンチテーマ的なアプローチで大変面白いと思います。

謎のイヌ亜科
 美のイデアを追い求めた、バレリーナの話。
 病的なまでのストイックさは、ある種の強迫性を生み出す……そういった作品でした。これが求道者のような人たちにとっては普遍的かもしれない物で、表現者としての執念といった部分は芥川龍之介の『地獄変』を思い出しました。カテゴリは現代ドラマですけど、僕の中でこれはホラーですね……。
 擬態要素はアズが自らの思いを隠して友達と食事をする場面にかかると思うのですが、イデア(擬態ではない本物)を追い求める彼女から見た周りの人間のことなのかもしれないな、と思いました。
 アズの生き方は決して肯定されるものではないのですが、その美を求める姿勢は本物だったと言えるでしょう。そうでないと救われない、そんな話でした。

66 わたしはわたしではなくだれかでもない/ドント in カクヨム

謎の有袋類
 車止めのオッサンを書いてくれたドンドさんの二作目です。
 一作目とは打って変わって、しっとりとした読み心地の作品で、最後の読者の想像力に委ねられるラストは読む人によって結末が変わりそうですね。
 4000字という短いお話の中で、これだけのものをまとめるのはすごい……。文章を書き慣れている方なんだなというのが伝わってきます。
 どんどん顔の皮を剥いでいく彼女が、身体、身体のパーツと徐々に正体を現す描写は不気味でもあり、美しいですね。
 顔に名前があるということは、その名前の持ち主から奪ったということなんだろうか……と、明言はされていないまでも、読者にそう思わせる手腕はすばらしいです。
 人ではない何かと、モテる方だと自負している主人公の心や身体の温度差が、最後にぐるんと意味が変わってくるのもすごく好きでした。
 個人的にはハッピーエンドになって欲しいんですが、秀介くん発狂しちゃいそう。
 自分の正体を明かす前に、部屋を明るくしたり、秀介くんを縛り付けたりと手慣れてる様子も、同じ事を何度も繰り返したのかな……。
 悲しい異種交流の果てに加奈子が自分を愛してくれる相手と出会えると良いな……と思ってしまう良いお話でした。

謎のストクリス
「車止めのオッサン」のドントさんの二作目。彼女の抱えた秘密を主題にしたお話です。愛したものが本当の姿ではなかった、人間ですらない異形だった…という筋立てはよく見るものですが、本作ではその行動原理が徹底して愛なのですよね。いや、愛の前段階と呼ぶべきでしょうか。愛する人に自分の姿を見て、受け入れてほしいという気持ち。「ああ、やっとさわれた」というセリフや、秀介が「ソレ」の眼に加奈子として愛した者の存在を認識して恐怖と共にもう一つの感情を覚える部分では胸が詰まりそうになりました。
 技術的な面では、説明を省きつつも所々の描写で作品に奥行きを与えているのが巧いなと感じました。剥がしてゆく顔の一つ一つに名前がついていることからは元の持ち主の存在が暗示され、その名を覚えていることからは彼女の心を垣間見ることができます。それまで恐怖一色だった秀介の心の動きは、異形の瞳に加奈子を認めたという一文が雄弁に語ります。また冒頭の加奈子の「スタイルがコンプレックス」「ボディタッチが多い」という描写が、読み返すと意味が分かって切なさを覚えさせるのも良いですね。
 確かな文章力と技巧に支えられた、切なく美しい物語だと思います。

謎のイヌ亜科
 彼女が抱えていた秘密を明かされる彼氏の話。
「本当の自分を見てもらいたい」という欲望は人間なら誰しも抱く感情で、“彼女”もその中の1人だったのかな、と思いました。誰かの皮を重ねるように被るのをやめて、黒い棒のような本質を露わにする。その姿を受け入れてもらえることができれば、彼女は納得できたのかな、と。
 おそらく被ってきた皮の数だけそういった機会があったのかもしれなくて、それが故に秀介を縛りつけたのかな、と感じました。怖がられること、逃げられることは承知の上で、それでも愛する人に自分の中身を見てほしい。手段を間違えてしまっただけの、哀しい純愛だ……。

67 擬態女/ナツメ

謎の有袋類
 こわ!!!こわ……。ええ……めっちゃ怖かった。なにこれ…。
 はじめましての方ですね。参加ありがとうございます。
 急にすごいものを読まされてしまった……。こういう油断させていきなりナイフで心を抉ってくるタイプ、本当に最悪で大好きです。
 ちょっと強迫観念に追われるTwitterで学級会を開いてそうなオタク女の歩は、毎日擬態をして会社へ行っています。
 イヤイヤ擬態をする歩に、友達のはるかはアドバイスをしていき、歩は擬態を徐々に擬態をやめて、新しい友人も出来そうで、やったーハッピーエンドー!だと思ったら、急にぬるって怖いのが出てきた……。
 お、お前だったのか……地の文は……こわ。
 めちゃくちゃうまいですね。マジで……。小説がうまいとはこのこと。
 こういう最後の最後でグルンって世界が回って、最初からもう一度作品を読み直してもう一回「こわ……」ってしみじみ思える作品はすごいですね。
 しかも、真相がわかってから読み直した方が気持ち悪い。お前、お前がこの地の文を思っていたのか…という爽やかに読んでいた一回目には戻れない感じ。
 すごい作品でした。

謎のストクリス
 これは良いですね。まず擬態の解釈が私的にパーフェクト。そう、擬態とは生きるために他者を欺く姿を取ることです。ここまで一致するとは。
 そしてこの作品の大仕掛けも素晴らしいです。なんてことの無い「普通の人間のように生きるのは難しい」というテーマの話だと思って読み進めつつ、実はいくつか違和感があったんですよ。歩の表情をなぜ「鏡越しに」描写したのか。「スマホのフリック入力で爪が当たるから誰かとメッセージのやり取りをしているとわかる」とまるで直接は見ていないような描写をしたのは何故か。そして何より、外出先でオタク姿を同僚に見られてしまうというアクシデントや、それが解消される高橋さんとの会社での会話シーンを描かず、舞台がリビングから動かないのか。最初、これらの要素を講評のなかで指摘することになるかなあと思いながら読んでいました。「舞台をリビングから動かした方が良いでしょう」などと書くつもりでいました。
 そして、やられました。ああ、気持ちよく騙された。何と痛快。もう多くは語りません。テーマ解釈、フェイクと伏線の張り方。種明かしパートで全てが繋がる構成、感情を逆立てる描写。どれもこれも素晴らしい。

謎のイヌ亜科
 自分の本来の姿を隠す女性の、とある日常の話。
 どんでん返しが上手い……!! 中盤まではどの辺がホラー?となるくらい良い話なのですが、最後の最後で急激に不穏な話になりました。江戸川乱歩の『人間椅子』の百合バージョンなのかな? 告解の手紙が届かないとこんなに怖いんですね……。
 三人称だと思っていた地の文が変に主観的だったり、やけにソファの描写がしっかりしていたり、読み返してみると伏線めいた描写がちらほらあるんですね。作者の方の手腕にまんまとやられました……!!

68 胎に潜る/加湿器

謎の有袋類
 前回のこむら川では、レディ・ウルフというハードボイルド百合を投稿してくれた加湿器さん。
 今回は、時代小説のような文体で描かれるゴシックな雰囲気の作品で参加してくれました。
 加湿器さんの作品で、JK侍必殺剣 - 妖剣うらみ胴の巻が僕は個人的にめちゃくちゃ好きなんですが、JK必殺剣、レディウルフ、おやまクリッカーと作風の幅が広いのがこの作者さんのすごいところ。
 今回の胎に潜るみたいな文体も、キャッチーな文体もどちらも面白いモノを書けるのは素直にうらやましいな……と思いました。
 この作品は、使命に燃える兵士と少女、そして老婆による物語です。
 貴い血を残すために近親相姦を繰り返し、その血を盗むモドキを領主が清める。モドキの設定周りがすごく好きです。モドキ……多分奇形で生まれた赤子なんだなと読者に察させるのがうまい。
 読み返してみると、これは少女が生んだものではなく、清めるために取り上げてきたのだということもわかるのがすごく良いです。
 幼い領主、そして多分その領主の母である老婆、くたばってしまった前任の番兵と同じ役割を継いでしまった兵士……ゴシックな雰囲気のある良い作品でした。

謎のストクリス
 中世を舞台にした伝承のようなお話でした。
 まず文章が読みやすく綺麗ですね。「文明の灯の届かぬ月夜」や「卑しい欲望こそがその薪であった」といった暗喩表現が特にグッときます。少し硬めで古い印象の語彙・言葉遣いで統一しているのも、寓話や伝承のようなストーリーにマッチさせるための意識的なものでしょう。文章を書くことに慣れている人なのだろうと思いました。ただ一点だけ、「少女」と「娘」が両方登場するシーンはどちらがどちらだか混乱してしまいました。「少女」「娘」で描き分けているのですが、前の章で少女を「娘」と表していたこともあり、何度か視線を戻すことになりました。逆に言えばこのような些事が目立つほどに他の部分が読みやすかったともいえるでしょう。
 モドキの直接的な正体については言及されず、最初の少女の説明では未熟児や奇形児を指すのかなと思いましたが、全体を通した後に読むと男児という可能性もありますね。魔女として血を継いでゆくため子種を定期的に捕えては搾り取り、不要な紛い物は捨てる、と。
 そして最も魅力的だったのは主人公が少女を導こうという義心の正体を看破されて羞恥心に沈むシーン。長くを生きる魔女は超常的な力など使わずとも言葉一つで容易く心を折る。風格に満ちていました。

謎のイヌ亜科
 管区に赴任したばかりの兵士が出会った、少女と因習の話。
 硬質なファンタジー的な文体で、とても好みでした。流れるように重厚な世界観を味わえるので、読み返した時に5000字未満なことに驚きました。
 無知な少女に擬態していた領主の存在も恐ろしいのですが、主人公が抱いていた啓蒙欲求と“友達”との関係に地続きのものを感じたんですよね……。無垢で何も知らない者への態度と彼の抱く欲望を結びつけて読んでしまうと、単なる正義感ではない複雑な感情の流れを感じました。血を絶やさないための苗床になることは、主人公にとってはハッピーエンドである可能性もあるんだよな……。

69 ベッドハンティング/全方不注意

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 こちらは結構王道のラノベ!という感じの世界観を基にした作品ですね。川系大賞では結構珍しいのではないでしょうか?
 職業があり、ギルドがあり、モンスターの出るダンジョンに宝や名誉のために冒険に出るというわかりやすい設定で読みやすかったです。
 戦士と魔法使いは説明いらずだと思うのですが、探索士だけ何をするのかちょっとわからなかったです。
 支援職なんだろうな……というのは察せたのですが。もう少しだけ説明になるようなものを入れたりすると親切かもしれません(僕があまり職業がある系の作品を読まないだけで探索士というのはメジャーな職業かもしれないので、そこは僕の知識が足りないだけです。すみません)
 戦闘シーンの描写がすごくよかったです。それぞれの職業を活かして戦うのは、RPG風ファンタジーの醍醐味ですよね。
 戦士の仲間を庇うタンク的な役割や水を使う魔法使いの機転、探索士の目潰しなど個性が出ていて読んでいて楽しかったです。
 報告書風にまとめられた三話目も面白かったです。
 この作品しかカクヨムにはないのですが、普段は別のサイトで作品を書いている方だったりするんでしょうか?
 この調子で、どんどん好きな作品を書いていって欲しいなと思いました。

謎のストクリス
 剣と魔法の世界を舞台にしたミミック探しのお話。
 本作のオリジナリティは、冒険者向けのベッドに擬態し快適な睡眠体験と引き換えに精気を奪う、サキュバス的な要素も併せ持ったモンスター。噂話程度の存在ですが懸賞金が懸かっていることもあり、興味を抱いた冒険者3人が探しに出ることとなります。
 この作品はテンポの良さが特徴的だなと思いました。目的が分かりやすく、登場人物たちの動機も簡潔。RPG風という既存のフォーマットを使うのでキャラクタの描写も最低限で済みます(RPGに慣れない人には説明不足に感じるかもしれません)。仲間に加入する段階で各人の性格や能力のお披露目もあるので、後段の探索や大鬼との戦闘においても展開がスムーズです。あまり捻くれた所のない素直な展開だからこそ、唯一の捻くれどころで見事に引っかかりました。
 なるほどハウスミミック。どう見ても怪しいベッドに思いっきり引っ張られました。単純なベッドミミックの別種でなく、大鬼の存在を搦めてハウスの姿を取る理由付けにしているのも良いですね。もしかすると最初に大鬼が眠っていたのは精気を吸われたからだったのかもしれません。
 簡潔な描写で素直な展開の作品なので簡単そうに見えますが、構成や各シーンの意味がよく練られていて、小慣れた作品だという印象でした。良作で間違いないのですが、これだけのものを書ける人にならもう少しひねくれた、大きなどんでん返しを期待しても良さそうだな、とも思ってしまいます。楽しみです。

謎のイヌ亜科
 ベッドに擬態したミミック、ベッドミミックを追うパーティの話。
 ベッドミミックが出現する条件として、探索者が極度の疲労状態である事が関係していそうですね。自走する習性があるなら、戦場のど真ん中にハウスミミックに成長して存在しているかもしれない。精神的な疲労感のみに作用するなら、現代社会では人間と共生できるのでは?と思いました。
 ベッドミミックの捕獲法をパーティ内で相談する時に、まず普通のベッドを運ぶところから話が始まるのが面白いです。ベッド、結構幅取るからな……。ベッドミミックでさえ難儀するんだから、ハウスミミックを運べるわけがない。ミミックの生存戦略に適した進化だ……。

70 嘘つき師匠の回顧録/@manta100

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 師匠の視点から語られるラブな感じの作品です。
 なんとなく、書き方から見て普段はpixivとかでご活躍の方なのかな?と思いました。どうなんだろう。
 母の仇を討つために、一番強いと言われている女に弟子入りをする子供。
 しかし、母の仇は師匠だった……という王道なお話なのですが、読んでいて現代ファンタジーとはあったけど、そういう学校制度やなんやらはちゃんと日本っぽいのに面食らってしまいました。
 師匠も弟子もキャラクターとしての魅力は十分なので、作品のリアリティラインの提示を物語の冒頭でしてしまうなどの工夫があるといいかもしれません。
 作者の頭の中にある風景は、思っているよりも読者に伝わらないものなんだと思います。
 リアリティラインの設定を提示することで、読み進めていく内に出来た読者の中にある作品内にある世界のイメージと、後から出された設定の齟齬があって没入感が薄れてしまう事故を減らせると思います。
 師匠の強くて人でなしだけど、弟子には愛着を持っていた場面はめちゃくちゃ好きです。
 自分の頭の中にある風景を、読者にどうすれば伝えられるかを考えればもっともっと強くなれそうな、今後が楽しみな作者さんの作品でした。

謎のストクリス
 タイトル通り回顧の形でつづられる師弟のお話。
 殺された母の敵を討ちたいという少年と、成り行きから彼を鍛えることとなった師匠。次第に師弟の絆は育まれてゆきますが、実は少年の敵とは師匠その人で…というお話。
 お話そのものは師弟モノの一つの王道というか、素直な筋書きなのですが、大きく複雑な感情をたった一言に集約させて表現しきるのが大変に上手い。何度も繰り返される「もう少し、もう少しだけ」が象徴的ですが、個人的に一番グッと来たのは「仕方ないよなあ、私にゃ殺せなかったんだから。殺されるぐらい、受け入れないと」の一言。この短いモノローグに師匠の傭兵としての哲学や弟子への愛、今の心境がグッと詰まっていて、よくぞこんなセリフを考えたものだと衝撃を受けました。
 ここから先は参考程度に読んでほしいのですが、上述したように作者さんの強みは感情の凝集された一言だと思います。本作は大部分が師匠のモノローグと会話で構成されているためセリフの多い作りとなっていますが、もしもセリフが少なかったのならば、持ち味の鋭さはより際立つように思います。本作は本作で完成しているので、これを改善せよという意味ではなく、もし今後も創作活動を続けられるのであれば一度極限までセリフを絞った作風に挑戦してみると幅がグッと広がるのではないかと思います。

謎のイヌ亜科
 傭兵をしている女と、親を殺された少年の師弟関係の話。
 好きなやつです。ありがとうございます。
 師弟揃って感情の揺れ動きが見事でした。師匠は弟子の親を仕事に巻き込んで殺してしまった事への後悔は表に出さないのですが、先手を打って自分の障害となる存在を断つこともできない。強さと弱さが同居したような、良くも悪くも人間臭い存在なんですよね。それは教えを受けた弟子も同じで、最後の最後で人間であることを捨てられない。それこそが2人の関係性が続いていった結果なんですよね……。
 これは僕がめちゃくちゃ笑ったポイントなんですけど、三角関数でビーム反射するのは女子高生収容所くらいでしか使わなくない?? 原子分解ビームをイアイで弾き返す時くらいでしか使わない気がする……。

71 きいろい服のおっさん殺人事件/ゆきやなぎ

謎の有袋類
 前回はベスト オブ バストで参加してくださったゆきやなぎさんです。
 今回は、某教育テレビにありそうなキャラクターと舞台のミステリー。
 語り口調もそれっぽくて、完全に脳内再生されてしまうのが憎い造りですね。
 前回は「どういうこと?」と闇の評議員で謎解きをがんばっていたのですが、今回の作品はミステリーが読み慣れていない僕でもスッキリ読むことが出来ました。
 初見さんに優しい作品……。トリックに繋がる伏線もわかりやすく配置してあったのがすごく親切だなと思いました。
 短編なので、時系列に描くのは大切なのですが、初見の読者を掴みやすくするために1行目でおじさんを殺してしまうのもありかな?とは思うのですが、おさるのジョージのオマージュとしては、この冗長なお話も味なので難しいですよね。
 擬態部分は木像が実は金の像だったという部分でしょうか?
 トリックの根幹に擬態が使われていたらお題回収の部分も最高だったと思うのですが、これは個人的な好みのお話なので、話半分に聞いてください!
 オマージュ先をついつい思い出して、ふふっとなる良いミステリーでした。ジョージ、どうジャングルに帰るんだろう……。

謎のストクリス
 相棒のおっさんを殺した犯人を相棒のサルが解き明かすミステリーです。
 元ネタであろう「おさるのジョージ」を読んだことはないのですが、原作を知っているとパロディとしても楽しめたのかもしれません。
 絵本の様な文体に油断していましたが意外にもミステリとしての構成はしっかりしていて驚きました。謎の提示に証言集め、各所に散りばめられたヒントとそれを綺麗に回収する解決編。関係者が次々と怪しく見えてしまう誘導もお見事でした。途中までは「実はおっさん生きてました」エンドも想定しながら読んでいたのですが、読み進めるにつれてそれは無さそうだと悟り、最後の切ないハードボイルドには納得しかありませんでした。
「擬態」についてはアイテムの一つである木彫りの像が当たると思いますが、主題と呼ぶにはやや弱いかなと思いました。このあたりはお題のある企画に対して「お題を主軸に据えるべき」と考えるか「お題は脇役でも構わない」と考えるかの違いなのかもしれません。私はいち評議員として前者の考えでいるのでこうした評価になりますが、作品全体としては良くまとまっていて良いと思います。
 イロモノに見せかけて王道正道のミステリーをやってのけ、リアルさと荒唐無稽さの汽水域、程よいラインでしっかりとしたお話作りをされる手腕は確かなものだともいます。

謎のイヌ亜科
 黄色い服を着た飼い主が亡くなり、その原因を突き止めようとするオランウータンのジョージーの話。
 完全に土曜の朝にやってるやつでした。投稿時間もちょっと近いのが尚更言い逃れできないやつ!
 ほのぼのとしながら少しシニカルなナレーション(どこかで聞いた事がある気がする)に撹乱されつつ読み進めたのですが、しっかりした本格ミステリで笑ってしまいました。ゆきやなぎさんの作品は「情と錠」が好きなのですが、こっちの方向性も好きですね。
 擬態要素は木像ですね。実際は金の仏像だった……というオチなのですが、ジョージーのインパクトが強くて霞んでしまったのが残念です。もう一点擬態の要素があれば、よりテーマ性を内包した作品になったのではないでしょうか

72 変幻探偵カメレオナード 〜対決! 怪人二万面相〜/綾繁

謎の有袋類
 前回はかっこいい近未来的世界観で参加してくれた綾繁さん、今回も少しサイバーチックな発明が目立つ探偵VS怪盗ものです。
 怪盗二万面相と、そのライバル開明レオン、そしてお約束でもある銭形警部っぽいラボード警部。更に執事にヒロインと盛りだくさんな作品でした。
 善の怪盗と、祖父の形見を駆使するレオンの頭脳戦、そしてヒメカとコノハの入れ替わりなどとても楽しく読めたのですが、1万字だとどうしても詰め込みすぎになってしまう気がします。
 相手を出し抜く為に二転、三転と変装や中身が入れ替わっているのですが、大勢の人が誰かになりすましていた……の連続は小説だと少しわかりにくくなってしまうのが難点かもしれません。
 ヒメカとコノハちゃんもせっかくのヒロインなのですが、多分文字数の関係上二人の関係性が欠けなくてポッと出感が否めない気がします。
 1万字は結構短いので、二回転も三回転もさせるよりは、登場人物を絞り、ワンパンチ捻るくらいの規模がちょうど良いと思います。
 文章もキャラクターも、物語もとても魅力的に描かれているので、あとは文字数の規模に合うものはなんなのかを見極められるようになれば、グンと力が伸びるポテンシャルを持っていると思うので、これからも色々チャレンジして欲しいなと思います。
 綾繁さんは、力は十分だと思うのでこれを機に、中・長編なんかにもチャレンジしてみてもいいのではないでしょうか?

謎のストクリス
 タイトルからも展開からも少年探偵団シリーズを彷彿させるお話でした。超技術を駆使した劇場型犯罪を好む怪盗と、対峙するは捉えどころがないものの実力者の風格を漂わせる名探偵。何か信念を隠した依頼人に、怪盗逮捕に心血を注ぐベテラン警部。舞台設定も登場人物も魅力たっぷりです。結末の、探偵と怪盗の(二万面相の側は勝ちを譲ると言っていますが)どちらの勝利とも言えない展開もこうした物語らしく、程よく力を抜いて楽しめました。
「というかそれほとんど怪盗の特徴じゃねーか」や「二面性のラボード」にはクスリときました。細かい笑いを仕込むのが上手いですね。欲を言えば例えばラボード警部の二面性が伏線になっていたり…という展開を期待しました。ピックアップされた要素は何かの伏線かと思ってしまうもので…。
 テーマに関しては探偵の迷彩と変装で回収ですね。他はともかく執事が少女に?というツッコミは笑いどころの一つとして消化しました。ただこの部分、とにかく入れ替わる人数が多いので誰が誰に…と混乱してしまいテンポを削いでいるように思えました。字数制限に苦労したのだろうと窺えますが、この部分が唯一心残りです。
 魅力的なキャラクタと舞台設定に基本は王道ながら少し外したストーリーは魅力たっぷりでした。もう少し長いお話だとこのあたりの良さがより濃くなっていくのかなと思います。

謎のイヌ亜科
 神出鬼没の怪盗『二万面相』と変幻自在の探偵『開明レオン』の話。
 綾繁さんの書かれる近未来SFミステリ、良いですね……。元ネタと思われる怪人二十面相が児童向けの小説だったように、こちらの作品もポップで軽やかな雰囲気が魅力的でした。
 擬態要素として怪しい登場人物がたくさん出てきたので、「誰が怪盗なんだ……」と推理していたのですが、認識外から現れた人物の存在で完全に面食らいました。(これは僕が伏線を見落としていただけかも)
 擬態や変装という題材の関係上複雑になりがちなのが気になったので、もう少しわかりやすく解説があるとより楽しめたかもしれません!

73 蝕む月/不死身バンシィ

謎の有袋類
 レッツバンシィ!進捗は正義です。
 前回は肉弾戦車珠美で闇の評議員たちの脳を襲ったバンシィさんでしたが、今作は暴力からスタートのこの作品。
 この擬態の解釈すごいですね。人間は怖い。ぞわっとしつつも最後はハッピーエンドという手腕がすごいです。
 バンシィさんといえばKUSOの第一人者!と思っていたのですが、すごい。正統派の物語で後頭部をガツンと殴られた感じがします。
 非合法の蹴られ屋という殴られている隙に相手の財布を盗むという最悪な男が、自分の居場所を確保するために真面目に家族や、それだけではなく地域にも溶け込んでいくというちょっとしたホラー要素なのですが、やっていることはいいことばかりなので怖くも気持ち悪くもないのがいいですね。
 家族たちもそれぞれ非常に善良で、お父さんも農業に精を出し、姪からも愛されている正継に成り代わった主人公。
 このまま家族として幸せにやろうと思っているところに本物の正継が来ても、家族の絆は揺るがなかったのですが、そこからが怖い。
 さらりとすごいことをいう良縁さん……あんた。
 本物の正継も、ある種の被害者だったのでしょう。一生安泰だと笑っていた主人公の母は、今どうしているのか……そして、正継になった主人公は…。
 色々と考えさせられる作品でした。良縁さんの真実開示のターン本当に怖かった。すごい。

謎のストクリス
 まずスタートが見事ですね。突然「蹴られ屋」という概念をぶつけてきます。どう転がすのかと思っていたら蹴ってきた男に成り代わるという予想外の展開。予想外、しかし自然な流れで納得感が凄い。
 作者さんは私と同様に「納得感」に重きを置いたタイプなのかなと感じました。一話の最後を読んだときに私が思ったのは「家族と断絶した男に成り代わっても、家族に拒否されるのでは?」「そもそも顔が似ているからといって簡単に成り代われるものか?」でしたが、どちらにもしっかり回答が用意されていました。始めに謎や違和感を提示して、それをしっかり回収してあげると非常に満足度の高い物語になりますよね。
 かといってあまりに堅実に固めていては動きの少ないお話になりがちなのですが、本作はその点も巧く捌きます。中盤では姪っ子の動かし方がとても巧いです。彼女は主人公の擬態の成功の象徴であると同時に破綻の予兆として機能します。上手く成り代わって手に入れた安泰もこのまま継続はできない、と匂わせてからの本物の正継登場。ここの流れが大変お見事。また「実は血が繋がってないとか無いの?」と伏線を張っておくのも巧いですね。
 そして最後の大仕掛け。序盤から仄めかされてきた母と月をはじめ、各所に散りばめてきた伏線を鮮やかに回収してのラストです。いいですね、背筋が凍りました。
 意外性と堅実さを両立し、構成もキャラクタの動かし方も巧い。飽きさせず最後まで読者を揺さぶり、納得感・満足感のある結末で幕を閉じました。素晴らしい完成度だと思います。

謎のイヌ亜科
 非合法の『蹴られ屋』を自称するホームレスの男が、失った家族を求めて擬態する話。
 第一回のこむら川では『キャノンボール・レディ』を書かれた方ですね。今回の作品では、シリアスな展開から時折クスリとくる言葉選びが秀逸でした。
 主人公が営んでいる殴られ屋、本当に言葉を選んだ形ですね……! 置き引きの言い訳として殴られている感じがするんだよな……。ここで腹筋を鍛えていたおかげで、トレーニングによる肉体改造に違和感がなくなる手腕に驚かされました。
 満月から始まって満月で終わる要素の回収もとても好みです。面白かった……

74 指切りの契/QAZ

謎の有袋類
 QAZさんの二作目です。
 連続殺人犯のカリスマ”指切り”を通じて出会った二人のお話です。
 QAZさんは多分こういったグロテスクで後味の悪い作品が大好きで、好きなモノを好きなように書けていると思いますし、読むたびにどんどん読みやすくなっているのがすごいなと思います。
 主人公がかくまった少女が真の犯人だったのか、それとも男が頭の中で作り出した幻覚なのか最後までわからないところがいいなと思いました。
 最後のニュースの下りだけ少し解らなかったです。こういうことがありましたという冒頭のリフレインでいいのかな?なにか見落としていたらすみません。
 擬態についてなのですが……指切りの正体についてのことなんだと思います。
 指切りは、普通の人に擬態をしているし、普通の人が指切りになってしまうかもしれない。
 とても怖いお話でした。
 これは後から直せばいいことなので、そこまで重要視しなくても良いと思うのですが「・・・」よりも「…」の方が文字数が減ったりするので三点リーダーを使った方が描きやすいかもしれません。
 最初は「絶対この女が犯人でしょー」と思っていたのですが、男も一人の指切りオタクを殺していたので、読者を揺さぶる仕組みがうまいなと思いました。
 死シリーズやペガサスは結構ライバルが多いので大変だと思いますが、これからも好きなものを描いてどんどん強くなって欲しいなと思いました。

謎のストクリス
 猟奇殺人鬼「指切り」を巡るミステリー…だと思って読んでいたのですが、どちらかというと官能ホラーとして読むのが正しいのかなと思い直しました。
 語り手の男は「指切り」が何故少女・宇佐美を殺さなかったのか思いを巡らせてみたり「指切り」に憧れてみたり、かと思えば自分の「指切り」としての犯行を回想してみたりと、男が犯人なのかどうなのか分からなくなります。明らかに意図的に明示を避けてぼかしているので、どのように読むべきか非常に悩みました。
 いろんな読み方ができると思いますが、私としては宇佐美という少女は実在しない、男の何らかの欲望・願望が形を取った存在のように思えます。男が予想していた「指切りは女性」に宇佐美が合致することを鑑みると、もしかすると男は何らかの理由で「指切り」としての人格や記憶を切り離してしまったのかもしれませんね。第二話までが切り離された状態で、第二話最後で「指切りは男」「あなたに似ている」あたりのキーワードで記憶が戻った…と読めばピースがカチカチと嵌ってゆきます。なので、この路線で続けます。
 男が切り離した「宇佐美」がどのような存在か。死体を壊すことでしか生きる喜びを感じることができない快楽殺人犯だ、と彼女本人が語ります。そしてもう一つ「誰かに自分の破廉恥な姿を知ってほしい」。この官能的な一文が、本作品の核なのかなと思います。7件中の6件は宇佐美と男が一つだったころに快楽殺人犯としてリビドーに従った行為、男から宇佐美が離れてからの(おそらくはハッピー竹田が被害者となった)1件の殺人は動機が違っていて、最後に宇佐美と男がまた一つになる儀式として、男の指は切り落とされたのかな…と。
 解釈が難しく的外れなことを言ってるかもしれませんが、そのように解釈すると苛烈なリビドーを抱えた人間が抱えきれずに破滅する、非常にエロティックな物語に見えてきます。

謎のイヌ亜科
 巷を賑わす連続殺人犯『指切り』に心酔する男と、犯行を目撃した少女の話。
 全体を通して不穏な話でした。信者を作るほどカリスマ性のある連続殺人鬼のニュースも可愛い動物の話題と並列して語られる皮肉がいいですね。ワイドショーの対比として配置されている裏サイトのような掲示板も相まって、90年代末から2000年代初頭の空気を感じました。
 一点気になったのが、指切りの正体についての描写です。これは、最初の時点で主人公が狂っていたという解釈でいいのですかね? 最初のニュースで男を主人公が殺したとすれば、宇佐美が事件に関わったのは1件だけの筈なのですが、なぜ最後のニュースで七人分の死体が出てきたのか……。宇佐美など実は存在しなかったということか……?

75 恋愛感情は甘美の味/水宮色葉

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 ヤバいストーカー男子のお話と見せかけておいての宇宙人エンド!
 ヤバいストーカー男子のヤバい行動は本当にすごくて、いい感じに気持ち悪かったです。
 強い執着心と行動力、そして暴走する恋心。青春っていいなではすまない行動はエスカレートをして、とうとう不法侵入をしてしまうのですが……それは彼が恋をする宙川明菜の掌の上の出来事だった。
 すごく楽しく読ませていただきました。最後だけちょっと唐突なオチに感じてしまうのですが、発想はすごく良くて、温泉や自然遺産などが好きというのが伏線になっているのも読み直して感心しました。
 ハッとするエンドをもっと効果的にするには、納得感が大切だと思っています。作者の思っていることは思っているよりも読者は読めないので「これだとバレバレかな?」くらいに宙川さんが宇宙人かもみたいな仄めかしをしてもいいのかなーと思いました。
 文字数が下限ギリギリなので、何度か侵入をした後に、全てを知っている宙川さんが……という風にすると、仄めかしや、捕獲する対象を何故主人公にしたのかという結果に対しての説得力を作るターンを作れるかもしれません。
 対象を盲目的にする薬というアイディアもとても素敵だったので、せっかく素敵なアイディアを唐突にオチに使わずに、合間合間に伏線をもっと入れておくと気持ちが良く読者を裏切れると思います。
 文章が読みやすくて、キャラクターや物語の骨子を作る力はとても高いと思います。
 ヤバい人の行動を描いたり、執着を描くのもすごくうまいと思うので、どんどん作品を描いて色々な手法を試して欲しいなと思いました。

謎のストクリス
 惚れた女の子の一挙一動が素晴らしく美しく見えるというのはまさに恋は盲目と言ったところ。客観的に見れば気持ち悪いストーカーの行動が、本人の目を通して見るとキラキラと輝いて見えるのが尚更気持ち悪さを引き立てます。こういった人間の執着を(極端にデフォルメして)描くセンスを感じます。喜劇、狂騒劇に向いたスキルですね。それでいて、物語の中で何が起こっているかはとても分かりやすいので、主人公を暴走させつつも読者視点を忘れずに書いているのだと分かります。
 と、中盤までは主人公の暴走に物語を牽引させたところで、最後に急展開を差し込みます。この部分、急展開に突入する瞬間の描写は良いものの、そのまま物語が終わってしまうのはちょっと勿体ないと感じました。ジェットコースターが上がり切って、いざ下り始めた!というところで加速する前に終わってしまった印象です。途中で主人公が死を悟るシーンがあるのですが、その部分がやや性急に感じます。すぐには悟らせずに会話を続ける中で宙川の正体や目的が明かされ、主人公は逃れ得ぬ死の運命を悟る…というような展開の方が個人的には好きです。
 先述のように暴走する主人公の手綱を握って読者にも分かりやすいように物語を動かしたり、前半に宙川の正体に関する伏線を仕込んでいたりと、丁寧で読みやすい物語を書ける作者さんだと思いますので、おそらくもっと時間があればもっと激しいジェットコースターを書けたのかなと思います。今後にも期待です。

謎のイヌ亜科
 片思いによって暴走していく男子高校生と、その対象となった女子高生の話。
 これが初めての投稿作って本当ですか!? オチに至るまでの展開が上手くて、予想外の一撃にやられました。ストーカーした主人公のエスカレートしていく暴走をハラハラしながら見守っていたら、そのハラハラが別のベクトルに吹っ飛んでいくオチ。流石です。
 片思いは特に盲目になりやすいものですが、それさえ管理されていたら?という怖さを感じました。いつの間に薬を盛られていたんだ……?

76 僕は光より速い風/古川 奏

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 すごい作品ですねこれ。マジですごい。全然解らない現象の連続なんですけど腕力がすごいので「なるほどね?」と読み進めてしまう。
 夢の連続というか、この主人公がなんなのか最後にならないとわからないのですが、最後になって固有名詞が出たとしてもわからない。
 やってることは、メルヘンにちょっとなってるけど、光のヤバいストーカーだよ。
 更にすごいのが美々ちゃんです。コッペパンを靴と間違えて履いちゃうし、リボンと蛇を間違えて結んじゃう。
 そして雀文字を読めるし、最終的には隣のクラスの風間くんに異能を授けてる。
 ええーーー?と思うんですけど、スラスラ読めるのが怖いですね。
 様々なものに擬態できる異能を授けられた風間くんも、それを使って全力で美々ちゃんへのストーカーをすることしかしない。サクッと人の記憶の改竄をしてるのも怖いよ。
 最終日に現れて、まさに突風のように闇の評議員を襲う怪作でした。すごい。

謎のストクリス
 頭がおかしい。頭がおかしいのだけど、読めてしまう。なんだこれは。
 ツッコミが追いつかない、というのが最も適切な表現なように思います。違和感を感じさせる前に次の違和感をぶち込んでゆき、ジェットコースターの勢いで無理やり牽引する。強引な作劇ですが強引さを感じる間もなく美々ちゃんはうっかり窮地に陥り、僕は冷静に状況を分析して人知れずそれを救い、物語は次の展開を迎えます。
 おそらくこの作品は「美々ちゃんがドジを踏む→僕が気付かれず助ける」が起こったことこそが重要であり、具体的に何が起こったかに目を向けることにはあまり意味がない…という読み方が正しいように思えます。コッペパンでなくアブラムシを履いていても、突っ込んできたのがトラックでなく暴れ牛でも、猿島君が見たのが美々ちゃんのパンツではなく日記帳とかでも良いのです。命の危機とスカートの危機は同様に危機であり、そこに大小はないのです。
 そうやって「人知れず、本人にさえ気づかれずに美々ちゃんを助ける」を積み重ねてきたからこそ、最後に唯一やらかしてしまったうっかり。これまでの活躍に比べればなんてことのない小さなミス。それが何よりも風間君の心を揺さぶること! この物語はそこに集約されます。この一瞬のキュンのために他のすべてを極限まで抽象化した、そんな作品だと思います。 

謎のイヌ亜科
 おっちょこちょいの少女と、彼女を陰から守る光速を超えた男子高校生の話。
 冒頭からズルすぎる。壁に擬態するって何!?って思った瞬間に矢継ぎ早に繰り出される美々ちゃんのおっちょこちょい。ツッコミを置き去りにするスピード感はまさしく光より速い風のようでしたね……。
 風野くんの異能は高速移動を起点にしたとしても強すぎません?? 耳から海馬に侵入して記憶操作するのはもう忍者じゃん……。
 そんな騎士のような風野くんも好きな相手に直接触れるのは恥ずかしがる心を持っているという点が、この作品の理性を担保していました。この奥ゆかしさがないと世界を滅ぼす器だよ……。

77 ネイキッドヒーロー/御調草子

謎の有袋類
 御調さんの二作目です。
 なんと!ゴリラに果敢にチャレンジ。一作目と同じ体の色を変える男が出てくるのですが、全然テンションが違うのがすごいですね。
 ピカチュウフラッシュを使うなwwwこれは実験作として面白いなと思いました。
 全裸の英雄。長老は全裸をやめろというけれど、全裸の英雄は全裸を譲らない。
 旅立つ英雄の伏線回収が見事でしたね。
 ピカチュウフラッシュを応用して、まさかミサイルへの命令を書き換えをするとは……。
 KUSOの息吹を芽生えさせた御調さん、まだパンツを脱げていないような気はします。
 KUSOとゴリラを乗りこなすには、まず心を全裸にしましょう!もう少し振り切れることができたとき、正統派小説もKUSOの荒波もどちらも乗りこなせる最強の戦士が生まれるのだと思います。
 こういう思い切った方向性のお話も楽しみにしています。

謎のストクリス
 魔が差しました。言い訳はしないぜ。
 最新兵器にインジェクション攻撃が通用するのかは知りません。

謎のイヌ亜科
肌の色を自由に変える事ができる男が、村を救う話。
 御調さんの『ノットヒーロー』のB面のような話でした。シギが村の外に出ることができたことで辿り着いたトゥルーエンドのような、大団円の結末。終始全裸の男が出ることを除けば、いい話だ……。
 雷鼠が大きなショックを起こした瞬間的な色彩の明滅を、元ネタの電脳世界から電気信号と解釈してハッキングに応用した発想力が凄い。単なるKUSO要素ではなく、それを伏線として用いる手際の良さは、ゴリラの手綱を握る大切さのひとつですね。

78 吸血族討伐軍第一隊予備学科-浅海潔と義弟と紅茶-/こやま ことり

謎の有袋類
 前回は看取られ小説を書いてくれたこやまさんです。
 吸血鬼もの!かなり独特な吸血鬼の設定ですね。あとBL。
 多分書きたいことがあると思うのですが、1万字というボリュームでこの舞台設定と登場人物はかなり忙しくて、どのキャラクターがどうなのかを把握したり、感情移入をする前に物語が終わってしまいます。
 自作のキャラクターが好きなことは伝わってきますし、魅力的な属性を持っているのですが、作者ほど読者はキャラクターに思い入れもできなければ、魅力も書かなければ伝わってきません。
 1万字という規模に合わせて登場人物を整理して、魅力を掘り下げたほうがより効果的に設定や物語を使えると思います。
 擬態についての発想はとても面白かったです。弱点を作るということも大切ですし、種明かしのターンは爽快感がありました。
 ところどころ「擬態化」と「擬態」が混ざっているので、設定がぶれてるのかな?と読んでいて首を傾げてしまいました。皮をかぶるだけではなく、皮をかぶって一体化しているという設定でいいのでしょうか?
 最終日で時間がなかったと思いますが、可能なら一晩寝かせてから推敲をしてみるともっと作品の完成度が高くなると思います。
 文字数に見合った物語が苦手なこやまさんですが、前回の看取られ小説は本当にすごかったですし、今回も魅力的で女子が好きそうな関係性やキャラクターを作ることはできているので、過去講評などを参考にして、物語の基盤を作ってくれるともっと良くなると思います。
 芦花公園ホラー賞のときも舞台設定と登場人物については講評に書いた気がしますが、1万字以下の短編を書くときに、メインの登場人物は三人まで……といったような縛りを設けて見るのも良いかもしれません。

謎のストクリス
 人に紛れて人を襲う吸血族の討伐者養成機関での一幕。
 よくぞこの文字数内にこれだけの物語を収めたなあという印象です。冒頭の出だしこそ冗長な印象を受けるものの、複雑な設定を消化不良にならないように説明しつつ物語を盛り上げ、早い段階で解決すべき謎を提示することでストーリー展開を受け入れやすくし、その裏のストーリーとして潔と創の確執を描くことが物語に深みを与えていました。また登場人物や各シーンの物語における役割も分かりやすく整理されており、重厚感の割に読みやすく綺麗に纏まった短編という印象を受けました。
 ただ個人的には中盤辺りまで登場人物が好きになれず物語にのめり込むことができずにいました。主人公は余裕がなく鬱屈していて、学園長は(そもそも嫌われ役だから別に良いのですが)尊大で、冬美は人の食べ物に断りも無く手を付け、とロクな奴がいないなあと思ってしまいました。読み進めると主人公の屈折した振る舞いや感情もまた彼の魅力の一つとわかり、冬美の行動の意味も明かされるので全体としては納得するのですが、それが分かるところまで読者を離さずに惹きつけるためのフォローは要るのではないかと感じます。
 全体としては良くまとまっていて隙も無く、事件解決のためのギミックにも意外性と納得感があり、今後も続きそうな兄弟の確執にも余韻を残す完成度の高い作品だと思います。

謎のイヌ亜科
 人間の皮を被ることで太陽を克服した吸血族『ナイトウォーカー』と、それを討伐する軍学校の生徒会長兄弟の話。
 真面目なふりをした浅海とその義弟である創の関係性が魅力的な作品でした。浅海の本性である毒を吐く性格から兄弟の正式な関係が逆なのかと予想はできたのですが、創が吸血族であることが浅海のコンプレックスに拍車をかけている関係性は美味しいですね。巨大感情の匂いがする……。
 また、紅茶を用いて擬態を暴く展開がそのまま創の激辛カレー趣味に繋がっていく手法は鮮やかでした。メタ的にただのキャラ付けではない、個性に深みを与える効果があると思います。
 気になった点として、創の吸血族としての特性が見れなかった点があります。討伐軍というからにはやっぱりバトルシーンが見たかった……!

79 大崎町ハッピーライフ/ぶいち

謎の有袋類
 ガハハじゃあないんだよw
 ぶいちさんの作品です。またホラーかな?怖いかな?とめちゃくちゃ警戒して読んでいたのですが、ちがった。
 ジャンルもよく見たらSFだった。
 ハッピーライフを完全に疑った目で見ていた自分自身を反省しました。
 主人公は、にぎやかな場所から静かない大崎町に引っ越しをして、しずかでのんびりとした一人暮らしを満喫しています。
 情景描写がすごくきれいで、音や景色が想像しやすかったです。ぶいちさんこういうのも書けるんだ!と驚きました。
 宇宙人でオチを付けるのも、唐突すぎなかったのがいいですね。やっぱり種明かしをされたときに「あ!それはこういうところだったのか」と思える場所があると、納得感があるというか、すごく気持ちが良い裏切られ方になるとおもっているんですが、ぶいちさんのこの作品はまさにいい感じの伏線があったのが良かったと思います。
>この町で生まれ育ったわけじゃないのに不思議と郷愁を感じて
>前に住んでいたところは賑やかで楽しかったけれど少々窮屈だった
>小うるさい同居人たちがいて世話を焼いてくれていたから便利は便利だったしとても恵まれた環境
これが、読み直すときに別の意味に感じられるのも良い構成だなと思いました。
 あと、これは好みの問題なのですが、オチのカラッとさがすごい好きです。
 ガハハじゃあないんだよw
 サクッと読めて、軽快に楽しめる良い作品でした。川らしい作品ですねこれ。 

謎のストクリス
 面白いですね。まずタイトルから惹かれます。勿論大事なのは本文ですが最初に目に入るのはタイトルなのでこちらも捨て置けません。本作は今回の投稿作品の中でも「あっこれ読みたい」度は一、二を争う響きでした。
 本文も高めた期待に見合う美しさ。冒頭から郊外の街の素晴らしさを揚々と語る様には、ぜひ住んでみたいと心動かされます。そろそろ物語が動かないかなと思ってきたところで本作の謎たる「怪しい雲」を投入して読者を飽きさせない、潮の目を読むセンスも良いですね。読むものの興味や興奮を意識して上手くコントロールされた作品だと思います。どう転ぶか予測のつかないストーリーですが、なかなか気持ちよく翻弄されました。
 そしてアッサリ明かされる第3話のオチ。笑いました。大山鳴動して鼠一匹、という滑稽さでしょうか。個人的にはそれは「擬態」と呼ぶには必死さが足りないと思ってしまうのですが、そのお気楽さも含めて、力の抜けた気持ちの良いオチでした。なんと二言でサッパリ終わってしまう思い切りの良さで、その二言で全てを分からせるセンスも凄い。滑稽でありながらも作品をぐるんと裏返す強力な一手でした。
 タイトルの吸引力といいオチのサッパリ感といい、全体としては「このシーンを読むときに読者にはどんな感情を与えたいか」という設計が特に意識されたのではないかと思える作りに見えます。

謎のイヌ亜科
 自然豊かな大崎町に突如現れた謎の雲にまつわる話。
 真っ先に連想したのは「はじめてのおつかい」でした。カメラマンが通行人のふりをして子供を撮影するような感じで、突如現れた虹色の巨大雲はUFOの擬態だった、というお話。宇宙人にとっては娘にバレないための擬態なのですが、人間側にとっては観光資源や天変地異のアイコンとして扱われた。このスケール感の違いが生み出すおかしさがこの作品の重要なポイントですね。
 ラストの展開から考えると、視点人物である主人公が宇宙人の擬態だった、というオチですね? UFOのバレバレの擬態も面白いですが、ちゃっかりアクキーを買ってる主人公も面白いですね……。

80 スワイパー・セヴン/志々見 九愛(ここあ)

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 サブリミナルのように差し込まれる都知事と同姓同名のヒロイン名。
 強制的に特定人物の外見を固定するハックですね。
 謎のスワイパーとモニターという存在が提示され、なにやら戦うらしいという情報が提示されていき、最後はそれがなんなのか明かされる作品です。
 スワイパーはお尻の谷間をスワイプする仕事で、射精をしたらモニターの敗北という形のスポーツのようなものだと提示していく順番がすごく自然で良いですね。
 廃棄物はとにかく見下される存在ということだけがわかり、百合子との出会いはなんなのかわからないまま、百合子との別れが近づいて来ています。
 廃棄物の詳細がわからないまま、自分を偽って生きる辛さを語られてしまったので、どこかでもう少し廃棄物がどんなものなのか説明してくれると、感情移入がしやすいのかもなと思いました。
 スワイパーは指先や手をケアするという設定や、ソフトフィンガーという異名などの設定はすごく良くできているなと思いました。言葉責めのチョイスもなかなか雰囲気があり、滑稽にならずにスワイパーの格の高さの演出として素晴らしいと思います。
 最後に「この指は、彼女の乳首を連打すべきもの。手の平全体で、そのおっぱいを包みたい!」と熱い本音を言うラストはエモかった……。
 ここから困難が待ち受けているだろうけど、百合子と幸せになってほしい……。

謎のストクリス
 怪作です。私にはあまり合わなかったけれど何か凄みを感じさせる。
 大筋としては自分を偽って生きる若き天才スワイパーの苦悩と、彼がマネージャーの女性へと向ける思いを綴ったものなのですが…とここまで読んで「スワイパーって?」と思った方が大多数でしょう。それが本作の特異な個性の一つです。
 意図的にかなり説明を削っているんですよね。どうやら近未来、人類はスワイパーとモニターと呼ばれる何かに二分され、その枠に嵌らないものは廃棄物と呼ばれる。スワイパーとモニターは戦い、それは一種の興行である。廃棄物は見下される立場…と、読み進めていくと断片的な情報から輪郭を掴むことはできるのですが説明は一切ありません。この手法自体は面白いと思います。物語に慣れた人向けではありますが、特に本作のように一人称視点で進む話においては、長々と説明描写を入れるよりもリアリティが増す効果もあります。拾い集めていくと大まかな像が見えるのも、よく計算されて配置されているのがわかり、技巧を感じさせます。
 もう一つの特異な要素は、時折脈絡なく挟み込まれる「小池百合子」です。さなはらサブリミナル信号のようです。これは何を狙ったものなのか判断に苦しみますが、おそらく作中に登場する百合子と現実の小池都知事をリンクさせる試みなのかなと思います。だとしたところで狙いまでは分からないのですが…。
 正攻法でもかなり文章を書ける人が悪ふざけに本気を出した、といった印象の一作でした。その方向性が私には合わなかったけれど、情熱や技巧は感じるので、嵌る人にはガチっと嵌ると思います。

謎のイヌ亜科
 近未来、愛撫が競技化した世界の話。
 小池百合子……。とにかく不条理な世界観をシリアスに語る作風なので、ついていけてない僕がおかしいのか?という気分になりました。
 スワイパーが何をする存在か、モニターとは何かが断片的に語られるのでなんとなく理解はできるのですが、そこに収まらなかった廃棄物の正体がわからないまま主人公と小池百合子との別れが描かれるので、感情をどこに置いていいかわからないです。
 ただ、スワイパー周りの描写や小池百合子のミームを扱う手腕などは卓越したものを感じたので、ハマる人には中毒性があるんだろうな……という印象ですね。

81 アンドロイドはただ人間の夢を見るか/ナツメ

謎の有袋類
 擬態女を書いてくれたナツメさんの二作目です。
 えーーーー?こんなの連続で出せるの?こわ……プロの犯行ではないのですか?
 すごいですね、これ。
 アンドロイドの暴走、そして人の感情の読めない人間の気持ち、そしてサブスクリプションアンドロイドサービス。
 1万字上限の作品で、こうやって二捻りあるようなアクロバットを決めているのに、内容がRTAにならないってすごいとおもっているんですが、ナツメさんの作品は二作ともそういうアクロバットをやってキレイに着地をしているのがめちゃくちゃすごい。
 刃物を持ち出したあたりで「やっぱりかー」とは思ったのですが、それでも二話目にある報告書で、散りばめられた伏線の答え合わせを見ると「うわーー」ってなりました。
 キミってそういうことだったのね!あと、報告書の文体がそれっぽくて、再現率が高いですね。
 アンドロイドが感情を再現するときのロジックの組み方やシステム面もかなり面白かったです。
 何を食べたらこんなのをサクッとお出ししてくるのですか?
 擬態女も、この作品も「やられた!」としか言いようのない素晴らしい作品でした。

謎のストクリス
『擬態女』のナツメさんの二作目ですね。あちらも完成されたミステリーでしたがこちらも素晴らしかったです。私、すっかりファンになりました。
 まず冒頭から自然な流れで世界設定を開示する、読者にマインドセットを作らせるのが上手い。ちょっとした描写や会話で、時代設定や作中の常識、登場人物の関係性などがするすると頭に入ってきます。そして何気ない描写に潜ませた謎や違和感の提示とその回収も巧い。たとえば、「オオタ様は善人だが苦手だ」がアンドロイドにも苦手はあるのか?と最初の違和感を呼び、キミが実はアンドロイドに化けた人間だったとの独白で一旦回収してから、さらに引っ繰り返します。この間に、高度に感情を学習したアンドロイドが廃れて「感情の無い」アンドロイドが主流となった経緯などが紹介されるので二度目の引っ繰り返しも納得感を以て受け入れられます。
 作者さんの前作『擬態女』にも通じるところですが、「擬態」というテーマから「普通の人のように振舞うのは難しい」を抽出し、しかしそこに一捻り加えて独創性溢れる作品に昇華させているのが凄い。テーマの調理もストーリーの運びも読者を驚かせるギミックも、全てが高水準で素晴らしい作品です。

謎のイヌ亜科
 アンドロイドが普遍化した未来、記録データと記憶データを元に活動を行うアンドロイドの話。
 アンドロイドに擬態した人間、という中盤の展開からさらに捻りをきかせたオチが素晴らしいです。記憶と記録が一致しないことで、「自分を人間だと思い込むアンドロイド」が生まれてしまったわけね……。
 主人公の「人間こそが不文律に感情を支配されている」という独白がこの作品の重要なポイントだと感じました。保守的な人間は自分たちを優位だと考えるが、実際は人間が不自由を自由だと思い込んでいる、という部分なのですが、この「思い込み」の部分が終盤のオチにかかってくるわけか……。

82 大正永劫怪奇譚/@Pz5

謎の有袋類
 Pzさんが今回も参加してくれました。前回は戯曲を描いてくれたのですが、今回は時代小説と言うか「文学」というような作品ですね。
 雰囲気たっぷりのこの作品は、細かい表現や価値観も当時の明治・大正というような背景で描かれていて、夢野久作さんの作品とかが好きな人だとスラスラ読めて面白いと思います。
 船に乗って無人島へ行く主人公と、従者。それはいつまで経っても生まれない妻の胎内から出てこない子供の謎を探るためだった……という感じのお話でした。
 どんどんいなくなる友人、妻の過去、そして、不気味なからくりに案内された先にある「昭和」のことが描かれた台帳。
 読んでいて楽しかったのですが、読み慣れていない文体のせいなのか読み落としがたくさんあるのかもしれない……。
 多分読み込みが足りないと思うのですが、結末の意味と擬態要素を見つけることができませんでした。
 すごい好きな雰囲気の作品なので解説とか、他の闇の評議員のみなさんの講評を見て、もう一度読んでみたいと思います。

謎のストクリス
 タイトルの通り、大正時代のさる名家をめぐる奇怪なお話です。
 古風で上品な文章で綴られる作品で、ロマンに溢れています。歴史的仮名遣いや当時の日本に殉じたような外来語の表現は慣れないと面喰らいますが、味があって良いものです。
 さて作品そのものは大変難解です。私がどれだけ読み解けているのかどうか怪しいのですが「奇妙な夢」「最初からいなかったかのように消える友人」「生れ出てこない胎児」「未来を思わせる廃墟」「つじつまの合わない過去」「織部から福田に変わる語り手」などの要素が本作における謎として提示されるのですが、これらを一つにまとめて解決するカギを見つけられずにいます。
 勘というか雰囲気としては、本来の時代の流れから外れて渦を巻くように停滞した大正のある一時期があって、その中心に清子がいるように見えます。ちょうど川の流れの中に渦ができて、そこに浮かぶ葉が下流に流されずに渦の中を停滞するような、そんなイメージです。渦に巻き込まれた葉は時たま奔流の流れに接したりしながらぐるぐるとその場に戻されてしまうのかな、と。
 抽象的な言い方でお茶を濁してしまいましたが、何かがありそうな雰囲気や上品で味わい深い文体やセリフ回しはとても好きなので、解説を待ちたい作品です。

謎のイヌ亜科
 大正時代、妻の胎内で一向に生まれてこない子どもと消えていく友人の謎を追うために孤島へ向かう青年の話。
 作品全体を貫く大正時代の雰囲気作りが上手く、青空文庫を読んでいる気になりました。これが令和の時代に書かれた作品だからすげぇよ……。
 消えていく友人や絡繰人形だらけの孤島など、作品から漂う怪奇色が凄まじい作品だったのですが、一番好きなシーンは『昭和』について語る部分です。こればかりは大正期では書けない部分で、現代だからこそできるものですね……。
 一点気になったのは、擬態要素が見当たらなかった部分です。恐らくメタ的な部分なのかもしれませんが、そこを明記していただければより魅力ある作品になったのではないかと思います。
 カクヨムの設定を変えて縦書きで読みたい、そんな作品でした。

83 ぼくの名前は猫である/てっち

謎の有袋類
 てっちの初完走!完結おめでとうございます!
 初めて小説を完結させたてっちくん、ミステリーか?と思ったら童話というカテゴライズでした。
 邪悪な童話だ……。
 ねこという名前のなにかの主観から始まり、トーマくん、アカギくんへと視点がどんどん切り替わっていきます。
 真相が最後にわかるんですが、これは多分「猫」が人身売買の商品の隠語になっているんですよね?
 トーマがショタだと思ったら先生なのは「やられたー!」となりました。
 視点を頻繁に変えるよりは、三人称視点のほうがいいのかなーとなりました。でも、一人称視点で読者を騙すの楽しいよね……。
 お菓子を食べる音を、猫用のドライフードにミスリードさせる部分や、冒頭と似たシチュエーションを後半に持ってくることで種明かしをする構成は、すごい上手で面白かったです。
 キッズがアウステルリッツの戦いはわからないでしょーと思ったのも見事に騙された。大人なので知ってるよそりゃ……。
 この調子でまた次回作も書いてほしいなと思いました!レッツ進捗!

謎のストクリス
 語り手が次々と変わる三部構成。第一部、第二部で提示された謎が第三部で明らかになります。
 冒頭で「ねこ」と呼ばれる何かが文字通りの猫ではなさそうだなとは思ったのですが、その正体が露見してから読み直すとなんとも悪意に溢れたタイトルと導入です。トーマがいやに大人びた考え方や喩え話していたり、アカギ編で「ご主人」が登場したときに「三人の中で一番年長に見える」(トーマとアカギは同世代ではない?)と言ったりと違和感があったのですが、なるほどこれも伏線だったのですね。
 本作には「叙述トリック」と「視点の変更」という、物語を複雑化させる要素が二つも使われているため初見ではかなり難しい構成となっています。それを緩和するように、真相に繋がるヒントを散りばめてみたり、種明かしパートでは「遅効性の猛毒」や「當間先生」など直接的な語彙による答えも取り入れて読者の理解を助けようとする配慮も見られますが、それでも分かりづらさは印象として残ります。私見ですが、文章量に対して散りばめた(=最後に回収しなくてはならない)謎の数が多すぎるのかなと感じました。私自身もギミックを仕込むのが大好きなので色々とやってしまうのですが、ギミックの副作用(物語が複雑化する、冗長になる、雰囲気が変わる)を意識して、仕込む種類や量のバランスを考えるとより良くなると思います。
 物語はしっかりまとまっていて、読者への配慮も見え、最後に登場する悪役のキャラクタ設計も魅力的でした。今後にも期待します。

謎のイヌ亜科
 洋館に住む「ねこ」の話。
 何度か読んでミスリードに気づきました。これ、第一話と第二話の間に結構な時系列の開きがありますね? そうじゃないとトーマくんの無邪気な仕草が怖すぎる……せめて最初は無垢なショタでいてくれ……。
 思い返せば、第二話のナポレオンの比喩の時点で違和感があるんですよね。そこから繋がる大金と校長の話でただの小学生ではないな、と思ったのですが……化け猫と神隠しがそう拾われるとは……。
「ねこ」は猫ではなく寝子だった、というお話。いい叙述トリックでした!

84 乾杯/雨野

謎の有袋類
 前回はあけおめデストラクションで参戦してくれた雨野さん。
 今回は姉の死を目の当たりにした女性が、少しずつ死というものを受け入れ始めるお話です。
 姉の死から一ヶ月してからふと、並べられた靴を見て姉の死を実感する描写がすごく好きで、人の死ってたまにふっと実感したりしますよね。
 死を実感した妹がしたのは、姉に擬態すること。そして、姉が飲んでいた思い出の猫ビールを飲むことでした。
 公園に行ったときに、白い猫が現れて、白昼夢のような(夜だけど)出来事にあうのもよかったです。
 猫は、幻だったのか、一体何だったのかもわからないまま消えて、猫ビールが残されるだけなんですけど、このいい具合の不親切さが物語のスパイスになっているのがいいですね。
 最後のビールの本数だけ「二本」おいてあって、一本は冷たいものをそこで飲んで、一本は持ち帰ったので人肌のぬるさになっていたのか、自分が最初飲んでいたものと合わせて「二本め」の冷たいビールがあって、それを持ち帰る頃には温くなっていたのかだけわからなかったです。
 新しく一本ビールが増えていたという解釈で読みすすめることにしました。
 ビールの本数は些事!と思えるくらい最後がキレイでしたね。
 最後の窓辺に寄りかかった妹がした「乾杯」がすごくいい。タイトル回収完璧じゃないですか……。
 とてもきれいにまとめられている小説で面白かったです。

謎のストクリス
 すごく好みのお話でした。大切な人を失ったと頭では分かっているのに心が受け入れ切れていない様子を丁寧に描きます。姉の死を受け入れられないことを「解決すべき課題」としては扱わず、過度に劇的にしないところに人の死を扱う上での真摯な態度が見えて好感が持てます。きっとこういう時間って必要なのです。
 表現として面白いなと思ったのは「無限の時間さえ与えられれば残さず数えられる様な、満点の空」です。「数えきれないほどの数の」ではなく、ここでは「無限の時間さえあれば」と。途方もない数量を前にして人一人がビール片手に構えて、最後の最後には数えつくしてしまうわけです。これは自らを苛む世界に対して「見栄と意地を張る」姿そのものなんですね。頼りないけど折れていない、弱さの中の僅かな強さ。それを守り貫くためののアイテムが「猫ビール」でした。
 姉の死を受け止めてしまった彼女が次に選択したセレモニーは「姉になること」でした。姉の姿で猫ビールを飲むというのは、姉に猫ビールを手向ける儀式でもあり、その姉のように見栄と意地を張るための儀式でもあります。彼女は姉としてビールを飲み、おそらくは姉がそうしていたように公園で猫に心を吐露しました。そうして最後、窓に映った「姉の姿」に向けて乾杯をするわけです。このときに何というのでしょう、ようやく姉を見送ることができたのかなと思いました。
 上品で真摯な文体が死の受容の過程をゆっくり丁寧に描く優しい作品。大好きです。

謎のイヌ亜科
 1ヶ月前に姉が事故死した女性が、死を受け入れるために姉に擬態する話。
 純文学だ……。人の死はすぐに受け入れられるものではなくて、ふとした瞬間に感じた欠落からじわじわと実感していくものなんですよね……。
 世界に見栄と意地を張るためにビールを飲む姉を理解するために、好んで飲んでいた猫ビールを買いに行く主人公。夜闇の恐ろしさを軽減するための電灯や自販機の灯を「人類の叡智」と表現する文章力がすごく好きです。
 ラストシーンの「乾杯」も好きなんですよね。人肌の温度に温められた猫ビールは、自分の体温か、姉の体温か。鏡越しの乾杯は、姉に届いたのでしょうか。

85 銀河鉄道は私には高いから/水宮色葉

謎の有袋類
 恋愛感情は甘美の味を書いてくれた水宮さんの二作目です。
 今度も宇宙のお話ですね。同じバースとかの話なのでしょうか。
 こちらの作品は一作目とは雰囲気が変わって、すごい青春!という感じの作品ですね。
 一世紀ほど生きている多分地球人換算でいうと大学生くらいの主人公がヒッチハイクをして、おそらくアラサーお姉さんくらいの社会人と仲良くなるお話です。
 ユールという通貨や、ソフトクリームの味などの独自設定の味付けで世界観をこうですよと紹介してくれるのがすごく読みやすいです。
 あと、ソフトクリームが宇宙にもあって、地球にもあることの理由付けも「他の星が文明を持ち込もうとした結果」と書いてあることから、外部からの干渉があったとされているので似たようなものが今の地球にもあるのかもしれないし、偶然かも……と思えるのはすごく好きです。
 そして温泉。女同士で温泉はいいですね……。
 最後まで読んで、改めてタイトルをみると「そういうことかー」となるほんわかしたとても良い作品でした。
 二人は空の星へ降り立ったあと、どんな擬態をするのか想像するのも楽しいですよね。

謎のストクリス
 まずタイトルに惹かれました。そして通して読んだ後に、このタイトルをこの作品に付けるのは非常に洒落ているなと思いました。
 冒頭から宇宙パーキングやら謎の通過単位やら、異星感溢れるワードが飛び出してきて作中世界の歩き方を教えてくれます。自然な会話やモノローグの中にこうした言葉を忍ばせて設定を開示していくやりかたが上手い。テンポの良い会話を楽しんでいるだけでもそれがどんな世界で何が起こっていて、主人公が何をしたいのかが分かる。突飛な設定や謎の用語などが頻出するのにこれだけ読みやすいのは凄いです。
 ヒッチハイクからの会話劇というのは作劇のやり方として良いですね。狭い空間での二人の関係性を深められるし、そうしている間にも舞台は移動するので物語に動きが生まれる。作者さんもそこを意図的に取り入れているようで、ァクノワさんの髪を惑星のプラネタリィリングに喩えるあたりなど上手いなと思いました。
 それだけにもっと舞台を動かして、長く物語を続けてほしい気持ちが強まります。現在の終わり方でも十分綺麗なのですが、テーマ「擬態」に関してもわずかに触れる程度でしたので、そこを搦めてもう一山あると満足度がより大きくなったと思います。締め切り間際の投稿だったことと合わせて考えると収拾の付く内に風呂敷を畳んだのかなと思いますが…。
 世界観の作りこみ方と開示の仕方が上手で嫌味がなく、思わず顔が綻ぶほどに、大変気持ちよく読み進められる作品でした。

謎のイヌ亜科
 宇宙ハイウェイをヒッチハイクする美大生と、“空の星アース”に向かう美女の話。
 ポップでファンタジックな作品でした。宇宙パーキングエリアのソフトクリームはデカいし、宇宙人の平均年齢は長い。地球とそこまで変わらない文化圏の中に、確かなセンスオブワンダーを感じました。
 空の星が自然に溢れている秘境だから宇宙人は原生生物に擬態しないといけないという設定も面白いですね。ァクノワさんが比較的人間に近い姿をしているのも、仕事が理由なのでしょうか? 擬態を解くと肌が青色だったりするのかな……。

86 学校の神様/こやま ことり

謎の有袋類
 こやまさんの二作目です。
 今度は登場人物最小限!舞台も学校と文字数にピッタリの舞台設定だと思います。
 なんで一作目はあのようなことになってしまったんです?と驚きを隠せない……。
 学校の七不思議にように語られる神様。強い力はなくて、ささやかな願い事を叶える神様は、北東にある祠にいるという。
 神様に願い事をするためには、他の人に見られてはいけないというそれっぽいルールがいいですね。これは見られていたら祠が見つからないとかでしょうか?
 図書館で見かける女の子が、急にガガガンっとアクセルを踏み込んだようにいきなりお付き合いをしてください!となるところでちょっとだけ心がついていかなくなってしまったので、途中でもう少し恋心というか、フラグを入れたほうが、納得感がある展開になると思います。
 前回の看取られ小説では、フラグや心情の移り変わりを描けていたと思うので、計画的に執筆をして、推敲を行えば不可能ではないと思います。
 執筆は計画的に!
 擬態要素は……生徒に混じっているところかな?
 擬態要素がもっと強かったら更に良かったかも。
 最後の、神様が茜ちゃんに名前をこっそりと教えるところはエモくてよかったです。

謎のストクリス
 コンパクトながらよくまとまっていて、スッキリした読後感でした。
 異界への境界を超えるシーンや神様のルールなど、民俗学的素養が窺えますがそれが押しつけがましくなく、良い塩梅のフレーバーとして効いています。説明しすぎない、という上手さがあります。特に「神に願わないことが神になる条件」という設定は面白いですね。きっとこの背景にも「何故なら…」と理由が設定されていたでしょうけれど、それを説明はしない。空白を埋めすぎないからよく響く良さがあります。
 告白のシーンは一長一短です。物語に突然差し込まれる唐突さは、湧き出す感情を抑えきれずにパニックになりながら告白する主人公の心境とシンクロしていますし、それに驚きつつもゆるりと受け入れる神様との良い対比にもなっています。一方で、読者としても突然の展開に驚いて一瞬我に返ってしまいました。このあたりのバランスは難しいですね。
 神様ののんびりとした口調や余裕のある振る舞いは、これから始まる主人公との暮らしが穏やかで心地よいものになるのだろうという希望を抱かせてくれて良いですね。幸せでさわやかな気分になれる、良い短編でした。

謎のイヌ亜科
 学校に関する願いを叶えてくれる神様と、転校したばかりの少女の願いの話。
 いい百合でした……。小川の描写や名前を教える神様の構図から「千と千尋の神隠し」を連想したのですが、川は人間界と神様の世界を分けるための結界的な役割なのかな?
 神様が図書室にいたのも、小川を隔てた旧校舎にあるからかな、と思いました。
 神様の条件として「神様に願わないこと」が提示される展開も好きです。そんな中で少女が願ったのが神様と一緒にいることなのが最高……! それ自体はエゴでも、対象が神様だから許されるんだよな……!!

87 わたしのなめらかな毛皮/威岡公平

謎の有袋類
 人権獲得おめでとうございます。毎日コツコツしている甲斐があったね!
 苛烈な父に育てられた有能な男には、猿が見えていた。でも、その猿は自分以外には見えないし、普段は毛づくろいをしているか、自分を見つめてくるだけ。
 意味深な猿の描写なのですが、ちょっと何を表しているのか読み取れませんでした。
 なんらかの主人公の心の内面だとは思うのですが、ヒントが見つけられなかったです。すみません。
 多分威岡くんの中では明確な理由があり、多分擬態もそこに関わってくるんだと思うのですが……。
 父親への憎悪とプレッシャー、どことなく父親に似た男との共同作業。これが不祥事の記者会見だったのは驚きました。
 ミスリードのさせ方がすごく上手だと思います。
 ケンの話も、主人公の父親や、主人公の人格を表すエピソードに必要な人物で、内面の描写や葛藤、主人公の自分の見た目への執拗とも言えるこだわりを感じることができて、すごく良くできている作品だと思います。
 ただ、急いで書いたこともあり、威岡くんの中ではわかっていることが、作品を読むだけの相手には伝わっていないことも多々あります。
 情報や比喩は、書きすぎかな?と思うくらいヒントを書いてしまってもいいと思うので、これからも色々試してみて、ちょうどいい塩梅を探してみましょう!
 なにより、期間内にお題がある作品を書き上げられたのはすごいことだと思います。
 企画がなくても、定期的に短編とかを書いてほしいなと思いました。

謎のストクリス
 上質な作品でした。滅茶苦茶好みです。
 獣性を排して理性を武器として人生を勝ち取ってきた主人公。その根底には獣のように生き汚い父への嫌悪感と、父とは対照的に生粋の高潔さを持った同級生への羨望がありました。幻覚のように現れる猿は、自身の内から追い出そうとした獣性、他人を蹴落としその肉を食むことを是とする心性の現れでしょう。高潔で優雅でスマートな皮を被って生きる主人公の「擬態」には興味を示さないくせに、その化けの皮に綻びが生まれる瞬間は決して見逃さないよう目を離しません。そうして、化けの皮が剥がれれば猿は笑うのです。いくら否定しても俺はお前だ、と。私達読者が猿に抱く得体の知れなさと不気味さは、まさに男が自身に宿る獣性に向ける気持ちとシンクロするのでしょう。
 一点だけ指摘するならば、過去の回想が二系列あため計3本のタイムラインを頭の中で整理せねばならず、人によっては読みづらく感じてしまうかもしれません。私はそうした物語に慣れていることもありそれほど戸惑わず読めましたし、試験の回想と現在の状況を重ねることに大きな意味のある作品なので、悪い点というよりは読み慣れた人向けだという程度に捉えていただきたいです。
 全編を通してクールで読みやすく、タイトルも含めて擬態というテーマによくマッチした素晴らし作品だと思います。こういう作品に出会えるのは評議員冥利に尽きます。

謎のイヌ亜科
 自分にしか見えない猿の姿に悩まされるサラリーマンの話。
 海外の小説のような印象を受けたのは、単に登場人物の設定や世界観だけでなく、作中の言葉選びや醸し出す雰囲気からでしょうか。シニカルな作劇は個性的で、とても面白かったです。
 作中で仄めかされる猿の正体は、人が抱く野心や競争心がカリカチュアされたものだと感じました。ただ、主人公はその源泉を野性的な本能だと思っている。だから毛を剃り、贅肉を付けないことで理性を持って本能を管理しようとした。そう読みました。
 しかしながら、猿は限りなく人間に近い生き物です。他者を蹴落として結果的に成功した主人公は、人間に近い猿だったのでしょう。
 テーマの擬態は主人公が見た父親の姿でしょうか。獅子に擬態した狒々だった、ということですかね……。

88 ヨウキ・ワイの世界/@yayanehi

謎の有袋類
 ヤヤネヒさん、企画に参加ありがとうございます。
 美術をテーマにしたホラー作品。どちらかというとヒューマンホラーなんでしょうか?
 これも所謂ペガサスですね。みんな好きだよね、ペガサス。
 宿題のために展示を見に行くことになった主人公は、他の生徒が来なかったため小学生のころからの友人である羊季と一緒に美術館を回ることになった。
 詩的な表現の連続で、何が本当で何が嘘なのかわからない信用できない語り手のような地の文はこわかったです。
 いつのまにか一人になってしまった「私」は、映像に夢中になり、そこで私の主観は閉じます。
 それから羊季が個展を開くことになった時代にまで時間が飛んで、実際は「私」がいじめられていたことや、一人で美術展へ行ったことがわかります。
 消息を経ってしまった友人のことを思い出して終わるというお話でした。
 擬態の部分はちょっとよくわかりませんでした。読み落としていたらすみません……。
 全体を通して非常に不気味で怖いのですが、内容が抽象的で何が起きているのか明確にはわからないので人を選ぶ作品かもしれません。
 暗い雰囲気で、少女が幼さや無垢さ故の残酷なことをしてしまったり、死の影がちらつくという作品は、需要もあるのでこのままでも良いとは思います。
 読む人の間口を広げたい場合は、抽象的な表現と、実際に起きた表現のバランスを変えてみてわかりやすさを重視するのも良いと思いますが、ここらへんは好みの問題なので、好きな作風を採用して、どんどん好きなものでデッキを作っていくのがいいと思います。

謎のストクリス
 これは難しかったです。事実と幻想が入り混じっていて、どこに足をつけて作品世界を見渡せばよいのか不安になる、面白いけれど慣れない読書体験でした。
 事実として起こったことはおそらく最後の章、羊季のモノローグの通りなのでしょう。幼いころの彼女が切り捨てた「友人」は、道化にさせられている最中に姿をくらまし、二度と戻りませんでした。「忘れられない」と回想するところを見るとその体験は羊季の心に暗い影を落としたのでしょうね。
 一章から四章まではその消えた「友人」を語り手として描かれます。彼女の体験では事実と異なり羊季と共に美術館を巡るのですが、その中でも二つの展示品に足を止め、二つ目の作品のなかに自身の影を感じたところで気を失います。作中で明示されているわけではないので多分に憶測が混じりますが、彼女は「羊季の世界」に呑まれたのかなと思いました。羊季の目を通して見た彼女自身や友人らの姿があの美術館であり、芸術家として成長した羊季が己の内面世界を現実に引きずり出したのが終章の展示なのかな、と。
 この作品における「擬態」は何でしょう。悪意を綺麗な殻で覆って生きる人間でしょうか。

謎のイヌ亜科
 美術館の悪趣味な展示物と、中学生グループの話。
 まさしく悪意の話でした。綺麗な外殻の内部にタールのように渦巻くどす黒い感情は、幼いが故の無邪気さなのでしょうか。「目玉」が卵のような形状をしていたことと相まって、天使が羽化してしまった悪意を象徴しているようでした。
 後に羊季が同じ展覧会を開いたという点が面白いです。中学の時の美術展は彼女の心象風景を表すのか、彼女の未来を暗示しているのか……。

89 私立!!腐理高等学校ゾビ!!!/@dekai3

謎の有袋類
 ゾビ!!!!じゃあないんだよw
 でかいさんの二作目はゾンビの高校に通う花のJKを主人公にした作品です。
 いやいやながら腐理高等学校に通うヒト美は、普通の人間なのになんでこんなことに……と思っていたけど、最後のネタバラシで納得してしまいました。
 そうだね……転んで内臓もそりゃ飛び出ちゃうし、お腹の中にも砂は入ってしまいますよ。
 ゾンビの生態や学校の描写も面白いのですが、でかいさんの得意な半角カナの効果音も効果的に使われていて、楽しく読めました。
 ゾビの使い方難しくない???あと、クサ美ちゃんかわいい。
 人間が通う訳ないでしょ!という冒頭のやりとりがすごくいいですね。嘘は確かに言っていないけれど、ゾンビでもない。
 しかも、ちゃんとゾンビの学校に通う理由も「私の学力ではこの高校にしか通えない事が判明してしまっており」と書いてあるのが良いですね。あとから読み直すと脳が半分しかないからか……とわかるみたいな、最後まで読んだときに「そういうことだったのか」となるのが気持ちの良い伏線回収……。
 それにしても、ゾンビや人体模型がいるということは、やっぱりスケルトンとかもいるんですかね?スケルトンとラブドールや市松人形ちゃんが通う人形専門学校もあったらいいのにな。

謎のストクリス
 タイトルからトップギアのナンセンスコメディ。
 語尾のゾビ!!!には最初のうち違和感しか感じなかったのに次第に慣れてきて、慣れてきた頃に、実は正しい文法があるらしいとわかる不意打ちにやられました。その不可解な文法に苦しむ主人公が剽軽なことをやって笑いを取る女と思われる部分も含めて、可笑しさと恥ずかしさと理不尽さとを一気に感じて暫しフリーズしてしまいます。こういう不思議な感覚を意図的に作るのは凄いです。
 勢いのままに書いているように見えて、最後のオチに向けての伏線が用意されていたり、それを巧妙に隠していたりと小技が光るのも見どころです。乱す部分と整える部分をしっかり使い分けていて、器用な作者さんだと思いました。もしかするとゾビ!!!の文法も作者さんの中ではしっかり決まっているのかもしれませんね。

謎のイヌ亜科
 ゾンビしかいない高校に進学してしまった少女の話。
 餃子マンの系譜だ……! ゾンビの習性を高校生活に落とし込む展開が上手く、所々挟まれる半角カナが読み味に変化をもたらしていました。ゾビって言いたくなるゾビね。
 ヒト美、いくら頭が悪くても何でゾンビの高校に……と思ったところでラストのオチに落とし込む! 人体模型一家って何!? 父親は骨格標本なの!?
 KUSO展開と見せかけて、人でもゾンビでもない人体模型の悲哀をまざまざと見せつける。これは社会派なテーマゾビね……。

90 真・擬・態/雨野

謎の有袋類
 乾杯を書いてくれた雨野さんの二作目です。
 母なるこむら川に、メッセージボトル(手書き)を投げ込む小説。
 才能がないと気がついてしまったワナビーの成れの果てが、素敵な住まいで住民のみなさんとコミュニケーションを取りながら、メッセージを叩きつけるという作品!
 才能、やりがい、しかたなさややるせなさを抱えて、みなさん人間の擬態をして生きていっているのはすごいですよね。
 それをできない自分と向き合って「無理だ」と諦めるのも、諦めきれずに文章を認めるのも、呪詛に近い文章を少し角を丸めてちょっとコミカルに加工するのも様々で、このこむら川を流れる濁流に潜むいろいろな生物の多様性を感じさせる作品でした。
 今回の川はペガサスがたくさんいます。
 なんにせよ、テーマを守りつつ、作品を完結させられるということはすごいことです。
 こむら川は才能があるみなさんや、商業作家をぶん殴れるステージなのですが、野良のトラックが商業作家も素人も天才も薙ぎ払うなどの事故も起こります。
 この作品をどんな思いで書いて、読んだ人がどんな反応をすると思ったのかはわかりませんが、完結をさせること、そしてテーマをこう回収したとわかりやすく書いていることはとてもすごいことなので、また創作スマッシュブラザーズなどで遊んでくれると嬉しいです!

謎のストクリス
 本企画のテーマを知らされた時に「作品自体が小説に擬態している」というメタ回答をぶつけてくる作品は必ず出てくるだろうと思っていましたし、私自身も挑戦してみて諦めました。ええ、諦めました。難しいのですよね、メタ小説。
 小説に擬態している以上はそれは小説であってはいけない。けれど小説として読めなければ擬態は成功とは言えない。そういう排反する二つを両立させ、小説として読める作品の中に小説でない綻びを仕込むという離れ業をやらなければならない。大変難しい技術です。
 本作では夢破れた小説家志望が仮の物語の主人公として登場します。そして窓の外はこむら川。これが上手いですね。現実の本企画の状況に物語を似せることで、読者は「この話メタっぽいな」と意識するわけです。最後の「お前が小説だと思っていたコレは小説ではなかったのだ」を受け容れさせるためのクッションをここで入れているわけですね。唐突すぎるオチは不興を買うものですが、その対策として心の準備をさせておく手腕、見事です。ただその後の「ここまで読んだ暇人」から始まる段落は、同じ目的であったのならやりすぎかなと思います。私にはここは先述の「小説への擬態」が綻びすぎたポイントとして映りました。
 さておき本文部分では、(主人公の自己評価とは裏腹に)アイロニカルで厭世的ながら軽妙でテンポの良い文章が並び、読み物として単純に面白かったです。作者さんは『乾杯』と同じ方ですが、優しく丁寧で真摯なあちらとは一転、こんな文章も書けるのですね。幅の広さと、その両端での完成度に驚きます。

謎のイヌ亜科
 才能の有無に悩み、泥川のような「こむら川」の濁流にメッセージボトルを投げ込む男の話。
 小説投稿にはタイミングが大切ですが、この作品は最終日の氾濫の中で輝く作品だと思いました。増水によってボトルメールが遠くに届くような雰囲気を感じました。
 主人公の悩みは創作者を志す「ワナビ」的な人間なら少なからず共感できる内容なのですが、創作に関する悩みを創作でしか発散できない主人公にはある種の業を感じました。自分の才能のなさに絶望しながらも、筆を進めなければ自分のそれまでの人生を否定することになってしまう。怒りの思いに、一部擬態した小説への愛を混ぜ込んだような作品でした。

91 ロボット少年/ボラギノール上人

謎の有袋類
 ボラニキも今回書いてくれたのうれしいですね。前回は待機という死後の世界を書いた作品で参加してくれたのですが、今回はロボット少年……。
 インターネットで頭にミュージックプレイヤーを勝手に入れられたと質問する系の生き物の生態をよく描いている作品ですね。
 本当に小説を書くの今回が三本目とか嘘では???擬態というお題も「人に擬態をしていると思いこんでいるヤバい人」という回収をするとは思わなかったよ。
 ボラニキは、前回も思ったのですが、ワンセンテンスの破壊力がすごいですね。今回も「ロボットだから腑はないのだが」という文章でふふってなってしまった。
 この妙な自信、妙な思い込みの強さ、そして妙な理屈……知ってる!進研ゼミ(Twitter)でみたやつだ!とテンションがあがってしまいました。
 内容としては、なんとなくまだ冒頭という感じなので、欲を言うならこれからなにかやらかすのが見たかったです。
 ボラニキは本当に書けば書くほど強くなると思うので、企画に参加してくれたり、思い立ったらなんとなく掌編を書いてみるのがオススメです。
 最後の「僕を製造しておいて面白いことを言うものだ。病院に行ったところでどうにもならないだろう」って妙に上から目線がマジでムカつくwwwこういうクスクスっとなる憎たらしさを書くのが上手だと思ってるので、そこもガンガン生かしていってほしいです。

謎のストクリス
 自分をロボットだと思い込むことで辛い現実から逃避する少年を描いた、心を締め上げる物語でした。これを彼の一人称で描くのがエグいですね。
 読者の立場から見ると彼が狂っているのは一目瞭然で、その行動はとても痛々しく映ります。まず最初に効いたのは「PCチェアが充電器だ」という部分。物証など無いし、(座る位置など意識もしなかった)これまでの生活習慣と照らし合わせてもそんなわけないのですが、本人の中ではこれはもう確定事項で真実なのですよね。これを皮切りにあらゆる観測結果を自説の補強に繋げていく妄想が空恐ろしく痛々しい。説明のつかない部分は「そう設計されたから」に逃げきれるのもこの妄想の恐ろしいところです。
 さてテーマに関してですが、私は擬態とは「生きるため他人を欺く姿をとること」と考えました。本作の主人公の少年は、確かに生きるために「人に擬態したロボット」の姿を取りましたが、欺く対象は他人ではなく自分でした。それゆえ、私の観点では本作の擬態は半分までと評価します。
 ただ、生きるために自分を欺く恐ろしさと痛々しさは本作の核であり魅力です。コミカルながら救いようのない物語のなかでこの核を中心からブレさせずに貫いたのは、作者さん本人も意識しての事でしょう。

謎のイヌ亜科
 自らを人間に擬態したロボットと思い込んだ少年の話。
 淡々とコミカルに人が狂っていく様子を描いているのが特徴的でした。繰り返す退屈な日常のルーティンをロボットのように感じてしまうというという少年の感情の流れも非常にロジカルで、彼にとっては筋が通った推論なのだろうな、と思えてしまう凄みがあります。
 自身の充電のためにUSBケーブルを買う主人公は滑稽なのですが、その際に周囲の目から感じた羞恥心を自らの感情だと認め切れてない辺りに手に負えなさを感じますね。もうどうしようもなく、彼は狂気に浸っていくんだろうな……。

92 お前らは鬼龍院じゃない/米占ゆう

謎の有袋類
 第十回本物川小説大賞で、地球に学ぶ! 危険宇宙生命体「レプティリアン」対策で参加してくれた米占さん。こちらにも参加していただいてうれしいです。
 今回は人になりすますのが趣味の女の子が主人公……なるほどねー。そういう人が人になりすますタイプの話……と読んでいたんですけど、やばかったですね。
 一度滑り出したら止まらないジェットコースターのような話運び。本物は誰だ!鬼龍院クイズ!が始まったと思ったら、本物の鬼龍院さんが来たまではわかるんですよ。
 そこからが問題だよ。猿、雉、犬ときて、桃もあるので怪しんでいたんですけどね……。
 桃山剛掌波じゃあないんだよwwwわはは!と笑ってしまいながら読んだのですが、鬼が人間に擬態をして人を喰うという方面でも擬態を使っていて個人的には擬態の解釈一致!とここでもテンションが上りました。
 軽快なテンポとツッコミ、そして伏線回収の気持ちよさ。まさか桃太郎オマージュだとは思わなかったので「やられたー!」と思いました。
 コミカルなやりとりがすごく読みやすい上に、登場人物も多いんですけどゴチャゴチャしすぎずまとまっていて面白かったです。
 情報の圧縮方法や、桃太郎というモチーフなのでなんとなくキャラクターの名前が覚えやすかったり、それぞれの偽鬼龍院のキャラが立っていて面白く読めました。
 桃まんまで擬態しなくていいよwとなるオチまで含めてすごく好きな作品です。

謎のストクリス
 一人称で語られるパンチの効いた長台詞と予測不能なストーリー展開が魅力なエンターテインメントでした。
 他人に化けることを趣味とする主人公、次々出てくる偽鬼龍院、その異常事態に順応して審査を始める女性、審査に合格して鬼龍院にされてしまった私、そこに登場する本物、そして…と、次々展開する物語に振り回されつつも混乱が少ないのは、語り手の彼女が突っ込みつつもかなり整理して状況を語ってくれるからでしょう。基本的に口語調のうえ一文が長いのに読みやすいのは本作の特徴の一つで、要因はいくつかあるのだと思いますが、音韻的にも内容的にも整理されていることが大きいように思います。声に出して読みやすい、その声を聞いて状況が把握しやすい、そんな感じです。
 荒唐無稽なジェットコースター・ストーリーですが小技も効いています。桃太郎になぞらえていることが仄めかされたり、登場人物全てが何らかの「擬態」をしていたり、偽物同士が惹かれあうかの如くロシアン桃まんのハズレを引いたり…。パワーとテクニック、力業と小技の両立ですね。暴走しがちなストーリーを所々で引き締め、スマートに着地させた印象です。

謎のイヌ亜科
 見知らぬ人を研究し、化けることが趣味の女性が「鬼龍院氏」に化ける話。
 台詞回しや地の文がコミカルな作品ですね。独特のグルーブ感のおかげか、テンポよくサクサク読めました。
 擬態する気のない鬼龍院2人の名前が猿と雉だった時点で桃山と鬼龍院の名付けの意味が見えてくる構成は見事でした。令和の鬼退治だ……!
 ロシアン桃まん、全部ワサビ入りならもうワサビまんでは?と思ったのですが、本物が1人もいない鬼龍院軍団と対比されているわけですね……。

93 二人の医師/青瓢箪

謎の有袋類
 前回は消しゴムと卵焼きで参加してくれた青瓢箪さん。
 同じ罪状によって裁かれた違う時代の二人の医師のお話です。
 産婦と産婆と医師の関係性や、女性の権利、制限などについて書かれたお話は、実際にあったことを参考にしているという感じなのでしょうか。
 医療とともに呪いという言葉が当たり前に使われるギリシャでの話と、近代医療の時代と比較を思いついたのはとても興味深いなと思いました。
 ですが、どうしても事実の羅列をされてしまうと、感情移入や物語を楽しむというよりは「へえ」で終わってしまうと思います。
 エンタメとしては、もう一歩踏み込んだというか、主人公や登場人物を実際に動かして行動させるといいのかもしれません。
 擬態というお題回収は、男性が女性に擬態して出産を見たかったヴェルトと、男性に擬態をして女性が医療を学ぶという禁忌を犯して人を救ったアグノディスの対比は非常に興味深かったです。
 小説や、物語というか、読み物としては、題材選びも、逸話の抜き出しもすごく良くて非常に面白かったです。

謎のストクリス
 講評の前に少し調べてみて、エピローグで語られるスメリー医師とニヒル氏、イグナーツ医師のエピソードは史実だと確認できました。見識が浅く申し訳ありませんが、もしかすると本作の中心人物たるヴェルト医師とアグノディス医師も実在の人物、もしくはモデルとなった人物がいるのでしょうか。その仮定に基づいて以下に続けます。
 全く違う時代、地域に起きたふたつの事件を女性医療を軸に繋げて物語とした作品です。「事実などなく解釈だけがある」という言葉もありますが、起こった事、見聞きして知り得たことを物語として理解・共有するのは人間の強力な武器の一つだと思います。解釈が無ければ二つの「史実」であったものを、解釈によって「物語」にしてしまうのは大変面白い試みだと思いました。
 そしてこの作品は同時に、その物語化という行為の恐ろしさも描きます。救える命を増やそうと禁忌を犯した末に「女の股を覗こうとした変態」「産婆の仕事を奪う略奪者」という物語に呑まれ火刑に処せられたヴェルト医師と、羞恥心に拘泥して命を落とす女性を愚かと蔑みながら「女性は女性が診るのが正しい」という物語を強化してしまったアグノディス医師。この物語化の恐ろしさもまた二つの史実を繋ぐ軸なのですよね。面白い。
 現代を生きる我々は現代の医療知識や価値観で以て本作に登場した登場人物それぞれの行為や信念を評価したり非難したりできるわけですが、それもまた本作という物語に乗せられての行為になり得るのだな、などと考えさせられてしまいました。

謎のイヌ亜科
 近世ドイツの女装した医師と、古代アテナイの男装した医師の話。
 医療の発展は人間の病気との戦いであると同時に、因習を信じる人々との戦いである、と感じました。
 アテナイでは女医の概念がなく、お産の際にアグノディスが正体を明かすことで妊婦を安心させていた。一方のドイツではお産は産婆の仕事で、そこに男性の医師が介在することはできなかった。これらは相反する事案のようで、根底にある感情は同じものだ、とする作劇は見事でした。
 気になった点として、物語が淡々と進みすぎた部分があります。これは個人的な好みなのですが、盛り上がるポイントで水を掛けるような話の展開は感情の置き場をどこに置いていいか分からなくなる気がします。感情的になることを風刺する作風なので、また違った読み味になるかもしれませんが……。

94 白紙の妖怪/2121

謎の有袋類
 前回のこむら川小説大賞では雑草のシンデレラを書いてくれた2121さん。
 2121さんは、女性のあやかしや人外を書くのが非常にうまいと思っているのですが、今回も不思議で不穏な導入から爽やかで温かい結末に運んでいく見事な腕前でした。
 カタナシと言われる妖怪の話をされて、はしゃいでいた真白と、カタナシは出会ってしまいます。
 チェンジリングにも少し似た人に擬態し、いつのまにか入れ替わってしまうという妖怪なのですが、それは人が思っている以上に正面から自分に似た人間として現れます。
 日々自分に似ていく透に対して、怖くなっていく真白。でも周りは取り合ってくれないという焦りが彼女を追い込んでいきます。
 このまま後味の悪いバッドエンドかな……と思ったのですが、先輩によって真白は自分の自信を取り戻し、それだけではなく、自分に成り代わろうとする透にまで手を差し伸べたのがこの物語の美しいところだなと思いました。
 日々、更新し、変わっていく真白と、人間になりたくて、人間になれる別の方法を教えてもらった透。
 透はこれから、どんどんいろいろな人間の好きなところを真似をして、真白とはどんどん違った存在になるんだろうな……という人間と妖怪の共生を描いたとても素敵な作品でした。

謎のストクリス
 姿を持たない妖怪が「自分」を手に入れるために人間の真似をはじめ、やがては成り代わってしまうという怪談にまつわるお話です。怪異に関わってしまったがゆえに姿を真似られ、成り代わられてしまいそうになる主人公ですが、そこからが本作の見せどころでした。王道というか、お決まりの展開をなぞってからの変調、良いですね。単に奇を衒ったものではなく、しっかりと納得できる物語に仕上げているのも非常に良いです。
 姿形をはじめ技術や性質、遂には人生そのものを乗っ取られる恐怖を描いた後に「それは人間も皆やっていること」とカウンターを入れる展開、なるほど、と膝を打ちました。グルンと気持ちよく視点を変えさせられた勢いのままに、妖怪カタナシとの共存に向かうエンド。ああ、そう来るか!と本当に気持ちよく読ませていただきました。誰かの真似をしていることもまた自分らしさを形作る、これは他にない「擬態」の解釈でしたね。とても面白いです。
 登場人物の名前が色で統一されていることもあり、カラフルで優しく心温まる、ああこれは良質なエンターテインメントでした。

謎のイヌ亜科
 人の真似をして人に化ける「カタナシ」と、吹奏楽部の少女の話。
 ホラーかと思ったのですが、夏にぴったりの爽やかな青春モノでした。好きですね……。
 カタナシが「なりたい物になる」事を選んだ結果として真白が窮地に陥るのは人と妖の相容れなさを感じたのですが、そこから「人間も誰かの真似をして生きている」というテーマに止揚したのはカタルシスを感じてかなり好みの展開でした。冒頭に提示された真白の名前の由来である、「色々なものを吸収してただ一つの自分になる」が回収される作劇は見事ですね。
 登場人物の名前が色由来だと気づいた後に真白と透が似て非なる物だという描写を読んで、そのまま白と透明の違いに思いを馳せたくなりました。透もいつか自分の色を持てるといいね……。

95 本当に付き合っちゃおうか/佐藤ぶそあ

謎の有袋類
 前回は「誰より笑顔が似合う人」というエモな合唱もので殴り込んできてくれたぶそあさんが今回も参加してくれました。
 百合!!!今回百合がめちゃくちゃ多い上に良質な百合が多いですね。王子様としての役割に疲れた女シリーズ!
 どの王子様も個性的で良いですね。やはり百合といえば女子校。そして王子様を期待されて、それに応えつつもどこかでそうではない自分や本当の自分をわかってくれる相手を求めるというのは王道かつ、どんなパーソナリティの王子女を作るかによって作者の個性と性癖の差がわかるとてもおもしろいものですね。
 菫の君と呼ばれる三条さんと、転入してきた早矢香は恋人同士に擬態をして、三条さんの風よけになっているというお題回収。
 4000字以下の短い中で、関係性をギュッと圧縮して短編とは思えないくらいの百合エッセンスをたっぷりと摂取できるのが良いですね。
 早矢香さんを弄んでいるように見える三条さん。でも、甘いものが好きで早矢香さんの前だと油断してタルトを食べてニコニコしてしまうのはギャップ萌えというやつですよ。良いですね。
 この作品は終わり方がすごく良くて、タイトルと〈了〉をそう使うか……。見事なお点前でした……と思わず合掌してしまいました。

謎のストクリス
 女学校を舞台にした偽装恋愛のお話。
 女子高の王子様役に疲れた「菫の君」と主人公の、取り巻きを遠ざけるためだけの偽装恋愛…のはずですがその実思わせぶりなアプローチの応酬です。相手の手を読む将棋やチェスのように、あるいは相手の呼吸を読むダンスのように、一手指しては引っ込めて、詰めたり誘ったり、甘酸っぱくむず痒い。女学校モノの素養が私には無いのですが、そうした素養のある人には定番のネタもふんだんに含まれているのかなと思います。
 防戦一方に見えた早矢香が「お生憎様。私は菫子さんの顔、好きよ。綺麗だもの」から巻き返していくのは痛快さがありワクワクしましたし、そこからタイトル回収に繋げての終幕はとてもお洒落で見事でした。
 本作の擬態要素である「偽装恋愛」に関しては私の擬態解釈である「生きるために他者を欺く姿を取る」の様な切実さはないのですが、見事なラストにつながる要素として欠かせないものでした。

謎のイヌ亜科
 お嬢様学校の王子様的ポジションの女子高生と、偽装恋愛中の女子高生の話。
 百合だ!! 周囲からチヤホヤされる方の感情がデカいのいいよね……。
 創作物の影響を多分に受けたお嬢様学校の疑似恋愛先として求められる役割から逃げようとしたのが三条で、そのために恋人を作るという擬態を行なっていたわけですね。早矢香とカフェに行った際にコーヒーとタルトを運び間違われたことから、その本来の姿は「理想の王子様」とは異なるものだと考えられます。ここの描写がキャラクターの質感を際立たせていて、僕も初読の段階では頼んだものを勘違いしていました。
 タイトルを最初と最後で異なる文脈で使う手法は王道ながらも完成度が高く、作劇が上手いと感じました。ラストを「ねぇ」で閉める思い切りの良さ、好きです。

96 恋をしなければ失恋することは出来ない/妹

謎の有袋類
 前回はめちゃくちゃヘヴィな内容の百合をぶちこんできてくれた妹さん。今回はライトな百合って書いてあったのに!!!のに!!!
 かなり警戒をして読んでいたんですけどやられましたね。
 髪を切った友達が、お姉ちゃんの友達に似ていて気まずくなってしまうことからスタートするのもいいのですが、この作品は本当に情報開示が巧みですね。
 読んでる方が「それ恋じゃん!!!!」とか「し、失恋じゃん」とめちゃくちゃ思っているのを焦らして焦らして、最後に「恋をした」と自覚をさせてから失恋に気付かせる。作者は心を抉る天才ですか?
 擬態要素は……ちょっとどこだったのか読み取れませんでした。擬態という単語の解釈が僕と違うので読み取れていないだけかもしれないです。
 仄かな恋心、憧れで初恋の相手は自分を見ていないとわかりながらも、心地よさに甘んじる主人公。そして、姉の結婚を期に連絡が帰ってこなくなった初恋のあの人。
 友人の失恋を通して、時間差で自分の気持に気がつくというのは良いですね。それに失恋したと書くんじゃなくて「心も身体もバラバラになっちゃいそうなんだ」で〆る終わり方が本当に上手。
 タイトル通り「恋をしなければ失恋することは出来ない」という作品でした。

謎のストクリス
 丁寧な筆致で淡い恋心を描くお話で、気付かなかった失恋に気付いて受け止める話です。なのですが、すみません、私があまり良い読者ではなかったようです。環の涼子さんに向ける思いが読み進める中では読み取れず、ラストを読んでから読み返して「あ、そういうこと?」と呆気にとられてしまいました。伏線がないとか説明や表現が稚拙だとかという理由ではなく、私自身の恋愛観や物語への慣れ具合、あるいは今の疲労かもしれません、そういった要因なのだと思います。
 恋心をそう認識していなかったがゆえに、環が涼子さんに向ける思いは明示されず示唆されるに留まります。涼子さんはおそらく環の姉に想いを向けていて、環の中に姉の姿を重ねて見ていたのでしょうね。だから環の思いが報われることはなく、それは失恋だったのですが、本人がそう認識せずにいたので痛みは伴わず、何か引っかかる思い出程度にしまわれていました。それを、友人との会話の中で反芻し、そこで初めて痛みに気付く…というお話なのだと理解しました。理解したのですが、どうにも心がついてゆきません。もしかすると私は、環同様にまだ「恋」を知らないのかもしれません。どうやら私は、この作品をきちんと評価できなさそうです。
 またテーマの「擬態」が読み取れなかったのですが、うーん、抱えたはずの痛みをないものとして自分自身を欺いてきた環が擬態の主になるのでしょうか。

謎のイヌ亜科
 恋を経験したことがないと自認する女子高生と、彼女の姉の友達の話。
 遅効性の毒のような失恋物語でした。涼子さんは環に特別な感情を抱いていて、環に抱いていたかはわからない。それでも、環は涼子さんとの日々を大切に思っていた。この感情の流れですよ……。
 恋心は実感しないと気づかないもので、恋を知らないと失恋も知りようがない。だからこそ、恋を認識してしまうと連鎖的に失恋を実感してしまう……。
 環の友達の友香の気丈さが好きです。初恋が悲しい結果になっても、「いつかきっと誰かを好きになる」と言う。最後の恋にはしない、という強さですね。
 擬態要素は環が抱いていた感情を暗に語ったものですかね? 擬態を解いてしまうと、辛い気持ちが襲いかかってしまう。いい百合でした!

97 私は壁になりたい新作/椎名ロビン

謎の有袋類
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 難解な進路希望を出してきた生徒が狂気の百合好きオタク女だったというお話なのですが威力が高いですね。そして連続で強い百合を食べている気がします。こむら川に百合推し勢力が流れ込んできてしまったのか?というような百合の鉄砲水。三連百合です。
 こちらは甘酸っぱい百合というか、力強い百合が好きなオタクです。コミカルなソフトボール部の逸話も壁になるための努力で回収されたのには笑いました。狂人に人間の理屈は通じねえんだ。
 擬態というよりは変装というか、なんだろう。とりあえず強い百合の力を感じます。
 早口で「ええと、ざっくり言うと、私、カプ厨にして百合厨なんですよ」と言いのけるのがつよい。絶対瞳孔をカッピらいてるでしょ……。ナマモノ百合カップリングは茨の道。
 7000文字近くあるのですが、あっという間に読めたので本当に文章も上手だし、かけあいのテンポもよく、でも狂人の再現度も高いといった高水準のパワー系百合小説でした。
 おもしろかったです。

謎のストクリス
 進路に「壁」を目指す少女と担任教師の会話劇。
 魔法も異能も霊も登場しない普通の世界の中で、ただ一つ異彩を放つのが「壁になりたい」という希望。語り手である教師・今日子のテンポよく冷静なツッコミが笑いを誘います。どこに着地するのか予測不能なストーリーには振り回されますが、現実路線に引き戻してくれる今日子先生は本当に頼りになります。
 それまでツッコミを心の中で留めていたのにとうとう口を突いて出てしまった「お前何言ってんの?」には吹き出してしまいました。ここまで溜めるセンスが光ります。そしてここから更に加速してゆくのですが、加速しつつも読者を振り落とさない制御が効いています。特徴的なのは「船西先生」と名前が出た直後に地の文で「船西今日子」と出すところですね。
「壁になりたい」の真意は後半で明かされるのですが、この部分は謎のままでも良かったのかなと個人的には思います。いわゆる「推し」に干渉せずに壁や天井の様な観察者となって眺めていたいという歪んだ愛情の発露…という既に作品外で完成されたフォーマットを使わずとも、本作の作者さんならば莉嘉の狂気と可笑しさは表現できたでしょうし、その方が面白かったのではないかという予感があるのです。
 とはいえ「そっかあ、それで第二志望は天井なのかあ」やダグトリオになりたかった生徒など、笑いの切れ味は鈍らせないままにフィニッシュまで駆け抜けたのは見事と思います。

謎のイヌ亜科
 進路目標が“壁”な女子高生と、その担任教師の話。
 進路希望に適当なことを書く内輪ネタみたいなのはどの学校でもひょうきんな奴がやる印象があるのですが、この作品の沼部は本気で壁になろうとしています。壁と夫婦役になるためにソフトボールを始め、壁に擬態するために大胸筋を鍛える。努力の方向性がクレイジーすぎる。その局所的努力と才能だけでほぼ崩壊しているソフトボール部を地区最強高校に勝利するまで導いてますからね。努力の方向性さえ間違えなければ、一流アスリートになれる逸材だと思います。努力の方向性さえ間違えなければ……!!
 沼部の壁になりたい願望、まぁカプ厨オタクっぽいな〜と思ったんですけど、ナマモノ百合カプは業が深すぎるんだよ!! これ、このまま忍者の里に就職したらさらにヤバさに磨きがかかるのでは……?
 サラッと書かれてますけど、ダグトリオになりたい卒業生とか3年連続食中毒起こすマネージャー兼部員とか沼部クラスのクレイジースチューデントがチラホラいるのでは?となるのが怖いですね。怪人じゃん。

98 【恋を知らない『わたし』と愚かで愛しい人間たち】/ボンゴレ☆ビガンゴ

謎の有袋類
 ビガンゴ先生じゃーーん!参加ありがとうございます。
 ビガンゴ先生は作風が広くて、蝉の声の前例もあるのでめちゃくちゃ警戒しながら読んだんですけど、すごくよかったですね。
 最初「どういうことだ?」と読み進めてもすぐに疑問点が解消されて、ストレスや負荷を感じないのは、やはり手腕を感じます。
 無機質な感じがする『わたし』は、効率的に生殖をしてきたのに、両片想いに触れてラブコメを読んで悶ているみなさんのように恋というものや、推しカップルを間近で観察したいと心を動かしている様子がすごく丁寧でよかったです。
 上限ギリギリの文字数なんですけど、詰め込みすぎているとか、冗長になりすぎているという部分がないのもすごい。
 読んでいる方も『わたし』と同じように流星と凛子の恋を見守りたくなってしまうし、多角的な視点から二人を見ている『わたし』は読者と限りなく視点が近いという点が、面白さを更に上乗せしてるのかな?
 めっちゃいいエンドでした。

謎のストクリス
 人間に擬態する異生物という素直な「擬態」への回答ですが、ストーリーは全く予想外で、そしてとても面白かったです。また「生きるために他者を欺く姿を取る」という私の擬態解釈にもピッタリ当てはまります。
 人間に紛れて人間と交配し、各個体が同期した思考を持つ生物。人間を侵略するインベーダーの話かと思いきや、理想的な遺伝子を持つ人間と交配するためのラブコメに発展するとは誰が予想したでしょう。狙った相手の親も親友も「わたし」という完全なコントロール状態にありながら、なかなか結ばれない主人公達。その理由は、人間同士の恋から目が離せなくなってしまったから、と。なんという発想でしょう。
「同期するわたし達」と「人間のラブコメは面白い」の2つのアイディアの化学反応は本当にお見事で、驚いた際の反応として行動が同期してしまったり、男性としての観察に女性としての観察が加わったことで解釈に幅が出たり、自分同士が交際することになったりと、この二つのアイディアから全く独創的な描写がいくらでも生まれてきます。凄い。
 最初に人間につけていた「たった一人で生きてゆかねばならぬ脆弱な」という枕詞を、最後には「愛しい愚かな」と改めるわけで、非常に読後感の良い、笑えて心の温まる楽しいストーリーでした。実質この作品を最後に読むことになったわけですが、最後が本作で良かったなという思いです。

謎のイヌ亜科
 世界に無数にいる“わたし”と、制御できない“わたし以外”の話。
 人間を愚かだと言いつつ愛おしむ人外はいいぞ!!!!!
 恋を知らず、ただ生殖のためだけに交配を繰り返す『同期体』である今岡穂波。標的に決めた佐治流星を落とすために行っていた事前調査から城ヶ崎凛子との関係性にヤキモキしていたのが好きです。当初の同期体は恋を知らないから、ライバルに危機感は抱きこそすれ嫉妬しなかった部分も後々の展開に違和感を与えない効果があるわけですね。人間でいう恋愛モノを観てる感覚なんだな……。
 “わたし”が両方の性を持っているからこそ、流星と凛子両方を好きなことに特別な意味を感じられます。関係性の妙だ……!!

99 六結晶の夜の先/髪 のび太

謎の有袋類
 闇の評議員は、有限なリソースを使って講評をしています。
 一度投稿したものを講評が出る前に削除すると、時間も労力もすべてが無駄になるのでやめてください。

◆大賞選考

謎の有袋類(以下有袋類):前回の第一回こむら川小説大賞と同じく大賞選考評議員三名がそれぞれ大賞に推す作品を三つ選んでもらって、意見が割れた場合は合議で各賞を決めていきたいと思います。
僕の推しは擬態女やわらかい指クダのいる家の三本です

謎のストクリス(以下ストクリス)私は『第4惑星の生存』『道化少女と僕と』『擬態女』の3作を推します!

謎のイヌ亜科(以下イヌ):僕の推しは『人喰いの子』『偽装人形の眠り』『アリス・イン・ザ・金閣炎上』の三本です!

有袋類割れましたね

ストクリス:『擬態女』がまず2票入りましたね

イヌ擬態女、面白かったですね……

有袋類二票入ってるので、大賞は擬態女に決定!

ストクリス異論無しです!

イヌ:異論なしです!

有袋類というわけで、第二回こむら川小説大賞の覇者はナツメさんの擬態女に決定しました。ぱちぱちぱち
 続いて金賞と銀賞を決めたいんですが……割れてますねぇw

ストクリス割れてますねぇ

イヌ見事に割れましたね

ストクリス擬態というテーマへの回答としては『人喰いの子』は『擬態女』と並んで私的にパーフェクトです

有袋類:偽装人形、確かに超いいんですけど、鍋島さんならもっとやれる……と思って外したんですよね

イヌ:僕的には世界観とか相棒との関係とかがクリティカルヒットしたんですよね

有袋類:
同じ受賞経験があるという理由で五三六Pさんとすみれさんも、次回ぶっちぎりで強いものを出してほしい……。過去の川系受賞者は、前受賞作のハードルを越えて欲しいという逆差別をしていきたいです。ごめんね……

ストクリス:企画の趣旨としても未経験者レッツチャレンジなところありますし、若干の優遇はありだと思います

有袋類:個人的には、ご新規さんというか、おもしろくて受賞経験がない人を優遇していきたいので、今出ている中なら、金閣寺第4の惑星やわらかい指クダで決選投票をしたい気持ちがあります

ストクリス:決選投票了解です

イヌ:了解です

ストクリス:自分が推さなかったものから選ぶ感じです?
 いや、2作品挙げればいいのか

有袋類:金賞に推したい作品を一作選ぶ感じで!

ストクリス:
了解です、それでは…

有袋類:せーの

イヌ:金閣寺
有袋類:やわらかい指
ストクリス:「やわらかい指」

有袋類:お!

イヌ:やわらかい指ですね!

ストクリス:あら、揃いましたね

有袋類:では、やわらかい指が金賞、銀賞は金閣寺炎上で決まりと言うことで!

ストクリス:パチパチパチパチ

有袋類:第二回こむら川小説大賞、大賞はナツメさんの擬態女、金賞は山本アヒコさんのやわらかい指、銀賞は和田島イサキさんのアリス・イン・金閣寺炎上です!

イヌ:おめでとうございます!

ストクリス:おめでとうございます!
 正直選ぶのめちゃくちゃ難しかったです

有袋類:今回、本当に難しかったですね…

イヌ:豊作でしたもんね……

有袋類:最後まで、神崎さんの作品を入れるか悩んでました

ストクリス:ミミック!

イヌ:吸血鬼!

有袋類:ミミックすごいよかったんですよね。それに神崎さんすごい成長しているので……。次回は是非テッペンを取りに来て欲しいです

ストクリス:ミミック良かったですね、非常に。言葉に依らないコミュニケーションの描き方が丁寧で。

有袋類:あと、ゴーストバスターよかった。すごい『』の違和感に騙されたーーーって感じ

イヌ:今回は擬態がテーマなこともあって叙述トリック系が多かった気がします

ストクリス:ですねえ。大賞ナツメさんのもう一作のアンドロイドも見事でしたし

有袋類:オチの擬態……!(うまいことを言おうとして失敗した顔)

イヌ:覆われていた布を取って中身をあらわにするようなオチが多くて楽しかったです

ストクリス:このあたりで5億点賞も発表しちゃいます?

有袋類:ですね。五億点賞を発表してから、総評にいきましょう!

ストクリス:三つくらい出していいですかね

有袋類:www

ストクリス:計15億点支払いたい

有袋類:僕は人喰いの子に入れたいです!!!!!!

ストクリス:大賞にも推しましたが「第4惑星の生存」
 衝撃的でした

イヌ:『偽装人形の眠り』に五億点!
 世界観も相棒同士の感情もすごい好きです

有袋類:それでは、それぞれの5億点賞は、Veilchen(悠井すみれ)さんの人喰いの子帆多 丁さんの第4惑星の生存鍋島小骨さんの偽装人形の眠りに決定です!おめでとうございます!

ストクリス:おめでとうございます!

イヌ:おめでとうございます!

有袋類:鍋島さんの狐さんが行くと思ってたので予想通りだった

イヌ:4倍弱点でしたね……

ストクリス:陰惨ながら美しく、心救われる話でしたねぇ。細かいところは講評で書きましたけれど、貫禄の鍋島さんでした。

有袋類:第4惑星の生存も良かったですよね。僕は帆多さんのユエちゃんのやつも好きです

イヌ:本編が読みたくなるいいスピンオフでした

ストクリス:第4惑星は発想に驚きました。SF短編として完成してます。化け猫も面白かったですね。

有袋類:では、最終日の32作追加というこむら川の氾濫を終えての感想だったり総評などありましたらどうぞ!

ストクリス:予想以上の重労働でした!
 が、それ以上に沢山の作品に出会えて良かったです。

有袋類:お題もあるし、前回より少ないかなーと思っていたんですけど、まさかの前回超えでしたね…。本当にありがとうございます

ストクリス:普段なら読み飛ばしてしまいそうな作品に思わぬ良作を見つけたり、逆に最後まであまり肌が合わない作品だったけれどじっくり観察してみると巧さが分かったり

イヌ:はじめての闇の評議員でドキドキしました!
氾濫用に土嚢を積んだり講評スパイラルの悪夢をみたりしたのですが、無事正夢になりましたね

有袋類:土嚢ごと流されるという力強い流れ…最終日面白いものも多かったんですけどね、やはり一気に読むのは脳が死ぬ…

ストクリス:途中で仮眠取ったりしたんですが、もう目がチカチカして、これまでにない夢を見ました

有袋類:Twitterにも書いたんですけど「擬態………どれだ………」となったり、面白かったですね。獣とか虫が多いと思ったんですけど、まさかの宇宙人や、百合が多くなるとは……

ストクリス:百合の多さには驚きました

有袋類:自分ではない自分を演じる=擬態ということで、女子校のなんらかの王子様ロールみたいなアレが使いやすいんですかね…

イヌ:擬態と百合、相性いいんですかね

ストクリス:私あまり百合に触れてこなかったのですが「スカート一枚」にはやられましたね

有袋類:スカート一枚、すごかったです

イヌ:『スカート一枚』はかなり卓越していましたね

有袋類:最後まで候補に入れるか迷ったんですが……擬態要素の薄さというか人間が人間に擬態する点で惜しくも最後に外してしまった…

ストクリス:誰かは大賞候補に選ぶと思っていましたし、私も最後まで迷いました

有袋類:ラストの小池百合子鬼龍院壁になりたいが脳を殴ってきてやばかったです。傷痕を残しましたで賞

ストクリス:疲れた脳にこんなん突っ込むな!って叫んでました

有袋類:闇の評議員も生き物なので、詰め込まれた時と余裕のある時の講評は温度差が出る……。
 早ければいいというものではないですが、投稿の狙い目は序盤とか、虚無期間ですよ

イヌ:『僕は光より速い風』もかなりキマした

有袋類:アレやばかったですね。異能を授けるヒロインと、風間くん

ストクリス:それは本当に思います。なるべく丁寧に講評したいのですが、どうしても時間との戦いになると雑になっちゃって…
『僕は光よりも速い風』ね…!
 コッペパン…?で疲れすぎてこちらの頭がおかしくなったのかと思いました

イヌ:記憶操作はもはや別の異能ですよアレ
  ストーカーやってるから人類が守られてる

有袋類:擬態はしてる!よし!!!大丈夫!!!(ラッシュで深く考えられないウォンバット)

イヌ:よく考えたら高速移動と擬態は別の異能じゃないですか!?

ストクリス:冷静に読むものではないのです

イヌ:激流に身を任せるのです……

有袋類:激流にもまれて悟りを開いてしまった……

ストクリス:ちょっと話戻りますけれど「擬態」の解釈、有袋類さんが鳥や獣や虫が多くなると予想してたのは意外でした
 私は「普通の人間のふりをしている」系が多くなると思っていました

有袋類:擬態といえば人外というか、人ではないものだと思っていたので……あれ?人間が…多い?みたいな…

イヌ:僕も人外が多いかな予想でした

有袋類:自作の話をしてしまうのですが、普通の人間のふりをしている系、少しだけ捻ったつもりだったんですよね(分かり合えない人外を出したので捻りはしましたが)

ストクリス:人外ものだと、ここまでに上がっていない気になる作品あります?

イヌ:『ただ君を救いたくて』ですかね……

有袋類:百合!退魔師で百合よかった…
 僕は、アリクイくんの「あといくつ食べれば」とか、いぬきつねこさんの「クダのいる家」が好きですね

ストクリス:私は『雪と小屋』『ネコ』を推しますね~

有袋類:雪と小屋もよかったですね。ラジオをぬるっと入れてきたのすごい手腕だなと思いました

イヌ:『ネコ』も胡乱を制御しててすごいなーって思いました
呑まれてないんですよね

有袋類:ネコ、バンブーエルフとパワーアントワネットというタイムラインのミームを取り入れたの好きですw

イヌ:個人的にはああいうミームも一種のゴリラで、制御できないとかなり取扱注意になりがちな概念をうまく手綱握っていた印象があります

有袋類:ネットの流行りは賞味期限早いですからね…

ストクリス:ゴリラの話題が出てきたので今作のゴリラ枠についても語りたいです

有袋類:埼玉さん…すまねえ……

ストクリス:埼玉さんのは「無茶しやがって…」と

イヌ:はじめてのゴリラですもんね……

ストクリス:でも私自身がああいう吹っ切れ方を出来ていないので、その挑戦スピリットに花束を贈りたいし凄いと思います

有袋類:ゴリラになるのもKUSOをするのも恥ずかしさを捨てて、心を全裸にしてから……!

イヌ:恥じらったKUSOより堂々としたKUSO!

ストクリス:唯一無二の個性の光る系だと、大鳥居さんの二作も個人的には好きでした。あれは人を選びそうですが。

ストクリス:めっちゃ前提共有する奴と、仙人が落ちる奴ですね

イヌ:仙人のやつ好きです

有袋類:大鳥居さん、御調さんは好きだろうなって思いましたw
 僕は読みにくいとどうしてもテンションが下がっちゃうので難しかった…

イヌ:まぁ男子高校生の性欲なら仙人も落ちるわ……っていう妙な納得がありました

有袋類:御調さんが触れてましたけど、アレオマージュだったんですね。全然わからなかった…

イヌ:僕も講評読んで「そうだったの!?」ってなりました

ストクリス:久米仙人の話、小学校の時の学習ノートの裏表紙にあったのを覚えています

有袋類:闇の評議員が複数人いると、誰かしらボールを拾ってくれるのがいいなと思いました

イヌ:いつの時代も足フェチはいたんですね……

ストクリス:意見が揃うところも割れるところもありましたね

有袋類:今回は本当に比較的趣味も着眼点も違うのが面白かったですね。絶対に読み飛ばさないで講評を読んでほしい
 複数人で講評をする利点で、正反対のことを言ってる時もあるので、好きなものを参考にして取り入れてもらえたらいいですね…

ストクリス:我々三人の目には引っかからなかったけれど合う人にはクリーンヒットする良作・怪作もあったと思います

有袋類:全員素人なので、的外れかもしれないのですが、読み方も好みも違う三人のうち、複数人から同じことを指摘されたらそれは大体意識して改善したほうがいいことなので…

イヌ:10万字超、全部読んで欲しい

有袋類:感想を言ってくれる方も多くて、誰かは褒めてくれていると思うので、それを励みにまた作品を描いて欲しいですね

ストクリス:感想ツイートしていただけるの、本当にありがたい

有袋類:あと、思ったんですけどやはりプロの皆さんは本当にうまいですね。基礎がしっかりしてる…怖い…

イヌ:規定字数に対する物語の幅がとても読みやすかったですね……

ストクリス:大澤さんの「ひとのふり」の、あんな書き方してるのに読みやすいというの凄い制御が効いてるなと
 一文の中で場面というか焦点が次々変わって長く繋がって、本来なら読みづらい類の文のはずなのにスラスラ読めちゃう

イヌ:Jフォンの伏線とかも読んでる途中に「なるほどね……」って声出ました

有袋類:何よりアレを開幕翌日に投げてくるのが怖い

有袋類:海野くんもきっちりわかりやすく擬態を放り込んできてくれて、クトゥルフ要素もしっかり入れてるのが「さすがプロ」ってなりましたね…

ストクリス:ですねえ

有袋類:あと、芹沢先生の作中に自作宣伝を入れるのダメでしたねwあそこまでおふざけをしてるのに読みやすいし、お題も回収していくという…

イヌ:書籍化作家の特権すぎる

ストクリス:締め切り間際に創作に悩む参加者各位を打ち抜きに来るタイミングの良さも

有袋類:伏見くん……一体何シィさんなんだ………

イヌ:界隈に詳しくないのですが、参加者の確認中になるほど……ってなるチョイスでしたね

有袋類:身内ネタなんですけど、知らない人にもわかるように書いてあるのが怖いんですよね。なんだろうあの歪んだ愛情……

ストクリス:語ろうと思えばどの作品も語りたくなってしまってキリがない…

有袋類:総評に出てなくても、講評でがっつり触れてるので、つまらなかったとかへこまずに、次はテッペン取りに来てほしいですね

有袋類:よちよち赤ちゃんの砂場なので、感想を貰って、出来たらその感想や講評で言われたことを次に活かして強くなって欲しいです

ストクリス:ですね。期間内に物語完成させるってすごい事です。

イヌ:レギュレーション守れてえらい!って所から始まる小説大賞ですしね……

有袋類:まずは、完結させてどんどん強くなっていきましょう!いまよちよちしてるみんなも、一緒に一番槍レースもしようね……

ストクリス:それでは宴もたけなわですが、このあたりで締めましょうか

有袋類:何かを告知とか宣伝したいことがあればどうぞ!

イヌ:いいですか?

ストクリス:どうぞー!

有袋類:イイヨ

イヌ:自作長編であるMuse Nightシリーズでも、要素として擬態がテーマになっています。
人外と人間のコンビとか願いを叶える……みたいな話が好きな人にオススメのシリーズですので、是非読んでいただけると泣いて喜びます!
 そろそろ新しい話も書きます……!

ストクリス:有袋類さんもですけど、長編連載できるの凄いです

有袋類:HiGH&LOW THE WORST円盤発売中!よろしくね!

ストクリス:あっじゃあ私も!

ストクリス:拙作『ヘルメスグッドスピード』も収録の架空文芸誌・「魚は銃を持てない」、文フリ東京・冬での発売を目指してます!感染症の影響でどうなるか分かりませんがよろしく!

有袋類:謎のストクリスさん、謎のイヌ亜科さん、赤紙を受け取っての評議員本当にありがとうございました!

ストクリス:お二方、特に主催の有袋類さん、本当にお疲れさまでした!

イヌ:
ありがとうございました!

ストクリス:楽しい時間と貴重な経験をありがとうございました

有袋類:いつかはわからないですが、第三回をやると思うので、その時は刺客として大賞の座を是非狙いに来てください!

ストクリス:ぜひに!

イヌ:せめて一太刀……(全集中KUSOの呼吸)

有袋類:KUSO柱だ

有袋類:天才の皆さんはこれからもぶっちぎりでよちよち赤ちゃんの砂場を荒らしていただき、我々はそんな天才たちに、せめてKUSOを一太刀で斬りかかる!そんな感じで今後もやっていきます!ありがとうございました。

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