ソフトウェア開発とバンドアンサンブルの不思議な関係#2
前回の記事はこちら:
・ソフトウェアの設計のように、バンドアンサンブルにも階層構造をあてはめることで、役割を明確にし、デバッグのイメージがつけられる
・ドラム、ベースはデバイスドライバからOSまでを担当する
という趣旨の持論を前記事までで語った。
今回は、上記記事内の図で中位層から上のミドルウェアやアプリケーションとして位置定義されていた楽器、すなわちギター、そして、キーボードについての考えを書いていくことにしよう。
僕は長年、プレイヤーとしてはキーボードを担当している。
この記事はどちらかというと持論の提示というより、たんにキーボード初心者でなにをどうしたらいいかわからなかった過去の自分へのメッセージとして見てもらえたら、と思う。
前回の記事中にて、僕は下位層に位置するドラマーやベーシストに対しては、設計の根幹にあたるゆえにロバストさ(堅牢さ)を求める旨の記述をした。実際に僕も学生時代、baccusのベースを購入し(もっとも、出音に納得がいかなかったために、結局本番ではすべてMoonやLAKLANDのいい音のするベースを人から借りていたのだが…‥贅沢だな……)2年くらい弾いて何回かライブをしてみたが、リズムの練り上げのような難しさや、堅牢さをきちんと追求していくことが必要なことにすぐに気付き、それが完遂できなかった。
また、そもそもベースという楽器はまったく自分の性格にあっていないとも感じた。見た目どおり僕のパーソナリティは、あくまでも色付けをしていく上物向きだったのだ。そして、さらに言えば(ある意味では)残念なことに、僕のキーボードがいちばんアンサンブルとして役に立っているのは、本来自分のキャラクターとして目指していた最上位のアプリケーション層ではなく、ミドルウェアをまたいだ中位あたりに携わるところなのでは?ということも近年感じてきている。
リズムは、非主導的アプローチで下層に乗っかるようにプレイするとよい
よっぽど自信のあるプレイヤー以外は、大原則として自分の担当層を超えてアプローチしてはならない。例として、リズムにフォーカスすると、ドラムとベースのつくるリズムを自己流方向へ引っ張ってはいけない、という感じだ。
ちょうどAPIを経由してしか他層にアクセスすることのできない別層のソフトウェア・モジュールのように、リズムは戻り値として引用して使用するにとどめ、ドラム・ベースの作ったものに素直に乗っかるアプローチが正しい。身勝手な解釈のバッキングによって変な方向に曲げてはいけないのだ。
キーボードの話だが、クラシックピアノ出のひとたちがバンドではじめてキーボードをやったときは、リズム感がないと指摘されまくるという洗礼をうける。自分も例にもれず、メンバーから指摘され苦しんだのは記憶に古くない。
だが、リズム感がないというのは語弊があり、厳密には違う。左手でコードバッキングとリフを担当しなければならず、右手で主旋律をこなし、さらに指揮者無しで一人アンサンブルを組み立てなければならない構成のクラシックの代表曲をピアノのみで弾き切ってきた経験がたくさんあるような人たちが、リズム感がないはずがないのだ。
こんなにもずれていると指摘されるのは、上記階層を理解した上でバッキングをしていないことが大きな要因で、バッキングのベクトルがおかしいだけなのだ。
※ギターのストロークと異なり、手でリズムを自然にとるような仕組みがキーボードにはない。弾けば音がでるというピアノの楽器特性もあいまって、たいていのギタープレイヤーがビギナーのころから好きな曲にあわせてストロークとオルタネイトピッキングの練習をする時間に対して、ピアノのプレイヤーが音源などに合わせて バッキングだけの打鍵に使う時間の総量は圧倒的に少ない。このことも、リズムが気持ち悪いと非難される大きな悩みの原因のひとつだ。そもそも、クラシックピアノで曲のコピーをする際には音源を耳でききながらあわせて手を動かすような概念そのものがない。譜面のみを読み、自分でリズムを解釈し、指揮者である自分に従うというように、オールインワン的な演奏で育ってしまうのだ。
自分より下階層の音を慎重に聴き、彼らにどう乗せるかを念頭におくべきだ。ドラムとベースを無視し、自分の気持ちいいと思う箇所で勝手にバッキングをしてはだめだ。よく上手いひとは周りの音を聴け、とアドバイスをしてくれると思うが、それはこういうことを指している。
ただし、すべてを包括した総合ソリューションのようなアドバイスなので、レヴェルの低い人にとっては、かなり高い要求と言えるだろう。また、“周りの音を聴く”というのは簡単だが、実際に聴いてどこに問題があるかを探すのは、録音した後だとしても、大変に難しい。
ここで、レイヤー構造を思い浮かべる。たとえば僕のようにウデに自信のないキーボードプレイヤーが聴くべきなのは、まずは自分より下位のレイヤだけだ。まずは同層のギターや、ホーンセクション、セカンドキーボードなどは意識の外にやり、無視する。リズムやノリを理解しようとするとき、はじめから歌を聴いてはいけない。歌のノリを理解し、歌を中心にそれらを組み立てていけるのは、ヴォーカルのレヴェルが相当たかく安定していて、楽器のプレイヤーも精度が高いときだけだ。そうでもなければ、この層でキーボードやギターなどがたった1人だけで歌によりそうのは無謀だ。下の層を含めて、全体で考慮すべきことなのだから。
音色は、主導的アプローチ+足し算で考慮するとよい
精神論かもしれないが、キーボードとギターは、同層に位置しているため、色々な意味で名実ともにいちばん仲良くしなくてはいけない。譜面や原曲にとらわれず、中間層でどう動くのかをフィックスし、なるべく共に協力しなければいけない。リフなどをお互い引き立てるようにバランスよく振り分けたり、音色が同時に出たときに心地よいものをお互いに選んでいるか、などを検討する。
※これは理想論であって、僕自身は実際にはギタリストと言い争いをしてばっかりだった。
スタジオで「うるせえ!そんなに言うならおめーがギターを弾け!」などと言われるようなこともあった。
“そんなところで無駄に空間系のエフェクターを踏むな”とか、
“ウラウチのバッキングはアップストロークで弾くな。すべてダウンストロークで弾け。理由はない。そのほうがかっこいいからだ“ とか、
”ディレイのエフェクターは俺が使うから貸せ“とか、
”1分間ずっとフレットをまちがえて半音ずれたまま弾き続けるなんて、オマエは初心者なのか、それともアホなのか?“
というような指摘をよかれと思って、できるだけいつも優しく言っているはずなのに、どうしてぶちきれられたりするのかが、すごく不思議だ。
下手くそなウデで10年以上アンサンブルをキーボードとして繰り返すうちに気づいたことがある。
それは“音の引き算は、足し算よりもずっとむずかしい”ということだ。
キーボード・シンセでの具体例として、
シンセ本体機能のスプリット/レイヤ機能などを駆使しいちどつくった音色に対し、養分過多と自分で気づき音を間引いていく行為は、足りないと感じるときに音色データを重ねる行為にくらべて何倍も難しい。
また、同様に電子オルガンで音色の倍音を加え太い音にするためにドローバーを引っ張ることはできても、どこのフィートのドローバーがそぐわないのかを見つけ出し、引っ込めることはすごく難しい。
いい感じにするために余白の箇所にリフをつけたすことはできても、すでに譜面にあるフレーズをばっさりそぎ落としあえて何も弾かない、ということはかなり勇気がいること、というのもこの類の話だ。
上モノのプレイヤーは、広義的な意味でついついchatty(おしゃべり)になりがちだ。
なので、なるべく足し算だけを多くしてゴールできるように準備をすると良い。
たとえば、アコースティック・ピアノの音色でバッキングもリフも一曲大量に弾かなければならないときなどは、まずはシンプルに最低限なバッキングのところだけを弾くようにする。そこから回数ごとに、徐々にバッキングリフを増やしていくと、見通しがたち、わかりやすい。
五線譜上におたまじゃくしがたくさん泳いでいるような箇所は、バンド全体の問題なのか自分の問題なのかの切り分けをむずかしくするため、最初のうちは弾かない。(というか、出したいイコライジングと音色がつかめるまでは、周りを気にできないほど難しい箇所はすべて弾かなくていい)
また、イコライザではじめにローを限界までカット、ハイも11時くらいまではカットしてしてしまおう。キーボードプリセットは単体で出していちばん美しく聴こえるようにメーカーがつくっているが、実際のバンドにはベースがいるため、デフォルト設定で低音鍵盤部分ををがちがちに弾いてしまうとうるさくてジャマになってしまう。物足りないなら、繰り返すうちに、少しずつ足していけばいい。譜面上で出てくるうちで最も低いスケールのCを単音で鳴らしてみて、リリースが完全に終わり、発音から消音までのすべてのあいだに、音階がはっきり聞き取れず音が広がってしまう感じが少しでもあれば、それは足しすぎだ。最終的にアンサンブルがChattyにならないように音色とフレーズを探していく。
ほとんどキーボード視点になってしまったが、ギターもこの感覚は類似していると思う。ちなみに上モノを総括すると、自分的なスタンダードとして、ミドルウェアをギター、アプリケーションをキーボードが担当するイメージの階層ブロックを勝手に脳内に組み立てているのだが、なぜかいつも最終的に結局まったく逆になってしまうのがすこしおもしろいところだ。
僕自身、ギターを弾くときはまともにコードバッキングやリフを弾くのではなく(そんなことをするならキーボードを弾けばいい)ワーミーペダルやタッピングのような飛び道具のようなことばかりやりたがる欲求がある。
そういうふうになるのは結局普段のキーボードのプレイスタイルがミドルウェアの中位層に落ち着いているせいで、違うことがしたいという意味なのかもしれないな。
……だらだらと長くなってしまったが、
今のところはまぁこんな感じ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?