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カベルネソーヴィニヨンについて

こんにちは。
今日はカベルネソーヴィニヨンについて色々調べました。
アメリカやらヨーロッパ、オーストラリアの本で勉強しながら、趣味で書いているので、間違い、ご指摘、意見などがありましたらコメントお願いします。
(トップ画はCaymus Vineyardsのホームページより引用) 

カベルネソーヴィニヨン

皆さんご存じ、カベルネソーヴィニヨン、
ワインの世界では最も有名な品種といってもいいかもしれませんね。
今回はカベルネソーヴィニヨンを調べていて疑問に思った、起源やその経緯、シノニムなど、疑問に思ったことをできるだけ調べました。
できるだけ確かな情報先を使用していますが、疑問や指摘、意見などがありましたら、コメントお願いします。

カベルネソーヴィニヨンの起源と歴史

フランス南西部、ジロンド地方が起源です。
18世紀前半(1736?)までは"Petite Vidure"と呼ばれてたようですが、
18世紀後半にAntoine Feuilhadeが記した"Livre de Raison d'Antoine Feuilhade"では"Petit Cabernet"と呼ばれ、その後1783か1784年にNicolas Dupré de Saint-Maurが作ったポイヤックの品種目録では"Gros Cabernet Sauvignon "と"Petit Cabernet Sauvignon"の名が現れました。
(Grosは大きい、Petitは小さいという意味です。前者の方は品質が良く、生産的で深い色を持つもののクリュールが起きる、後者はそれに次ぐ品質で心地よく繊細、生産量は低い、と書かれていました。多分前者は"Gros Cabernet"のことなのかな?)

その後、1840年になってようやく"Cabernet Sauvignon"という表記が登場しました。
18世紀に法服貴族たちがメドックに豪華なエステートを立てた際にブレンドの大部分を担えるくらいには本格的に導入されていたようです。
このメドックにおける人気は、1830年まで 現在のChâteau Mouton RothschildのオーナーだったJoseph Hector de Brane男爵とその横の Château d'Armailhac à Pauillacの功績だといわれています。
その後も1800年代のうどんこ病やフィロキセラなどの病気、1956年の霜害などで大きな植え替えが起きた際に、マイナー品種の代わりに植えられたようです。

現在ではボルドー赤品種の栽培面積の22.5%を占めています。

カベルネソーヴィニヨンと呼ばれるようになったのはなぜなの?というと、ソーヴィニヨンブランと樹と葉などが似てたからと言われています。(カベルネ部分は多分前述した理由からでしょうか?)

混乱すると思うんですが、親が確定する前に、名前が登場しているんですね。

その後に、見た目や名前、カベルネフランと似たタラゴンやピーマンのアロマ、ソーヴィニヨンブランと似た青っぽさなどを考慮した結果、多分こいつらが親だろうという仮説ができてたようです。
(その他にもソーヴィニヨンの語源であるSauvage(野生の意)から元々は野生だったんじゃないか、とか、古いシノニムのBidureはローマやスペインに存在したBituricaの由来なのではないか、とか、ギリシャのVolitsa由来なのではないか、とか言われていたようですが,下の理由で否定されています。)

多分というのは、ブドウは昔は、様々な特徴によって品種分けされていた(アンペログラフィー)のですが、畑で交雑して証明するのはコストもかかるのであんま好かれておらず、環境条件で形質は容易に変わってしまうので、確度が高いとは言えなかったんですね。

そこで役に立ったのがDNA判定です。
カリフォルニア州デイビス大学のJohn E. Bowersと Carole P. Meredithの1997年の論文"The parentage of a classic wine grape, Cabernet Sauvignon"にて、カベルネソーヴィニヨンはカベルネフランとソーヴィニヨンブランの子供であることがDNA的に確定しました。

今では普通ですが、昔は白ブドウから黒ブドウができるとは考えられていなくこの結果は意外だったそうです。(少し違いますが、白ブドウが生まれる理由です→(White grapes arose through the mutation of two similar and adjacent regulatory genes. Walker et al., 2007))。
名前が先につけられていて、その組み合わせからはできるはずがないという逆風があったのにも関わらず、両親から名前をしっかり受け継いでいるのには、なんだかロマンがありますね。

カベルネソーヴィニヨンの家系

家系図、色は適当です。また、Gros Cabernetあたりは今後変わる可能性?

ソーヴィニヨンブランとカベルネフランの交配は18世紀以前にジロンド地方で偶然起こったと考えられています。
ソーヴィニヨンブランとシュナンブランはサヴァニャンと謎品種を親に持つ兄弟です。
つまりカベルネソーヴィニヨンはフランス北東部出身のサヴァニャンの孫で、ロワール出身のシュナンブランの甥、また、メルローとカルメネールを異母(父)兄弟に持っています。
錚々たるメンツが揃っているエリート家系ですね

また、カベルネソーヴィニヨン自体も、親として何品種か生んでいます。
そこそこ有名なのは、× カリニャンでルビーカベルネ、×グルナッシュでマルスラン、× レゲントでカベルネブランでしょうか?
面白いと思ったのは、突然変異であるShalistinや、実から生まれたCygne Blancです。両方ともオーストラリア出身なのは、そこに土着品種がないがための執着と野望でしょうか?

世界のカベルネソーヴィニヨン

カベルネソーヴィニヨンは2017年時点で全世界で約34万ヘクタール栽培されているようです。世界で一番植えられているワイン用ブドウのようですね。
ちなみにブドウで一番は巨峰です。(面積の90%以上が中国)
中国では約6万 ha (2017)、フランスでは約4万8000 ha (2019),チリでは約4万1000 ha (2018), カリフォルニア州では約3万8000 ha (2019), オーストラリアで約2万5000 ha(2020)が栽培されているようです。
他の国々でも1万 ha 以上栽培されていることは珍しくないようで、日本最大のブドウ産地である山梨県の生食用・醸造用ブドウの合計栽培面積が3780 ha (2022)であることを考えると、世界中の国々がそれぞれとんでもない量を生産していることがわかりますね。
実際、なんでこんなに様々な国で使われる国際品種になったんでしょうか?

まず、ボルドーでどのように導入されていったかを調べました。
ボルドーで最も栽培されているのはカベルネソーヴィニヨンではなくメルローですが、上述したように19世紀には既に、厚い皮と緩い房による腐りにくさ、タンニンや酸味の構造、特有の風味から人気を博していたようです。
しかしながら、1852年に流行ったうどん粉病に弱かったため、左岸のメドックとグラーヴの砂利が多い地域で多く栽培されるようになりました。
これらの場所でも、逸脱なヴィンテージと呼ばれるのが10年で3,4回ほどなので、完璧さを求めるには、扱いが難しい品種ということがわかります。
しかしながら、長命なボルドーの赤ワインのほとんどがカベルネソーヴィニヨンを多い割合で含んでいることは間違いありません。
また、ボルドー以外のAOCでは南西地方(ドルドーニュ・ガロンヌ川上流)のベルジュラックやビュゼ、ロワール地方のカベルネダンジュー、また、ラングドックやプロヴァンスでAOC以外のワイン用に栽培されているようです。

他国ではどのように導入されたのでしょうか?

新世界ワインの可能性をこじ開けたカリフォルニアでは、カベルネソーヴィニヨンは非常に重要視されています。
カリフォルニアでの栽培面積を調べたところ、1933年の禁酒法終了直後には約40 haだったのが1960年には約240 ha、1991年には約1.2万 ha、2013年には約3.2万 ha、2019年には約3万8000 haとなっていました。
第二次世界大戦による需要の高まりや、1950年代ほどからMaynard AmerineやFrank Schoonmakerが広めたvarietal wineと1990年代でのそのブーム、1976年のパリテイスティング、1991年のフレンチパラドックス、André TchelistcheffやRobert Mondaviなどが大きなイベントや重要人物でしょうか?

チリでは、カベルネソーヴィニヨンは19世紀半ばに持ち込まれました。
本格的に国際市場に参入したのは1985年以降で、ヴァラエタルワインブームに乗っかり
大成功しました。
未だに安ワインの印象はありますが、Robert Mondavi,  Baroness Philippine de Rothschild, Bruno Prats, Paul Pontallie, Torres家など超有名生産者がチリのカベルネソーヴィニヨンに投資した高価格帯のワインは素晴らしい出来栄えです。

オーストラリアでは1956-66にグレートサザンやマーガレットリヴァーに栽培適性があることが判明し、特にマーガレットリヴァーはカベルネソーヴィニヨンとシャルドネの銘醸地として国内外に知られています。
90年台末にはシラーズがオーストラリアを代表する品種として名声を得たことから存在感が薄れたようですが、今でも第二位の栽培面積を誇ります。

歴史あるカルミニャーノを除き、カベルネソーヴィニヨンとあまり深い関わりを持たなかったイタリアでも1970年代からスーパータスカンとして存在感を持ちました。
シチリア、ヴェネト、アルト・アディジェDOCでは単独で使うことも可能なようですが、どの州でも決して支配的な栽培量ではなく、様々な地域で在来品種の補助として使われたワインが作られているようです。
1970年に約850 ha、1990年に約2400 ha、2000年に約9000 ha、2010年に約1.4万haです。

スペインでは19世紀半ばにMarqués de RiscalとVega Siciliaによって限られた量ですが導入されたようです。
1960年台にTorres家やJean Leonによってペネデスで成功し、現在ではカタルーニャやナバーラ、リベラ・デル・デュエロで主に栽培されています。
面積は赤品種の中で6番目です。(約1.9万 Ha, 2020)

寒いイギリスから暑いモロッコまで、その他にも南アフリカ、ポルトガル、ブルガリア、ウクライナ、モルドヴァ、スロベニア、ギリシャ、カナダ、、、挙げればきりがないほど世界中の国で生産されています。
もちろん日本でも生産されていますね。
1990年から2010年までで、世界全体のカベルネソーヴィニヨンの栽培面積は2倍以上(約30万ha)に増えたようです。

カベルネソーヴィニヨンの人気の理由

なぜカベルネソーヴィニヨンはこんなにも人気が出たんでしょうか?
いくつか理由を考えてみました。

一つ目は栽培が(比較的)簡単ということです。
皮が厚く、そこまで果実同士の密度も高くないことから比較的病気や害虫に強く、気候や土壌にうるさくなく、生産量も満足できて、どこで作っても(品質は別として)カベルネソーヴィニヨンだとわかるようなワインを作ることができます。

二つ目が樽や他品種との相性の良さでしょうか。
カリフォルニアのような完璧に熟すことのできる地方ではそれ単体で高品質なワインを生み出します。
ですが、それ以外の地域、例えばボルドーはもちろん、イタリアやオーストラリア、南アフリカなどでカベルネソーヴィニヨンとその国特有のブドウとのブレンドが生まれて、国際的にも評価を得ています。
また、高い酸味と豊富なタンニン・フェノール類から熟成に向いており、その特徴的な香りやフレーヴァーはフレンチオークともアメリカンオークとも、よく調和します。

三つ目が、元も子もないですが、品種自体のネームバリューです。
初心者の方でもカベルネソーヴィニヨンというだけで親しみや安心感がわきますし、上級者の方は興味が止まりませんよね。
ウクライナのカベルネソーヴィニヨン?モロッコのカベルネソーヴィニヨン?レバノンのカベルネソーヴィニヨン?
ちょっと飲んでみたくなりませんか?

雑にまとめてしまうと、どこでもある程度簡単に栽培できて、ネームバリューがあり、品種自体にも高い魅力があるということです。
作らない理由はないですよね。

感想

今回はカベルネソーヴィニヨンがどのような経緯で生まれたか、どの時期から人気が出たのか、なぜ人気が出たのか、を調べてみました。
普段何となく飲んでいるワインの歴史を知ってなんだかすっきりした分です。
面白い情報を見たら更新しますね。
皆さんおすすめのカベルネソーヴィニヨンやそのブレンドがあったら教えてください!

参考文献

Bordeaux. (n.d.). SevenFiftyDaily. https://daily.sevenfifty.com/regions/bordeaux/#:~:text=At%2022.5%20percent%2C%20Cabernet%20Sauvignon,offers%20great%20potential%20for%20aging.

Bordeaux Wine School. (n.d.). Ecole Du Vin De Bordeaux. https://www.ecoleduvindebordeaux.com/fr/

Bowers, J. E., & Meredith, C. P. (1997). The parentage of a classic wine grape, Cabernet Sauvignon. Nature Genetics, 16(1), 84–87. https://doi.org/10.1038/ng0597-84

Clarke, O., & Rand, M. (2001). Oz Clarke’s Encyclopedia of Grapes. Houghton Mifflin.

OIV FOCUS 2017 Distribution of the world’s grapevine varieties, (ISBN: 979-10-91799-89-8). (n.d.). OIV.

Rézeau, P. (1997). Dictionnaire des noms de cépages de France: histoire et étymologie.

Robinson, J., & Harding, J. (2015). The Oxford Companion to Wine. http://ci.nii.ac.jp/ncid/BA78585904

Robinson, J., Harding, J., & Vouillamoz, J. (2013). Wine Grapes: A complete guide to 1,368 vine varieties, including their origins and flavours. Penguin UK.

UC Davis homepage. (n.d.). https://www.ucdavis.edu/

Walker, A. R., Lee, E. A., Bogs, J., McDavid, D. a. J., Thomas, M. G., & Robinson, S. P. (2007). White grapes arose through the mutation of two similar and adjacent regulatory genes. Plant Journal, 49(5), 772–785. https://doi.org/10.1111/j.1365-313x.2006.02997.x

Caymus Vineyards https://www.caymus.com/


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