見出し画像

【サービスの方程式】オーダーコントロール篇

「おもてなし」
「お客様に寄り添う接客」
「潜在的要望を叶えよう」……

そんな言葉があふれている現代の接客シーンですが、それらを叫んだところで本当にそれだけ接客のレベルが上がったのかと思うと正直そんなふうには思えないんですよね。

なぜそう思うのか。僕は飲食で働いている人に問いたい。
それをしているあなたの生活レベルは上がりましたか?
店での待遇は上がりましたか?
あなたの社会的地位は向上しましたか?

それどころか、今まで以上のタスクを課せられていることに対して、「やりがい」という名目だったり、「おもてなし」という美しい言葉に酔うことで、その理不尽な大変さを正当化していませんか?

――少し話を変えます。

僕は知っています。接客というのは、見える人には見えるんです。

何が見えるのか。「僕はこうしてほしい」「私はこうされたい」。それがお客様の頭の上に浮かんでいるんです。見える人にはそれが見えるのです。僕も少なからずそれを見ることができました。

だから、僕はそれを「してあげる」ことでお客様からの評価を、そして自分の売上を、上げてきました。別の職種であれ今もサービス業に勤めている僕は、その技能を使ってそれなりの成果を残しています。

あなたには見えていますか? 少しは見えているのでしょうか。もしかしたら何も見えていないかもしれませんね。でも心配はいりません。それが見えるようになる方法、見えるようになるためのベースを僕は伝えることができます。

それを【サービスの正解】と僕は呼ぶことにします。【サービスの方程式】と名付けたこのシリーズ。接客やサービスというものについて、それは【方程式】で表すことができ、【正解】がそこにはあると、僕は敢えて主張します。

初回である今回はオーダーコントロールの話をします。店の回し方、みたいなものですね。高級リストランテで僕は8テーブル(以上)同時に回していたことがあります。忙しい現場をこなしながらも「あなたの名刺をくださる?」とお客様からも高評価をいただき、日々ファンを作っていました。それができた秘訣を、オーダーにまつわる様々な事柄からお伝えします。

オーダーコントロールができると、店はあなたのイメージする通りに動きます。全てのテーブルのお客様はあなたのサービスを絶賛し、あなたを心待ちにし、結果としてあなたは売りたいワインが売れるようになります。

お客様は待たされてもそれを許容し、店の進行に従うようになります。そこには「おもてなし」の精神も「お客様に寄り添う接客」も存在しません。

なぜか?

お客様があなたに寄り添ってくれるからです。お客様があなたを信頼してくれるからです。それは「店がお客様に一方的に寄り添う関係」から、「店と客が互いを重んじる関係」に変化したことを意味します。

その技法の一つ一つは正直言って大変なことかもしれません。訓練も必要です。でも「サービスに向いていない」と散々いろいろな人に言われた僕ができたことです。きっとあなたにもできるでしょう。具体的にどうすればいいのか、どう訓練したらいいのかは、本文の中で詳しくお伝えします。

序文の最後に、このnoteの値段について触れておきます。

僕はここにある技術を、なけなしのお金を持ってレストランに通い、睡眠時間が3〜4時間であることもざらなくらい休日や休憩時間を仕事に充て、一つ一つ実践しては失敗してより良い方法を見つける労力を怠らずにしてきたことで、自分の血肉としました。

先輩として、同じお金・時間・労力をかけろと言うつもりはありません。むしろ逆です。しなくていい苦労はしなくていいと思っています。

だからこのnoteの値段はその時間や労力を買うための値段だと思ってください。もし、自分でこの方程式を見つけに行くとしたら、それは途方もないコストがかかります。僕がそうであったように、下着以外の洋服は買えず、食費はほぼ全て店のまかないと余ったパンで補うような生活が待っているかもしれません。

僕のサービス人生7年間だけでなく、飲食以外の教養も身につけてきたの僕の生涯の一部に支払う対価だと思ってくだされば納得くださる金額でしょう。覚悟さえあればあなたはこの何倍、何十倍でもきかないメリットを享受できるはずです。

準備はいいですか? それでは、まだ誰にも語られたことのない、接客の神髄へ誘いましょう。

0.オーダーテイクの時間感覚を持て

僕が上京をして最初の店。銀座でのイタリアンでした。「経験者ならできるでしょ」と初日から8テーブルを同時に担当させられました。

料理はコース一本で、どうしても食べられないものと特別なアレルギー対応以外は特にしない店でした。だからオーダーテイクは飲み物以外は基本ありません。

お客様をご案内したのち、テーブルにファーストドリンクを伺いにいきます。飲み物はフリードリンクで、スパークリングワイン、白・赤ワイン、各種ビールやジュースなどから選ぶことができます。

ファーストドリンクはワゴンに乗せた各種ドリンクをテーブルにつけて伺うのが、基本プレゼンテーションとされていました。

イメージしてくださいね。ガラガラとテーブルの横までワゴンを運んでいく。ワゴン上には氷水を張った大きなガラスの容器、そこにドリンクのボトルが幾本もかませられている。「今日はお越し下さりありがとうございます。テーブルを担当させていただく黒ワインと申します。本日のお飲物はフリードリンクでございますが、まずは乾杯用にご用意いたします。いかがなさいましょうか」とうやうやしく語りかける。

ここまでだいたい何分かかるか想像できますか。注ぐ時間も入れて、だいたい1分から1分半というところです。どれにしようかと悩むお客様がいらっしゃると2分はかかります。

短いように思うかもしれませんが、その間にもキッチンは料理を作っています。デシャップはホールに料理を運んできます。料理が運ばれたタイミングでワゴンを運び始めたらそこから2分間は料理が出せなくなります。

料理が届いてから2分間経ってしまった場合、これはかなり致命的です。下手したらお客様から見える位置にデシャップは料理を置いていきます。2分間放置された料理がテーブルに運ばれてきたら、美味しいものも美味しくなくなるでしょう。

だからオーダーテイクというのは行けるときに行けばいい、というものではありません。ましてやグラスが空になったから聞く、ではダメなのです。それでは突発的なオーダーにあおられ、2、3テーブル回すのが関の山でしょう。8テーブルなど回すことは不可能です。

店の全ての状況を把握したうえで、今から2分間は目の前のテーブルに集中する、という状況を作り出してからファーストドリンクのオーダーを取りにいかなければいけない。それができるようになるために、必要なことを一つずつ、具体的に話していきたいと思います。

ここから先は

14,094字 / 4画像

¥ 5,000

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?