蝕む

ある朝、目が覚めた瞬間に「あ、無理だ」と確信した。これは多分、寒さのせいでもなんでもない。鬱々とした気分がまぶたを重くさせる。

スマホのアラームを止めて布団をかぶる。トトトトとラインで適当に打った文章を上司に送り、しばらくして「了解しました」という簡潔な返信が来た。既読だけをつけてそのまま布団で2時間ほど過ごした。

8時を回った頃に一応職場に電話を入れた。私は腹痛というありきたりな理由をつけて、仕事を休んだ。電話には朝ラインで連絡を取った上司が出た。

「業務どうなってる?みんな心配してるよ」

うすら笑いを含んだ声がして、私もなぜだかあはは…と力なく笑って電話を切った。謝るのは癪だった。

心配されているのは仕事の進捗であり、私何ぞのことではない。別に心配されたくて休んだわけではないが、私の上司は元々そういう人なのだ。

放任で、そのくせ自分の思想が強い。

他部署で人手が足りなくなり、年末年始も上司その他が休みの間、私だけ応援に入っていたことを、この上司は忘れているのだろうか。別業務に入っていたことで本来の仕事が疎かになっていたのは確かだ。残業をすればできる仕事だったが、次の日も五時起きで七時には職場に入らなくてはならないことを考えると今の私には不可能だった。

上司にはそんなこと自分に関係ないといった様子にも思えてぎりぎりと胸が痛んだ。これも腹痛だということにしておく。その積み重ねとかもろもろで今日私は仕事に行かなかったのだが、この電話をきっかけに私は上司の顔などもう二度と見たくないとすら思った。涙がこぼれてきた。泣きたくなかったのに、悔しくて、たまらない。
なぜ私だけが応援に行かされるのかも、何も説明してもらえなかったけれど。わたしがいようがいまいが、この世界は何等変わらない。資料に付ける付箋の色すら自分で決められず上司の顔色をうかがうあの女のことも、顔を合わせば今日の天候と気温の話しかしない薄っぺらなあの男も、変わらない日常を送る。そしてまた他人事として、自分が与えられた業務だけを淡々とこなしていくんだろう。

休みの連絡を入れたあと、手っ取り早く損をせず行かなくて良い方法を考えた。
そうだ、心療内科に行って診断書をもらおう。
そうすれば3月末まで休職させてもらえる。
ひらめいたら早いもので、早速近所の心療内科をスマホで調べまくった。仕事にいかないと決めたら気持ちの切り替えもスムーズにいく。

明日の朝、とりあえずいくつか電話してみよう。