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パルス・デーモン

「ドサッ。」
電車の扉が開くや否や、黒いカバンが車内にポイッと投げ込まれた。その持ち主であろう、メガネをかけた大柄な会社員風の人物が、床のそれをつま先でドカッと蹴飛ばす。
「シュー。」
カバンが床を滑る。そのシューコース上にいた乗客にぶつかりカバンが止まる。大柄な人物はそのカバンにゆっくりとした不気味な歩みで近寄り、無表情のまま自分のカバンを思い切り踏みつけた!
「バキキッッ」
カバンの中で、ノートパソコンか何かが壊れる音がした。
\ドアガシマリマス シマルドアニゴチューイクダサイ/
ピポーン…。ピポーン…。

──突然の出来事に驚き、水を打ったように静まり返った車内にジワジワと嫌な緊張感が満ちてくる。ドア脇のスペースに背中をもたれかけてスマホを見ていた女性が隣の車両に小走りで移動した刹那、人物のカバンシュートが再び炸裂した。
「ドカッ!シュー。」
冷酷無比なゴール左隅へのカバンコントロール!ドア脇にゴール!人物はそこへと不気味に歩を進める。カバン先行歩行か。そして再び、190cm120kgはあろうかという巨体で、かわいそうなカバンをさっきよりも勢いをつけて踏みつけた。
「グシャッ!ピ」
完全にオシャカになったであろうノートパソコンの断末魔を聞きながら、わたしは(規格外のやばいやつが来た…)と思った。

さて世の中には2種類の人間がいる。人に与える者と人から奪う者だ。だがこの人物の行った、自分のカバンやノートパソコンを公衆の面前で踏み潰すという行為は人に与えも奪いもしていない。規格外の人物。そして人畜超有害!理由は怖すぎるからだ。そして彼の心理状態はネオエクスデスに近いと推察される。

わたしは ネオエクスデス
すべての記憶 すべてのそんざい すべての次元を消し そして わたしも消えよう
永遠に!!

ファイナルファンタジーVより


こいつらは邪悪というか迷惑すぎるのだ。
「(やるか…)」
こいつがもう一度暴れ出したらやることにした。当時独身。失うモノはなかった。どうせ残業だけの人生だ。電車はもうすぐ次の駅に着く。人物はまた何かアクションを起こす可能性が高い。電車がホームに滑り込む。
さあ動いてみろ。おれは作業員だ。最初から殺られる覚悟がある。作業員は残業が始まる前から死人と化している。死人がどうして死の心配をする必要があるのかね?
すると!

ファーーーン!!!!ファーーン!!!!ギャギキィーーーーーーーーッ!!!!!!!!

全てが急ブレーキにつんのめる!あちこちで乗客の悲鳴が上がる!


「(ブッ──)え只今人身事故が発生しましたえ~人身事故が発生お客様救護のためこの電車は暫く停車します繰り返します只今──」


何だこの状況は…何だこれは 
磁力か?パルスか?風水か?
何かがより大きな何かにより意味が変になった。こういう日を厄日と呼ぶのだろうが、わたしには、まだ誰も聴いたことがない新しいプログレッシブ・サイケデリック・ロックの存在が感じられた。


人物は思いっきりこけていた。

おわり






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