見出し画像

空前の人出不足

ロンドンは今空前の人出不足である。どこの通りでもレストランやショップのウィンドウや壁に「Vacancy」とか「Staff needed pop in with CV」などという張り紙が出ている。

特に人出が不足しているなあと思われるのがサービス業である。お店の店員さん、レストランなどのサービススタッフ、コックさん、掃除人などである。パットのパブでも人出不足が深刻化している。

雇用が進まないのは理由がそれなりにある。まず、コロナ禍のロックダウンでバイトなどを解雇したのはいいが、戻ってくるものだと思っていたら戻ってこなかったというのが一点。例えばロンドンにいる一人暮らしの大学生などがバイトをしていたが、バイト先も大学も休業になり、ロンドンを引き払い、実家に戻ってしまった。そういう人達がまだロンドンに戻ってきていない。その2、Brexitでこの手の職業を熱心にやりたがる人達がいなくなってしまったこと。移民でイギリスに来た人達のエントリージョブとしてレストランのサービススタッフ、掃除などはそれなりに人気があった。英語があまりうまくないので、英語がうまくなったり、英国カルチャーになれるために最初はこの手の仕事を同朋たちとやってから、一般の仕事に移るという人達が多かったが、EU離脱で移民の仕組みが面倒になってからは、いままでわんさかやってきた東欧、中央ヨーロッパの人達がいなくなってしまい、この手の仕事をやる人が減った。その3、ロックダウン時に犠牲になる仕事は嫌だということで、この手の職よりはもうちょっとくいっぱぐれのない職業にシフトしている人達もいるらしい。

あとは、エントリージョブとしてみなされており、雇い主としては、英語がつたなくてもその分割引して雇っているから賃金が安くて済んだが、これからはそうもいかない。ということで、求められることが多い割には安いと言われている職業にはなかなか人が居つかなくなってしまった。(レストランやホテルの運営スタッフなど)

正直、一般庶民はめちゃくちゃあおりを食らっている。最寄り駅のすぐ近くのスターバックスは朝の7時前からやっていたが、スタッフの調整がつかなくて朝の営業はやったりやらなかったり、私はあまりそういうことはしないが、朝の時間に立ち寄ってコーヒーを飲みながら手帳などをつけていたり、勉強したりする人を通勤時に見かけたこともあったが、今は朝開いたりあいていなかったり。

会社の建物の掃除婦の人が減った。トイレの掃除の回数などが明らかに減った。

大陸へ行くもしくは大陸からイギリスに入って来るトラック、トレイラーの運転手の確保は相変わらず難しく、ヨーロッパからくる荷物の遅れは恒常的になっている。(大陸で作ったビールをトレイラーで輸入などという場合、明らかに月に来る本数が減った。)(BrexitでブランドなどのディストリビューションセンターをイギリスからEUに移す会社が多く、そのような会社の商品をネットで注文を入れても、昔は3日でついたのが7日間かかったなど)(大陸からくる医薬品のトラック便も減り、それに依存している人にとっては深刻な影響を及ぼしている。)そしてだ、運送代の値上がりはすべて消費者に転移ということで、物の値上がりはどんでもないことになっている。

移民の受け入れを辞めて、この手のサービス業の労働市場は今までの8分の1になったという新聞記事も読んだことがある。

人がいないから今まで注文して20分くらいで出てきた食事が40分などということになる。せっかく雰囲気がよくてお気に入りだったパブでラグビーを見に行った際だったが、やはりスタッフが全然足りてなくて、キックオフ前にビールを買いにカウンターに行って、ビールを手に入れたのが、前半終了だった、などということもある。そういういことが増えると、お店の雰囲気もどんどん悪くなって、いい店だったのに「もう行かない」なんてことも増えた。スタッフが足りないから習熟度が低いスタッフが出てきて、客と大ゲンカという場面も何回か見た。特に女性に多いと思ってみているが、言われると言い返してしまう人が結構多い。(自分が悪くないという防衛反応だと思われるが、男性は割に言われたハイで引き下がる人が多いような気がする。)だいたい最後は「あなたの不手際なのになんで謝らないの」という啖呵を客が切ってしまい、もうこうなると、マネジャーなどが出ていくことになってしまう。客商売は向き不向きがあるので、向かないと思われる子でも雇わないといけないというのも辛いところではある。

パットのパブでは、ロックダウン時にアルバイトやパートで入るスタッフは全員解雇した。ロックダウンが解除されて、お店が再度オープンしたら、元のバイトには優先的に声をかけるので、ということで解雇。一応正社員は一時帰休ということで、解雇はせず、国から手当を受け取り、職をキープするように国から言われていたが、そもそも副店長のジンジャーが正社員だか、バイトの延長の扱いであったかどうか、パットははっきりさせずふわふわしたままだった。ジンジャーをパットが雇ったのは20年前である。その時は本人が就職したくてパブに来たのではなく、中学を出て働くことになり、親が探して、パットに当たったということで、親とパットとの取り決めで働いていたらしく、そういう契約ごとはしていないようだった。

パットは国の推奨通りに動くのは面倒ということと、バイトの延長線での扱いを考えていたようで、ジンジャーは一時帰休ではなく他のバイトと一緒に首になった。これがいたくジンジャーのプライドを傷つけたそして、ジンジャーのパートナーの逆鱗に触れたらしく、ジンジャーはこういう時でもちゃんと保障のある市や区がやっている福祉や介護職に軸足を移すことを決意させた。

パットのジンジャーの扱いを「?」と思った人は他にもいたらしく、結局パットのパブの改装を手掛けている建築会社がジンジャーを契約社員として雇い、パットのパブの改装が終了するまではジンジャーはペンキ塗りをしたり、廃材を捨てに行くトラックの運転手をやったりしていた。

ジンジャーが福祉に軸足を置くことになり、ロックダウン後のパブ再開後は土日は勉強や実習に充てたいということで、金曜の夜から日曜の午後5時まではシフトに入らなくなった。

そして、副店長はパットの娘のナタリーがやることになったが、ナタリーがアクシデントで体調を崩し、お店に出られなくなったことから、一気に人手不足が顕在化してしまった。パブのカウンターに座っていても「だれか週末の夜にシフトに入れる子いない?」とか「平日朝10時から夕方6時までのシフトの子を探している。」とか、しょっちゅうそんな話が出てきた。

今まではパットのパブは、客の誰かが「社会勉強としてうちの娘、息子を雇ってくれ」と言ってくるか、客が仕事を探している子がいるから面接してくれと言ってくることが多かった。そういう意味では恵まれていた。そしてその人達の隙間を縫ってくれる子は、掲示板などで探して面接して入れていた。

しかしだ、コロナ後は正直、パブで社会勉強させたいなどという親もおらず、朝からパブのシフトに入りたいという子もいなくなった。結局足りない人出はパブの仲間同士の融通で別のパブから一時的に入ってもらったり、パットがオーナーになる前の屋号で働いていたスタッフに声をかけシフトに入ってもらうようにしていた。

パットにとって幸いだったのは、近所にある総合大学が5月から対面の授業を再開させ、実技のある学科(この大学は演技学科などもある。)も再開になり、学生が近所に戻ってきたことであると思う。この大学の卒業生で大学アシスタントをやっているレラという歌手の卵で俳優の卵が、一時学費の足しでパットのパブでバイトをしていたが、レラにナタリーが声をかけたところ、レラの生徒が4名、パットのパブに入ってくれることになり、人出不足は解消できそうだった。

それでも、まだ人出が足らないときもあり、パットがあちこちに電話をかけたり、それでも難しいときはパットがシフトに入ってサービスしていたりする。

パットはこの業界に長いが、ここまで人出が足りなくなるのは初めてだと言っていた。

サービス業の業界としてはEUからの人を呼び戻したいが、政府はそれをやる気は全くないらしく、国内で需要をなんとか間に合わせるようにという指導をしているだけである。

正直、まあ、移民便りのスタイルから変革していくことになるのだろうなあと思うのだが、そうなると退行というか、大昔に戻るのだろうなあ、と思う。

潔いくらい日曜はどこもお店が閉まっていて、土曜も夕方までで閉めてしまう。そしてレジは長い行列、ものの種類も極端に少なくなり、スーパーもデパートも昔の共産圏みたいながらんとした感じになる。そして、ネットで注文しても1週間とか配達時間がかかって、不在で持って帰ってもらったら最後もう物の行方はわからないみたいな感じになってしまうのか。

イギリスに来てからBrexitになったということは正直予想もしなかった人生の中での大きな出来事になりそうだなと、思うことしばしの空前の人不足である。まあ、出ていきたくて出て行ったのだからいいのであろうが、みんなこうなるという結果はわかっていたのかな。不思議だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?