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私たちは紳士じゃない ユーロ2020決勝を見て考えたことなど

ロンドンのチャイナタウンの一角にたまに立ち寄るパブがある。アイリッシュパブの系列だが、従業員はいろんな国から来ている人達である。なんてことのないパブだが、窓ガラスが大きいので、道行く人達を見ることができる。

この間連れが、健康診断だか何かで、近所まで来たので一人でそのパブに入ってビールを飲んでいた。従業員の一人が私たちを覚えていて、「お連れさんは今日はなしなのね」と言ってきたという。茶色い瞳の茶色の髪の男性でイタリア人だったという。

「えらい目あったわ」とその男性が言うには、ユーロの決勝の日、イタリアのユニフォームを着てパブのシフトに入ったが、パブ内では何もなかったが、決勝戦終了後、イタリアに負けたイングランドサポーターでかなり周囲は荒れていたという。駅まで歩いていて、ビール瓶が3本頭めがけて飛んできて、ビールの空き缶が何個も何個も頭めがけて飛んできた。瓶はよけきれたが、缶はよけそこなって肩口あたりにビールを浴びて帰ったという。もちろん帰りの電車の中でも執拗にイングランドサポーターから「死ね」コールを受け、たまたま電車に乗り合わせたおばちゃんがおびえた目で彼を見ていたという。

あんなにひどいとはねー、まあ、びっくりしましたよ。とイタリア人のバーテンはそう言って笑っていたというが、怖かっただろうなあと思う。

わたしも個人的にこの手の国際試合ではイギリスを応援していない。プレースタイルが全然面白くないのと、マスコミやメディアがかなり選手を甘やかし、持ち上げるのがどうにも気持ち悪く、選手の不祥事にも目をつぶりがちで自浄作用が甘い感じなのと、お金をかけている割にはコーチ陣や監督の采配が謎なのと(イギリスのサッカー協会の好き嫌いが割に人事にはっきり出ており、監督などの人選が異様につまらない。)、いい選手が多いが、まだまだ優勝するほどプレーにしたたかさがなく、せいぜいベスト8止まりであろうと思われる。そういうことが重なってあまり積極的に応援もしていないし、これからもするつもりはない。あと、この国に来てから私にサッカーのことをよく教えてくれた人はドイツ人だったこともあり、代表で応援するならドイツという気持ちが大きい。

連れはアイルランド出身でイギリスが大嫌い、イングランドは絶対に応援しない人である。しかし、アイルランド人の中でも今回はかなりばらけていて「イギリスを応援する」アイルランド人もいれば、そうでないのもいる。連れが我慢できなかったのは途中までイングランドなんてだめだよね、と言いながら、途中からイギリス支持に回ったり、普段はアイリッシュとして誇りをなどと言いながら、今回だけちゃっかりイギリスを応援している「長いものに巻かれる」系の人達で、それに怒った連れは途中でパブを後にした。「恥を知れ」「アイリッシュとしてプライドはないのか」などと言いだした。「あいつらの親が墓から出てきて頭を殴ってほしい」とか言い出し、サッカーに政治絡められても困るよな、という事態になってしまった。

(いつものパブに準決勝デンマークイギリス戦を見に行ったが、連れと普段親しいアイルランド人の方がいきなりイギリスを応援しだしたので面食らった。私はデンマークに好きな選手が多く、なんだかんだ言ってデンマーク推しだったので、一人で応援してしまってひんしゅくを買ってしまったが、ものを投げられたりすることはなかった。)

しょうがないので、家で見ようという話になって家に立ち寄ったが、5分もたたないうちに「ケバブ食べたい」などと連れは言い出し、結局近所のケバブレストランでレストランに作られた臨時スクリーンで試合を見ながらケバブを食べた。ありがたいことに中東系はイタリアが地理的にも近いのでイタリア支持者が多かったのと、アイルランド人はほとんどいない場所だったので、連れはおとなしく飯を食いながら試合を見て居た。

90分フルタイム終わって1-1でレストランを後にし、結局日曜の夜だったので明日は会社もあるし、ということで、お開きになり、私は家に帰って試合を見た。延長で決着がつかず、PKでイギリス人プレーヤーが3人続けて失敗して、ジエンド。イタリアが勝った。

イギリス人のPKを失敗した3人のプレーヤーは全員アフリカルーツのブラックのプレーヤーだった。正直2人目が外したあたりで私は嫌な予感がしてしょうがなかった。よくサッカー選手がいうやつ「負けたら黒人、勝ったらイギリス人(これ別によその国でもあって、負けたら黒人勝ったらフランス人とかいろいろパターンがある。)」が実現するであろう、という感じだった。そして3人目の子は、19歳だかそれくらいで代表は初めてでPKも初めて、見ただけで「やばい」というくらい緊張してるのがわかったし、もう蹴っても枠に入れるだけで精一杯という感じだった。もちろん外して、その子が泣き出した瞬間にイタリアのプレーヤーがどわーっと画面にあふれ出し、イタリアが勝って喜んでいるのが画面に延々映し出されていた。

負けた瞬間、家の周りはかなり静かだったが、そのうち車の音がしだして、爆竹の音がしばらくずっとしていた。イギリスが勝って優勝していたら、派手に鳴らして大騒ぎする予定だったのだろう。歓声も歌も何もなく、ただ、爆竹の音がして、そして止んで静かになった。

朝起きてみたら、やはり相当ロンドン中心地ではサポーターが暴れて大変だったこと、PK外した3人のブラックのプレーヤーに案の定人種差別攻撃をSNSを通じてやらかしているイギリス人が何人もいたこと、舞台となったウェンブリースタジアムにサポーターが集結して、お金を払わず押し入って、スタジアムの中で狼藉をしていたこと、ウェンブリーからの帰り道にお金のありそうなサポーターを襲って時計などを奪った人達がいたとかそういうニュースでいっぱいだった。

イギリス人って紳士の国の人達じゃなかったっけとも思ったが、そんなものかなという気持ちもあったが、見ていてあまり気持ちのいいものではなかった。

黒人のプレーヤー3人を攻撃していたが、攻撃している人達はあの大歓声の中、普通にプレーしてボールをけることができるのであろうか、プレッシャーやらいろいろなものを乗り越えてあそこにたっているプレーヤーによくそんなことができるよね、という腹立たしさもあった。

正直、イギリス人、サッカーを見ていない。それがどうしてもいやで応援してないところもある。サッカーちゃんと見てちゃんと応援してる人は意外に少なかったりする。応援やヤジで一生けんめいで、試合は飛んでいる人が多いような気がする。日本人はその辺違うのである。私がいつも思うのは、日本人は野球を見ているので、多少テンポが悪くてもそれにお付き合いしているし、野球の細やかなプレーを理解しているので、サッカーもちゃんとおちついて見て居られる人が多いような気がする。ルールがあいまいでも勝負の潮目みたいなのは日本人は割に見逃さない人が多いような気がする。

まあ、そんなこんなで全世界にイギリスのサポーターのお行儀が悪いのが露見した今回のユーロだった。

ユーロが終わってしばらくして、パブで将軍様に会った。将軍様はアフリカ系+インド系のイギリス人で、一応国際試合はイギリス支持であるが、今回は気恥ずかしかったらしく、ユーロ終わってから将軍様はパルサンジェルマンのユニフォームを着ていて、何かあるとへたくそなフランス語でジンジャーにビールなんか注文していた。

そして、イギリスを応援していたアイリッシュの何名かはうちの連れに罪悪感があったらしく、連れのためにジンジャーにビールマネーを渡していた。連れはしばらくおごりのビールを楽しんでいた。

将軍様は「もともと俺たちはあんなもんだ。フーリガンなんだ」と開き直って私に言った。「80年代なんか柄が悪すぎて国際試合なんか追い出されていたんだよ。イギリスのチーム、国際試合出られなかったし、サポーターは出禁くらっていたんだ。」

「日本人はイギリスを紳士の国だっていうけど」と将軍様に言ったら「あほ抜かせ、日本人の方がよっぽど紳士だよ」と言われた。

それから将軍様と連れはイギリスのサポーターがどれだけひどかったか、やばかったかを2時間くらい語っていた。昔は自軍チームに黒人がいただけで、その黒人が何かしたわけではないのに、信じられないくらいの差別用語がスタジアムを飛び交っていたという。私の連れはロンドンではこのチームは大嫌いだというのがあって、試合を見に行ったら、そのチームにいた自軍の黒人のプレーヤーにサポーターがものすごい言葉を浴びせているのをみて、がっかりしたという。そこからもうそのチームは大嫌いになっている。

そういう話を延々としていた。まあ、この手の話は昔からよく聞いていたので、たいして驚きはしないが、そこからあまり変わっていないのが現状であるというのが今回のユーロではよく分かった。

「人間は変わらないんだよね。残念ながら。隠すのだけ巧妙になっていて」

なんというか、イギリス人、割に日本人のように「そこをどうやって改めるのかを考えるのが人生なんじゃない」みたいなことは言わない。そういうものだから、という前提でものを考えている人が多いような気がする。いいとか悪いとかではなく、そう考える人が多い。それが処世術なのかもしれないが、特に将軍様のように人種系で苦労した人はそう考える人が多いような気がする。

「俺たちはやくざなんだよ。紳士じゃない。」「何十年経っても変わらないんだよ」

マーそうかもしれないけどね、そうやって考える方がいいのかもしれないけど、あまりいい話じゃないよな、と思う。今回のユーロはその辺でものすごいもやもやした。

イングランド、前に比べればいい選手も出てきたし、頑張ってると思った。周りがこうなんというか、悪すぎて選手の印象が悪くなってしまうのもなんだかかわいそうに思える。もう少し見る方の民度が高くなってほしいと切に感じてしまった。

あの騒ぎっぷりを見て個人的に「ベスト4くらいがちょうどいいよな」という気分だ。どうせだったら次はドイツに派手に負けてもらいたい。が、ドイツ世代交代大失敗して、何十年とサッカー見て居る連れが「俺が見た中で一番最弱ドイツ代表が今回のユーロ」などと言われてしまい、もっとなんとも言えない。







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