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植えるべきか、植えないべきか

家の近所のボイラー屋のシャーキーがいつもこざっぱりした頭をしている。この子は、私より10くらい年下の子だが、割に老成したというかじじむさい感じの子で、普通のイギリスの男の子という感じである。たぶんであるが、私が一番、普通にイギリスで世間話をしているお兄ちゃんであると思われる。普通に話せる、気負わずにへたくそな英語でも話せるタイプの子である。というか、この子は私の家のお向かいに住んでいるので、まあ、よく会うので話す。

この子の彼女は私はもやしと呼んでいた。しょっちゅう近所のスーパーでもやしを買っているところを見るので、もやしである。というかちゃんとした名前があるのだが、ゲーリックの非常に難しい名前なので、もやしと心の中で読んでいる。ごめんよ。

最初はシャーキーは「もやしが刈ってくれた」と頭のことを言っていたが、そうではなく、闇で開いている床屋にコネクションがあり、そこにしょっちゅう行って髪の毛を刈ってもらっているのだった。

昨年12月19日からイングランドは、美容院床屋の類は休業に入っている。4月12日から再開という話であるが、さすがに男の人の頭は4か月も5カ月も放っておくことは難しい。前のロックダウン時は自分でやる人も多かったが、今はコネや口コミなどを利用して、闇でやっている床屋を探し当てて、髪の毛をやってもらい「家でやったんだ」と大ウソをついている人が多い。

シャーキーは人の家を訪問してガス湯沸かし器を直したり、シャワーのお湯が出ないのを直したりすることが多い。シャーキーはこの界隈では新参者のボイラーマンなので、SNSで集客をしている。SNSを通じてシャーキーに仕事を依頼してくるのは、若い人達が多いので、やはり若い人達向けに恰好は清潔にしないといけないということで、かなり外見には気を使ってるのがわかった。

結局、シャーキーの頭を見て数名は「どこでやったんだ紹介しろ」みたいなことを言って、シャーキーから電話番号をもらって闇の床屋に通いだした。闇の床屋はまた私の家から1分も離れていない床屋で、シャッターを下ろして、中を見えないようにして、裏口から客を入れて頭を刈っているらしかった。

シャーキーは20名くらい紹介をしてたようである。そして、私の彼氏も紹介してもらって、髪の毛を切りに行ってきた。私もひまだったのでついていって、床屋にお茶を出してもらい、髪の毛を刈ってもらっているのをなんとなく見ていた。

彼氏が刈ってもらっている隣で、もう一人、髪の毛を刈ってもらっていた。顔や雰囲気がなんとなく、元フランス代表のサッカー選手のベンゼマ(今だってレアルマドリードでバリバリ現役ですが。)に似ていた。

このベンゼマ氏はスキンヘッドにしてもらい、ひげを整えてもらっていた。そして、お店の人に「植毛をやりたいのだけど」という相談を深刻にしていた。

相談された方は意外に論理的で、「髪の毛が生えている頭皮と、抜けたあとの頭皮の強度は違う」「頭皮は薄い皮膚一枚で、そこに傷をつけて髪の毛をつけるので、ダメージがかなりある。」「失敗して頭皮にダメージを負ってもなかなか回復しない」「維持費がかかる」「ネットなどで中東などでできる安い植毛を紹介しているが、技術が確かかどうかはわからない。その辺もギャンブルである」「一度やって、元に戻したときに頭皮がたるんでしまって植毛したところとそうでないところとの差がわかってしまうのでみっともなくなる場合もある」と説明していた。

「熟考をお願いします。一生の決断ですよ」と相談された人は話していた。

これね、難しい話というか、なんとも言えない話ですよね、と思う。

ただし、個人的に植毛や髪色を染める、ボトックスやらしわ伸ばしやらしているという男性の場合、今のパートナーより上の女性、もしくは若い女性を狙っているのではないかなと思うことが非常に多い。その辺の色気というか山っ気を感じる。女性に関しては、野心がある人がやるというイメージがある。あとそういう意味ではひげも野心家が多いような気がする。

早い人は20代で結構完成するくらい薄くなる。植毛といえば、イギリスで一番有名なのはサッカー選手だったマンチェスターユナイテッドのウェインルーニー選手である。18くらいから、アレレになり、20代の前半で植毛した。ツィッターで「みんなー植毛したよー」とオープンにつぶやき、整髪料ジェルのおすすめを聞いていた。そのあと、某ロンドンに本拠地があるチームの試合に彼が出たときに「馬の毛を頭に植えて何がたのしい」とか「アレは犬の毛だ」とかいうチャントやいろいろヤジを聞いた。

この選手がツィッターで植毛を公表したときにはある種なんというか、議論が起こった。「隠してるよりいいじゃないか」という人もいれば「別にサッカー選手のプライベートな情報などは知りたくない」という人も多かった。本人は女性にもてたいというよりはチームメイトにからかわれて、それに傷ついてやったようなことを言っていたと思う。25で髪の毛がなくなるってどう思う?みんなが整髪料の話をしているのについていきたかったみたいなことを言っていたのを聞いて、なんかちょっと物悲しくなった。確かにな、気持ちはよくわかる。

昔の人というかある程度お年を召したイギリス人と話をしていて思うのが、結構「植毛なんて品がない」と言われることが非常に多い。昔の人は割にね、女性に対しては、「お化粧なんてそこまでしなくていいのよ。眉毛書いて、口紅くらいでいいの。あなた何もしないでもきれいなのよ」という言い方をする。男性は白髪でもハゲててもいいから「ちゃんと定期的に床屋さんに行けばいいのよ」という感じである。足すことはない、それは自然でないから、という言い方をよくする。自然に逆らうことがあまり好きではないから、そういう行為は「品がない」のである。確かにね、昔の往年の俳優やらコメディアンやらサッカー選手でBBCとかに出てくる人達は植毛とか若作りはあんまりしていない。でもたまにすごーいカッコよくおしゃれなおじいさんとか出てきてすごいびっくりすることが多い。(アンチエイジングしていないのにそれなりに若くてこぎれいなおじいさんが出てくるんですよね。なんかこちらがびっくりするような色気のある人もたまにいる。)

ただ、東洋人からすれば、若くて髪の毛がなくなることに対してはなんとも言えない。外人の髪の毛のなくなり方は、ちょっと早すぎるのである。ウィリアム王子とかもいつのまにか薄くなっていた。この王子さまは植毛などはしていないナチュラルな感じである。ま、この王子様、結構髪の毛の話でジョークを飛ばしたりしていて、周りがどう反応していいのかどうか困惑してたりする。確かにな、なんというか、この王子様に向かって髪の毛のことをいじるのは難しいであろう。

あとまたサッカーネタになるが、マンチェスターシティで希代の勝負師、智略家として有名な監督、ペップ グアルディオラもずるっと行っている。この人も、たまに自分の頭髪をネタにして笑いに持って行って行ったりして、周りがどうしたらいいのか迷っているときを見る。「xxと対戦しますが、xxの監督は新参で、あなたと初対戦ですけど何か一言」「男前でセンスいいね。でも、僕の方がいい男でセンスいいかな、でも、向こうは頭髪あるから今回の勝負は引き分けね」みたいなことをかましている。まあ、この人の場合、ある種余裕を感じさせる自嘲なんですよね。たまにはこの手のことをネタにしておくか、みたいな感じで、余裕がある。正直、できる男がたまたまはげていたみたいな感じでこの人のハゲは余裕がある。

あとサッカー界などでは、はげていても超絶女の人に大人気があったティエリ アンリ(元フランス代表。とにかくイギリスでは女性に人気があった。未だに彼が一番かっこいいという人がたくさんいるくらい男前でできるフットボーラー。イギリス人女性10人くらい捕まえて「男前だと思うサッカー選手って誰?」と聞いたら、たぶんベッカム以上に名前が出てくると思われる。)とプレミアリーグ年間得点王の記録が未だに破られず、80年代、90年代を代表するフットボーラー アランシアラーなども若いときからずるっと行っていた。でも、この人も頭を剃っていて、植毛などはしていない。それでもガタイはいいし、顔は整っていて、誠実な感じでやっぱり普通に「かっこいいハゲ」なのであったりする。なのでこの辺はもうレジェンドハゲになるのか。

正直、頭髪に関しては、個人差がかなりある。プラス、男性の白髪に対してもかなり個人差がある。べったり染めている人もあんまりいないような気がする。外人の場合、頭の形がカッコよければ、薄くなれば剃ってもいいのではと思うことが多い。

ナチュラル派に抗して、あくまでもあらがうという感じで植毛している人達もいる。あくまでも噂として聞いてるが、日本でも有名なミシュラン星ついているセレブリティシェフでテレビ番組を持っているあの人とか、有名な音楽プロデューサーとか、あと素人の料理をジャッジするプロの料理家でそれなりにハンサムで有名なシェフさんとか、某世界的に有名なサッカーチームの監督、元有名選手で現在も監督をやっていて、イギリスだったら顔を知らない人がいないと言われている人などなど、テレビ雑誌やメトロやサンといったゴシップ誌などに名前が上がって来たりする。あとよく本当にあるのが、この手の有名人男性が若い女性に走り、離婚をするときなどの訴訟で、奥さん側がバラすというもの。「若作りして若い女に走ったけど、しわ伸ばしして、植毛してるのよ。自分のそういうのにお金は使うのに、慰謝料は全然くれないなんてケチよね」みたいな談話が出てくる場合もある。(この手の訴訟沙汰は逆の話もある。「胸は入れ物で頭はウィッグだよ」とか)

髪の毛を植えたいという人達もそれなりにいて、テレビの広告やら電車の中吊りなども見るので、外人さんでも気になっている人はやはりそういうところへ駆け込むのであろう。

あくまでも頭髪の話はパーソナルなので、「この年代だから白髪はおかしいから染める」とか「この年齢だから」というのもないし、「この外見だから」というのもあまりない。年齢やら地位などでどうなるかもないし、あくまでも個人の好みである。

ただし、同調を強いるというか、ある程度共通認識としては「長くしてるのよりはさっぱりがいい」という感じなので、短髪が多いのが好ましいとされており、短くさっぱりしたのがいいということで、薄くなった人は短くしてる人が多いかなという感じである。

植えるも植えないも、その人の勝手で、やりたきゃやればいいさ、という感じが全体的な基調なのかな。それでも、植えるのはそれなりにリスクがあるという認識である。それを取るのか取らないのか。

そういうところにいるので、日本に帰っていつも男性の頭が「伸びすぎ」と感じてしまうし、日本の男性やアジアの男性がいいとしている髪型とか雰囲気というのはイギリスやヨーロッパとは全然違うので、なんとも言えない。中性的な雰囲気というのは、あまりもてはやされない感じがどうしてもするのだ。(女性が男か女かわからない、みたいな感覚はすごい人気がある。冨永愛みたいな雰囲気の人が超ベリーショートとかでいたら、イギリスではめちゃくちゃ人気が出るであろうと思われる。)

あと、日本の人と話をしていて、結構頭髪が来ているのをものすごい気にしている人が多いよなあと思うときが多い。隠し方が不自然だったりするのもなんとも言えなかったりする。植毛のコマーシャルもイギリスよりたくさん見かけるし。

ただ、あくまでこれはパーソナルな話でその人がいいと思ってやっているのだから、あれこれ言う必要はないと思う。そこは日本に帰ってきて思うのだが、「放っておいてやれ」と思うくらい、頭髪にはいろいろみんな言っているので、そこは気の毒に思う。

ただね、なんというか、難しいよね。植毛したいという人に「やめたほうがいいよね」とは言えないんだよね。やはりやりたい、髪の毛はとどめておきたいと思う気持ちもわかるし、なんだかんだいって女性に人気があるハゲは元がよかったりお金あったり、何かの才能に秀でていたりしていて、「ちがうんだよ」と言いたくなる気持ちもわかるしね。難しいね。






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