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ギャンブルは庶民の娯楽とはいうものの

飲む、打つ、買う、一体何が一番滞イングランドでは大罪なのか、時々考えることがある。

アルコール、これは人それぞれだが、問題があると思われる人はまず表には出て来ない。だいたい、家にずっといて社会と隔絶している生活を送っているような気がする。アルコールで問題あり、と思われるとだいたいその人の生活範囲内のパブなどでは酒は出て来ないことになっているので、結局家にいて酒を飲むことになってしまう。(スーパーのレジの人達もだいたいお酒売ったらダメな人を記憶してるよ。)孤立していると言ったらいいのだろうか、孤立には、酒だけでなく、いろいろな問題が絡んでおり、正直一概に「酒が」とか「あいつはアル中」などと言えない部分がある。

女、もしくは異性問題。これは問題ありという人は巷にいる。本当に女性絡みで切った張ったで出入りの激しいのは数名知っている。なんとなく独特の雰囲気があるような気がする。ものすごい自信家に見えるが、そうでない部分もある。ただ、正直女がらみで問題を起こす人は「出入りが激しくて云々」というよりは、女性とつきあってから、本性が出てくる。たいてい問題になる行動はDVなのではないだろうか、と思う。そうなるとちょっと難しくなるところもある。時々「え、あの人そんなひどいことするの?」って思うことがあるからである。

ギャンブル中毒、どうなんだろう。
なんとなくではあるが、これが一番パブでは多く見かける。だいたいギャンブルする人達はある程度パブのテーブルに固まり、団体行動をとるのである。だいたい仲間と一緒に同じテーブルに固まり、テレビで競馬を見ながら過ごす。朝から晩まで競馬を見て、お馬さんにお金をかけ、ビールを飲み帰っていく。時々「うるさい」と思うことはあるが、大きな声を出すわけではなく、仲間同士で喧嘩するわけでもない、皆さん淡々とギャンブルして帰っていく。

もちろんソロでギャンブルしてる人もいる。これはその筋の人の話だが、スマートフォンの普及もあり、ソロのギャンブラーがとても増えたという話だ。

ある程度、テーブルでワイワイやってる人達はそれなりにソーシャルスキルがあり、ただ単にみんなでギャンブルしてるわけではなく、それなりに話をしているし、ギャンブル仲間同士で競馬場へ行ったり、ダーツを見に行ったり、ドッグレースに行ったりと、一応集団行動はできる人達である。引きこもりというわけではない。が、ギャンブルしかしない。ギャンブルする仲間としかつるまないし、それ以外のことはしない。ギャンブル仲間にも私生活を開示することはなく、ある時ギャンブル仲間の一人がなくなり、そいつの葬式の喪主がかみさんだったという話があった。十何年、ギャンブルを一緒にやっていて、ギャンブル仲間全員がなくなった方が妻帯者だったのを知らなかったという話があるくらいである。

筋金が入ってるギャンブラーになると本当に規則正しく、パブの開店時間になると足を踏み入れ、競馬中継が終わるまでパブで過ごし、そして家に帰っていく。そういう生活を365日続ける。生活環境は人それぞれだ。定年退職し、さみしくて、なんとなくギャンブルやっている人。ギャンブルが好きすぎて働くのをやめ、親から小遣いもらって親と同居していて、ギャンブルやっている人、一応体の調子が悪くて働けないので、国から手当をもらってるので働かないで済み、その上で乏しい小遣いでギャンブルやってる人、もともと不動産などの所得があり、働かなくていい身の上だが、仲間がいないのでさみしいのでギャンブルグループに入っている人、などなどである。仲間うちで、境遇によってグループ内格差はあるようで、ない。ギャンブルをする、ただ、それだけで結びついている。

パブにいる人達はギャンブル中毒には見えないが、生活のほとんどがギャンブルなので、やっぱり中毒なのであろうか。

最近姿はあまり見なくなったが、このギャンブルグループに属しているジェリーというおじさんがいた。小柄で童顔のかわいらしい感じの人で、60過ぎ、何をしていた人か知らないが、ずっと勤めていた会社の早期退職に応募し、退職し、年老いたお母さんと一緒に生活していた。そのお母さんは亡くなる寸前までジェリーのために掃除洗濯していたという話である。そして、スーパーなどでこのお母さんが誰かにあって世間話になると「ジェリーはかわいくていい子で外見も悪くない子だから、お嫁さんが欲しいわね」とずっと言っていたそうだ。知らぬは親ばかりなり、ジェリーは女性に興味はなくギャンブルしか興味がないのだ。口の悪い私がいつも世話になってるおばさんは、このおばあさんがジェリーの話をすると、すぐに「だったらあんた、ジェリーのギャンブルやめさせなさいよ。話はそれからよ。60過ぎて親にパンツ洗わせてギャンブルやってる男に誰が嫁に行くのよ」とはっきり言ってしまい、周囲を慌てさせた。おばあさんは話が核心に行くと、ぼけたふりしておばさんの前からいなくなるそうである。

なんとなく、この手のギャンブルグループの人達がどうしてギャンブルしかやらない人生を選ぶようになったのかは謎である。それはわからない。ただ、本当にギャンブルしか興味がないのである。

家の近所に住んでいて、朝の通勤時のバスがたまに一緒になるキーランさんという男性がいる。穏やかで優しい、話やすい人で、バスが一緒になれば話す。朝話して夕方バスで一緒になったりすれば、また、その時はその時で話したりする。ただし、夕方は競馬新聞や、何かの予想オッズが書いてある新聞をたもとに抱え込み、ギャンブルパブの近くのバス停でバスを降りていく。キーランさんはギャンブラーなのだ。人間的にも悪くない人なのに、結婚しない、彼女もいない。兄貴の家族と一緒に住んでいる。時々そこの家の子供に「ハゲ兄貴」とか言われながら子守りをしているのを見る。人としては悪くないであろうが、とにかく女っ気も友人もいない。人生の楽しみはギャンブル、という人である。

今でこそだいぶ減ったが、昔はロンドンに結構長い期間、語学留学生と称して、日本の人がうろうろしていた。ワーホリでは年齢制限があって無理だから、留学生なのであろう。日本の女性で結構それなりに年が行っていて、イギリスに来てる人たちがいた。そこで知り合った現地の人とお付き合いをしている、なんて人がおり、タマにそういう人に知り合う機会があった。

何人か、そういう女性を紹介されて、その人達が連れてきた男性を見て「あちゃー」と思うことがあった。なんとなく「ああ、こりゃ女出入りがすごそうだ」とか「気性が激しそうだからあとで苦労するぞ」と思うのはまだいいのだが、適当にうまいこと言いながらお店の支払いだけは女性にさせる男がいて、なんとなく見て居て「ああこりゃ相当経済的に苦境に立ってる人だわい」などと思わされる男(この手の男はドラッグにお金使っていて、仕事が長続きせず、というパターンが多いような気がする。)など、いろいろ見てきた。この手の男たちはいずれしっぽを出すから、その時に痛い目にあえば、別れることができる。まあ、そういう男どもはわかりやすいっちゃわかりやすい。

でも、キーランさんみたいな男性の場合だとどうなんだろう。やさしくて紳士的、そして物事もいろいろ知っているし、話やすい。もっとお付き合いしたいと思うが、なぜかあるところまでは近づけてもそこから先は全く近づけない。いい人だと思ってお付き合いしたいと思っても食事くらいしか連れて行ってもらえない。相手はいい歳なので、将来のことなど考えたくても、男性の方は全然乗ってくれず、時間がくれば家に帰っていくし、土日もフルではお付き合いしてくれない。

女性の方は、妻子持ち?と疑う人もいるらしいが、真実はと言えば、休日は朝からパブで競馬やってるもしくは家にずっといてスマホ片手にギャンブルしていてお姉ちゃんと遊ぶところではない。彼の中では優先順位は女性ではなく、ギャンブルなのである。だから、女性から見たら非情に見える仕打ちも、ギャンブルのためならやるのである。(例えば、誕生日なのに、朝からギャンブルやっていて何もしてくれなかったなど。)なのでたいてい女性とは長続きせず、家庭的でもないから、ずっと一人である。

もう一人、私の知ってるギャンブラートニーと呼ばれている60過ぎの爺さんがいる。年老いた母親と二人暮らし、弟と妹が家の近所に所帯を持って住んでいる。トニーの母親ベティさんがガンで入院し、病院から危篤の電話がトニーにかかってきた。「これから大事なレースなんだ。ほっといたってどうせ死ぬんだから、こんな時に電話かけてくるな」と言って、トニーは電話を切った。ギャンブル仲間があ然としている中、トニーは平然としていた。トニーは大事なレースで負け、手持ちがなくなった。ギャンブル仲間たちが「早くおふくろさんところ、行ってやんな。今からタクシー呼ぶよ」と言ったら「金ないからタクシー呼ばない、バスで行く」と言っていなくなろうとしたら、ギャンブル仲間全員が、その場で20ポンド札を一枚ずつ出した。そして、タクシーを黙って呼んだ。

この話はパブでその場に居合わせた人しか知らない話であるはずなのに、この手の話はあっという間に広がるのか、葬式に出席した人全員の知るところとなった。そして、葬式が終わったあと、パブでレセプションをやったが、家族は誰もトニーのそばに行かなかった。彼は一人で片隅でビールを飲んでいた。

トニーもなんであそこまでのギャンブラーになったのかは知らない。お母さんのベティはトニーがギャンブラーでお金を残したら全部使われてしまうのはわかっていたらしく、トニーに一銭も財産を残さなかった。家の権利も妹と弟にしたらしいし、証券類やキャッシュもそちらに行くようになっていたという。ただし、トニーはベティが残した家にトニーが死ぬまでは住む権利はあるようにセットされているらしく、ただ単に弟と妹が全部取りするといいうわけではなさそうではあるが。

この手のギャンブラーは結構普通の生活をしている場に潜んでいるような気がする。ただ普通の人の幸せはどこかであきらめたというかハナから頭にないので、その辺は潔いが、家族から見れば、どうなんだろうな、とは思うが、まあ、余計なお世話か。

ギャンブラーのもう1パターン、あり勝ちだなと思うのは元プロスポーツ選手である。

パブなどで古くからサッカーを見て居る人と話していて、「元サッカー選手でギャンブル狂」というお題になると、みんないつまでも話している。よく話に上がってくるのが元アーセナルのポールマーソン、元ニューカッスル、QPR、「悪童」ことジョーイバートン、2代目「悪童」ウェインルーニーあたりがよく出てくる。そして最近、カムアウトして自伝でギャンブル癖に相当苦しんだという告白(なんと中毒歴45年)をしたのが、元イングランド代表のゴールキーパー、ピーターシルトン(再婚した奥様がテレビでどうやって自分の財産をピーターのギャンブル癖から守ろうかと考えをめぐらし、苦労した、みたいなことをテレビで言っていた。)。このあたり、正直、選手としては一流中の一流、日本でも知名度のある人達である。

スポーツ選手の場合、もう努力して努力して、それから何万人の前でプレーする。一流しか集まらないところで、ギリギリまで自分の能力を出して戦う、カミソリの刃の上を歩いていくような、そんな一般人が経験できないようなひりひりした世界にいる。そしてある時、そういう世界からあっという間に暇を出され、普通の生活に戻ろうたって、戻れない。あの興奮、ひりひりするような勝負の世界を求め、ギャンブル中毒の道を進むらしい。

なんとなく私たち日本人がわかりやすいギャンブル中毒はこちらだと思われる。まあ、一種の燃え尽き症候群のようなもので、この手の中毒者は何もサッカー選手だけでなく、一時期売れていた芸能人やミュージシャンと言った人達も含まれたりする。

日本にいたときはあまり気がつかなかったが、結構ギャンブルというのは生活の奥まで入っていて、根が深い問題でもあるなというのは、イギリスに来てから気がついた。イギリスの場合、賭けは合法なので、それなりにギャンブルは産業として日本とは比べものにならないくらい栄えており、中毒者の問題も深刻である。あちこちに自助グループや、問題解決を提供しますなどというボランティアグループの看板が街を歩けば出ており、やはりこの問題に悩んでいる人はたくさんいるのだな、と思うことが多い。変に日本みたいに男のロマン、みたいに持ち上げられておらず、庶民の生活に根差した娯楽の一つという扱いであるが、肌感覚で言えば、お酒とかドラッグと同じくらい深刻な問題の一つでもあるな、と思う。






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