ドゥルーズとフィギュール

ドゥルーズとフィギュール

ジル・ドゥルーズの哲学は、伝統的な思考の枠組みを打ち破ろうとする試みに満ちている。そのための重要な概念が「フィギュール」である。

フィギュールとは、概念や思考を視覚化し、具体化するための装置のことだ。ドゥルーズはこれまでの哲学が抽象的な観念に頼りすぎていたと指摘し、思考を身体的で物質的なものとして捉え直そうとした。フィギュールはその具体化の試みを体現している。

ドゥルーズがフィギュールのモチーフとして用いたのは、動物、機械、分子など、人間とは異質な存在たちだった。これらの非人間的存在は、人間中心主義を相対化し、思考にとらわれない生の在り方を示唆する。例えばドゥルーズは「ハチの連綿」というフィギュールを用いて、個体を超えた集合的な活動のあり方を描いた。

フィギュールによって、思考は単なる観念から解放され、身体性や物質性を帯びる。ドゥルーズは「概念は人には顔を与えるが、フィギュールは概念に肉体を与える」と述べている。このように、フィギュールを介することで、思考は力動的なイメージとなり、活動能力を最大化する契機を得るのだ。

しかしフィギュールが意味するのは、単なる比喩や隠喩ではない。それはむしろ、存在の別の様式を切り拓く手段なのだ。フィギュールを通じて私たちは、人間的な存在を相対化し、生の潜在力に気づかされる。そしてそれにより、今あるシステムの彼岸に、思考と活動の新たな地平が開示されるはずである。

フィギュールへの着目は、ドゥルーズがいかに現実をダイナミックに捉え返そうとしていたかを物語っている。観念から身体へ、静的存在から力動的生成へ、と彼の眼差しは存在の有り様を根本的に問い直そうとしていたのだ。フィギュールはその挑戦的な企てを象徴する、ドゥルーズ思想の重要な核心なのである。

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