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メンタルヘルスの向上が動物病院業界をもっと良くする!

初めまして。臨床獣医師 / 産業カウンセラー(…の卵)、佐々木崇文と申します。
4年目(ん?もうすぐ5年目!?…はやいなぁ‥)の臨床獣医師として日々働く傍ら、動物病院で働く人々のメンタルヘルスを向上させることを目指し活動しています。
この記事では、「お前、誰!?」という皆様の疑問にお答えするための内容をまとめています。

1. 私が考える動物病院業界の「伸びしろ」

それこそがタイトルの通り「労働者のメンタルヘルス」です。労働者とは勤務医や動物看護師だけでなく、院長や経営者まで含みます。
獣医療に従事する人々はメンタル不調のリスクが他職種と比べて格段に高いという調査結果が、日本を含めて世界各国で見受けられます。

一例をあげます。詳細は後日、別の記事で。

イギリスの獣医師の自殺率は一般人の4倍、人医の2倍
(Bartram & Baldwin, 2010)

日本国内の現役で勤務する動物看護師 31名のうち、
うつ病の可能性があると判断された者は 15名(46.8 %)

(木村, 2011)

メンタルヘルスを保つためのスキルを身につけていなければ、メンタルに襲いかかる荒波に抗いつつもジワジワと消耗し、力を奪われ、溺れてしまうかもしれません。

一般論として、「労働者のメンタル不調によって組織がかぶる損失」というと「欠勤や休職、退職による損失」を想像しやすいのではないでしょうか。
もちろんそれもあります。

しかし、それよりはるかに大きな損失が組織にもたらされているかもしれません。

「心身の不調が原因での欠勤・休職による労働生産性の損失」
これを人事用語で「アブセンティーイズム」と呼びます。


一方で、「プレゼンティーイズム」という概念があります。
こちらは「心身の不調を感じながらも働き続けている人々が、本来のパフォーマンスを発揮できないことによる労働生産性の損失」を指します。
プレゼンティーイズムは前者と比べより把握しづらく、
しかもより損失額が大きいという点で近年注目を集めています。

それぞれを簡単にたとえれば、
アブセンティーイズムは風邪で 39℃の熱がでて休んだことで働けなかった日数。

対して、プレゼンティーイズムは微熱があったけど出勤して働いた。
けれども本来の体調ならこなせた仕事量のうち、熱で頭が回らなくてこなせなかった量です。
出勤はしているので、アブセンティーイズムと比べて把握がしづらい!
しかし気づいていないだけで損失額はより大きい!

国内で行動科学とITを軸に医療や健康サービスを提供しているユナイテッド・ヘルスコミュニケーション株式会社は、年収400万円の労働者を想定した場合の推定損失額(労働者 1人あたり)を2018年に発表しました。
同調査では、プレゼンティーイズムのほうが大きいと推定されています。
高ストレス者 1人あたりで年間 109万円がプレゼンティーイズムによって失われているという推計です。対して、アブセンティーイズムでは 9万円
この分野の研究が盛んな欧米のレポートでも結果は同様です。

推定損失額-プレゼンアブセン

アブセンティーイズムよりもプレゼンティーイズムのほうが大きいことは、東京大学特任教授、古井裕司氏らの研究によっても示されています。
(古井裕司ら, 「中小企業における労働生産性の損失とその影響要因」, 日本労働研究雑誌, 2018.)

アブセンティーイズムとプレゼンティーイズムにつながる要因はメンタルだけではありませんが、1つの大きな要因といえます。
メンタルからくる労働生産性・モチベーションの低下、獣医療の質の低下、休職、離職は各病院の、そして業界の大きな損失です。個人にとっても生活の質を大きく下げ、最悪の場合には自殺にまでつながります。

2. 私が目指しているもの

動物病院業界で働いている人々のメンタルヘルスを向上させ、業界の発展に貢献することです。
私は臨床獣医師という仕事が好きですし、誇りを持っています。それと同時に、動物病院で働いている方々が好きです。他者の幸せをモチベーションに働くことができる、素晴らしい方々がそろっています。
一方、動物病院での仕事は過酷な精神的負荷を与える一面があるとも考えています。常に命と向き合う現場。さらに人医療とは異なり、治療対象である動物と私たちの間には飼い主様が介在している。安楽殺が求められることもある。開業されている方は、さらにプレイイングマネージャーとしての負荷も加わってくる。過酷です。

院長として、
飼い主たちからは病院の最高技術責任者として見られ、
スタッフからは経営者・マネジメント責任者として見られ、
時に治療方針に、時に経営方針や院内の人間関係に頭を抱え、
ひとり何役もこなさなければならず、多忙を極める先生方。

臨床家として、
どう治療しようと予後は不良、悔しくてしかたがない。
それでもプロとして、頬を噛みながら予後を飼い主に告げる瞬間。
病院に来た時には手遅れ、治療のしようがない。目の前には苦しむ動物。
襲ってくる無力感。虚無感。
精神的な負荷がかかり、
臨床から離れてしまう私よりも優秀で努力を惜しまない獣医師たち。

なぜあれほど動物を想い、飼い主を想い、
たくさんの命を救ってきた、これからも救ってゆくと思っていた人が?

動物看護師として、
死を避けられない現場で、辛いことも多い現場で、
動物と飼い主たちのこころに目を向け、自分のこころを殺して、
動物たちのためにと歯を食いしばり、目をそむけずひたむきに、
私よりもずっと近い距離で動物たちと飼い主に寄り添う
本当にこころの優しい動物看護師さんたち。

各動物病院の、ひいては動物病院業界全体の
アブセンティーイズムとプレゼンティーイズムは、
いったいどれほどになるのか。
動物病院においてスタッフのパフォーマンスが低下することは、
経済的損失を意味するだけではない。獣医療の質の低下を意味している。
最後にワリをくうのは、動物たち。


業界のさらなる発展のためには、臨床現場の諸々を知りつつ、専門知識を持ってメンタル面のサポートをしていく人間が必要だと考えこの活動を始めています。

院長先生・勤務医の先生・動物看護師さんたち…動物病院で働く全ての人たちが、自分の心をすり減らすことなく、自分の心に惑わされることなく、健やかな心で獣医療に専念し、より多くの動物を救い、より多くの飼い主様を救っていけることが私の強い願いです。

3. この「note」が目指すもの

読者の皆さまに、メンタルのセルフケアに役立つ知識を共有していくことです。

産業カウンセラーの学びを深める身として、
株式会社VDTの組織開発・メンタリング担当として、
小動物臨床に従事する獣医師として、
私自身がメンタル不調によって休職し、復職した経験をもつ個人として、
さまざまな経験を通して得たメンタルヘルスに関する知識やノウハウを業界全体に発信していきます。

「メンタルを健やかに保つ力」は既に確立され体系的に学ぶことができる「スキル」です。「スキル」なのですから、ちょっとした知識を得て、やってみて、コツさえつかめば身につけることができます。皆さまが自分のために手元に置いておきたくなるような、そして大切な人・友人・同僚・後輩にそっと手渡したくなるような「note」を目指します。


4. 私の経歴

● 2017年 東京農工大学卒業|臨床獣医師 4年目(2020年12月現在)

● 2年目の夏に適応障害を発症(いわゆるメンタル不調)
ドクターストップがかかり、4ヶ月間の休職を経験する

● 休職期間中、自身のメンタルヘルスを保つ(=セルフケアのための)
技術・方法論を臨床心理士の友人からの教えや書籍で学び始める

● 元の病院に復職。臨床に戻り、休職期間中に学んだセルフケアのスキル    を実践で試す。

● その日々の中で、「動物病院業界にはメンタルヘルスに関する体系的な
知識・技術が必要だ」と強く実感し、産業領域のメンタルサポートに特化した心理職である「産業カウンセラー」を志し養成講座を受講。

● 2020年8月に産業カウンセラー養成講座修了、来春に資格試験を受験予定


↓↓↓↓↓↓ いまここ! ↓↓↓↓↓

「目の前の動物や飼い主だけでなく、未来の仲間まで笑顔に」との
株式会社VDT・豊田陽一社長の想いに共感し、2020年8月に同社入社。
小動物臨床の業務に従事しつつ、動物病院部門も含めた全社を対象として

■組織開発
従業員満足度、ワークエンゲージメント向上の支援

■メンタリング
メンタルヘルスに関する講習の実施、
カウンセリング技法を用いた個人支援、モチベーションの維持向上

を担当している。「メンタルヘルス不調の未然防止」を特に重視。

5. 終わりに

この「note」では「自身のメンタルを健やかに保つ力=セルフケアの力」をスキルとして学ぶための知識を提供しますが、知識を得るだけでは「スキル」は身につきません。手術と同じです。正しい知識を得て、それに基づいて実践してみて、自分の心とからだで感じてみて初めて「スキル」として身につきます。仕事中でも、それ以外の日常生活でも、ほんの些細なことであっても、「まずやってみる」ということをおすすめします。怪しいツボを売りつけたりはしませんので(笑)、だまされたと思ってまずやってみて頂けることを願ってやみません。





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