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X Talk 1.4 - “獣医がんセンター” という新大陸をめざして

山口大学の水野拓也教授をお招きした最初の “VET X Talks” (ベット・クロストークス)。これまで3回にわたり、獣医学研究に携わる苦労や喜び、そして「獣医王」という夢の存在について語っていただきました。最終回では、そんなお二人のこれからの夢についてお聞きしました。

まだ誰も知らない動物種も扱える魅力

--:獣医学研究は "ブルーオーシャン" というお話をしてきましたが、犬猫以外の研究もできるわけですから、 その海はすごく大きいですね。

 水野拓也教授(以下、敬称略)そうなんです。でも、やる人がいないんです。僕は将来、犬猫以外の研究をしたいと思っています。せっかく獣医になったんだから、色んな動物を診てみたいですね。

獣医の研究室でも、マウスの研究だけをやっているところはたくさんあります。でも、それは医学部か理学部でいいと思います。僕は獣医だから、やっぱり “獣医としての何か” に取り組みたいですね。マウス以外の動物を通した研究が獣医らしさの1つだと思います。

熊本大学の三浦さん(熊本大学老化・健康長寿学講座、三浦恭子准教授)がハダカデバネズミという特殊なネズミの研究をしています。彼女は理学系の研究者ですが、獣医なら、いろいろな種の研究をしてみたいと思っています。医者は絶対にやりませんから。

前田准教授(以下、敬称略)確かに、「なぜ獣医がハダカデバネズミを研究しないんだ?」と思いますね。正直「やられた!」と思いました(笑)。ハダカデバネズミ、おもしろいんですよ。がんに全然ならないんです。普通のネズミと比べてめちゃくちゃ長生きするのに、がんにならない。ああいうのこそ、獣医が研究すべきテーマですよね。

水野:そう!みんなが研究しない動物をほかの種と比べて、特殊な何かを見つけて、それが最終的にヒトの病気に生かせれば素晴らしいよね。まさに、前田先生が言うブルーオーシャン。まだ分かっていない動物もいっぱいいるんだから。そこが獣医の一番面白いところじゃないかと思います。

 “未開の地” を開拓する夢とロマン

--:お話をうかがうと、獣医臨床研究は本当に面白い世界だと思います。初回にお聞きしましたが、それなのにあまり人が来ない?

前田:「知られていない」という理由も大きいと思います。それから、水野先生から最初にお話が出たように、研究をするためのツールを作るところから始めなければならない状況です。なかなかハードルが高いんです。逆に言えば、 “未開の地” を開拓するメリットもあります。

水野:ツールがいっぱいあって、研究者もたくさんいるマウスの研究で頑張る方が向いている人は多いよね。 “レッドオーシャン” で戦う人たち。

前田:そうなんです。僕らは変人なのでこんな変な、というか特殊なことを考えていますが(笑)

水野:そうね(笑)

--:変人ではなく、冒険者です!ブルーオーシャンで宝探しにロマンを感じる(笑)

前田:だから「そういう変わった人はおいでよ!面白いよ」って思っています。“研究”って難しく考えなくて大丈夫です。足し算と引き算、割り算と掛け算ができれば大丈夫です。

恩師の前田先生(岐阜大学獣医臨床放射線学研究室、前田貞俊教授)に言われたのは、「ユークリッド幾何学が分かれば研究はできるから」。最初は、「たいそう難しいことを覚えなきゃいけないのか!?」と思いましたが、要するに四則演算、足し算や引き算なんです(笑)

水野:実際、そうなんだよね。本当に。

前田:それを知らないと、「研究って、白衣を着たお茶の水博士みたいな人が鉄腕アトムを作るようなすごい機械を操作して…」ってイメージがあります。実際は、イメージよりもずっと簡単だし気楽だし。結果は誰がやっても再現できないといけないので。

水野:実験が複雑であればあるほど、嘘に近いよね(笑)

前田:そうなんです。

水野:本当の真理は、単純に証明できないとおかしいんです。誰がやっても同じことができないと。僕らのやっていることは、自然に起こっている現象を正しく知るのが目的です。それなのに、「これと、これと、これを、こうしないとうまくはいかない」という場合、多分、それは実際に世の中で起こっている現象じゃないんですよね。そういうこと、若い時は分からないよね。

前田:本質はシンプルですよね。

水野:そう、めっちゃシンプルだよね。

前田:僕も、「この人じゃないとできない」とか、「この設備じゃないとできない」っていうのは、研究ではないと思います。学生でも再現できないといけません。なので、研究を難しく考える必要はありません。身近なものとして研究をとらえてほしいなあと思います。

”動物がんセンター”という新大陸を探して

 --:今後 “獣医王”を目指して、お二人はどうしたいですか?

水野:繰り返しになりますが、まず1つは、獣医として自分が誰かの役に立てたと思えるようなことをしていきたいです。もう1つは、やっぱり獣医なんだから、犬猫以外の動物種を使ったことで役に立つ新しい発見ができればと思います。

前田:僕はこの10年間、がんの研究・治療に取り組んできました。それを続けながら、新しいことにもチャレンジしたいです。具体的には腎臓病の研究に本腰を入れたいと思っています。腎臓も犬と猫で特徴が違うので、そこにも興味を感じています。あと、脳にも関心があります。

水野:前田先生はいろんな分野をやってて、ほんと器用だよねぇ。

前田:そうですか?(笑) 僕からしたら、水野先生のようにずっと同じ分野で第一線で活躍している先生を見て、一途ですごいなあと思っちゃいます。僕は飽きっぽいんですよね(笑)

長期的なこととしては、大学以外の施設で研究するということに興味がありますね。大学を辞めたいわけではありませんが(笑)

水野:臨床研究に集中して、バリバリできる施設があれば魅力的だね。

前田:そういう場所を作れないかな、と思うことがあります。

水野:僕のイメージだと、国立がん研究センターが理想だな。病院の隣に研究施設があって、(患者さんの)サンプルをすぐ運んで調べられるような環境があると良いね。患者さんのサンプルを使って、直接、治療に役立てられる施設が獣医に欲しい。

がん研究センターは国立なので国から予算が降りてくるけど、動物の場合はそれが難しいね。何らかの形で、できればいいんだけど。

前田:基礎研究、臨床研究、臨床試験が一ヶ所に統合された "獣医がん研究センター"!是非、実現させたいですね!これからできる方法をみんなで考えましょう!

--: “動物がんセンター” という新大陸発見が、これからの目標ですね! 

水野先生にとって、獣医学研究とは?

--:では、対談の最後に「あなたにとって、獣医学研究とは?」という問いに対する水野先生のお考えをお聞かせいただけますか?

水野:そうですね…。僕にとっての獣医学研究とは、、

「自分の手で動物を救いたいという、獣医師を目指し始めた子供の頃からの夢の実現への道程であり、かつ自分の好奇心欲を満たし、自分が獣医師として社会貢献する1つの方法」

ですね。あんまりうまくないですが、、

前田:いえ、すばらしいお考えをいただけました!

今回、水野先生とじっくりお話しすることができてすごく楽しかったです!ありがとうございました!

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東京大学の前田真吾先生による対談シリーズ “VET X Talks” (ベット・クロストークス)の最初は、山口大学の水野拓也先生をお迎えしました。苦労や楽しさ、やりがいなど、様々な角度から4回にわたり、ざっくばらんなお話をご紹介しました。

研究者人口が少ないが故の苦労が多い一方、まだ誰も発見していない “新大陸” や”宝” を見つける夢もあるのが獣医学研究のようです。パイオニア精神あふれる研究者にとっては、チャンスが多い “大航海時代” と言えるでしょう。

お二人はまた、喜びも悲しみも飼い主と共有しながら信頼関係を構築していく充実感もあると言います。望む結果にならなくても、「ありがとう」と言ってもらえる職業はあまり多くないでしょう。獣医臨床研究には、色々な可能性ややりがいが広がっているようです。

私たち一般の飼い主にとっては、今は治らない病気の治療法が見つかる期待も高まります。大切な家族の一員である愛犬や愛猫と、少しでも長く楽しい時間を過ごしたいというのは世界中の飼い主に共通する願いでしょう。

最後に前田先生からは、「“獣医がんセンター”が、できる方法を考えましょう!」という力強い言葉が聞かれました。獣医がんセンターからは、人間の難病を治療するヒントも生まれるかもしれません。動物だけでなく、人間だけでなく、誰もが幸せになるような “新大陸” 発見の「仲間にならないか?」というのが、VET X Talks  1st Seasonでの水野先生・前田先生からのメッセージでした。

ベット・クロストークスでは、これからも様々な角度から「獣医学研究はおもしろい」を分かりやすくお伝えしていきます。2nd Seasonのゲストも、最先端の研究に携わる専門家を予定しています。ご期待ください。

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