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犬はあなたが話す言語とそうでない言語を区別している

犬はあなたが話す言語とそうでない言語を区別している

私は猫とカメを飼っていて、ついいろいろと話しかけてしまいます。動物病院で勤務している時も、「触るよ〜もしもしするよ〜」など語りかけていました。
ペットを飼っているみなさまも同じように、相手が理解していないかもしれなくても声をかけている場面が多いと思います。

一部のペット、例えば犬などはトレーニングを経て「マテ」「スワレ」などの短いコマンド=指令と特定の動きを結びつけて人の指示通りの動きをすることができます。しかし最初から言葉の意味を理解しているわけではなく、人がある特定の行動をするように誘導をしてコマンドと結びつけ、できたらご褒美というのを繰り返して徐々にコマンド=指令と行動を結びつけていきます。
そしてコマンドも声かけだけでなく、ハンドサインや体で出すサインなど様々なものと組み合わせて使っていくことが多いでしょう。

ではトレーニングを受けていないペットは人間の言葉をまったく理解しておらず、飼い主が普段使う言葉や外国語も全く一緒に聞こえてしまっているのでしょうか?

2021年3月にこの疑問に答える論文が発表されました。
fMRI(磁気共鳴機能画像法)という方法を用いてわんちゃんに危害を与えることなく脳の活動を調べたものです。
fMRIで使うMRI装置には強い磁石の力が働いており、中の生物に弱い電磁波をあて、返ってきた信号を計算することで内部の画像を描き出します。

過去の研究ではワタボウシタマリンは特別なトレーニングなしでも人間のある言語と他の言語が異なることを理解しており、ラット やブンチョウ(java sparrow)はトレーンングにより人間の言語を区別することができると報告されています。これらは言葉の意味を理解しているから理解できる、ということではなく言語の異なるリズム(英語や日本語)の規則性を認識して分けていると考えられます。人間の子供(幼児)もよく聞く言語と違うリズムの言語を認識することができると報告されています。犬では脳の側頭葉という部分が人間の音声の情報を処理すると過去の研究でわかっています。今回の研究では覚醒している犬にその犬が普段よく聞く言語とそうでない言語と機械で作った音声を聞かせてどのように脳が区別しているかを調べました。

18歳のわんちゃんが実験に参加し、起きた状態でMRIの機械の中でじっとできるように訓練を受けていました。彼らの飼い主の普段話す言葉はハンガリー語とスペイン語で内訳としてはハンガリー語が16頭、スペイン語が2頭でした。実験で流す音声に選ばれた作品は『星の王子様』の一節で、それぞれの言語のネイティブスピーカーが読み上げて録音したものを使いました。それぞれの音声をMRIの中で待機しているわんちゃんに聞かせ、その最中の脳の働きのデータを分析しました。
余談ですが、この論文の著者のtwitterアカウントには論文をパブリッシュしたツイートがあがっており、そこには飛行機に乗って世界を旅する犬の短いアニメーションがついています。それは実験で使われた音声が『星の王子さま』であることに因んでいるのですね。素敵です。

さて、サーチライトMVPAという方法でそれぞれの音を聴かせた時にどこの脳の部分が反応しているかしらべてみると言語と機械で生成した音は一次聴覚野のあたりで反応がみられ、bilateral mid suprasylvian gyrus(両側頭頂葉中回) left caudal suprasylvian gyrus(左頭頂葉上回)という部分で違う反応が得られたとのことです。また飼い主がよく話す言語とそうでない言語はright rostral Sylvian gyrusとhe left caudal ectosylvian gyrusとthe left rostral suprasylvian gyrusとleft precruciate gyrus という部分で異なる反応が見られたとのことで、いずれも脳の両端の側頭葉という聴覚情報に関わる部分でした。


さらに興味深いことに、長頭種はより聴覚への感受性が高く、犬種間で人の言語の違いの認識には差があるかもしれないと言及されています。

私たちが普段わんちゃんに語りかけている言葉の意味を彼らがわかっていなくても、よく話している言葉とそうでない言葉を区別しているというのはわくわくしますね。

猫ちゃんは起きた状態でMRIの機器の中で待機する訓練が難しいのですぐには解明されないかもしれませんが、多くのペットが実は認識しているのかもしれませんね。ペットを飼われている方はぜひこれからも声をかけてあげてください。

なお、病気の診断のために行われるMRI検査は詳しく体を調べるため麻酔が必要です。この論文では覚醒したわんちゃんに協力してもらっていますが、体の精査が目的ではなく脳の機能を調べるだけかつ特別な訓練を受けた子たちであるため、大きな音もして時間もかかる通常のMRI検査では麻酔が必須になってくるのです。

参考:
Cuaya LV, Hernández-Pérez R, Boros M, Deme A, Andics A. Speech naturalness detection and language representation in the dog brain. Neuroimage. 2022 Mar;248:118811. doi: 10.1016/j.neuroimage.2021.118811. Epub 2021 Dec 12. PMID: 34906714.

fMRIについて:健康長寿ネット 磁気共鳴機能画像法(fMRI)の仕組み, https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-iryo/fmri-shikumi.html 2022/05/07参照

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犬や猫、ウサギの獣医師です。色々と勉強中の身ですが、少しでも私の経験や知識を飼い主さんや動物に還元していきたいと思います。