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中毒4 次亜塩素酸ナトリウムの漂白剤・除菌剤は犬に毒性があるの?【中毒】


次亜塩素酸ナトリウムは犬猫の皮膚や粘膜を刺激する作用がある

概要:次亜塩素酸ナトリウム は除菌剤や漂白剤として広く用いられる薬剤です。赤ちゃん用品に対してつけるだけのタイプの除菌剤も次亜塩素酸ナトリウムが用いられていることが多く,私の家の台所にも常備しています。
次亜塩素酸ナトリウムは細胞の膜を通過して細胞内のタンパク質を酸化することで細菌やウイルスに対して有効性を発揮します。犬や猫,そして私たちの体もタンパク質で構成されているため取り扱いには注意が必要です。

■症状
肺炎と呼吸不全や高ナトリウム血症と高クロール血症のほか嘔吐や下痢,低体温などさまざまな症状を示し,最終的に安楽死となりました。
肺炎に関しては漂白剤の吸引やその後の頻回の嘔吐で誤嚥したのが起因になる可能性もあり。

■原因物質
次亜塩素酸ナトリウム

■中毒量
次亜塩素酸ナトリウム 製品による中毒の程度は製品に含まれる濃度とどのくらい摂取したかにより変わります。また濃度は製品によってかなりバラツキがあります。3%以下の製品もあれば,工業用製品では15%程度まで含まれるものもあります。スイミングプール用の製品では50%程度まで含まれる場合もあります。

希釈した溶液の少量の摂取では重篤な症状は起こさないと考えられますが,犬猫における次亜塩素酸ナトリウムの中毒量はまだはっきりとわかっていません(塩化ナトリウムの致死量を外挿する方法はあります)。

■なりやすい犬種
好奇心旺盛な性格の子や子犬は誤飲しないよう注意が必要です。

■催吐
人間においても経口暴露の時は催吐は禁忌とされています。代わりに牛乳または水で希釈することが推奨されています。吐き戻した液体が呼吸器に入りそこの組織に障害を与える可能性があるため,動物医療でも推奨はされないと思われます。状況によっては実施する可能性もあるため獣医師の指示に従ってください。

■治療
解毒剤のようなものはないので,中毒が発現した場合は脱水や電解質の異常を補正したり制吐剤を用いるなど対症療法が中心となります。

■注意すべきこと
飼い主が留守にした6時間の間に台所に犬が6.15%の次亜塩素酸ナトリウム2.12Lが入った漂白剤のボトルをおもちゃとして噛んで遊んでいた例が報告されており,どの程度飲んだのかは不明ですが呼吸不全や高ナトリウム血症と高クロール血症のほか嘔吐や下痢,低体温などさまざまな症状を示し,最終的に安楽死となっており相当量摂取したと考えられます。

MSD veterinary manualの次亜塩素酸ナトリウムの項では10%以下の濃度であれば軽度の刺激にとどまるだろうとの記載がありますが,症例報告では6.15%の製品の誤飲だったので注意が必要です。

次亜塩素酸ナトリウムの除菌剤や漂白剤はとても便利であり,少し舐めたりする程度では毒性は低いと考えられますが,おもちゃやおやつと間違えて大量に摂取すると致死的になる可能性があります。台所には柵を設けて動物が入れない様にするなどの工夫が重要です。

■参考 
・Toxicology Brief: Sodium hypochlorite bleach ingestion in two dogs,https://www.dvm360.com/view/toxicology-brief-sodium-hypochlorite-bleach-ingestion-two-dogs 2022/12/09参照
・MSD Manual veterinary manual https://www.msdvetmanual.com/toxicology/household-hazards/chlorine-bleaches 2022/12/09参照
・https://www.ndmc.ac.jp/wp-content/uploads/2020/08/42-1-008-014-1.pdf中村伸吾,鑿原征宏,福田孝一,山中 望,石原雅之
,細菌・ウイルス等微生物に対する次亜塩素酸水の効果とその活用 ,防医大誌(2017)42(1):8-14


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犬や猫、ウサギの獣医師です。色々と勉強中の身ですが、少しでも私の経験や知識を飼い主さんや動物に還元していきたいと思います。