見出し画像

猫の瞳孔は細長いのにライオンの瞳孔が丸いのはなぜ?

猫の瞳孔は細長いのにライオンの瞳孔が丸いのはなぜ?

猫が好きな方が動物園に行くとき、気になるのはライオンやトラなどネコ科の動物でしょう。よくみる猫より大きく迫力がありつつも、寝転んでいる姿などはやはり同じネコ科の動物ですね。そして観察を続けると、猫の瞳は細長いのにライオンやトラの瞳は丸いことに気が付くかもしれません。

陸に棲む哺乳類において、瞳孔の形はその動物が活動する環境や時間帯に関係があることが2015年に報告されました。この報告では陸の生物214種を採食形態と1日のうちどの時間に活動するかを瞳孔の形状と関連づけて解析しました。


物事や言動がよく変わるということを示す慣用句に「猫の目のよう」があります(「猫の目のように言うことが変わる」など)。これは周囲の明るさに応じ瞳孔が拡張したり収縮することで網膜に入る光の量を調整しています。人の瞳孔もライオンや犬と同じく丸い形ですが、光の量に応じて15倍程度の変化しかしません。いっぽう、猫は135倍、ヤモリ(gecko)は300倍に面積が変わります。切れ長の瞳孔のほうが明るい環境から暗い環境まで活動できるよう瞳孔の大きさをダイナミックに変えられると考えられています。
この論文では、瞳孔の形を垂直の瞳孔(猫)と亜円形の瞳孔(オオヤマネコ)と円形の瞳孔(ヒト)、水平の瞳孔(ヒツジ)の4つにわけ、それぞれの生物の採食形態(foraging mode、草食型・活動的捕食者・待ち伏せ型捕食者)と日照活動(diel activity、日中活動・様々な時間に活動・夜行性)にプロットしました。

その結果、統計学的にも瞳孔が亜円形の動物(オオヤマネコ)と瞳孔が細長い動物(猫)においては瞳孔の形状が捕食形態と活動時間に相関していることがわかりました。

細長い形状の瞳孔の生き物は待ち伏せ型の捕食者(ambush predator)が多く、亜円形(オオヤマネコ・ライオンなど)や円形(ヒトなど)の瞳孔の生き物は活動的な捕食者が多いということが示されました。

では瞳孔の形が違うと何がどう良いのでしょうか?

猫のような待ち伏せ型の捕食者は獲物との距離を正確に推定する必要があります。距離を推定する方法の一つに、運動視差(mortion parallax)を利用するものがあります。これは視点を動かすことでできる画像の違いを脳で処理して距離を測りますが、待ち伏せしながら頭を動かすと獲物に気が付かれてしまいます。また距離推定には立体視(stereopsis)という方法もあり、これは両眼に入る画像の差から推定するものもあります。そのほかにぼかし効果(defocus blur)を利用した方法もあります。

細長い瞳孔は広げたり収縮できる範囲が広いため、立体視がしやすい上にぼかしも利用でき獲物との距離を掴みやすいということです。
背や体が小さい動物では距離の推定には地面から目線が近くなり、入る光の量が変わってきます。そういった場合にぼかし効果を使った方法が重要になり、これは背景をぼかすことでピントの合った位置にある物体の輪郭が認識しやすくなるというものです。

猫やヤモリなど待ち伏せ型かつ地面から目線が近い動物では細長い瞳孔を使って立体視やぼかし効果を利用して獲物からどのくらい自分が離れているかを予測していたんですね。

著者らのデータでは、65頭の待ち伏せ型捕食者のうち82%の種では肩高(地面から肩までの高さ)が42cm以下であったということです。
さらに亜円形〜円形の瞳孔をもつ動物は8割近くが肩高42cm以上で、17%だけが42%以下であったとのことです。

オオヤマネコやライオン、トラなど大型ネコ科動物の瞳孔が丸いのは体が大きく地面から離れていることと関係しているかもしれないとのことです。

鳥の瞳孔に円形が多いのも、飛ぶことで地面から離れた場所で活動することが多いからかもしれませんね。


参考:
Banks MS, Sprague WW, Schmoll J, Parnell JA, Love GD. Why do animal eyes have pupils of different shapes? Sci Adv. 2015 Aug 7;1(7):e1500391. doi: 10.1126/sciadv.1500391. PMID: 26601232; PMCID: PMC4643806.

犬や猫、ウサギの獣医師です。色々と勉強中の身ですが、少しでも私の経験や知識を飼い主さんや動物に還元していきたいと思います。