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あなたの髪の毛はカラスの濡れ羽色みたいね。って褒め言葉?

カラスの濡れ羽色

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小さいころ、お風呂上がりに髪をとかしていてくれた祖母が「あなたの髪の毛はカラスの濡れ羽色のようね」と言いました。カラスといえばゴミなどをあさるイメージが強かったので、「それって髪が汚いってこと?」と尋ねました。祖母は「カラスの濡れ羽色というのは黒髪の美しさを表す言葉なんだよ」と教えてくれました。

それから注意してカラスを観察するようになり、確かに天気の良い日に陽の光の中のカラスをみると、羽が黒い色彩の中に角度によって青だったり紫だったり、緑色のようにも見える色があることに気がつきました。

祖母の一言でそうした動物の素晴らしさに気が付くことができ、自分の髪の毛もカラスにも良い印象を持つことができました。

時は流れて獣医師になり、動物に関する知識も増えてきました。
あの見る角度によって色が変わる現象はなんだったのでしょう。
調べてみると、陽の光にあたっていろいろな輝きをみせていたのは、構造色によるものだということがわかりました。

構造色とは、本来色彩を持たない物質であっても、その物質が持つ微細な構造に光が干渉するので色があるように見えるものです。

クレヨンや色鉛筆、ペンキなどの色は、色素や顔料が特定の波長の光を吸収して反射・透過するため、ある程度の光があればどの角度からみても同じ色彩に見えます。

色素はエネルギー量の高い紫外線にさらされ続けると色が薄くなってしまいますが、構造色はその構造が壊れない限りは退色することはありません。

物質の構造と光の干渉によって構造色はみえますが、大きく以下のものに分けられます。
・薄膜干渉:シャボン玉など
・多層膜干渉:タマムシなど
・フォトニック干渉:CDの裏側
・回折格子:オパールなど
・光散乱:青空や夕焼け空

ではカラスの濡れ羽色はどれに該当するのでしょう?
こたえは薄膜干渉です。これを証明した論文があります。

対象:2羽のハシブトガラス、オス(n=5)とメス(n=4)の次列風切羽を採取しました。
方法:次列風切羽の小羽枝を透過電子顕微鏡TEMで観察しました。さらに羽に紫外線をあてて反射率も確認しました。その次に、小羽枝の外側の膜epicticleが発色に関係しているか調べるため角度を変えて発色を観察しました。

結果:カラスの小羽枝のメラニン顆粒(黒く見える色素)は直径200nmから357nmの円筒状。縦の長さは1.4μmから2.0μmで雌雄差はありません。

オスの小羽枝のメラニン顆粒は外側にそって一列に並んでいましたが、メスのメラニン顆粒はオスとくらべるとランダムに並んでいました。
小羽枝の上には膜(epicuticleと呼ばれている)があることも観察できました。この膜はおよそ57.4±16nmで、雌雄差はありませんでした。

紫外線を当てて反射率を観察したところ、電子顕微鏡では色素であるメラニン顆粒の配列に雌雄差があったにもかかわらず、同じであることがわかりました。

その後、カラスの羽を10度から90度まで変えて太陽光を当てたところ、70度から80度の角度のみで羽は紫に見えました。他の角度では羽は黒色(メラニン顆粒の色のみ)にみえました。

著者らは紫色が観察できた角度が限られていたので、羽の表面で膜epicuticleが光を反射する薄膜干渉によって、カラスの濡れ羽色が観察できているのではないかと提案しています


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祖母の教えてくれた言葉は私には難しかったのですが、古来の人の自然や動物への鋭い観察眼、そして私に対する愛情を感じることができ、カラスに対する好奇心もできるきっかけになりとても大切な思い出です。

今度ボーナスが出たらオリンパスの実態顕微鏡を家用に買って、実態顕微鏡レベルではどうみえるか観察してみようと思います。光学顕微鏡だと切片つくらないといけませんが、実態顕微鏡ならいろいろみれますから。大人は楽しいですね。


参考:木下修一,発色原理が異なる色-構造色- 2011,日本画像学会子第50巻 第6号
Eunok LEE1,, Jun MIYAZAKI, Shinya YOSHIOKA, Hang LEE and Shoei SUGITA, 2012, The weak iridescent feather color in the Jungle Crow Corvus macrorhynchos , Ornithol Sci 11: 59–64


犬や猫、ウサギの獣医師です。色々と勉強中の身ですが、少しでも私の経験や知識を飼い主さんや動物に還元していきたいと思います。