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わたしのフランス語学習日記―ポンコツマラルメ訳

しまった、と思いました。

卒論で中原中也を選んだときです。中也はフランスの詩人、ランボーの翻訳者ですから、研究する際にフランス語ができたら便利です。しかし僕が1回生のときに選んだ第2外国語はドイツ語。フランス語はさっぱりでした。

僕の大学では入学前に第2外国語で何をするか選びます。今から思えば些細な差に過ぎないのですが、SNS上でフランス語は厳しいという噂が流れていました。そこで、なんとなく単語の響きがかっこいいドイツ語を第2外国語として選んだのです(実際ドイツ語はかっこいいです)。

高校生のころや学部1回生のころは、講義が厳しいか/厳しくないかにすごく敏感です。あれはなぜなんでしょうね。この前、1回生による研究室見学があったのですが、その時も「日本文学専修は厳しいですか?」と聞かれました。入ってしまえば、厳しいかどうかなんてたいして意識することはないですし、専修間の差なんて誤差みたいなものですが……。

閑話休題。とにかく僕はドイツ語を選んでいたので、中也の翻訳がどの程度の出来なのか検討することはできません。とはいえ、別にフランス詩と中也の詩を比較しようとしていたわけではなかったので、その時はそのままフランス語をスルーしました。

しかし大学院に入ると、改めてフランス語が気になってきます。研究上絶対必要というわけでもないのですが、読めた方が明らかに有利……。そこで語学の履修が済んだ後輩から辞書と教材をセットで買い上げました(1000円でした)。それが確かM1の冬ごろです。

しばらくは教材を手にしたことに満足して何もしていなかったのですが、M2の夏ごろにフランス語熱が再燃。さっそく文法の教材を開いて勉強にとりかかりました。

で、挫折しました。

ドイツ語もそうですが、フランス語も英語を理解できていればある程度同じルールなのでスムーズに頭に入ってきます。実際、教材の最初の方は英語にもあるような定冠詞や人称代名詞の説明でした。フランス語には性があるのでそれによってつけるべき冠詞の形も変化するのですが、そこはドイツ語も同じことです。

ところが動詞の変化形の多さが常軌を逸していました。たとえばavoir「~を持っている」という動詞。これは、主語によってai,as,a,avons,avez,ontと変化します。これだけならまだよろしい。

問題は時制による変化です。フランス語には過去・現在・未来だけでなく、半過去やら複合過去やらがあり、それに接続法なども加えると、なんと十数種類の変化が起こります。そしてそれぞれに人称による変化の違いがありますから、avoirは最終的に数十種類の変化形をもつのです。

もちろんこれは特にめんどうな一部の動詞の話ですが、これを知った僕は「やってらんねー」とフランス語を断念。心地よい日本語の世界に引きこもることにしました。

再び転機が訪れたのは今年の4月。フランス詩の勉強をするためにマラルメの授業を聴講しようとしたところ、オンライン授業なので教室に潜り込むことができなかったのです。

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仕方なく履修登録をし、正規の受講生として授業を受けました。とはいえ課題として詩の日本語訳があるようでしたから、先生には、「フランス語はさっぱりなので聴講生として扱ってください。単位はいりません」という旨のメールを送っておきました。普通のフランス語ですら読めないのに、マラルメの詩なんて読めるわけがないからです。

ところが先生からは「まあまあ、せっかく履修したんだからやってみてください」(意訳)との返事。そこまで言っていただいたからには、こちらとしてもやってみざるを得ません。

そこで後輩からせしめた辞書を片手に少しずつ訳してみると、これが意外とできないでもないのです。もちろん詩は通常の構文を逸脱した複雑な文構造になっていることが多いので、渡辺守章訳『マラルメ詩集』(丁寧な解題がついているお勧めの訳詩集です)を参考にしながらの翻訳でしたが、一応それらしいものを訳出することはできました。

先ほども言ったように、フランス語の構文は英語とだいたい同じです。SVOではなくSOVだったり、形容詞が後ろからかかったりしますが、関係代名詞などの使い方は似ているので、とにかく単語さえ分かれば十分意味はとれます。地道に辞書を引きながら、簡単な文法にだけ気をつければいいのです。

というわけでポンコツマラルメ訳によって自信をつけた僕は、いよいよフランス語の勉強を本格的に始めてみることにしました……②に続きます。



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