武久真士

日本近代詩を研究している大学院生です。noteでは、研究ツールについての考察、本の紹介…

武久真士

日本近代詩を研究している大学院生です。noteでは、研究ツールについての考察、本の紹介、教育についての記事などを書いています。 詳しい研究内容についてはこちら→https://researchmap.jp/take78

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自己紹介

◯プロフィール武久真士(たけひさ・まこと) 1995年生まれ、兵庫県在住 教員。主に日本の近代詩、特に1930年代の詩を研究しています。中原中也とか三好達治とか。『近代…

武久真士
8か月前
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Notionで研究用のデータベースを作る

Notionについては以前も記事に書いたことがあるのですが、そのときは概説的なことにしか触れませんでした。 この記事を書いたのがもう2年以上前で、いろいろな状況が変わ…

武久真士
3日前
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文系研究者、本を運ぶ

4月、新しい研究室に本を運び込みました。これはそのときの記録です。 4月から新任として高専に勤めることになったので、実家から本を研究室に搬入しました。それにあたっ…

武久真士
3週間前
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古文漢文不要論と暴力装置としての教育

こんにちは。日本の文学を専門に研究している者です。 毎年恒例、そろそろ季語になりそうな話題に古文漢文不要論争があります。受験の時期なので、学生時代のもろもろを思…

武久真士
2か月前
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テキストマイニングで宇多田ヒカル『First Love』を読んでみる

詩の読み方?詩を読むのはなかなか大変です。 文学部の学生でも、詩の読み方はあまり習いません。私は日本の近代詩を専門に研究していますが、「詩の読み方がよくわから…

武久真士
3か月前
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博論読書会やります

今年度の12月、「一九三〇年代の定型詩に関する研究―三好達治・中原中也・佐藤一英を中心に―」という博士論文を提出しました。 公開審査は終わったのですが、せっかく書…

武久真士
3か月前
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【小説】部費会議

その日文芸部一同は、顧問の猪木先生から困ったニュースを知らされた。部費が来季から三分の一減らされることになったというのである。これでは部誌の印刷代がまかなえない…

武久真士
3か月前
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詩の授業ってどうするの:島崎藤村「小諸なる古城のほとり」

国語の教科書にちょくちょく載っていて、1年に1回くらいは扱うことになる「詩」の教材。受験ではめったに出ない分野ですが、全くやらないという選択肢もとりにくい。 国語…

武久真士
4か月前
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ある対話(関西弁)――2023年に読んだ本

※昨年 A:2023年ももう終わってもうたやん。えらい早かったな B:年取ると時間の流れが早くなる言うのはほんまやと思うわ。2023年になじまんうちに2024年になってまう A…

武久真士
4か月前
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歩くこと主義

旅行の醍醐味といえば、歩くことだ。自分はできるだけ多く歩くことでその街のことを理解できるようになると妄信しているから、目的地までの距離が一駅か二駅くらいであれば…

武久真士
5か月前
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博論日誌②

10月某日 論文の修正を行う。まだちょっと密度が低い気がするので、作品分析を加える。余計なところを削って作品の話をしたほうが、論文としていい感じになる……たぶん。…

武久真士
6か月前
9

博論日誌①

6月某日 飲み会で博論の話題が出る。そういえばあと半年くらいで博論が完成しているはずだが、全く「博論」として論を書いていないことを思いだす。なんだが現実感がない。…

武久真士
7か月前
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人文書院さま企画「じんぶんのしんじん」寄稿のお知らせ

人文書院さまがnoteで行っている批評家紹介企画、「じんぶんのしんじん」で、保田与重郎の回を担当しました。 twitterなどではすでに告知していたのですが、僕の場合note…

武久真士
7か月前
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天才の文豪と秀才の文豪

風呂に入っているときやトイレをしているときに時々、「文豪のなかで誰が天才で誰が秀才だろう」と考えることがある。もちろん意味はないし生産性も皆無である。でもちょっ…

武久真士
8か月前
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【小説】冷蔵庫トリッパー

ある日の夕暮れのことである。 私が川沿いを歩いていると、何人かのウーパールーパーがなにかガタガタと作業をしていた。この時間帯に連中が飛行訓練をしていないのは珍し…

武久真士
9か月前
7

「抽象絵画の覚醒と展開」展(@アーディゾンミュージアム)と筆触の歴史

この展覧会の魅力は、その展示内容の豊富さにある。開館準備段階から抽象絵画の収集に力を入れてきたというアーティゾンミュージアムのコレクションは、ピカソやブラック、…

武久真士
9か月前
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自己紹介


◯プロフィール武久真士(たけひさ・まこと)
1995年生まれ、兵庫県在住
教員。主に日本の近代詩、特に1930年代の詩を研究しています。中原中也とか三好達治とか。『近代体操』同人。

noteは2020年、コロナウイルスがはやって外出できなかった時期に、とにかくなにか創作というか、アウトプットがしたくなって始めました。

詳しい研究内容についてはリサーチマップをどうぞ。

また、『近代体操』など

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Notionで研究用のデータベースを作る

Notionで研究用のデータベースを作る

Notionについては以前も記事に書いたことがあるのですが、そのときは概説的なことにしか触れませんでした。

この記事を書いたのがもう2年以上前で、いろいろな状況が変わりました。特にEvernoteの無料版の機能が大きく制限されて、Notionユーザーも増えたのではないかと思います。

というわけで今回は研究用の使い道に特化して、Notionの活用方法について概説します。ちなみに私は文系の研究者で

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文系研究者、本を運ぶ

文系研究者、本を運ぶ

4月、新しい研究室に本を運び込みました。これはそのときの記録です。

4月から新任として高専に勤めることになったので、実家から本を研究室に搬入しました。それにあたってネットでやり方(業者とか、値段とか、段取りとか)を色々と調べたのですが、意外とあんまり出てこない。

結局僕は色々試行錯誤してなんとかしたのですが、今後似たようなことで悩む人が出てくるのではないかと思い、ブログに残しておくことにしまし

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古文漢文不要論と暴力装置としての教育

古文漢文不要論と暴力装置としての教育

こんにちは。日本の文学を専門に研究している者です。

毎年恒例、そろそろ季語になりそうな話題に古文漢文不要論争があります。受験の時期なので、学生時代のもろもろを思い出すひとが多いのでしょう。

古文と漢文の素養がなければ日本の文化についての理解が著しく阻害されますし、文章の質も急落しますし、将来的に古典籍を読みたくなった際のハードルがうなぎのぼりです。それは間違いのないことで、不要かと言われれば必

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テキストマイニングで宇多田ヒカル『First Love』を読んでみる

テキストマイニングで宇多田ヒカル『First Love』を読んでみる


詩の読み方?詩を読むのはなかなか大変です。

文学部の学生でも、詩の読み方はあまり習いません。私は日本の近代詩を専門に研究していますが、「詩の読み方がよくわからなくて……」とよく聞かれます。近代詩の研究者は少ないのです。

詩の読み方については僕のほうが聞きたい……というのは韜晦ではなく本当なのですが、半人前でも研究者がそんなこと言っていては始まりません。未熟さを棚に上げる蛮勇が常に必要とされま

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博論読書会やります

博論読書会やります

今年度の12月、「一九三〇年代の定型詩に関する研究―三好達治・中原中也・佐藤一英を中心に―」という博士論文を提出しました。

公開審査は終わったのですが、せっかく書いたのでもう少し博論について話したいなと思い、読書会をやることにしました。アカデミックなかたい感じというよりは、僕の博論をたたき台として自由におしゃべりするような、ゆるい雰囲気でやっていきたいと思っています。

博論のタイトルは博論なの

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【小説】部費会議

【小説】部費会議

その日文芸部一同は、顧問の猪木先生から困ったニュースを知らされた。部費が来季から三分の一減らされることになったというのである。これでは部誌の印刷代がまかなえない。先生は今から部費の減額を取り下げてもらえないか頼みにいくという。しかし、今回の部費削減は学校自体の予算の縮小によるもので、嘆願が受け入れられる可能性は低いともいう。困ったことになった。

先生が去ったのち、一同は緊急の会議を開くことにした

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詩の授業ってどうするの:島崎藤村「小諸なる古城のほとり」

詩の授業ってどうするの:島崎藤村「小諸なる古城のほとり」

国語の教科書にちょくちょく載っていて、1年に1回くらいは扱うことになる「詩」の教材。受験ではめったに出ない分野ですが、全くやらないという選択肢もとりにくい。

国語の先生とはいえ、多くの人が小説を読む訓練は受けていても詩を読む練習はあまりしたことがないのではないでしょうか。詩の授業、なにを教えたらいいか困りませんか?「詩はわからなくていい。言葉を味わうだけでいいのだ!」なんて割り切れませんよね。

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ある対話(関西弁)――2023年に読んだ本

ある対話(関西弁)――2023年に読んだ本

※昨年

A:2023年ももう終わってもうたやん。えらい早かったな
B:年取ると時間の流れが早くなる言うのはほんまやと思うわ。2023年になじまんうちに2024年になってまう
A:こう早く時間が経つと本もあんまり読まれへんな。今年はなんかええ本あった?
B:そうやなあ……。今年忙しくていつもよりあんま本は読めてへんねんけど……

B:記憶の新しいやつからいくと、最近読んだ山内朋樹『庭のかたちが生ま

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歩くこと主義

歩くこと主義

旅行の醍醐味といえば、歩くことだ。自分はできるだけ多く歩くことでその街のことを理解できるようになると妄信しているから、目的地までの距離が一駅か二駅くらいであれば歩くことにしている。もちろん移動ではなく歩くこと自体が目的のときは、もっと歩く。

実際、歩くことで見えてくるものは多い。たとえば、東京はそのごたごたしたイメージに反して歩行者には優しい街だ。道幅が広く、ルートも整備されている。人が多すぎる

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博論日誌②

博論日誌②

10月某日
論文の修正を行う。まだちょっと密度が低い気がするので、作品分析を加える。余計なところを削って作品の話をしたほうが、論文としていい感じになる……たぶん。まあ、地に足着いた話にはなる。

10月某日
非常勤用の授業資料作る。できれば博論に集中したいが、人は論のみに生きるにあらず、パンとワインも必要だ。パワポも作り慣れてきて、昔と比べるとだいぶ見栄えよくなる。デザインのセンスはないので、あん

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博論日誌①

博論日誌①

6月某日
飲み会で博論の話題が出る。そういえばあと半年くらいで博論が完成しているはずだが、全く「博論」として論を書いていないことを思いだす。なんだが現実感がない。博士論文を書くというのは、つまりどういうことなのだ?

8月某日
博論に手をつけるべきなのだが、2本ほど批評文の依頼があるので先にそちらに取り組む。〆切が早いからである。〆切は絶対守るというのが僕の流儀なのだが、その流儀のせいで〆切が遠い

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人文書院さま企画「じんぶんのしんじん」寄稿のお知らせ

人文書院さまがnoteで行っている批評家紹介企画、「じんぶんのしんじん」で、保田与重郎の回を担当しました。

twitterなどではすでに告知していたのですが、僕の場合noteの読者とtwitterの読者があんまり重なっていないので、こちらでも宣伝しておきます。

戦前戦中に特に影響力をもった保田与重郎という批評家を軸に、詩的な(ざっくり言えば、「エモい」)言語表現が立ち上げる集団性をどのように考

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天才の文豪と秀才の文豪

天才の文豪と秀才の文豪

風呂に入っているときやトイレをしているときに時々、「文豪のなかで誰が天才で誰が秀才だろう」と考えることがある。もちろん意味はないし生産性も皆無である。でもちょっと楽しい。

文豪はみな大なり小なり天才だと言ってしまえば話が終わってつまらないから、ここで言う天才とはあんまり勉強とかしてなさそうだけどすごい作品を書くやつ、みたいな感じで考えることにしよう。

たとえば、秀才型の典型は芥川龍之介や森鴎外

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【小説】冷蔵庫トリッパー

【小説】冷蔵庫トリッパー

ある日の夕暮れのことである。

私が川沿いを歩いていると、何人かのウーパールーパーがなにかガタガタと作業をしていた。この時間帯に連中が飛行訓練をしていないのは珍しい。訓練のやりすぎで罰則でも受けたかな、などと思って見つめていたら、話しかけられた。

「こんにちは。今日も暑いですな」
「飛行訓練はいいのですか」
「いいのです。このような暑い日に訓練を行うと、我々の皮膚では太陽の熱に耐えきれんのです。

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「抽象絵画の覚醒と展開」展(@アーディゾンミュージアム)と筆触の歴史

「抽象絵画の覚醒と展開」展(@アーディゾンミュージアム)と筆触の歴史

この展覧会の魅力は、その展示内容の豊富さにある。開館準備段階から抽象絵画の収集に力を入れてきたというアーティゾンミュージアムのコレクションは、ピカソやブラック、クレー、ボロックなど実に豪勢だ。それで学生は入場無料だというのだから、太っ腹な美術館である。

展覧会はセザンヌを初めとする印象派の時代から、抽象絵画の歴史を辿っていく。それまでのリアリズムとは異なる課題に画家たちが取り組む。主体がとらえ

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