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DAZNを訴えた話①

こんにちは。
ヴェルディサポで都内の大学生です。この記事では私がDAZNを訴えた話をします。初投稿でいきなりなんだかインパクトのある内容ですが、ご興味あれば、お付き合いください。

1 自己紹介

せっかくの初投稿なので、自己紹介をさせていただきます。
読み飛ばしていただいても結構です。

Twitterのアカウント名をよく考えずに「おさしみどり」としたのですが、平仄を合わせて「おさしみ」と名乗ることにします。なお、お刺身は大好物です。

現在20歳で、都内の大学で法学部に通っています(2024年7月現在)。
大学進学に伴い上京してきて、久々にサッカー観戦をするようになり、ヴェルディサポになりました。

悲しいことに大学に友人はいないのですが、地元には中学来の友人がいまして、彼らにヴェルディを布教しまくっていたところ、見事にハマってくれました。
約360㎞の距離を移動して、ほぼ毎週東京に来ているような友人もいます。狂ってますよね。狂った友人のアカウントはこちら

私は、今シーズンは、今のところ、ホームアウェイともに全試合観戦しています。

遠征の記録などもブログにできればと思うのですが、他のJサポの方々のブログのように面白く書けないので…差別化を図る意味で今回はひとまずインパクトのある内容で、記事を書きたいと思います。

2 導入

さて、本題に移ります。
Jリーグサポのみなさんなら、ネット上でも話題になったので、ご存知かと思います。

Jリーグを始めとして様々なスポーツの動画を配信している動画配信サービスである「DAZN」は、2024年2月14日から突如として、それまで「2台で同時視聴可能」としていたのを、「同じIPアドレスに接続した2台の端末でのみ同時視聴可能」という仕様に変更しました。
しかも、2024年のJリーグの開幕が2月23日であり、シーズン開幕の直前での仕様変更であったことから、大きな話題になりました。

このとき、「そんなこと許されるのか」といった主旨の意見が、ネット上で散見されました。

私も同意見です。そこで、他に訴訟をされている方はいらっしゃらないようですし、消費生活センターにも相談しましたが、弁護士に確認すると言ったきりその後の進捗がありませんでした。
そのため、今回、DAZNを被告として、同時視聴可能台数の変更は無効であり、DAZNは契約を一部履行しなかったものとして、損害賠償を求める訴えを起こしたという経緯です。以下この訴えのことを「DAZN訴訟」といいます。

3 前提事実

2.1 DAZNというサービスについて

DAZNは、イギリスの会社が運営するスポーツの動画配信サービスです。

サッカーや野球、バスケットボール、F1を始めとして様々なスポーツを配信しています。
とりわけ、Jリーグは全試合配信をしており、Jリーグとは2017年から放映権契約を結んでいるところ、直近では新たに2023年から11年間で約2395億円で契約を結んでいます

2.2 DAZNとの契約について

私は、2023年7月にDAZNを契約しました。年間プラン(年払い)で、料金は1年間で30,000円でした。 

なお、契約当時、DAZNはホームページなどで、「2台同時視聴可能」と謳っていました。

2.3 同時視聴可能台数の変更

DAZNは2024年2月に、料金プラン等の改定にあわせて、同時視聴可能台数についても、「同じIPアドレスに接続した2台の端末でのみ同時視聴可能」と変更しました。

また、月額980円の追加機能を購入することで、異なるIPアドレスに接続した端末も同時視聴できることとしたのです。

4 争点と主張

4.1 争点

DAZN訴訟の争点は下記の2点と考えています。

  1. 同時視聴可能台数に関するルール(仕様)が、契約の給付内容に含むかどうか(争点1)

  2. DAZN側がサービスプラン及びサービスの価格を変更することができるとした利用規約4条10項の有効性(争点2)

争点1について

契約では、契約の当事者双方に、それぞれ債務(義務)が発生します。


例)コンビニでジュースを購入する場合
コンビニ側:ジュースを引き渡すという債務
お客さん側:代金を支払うという債務


DAZNとの契約で、問題となるのは、債務の範囲はどこまでかということです。

利用者の債務が、上記の例のような代金支払債務であることは簡単に認められると思います。

一方で、DAZN側は、利用者に対してどのような債務を負っているのでしょうか。

動画を配信するというサービスを提供する債務を負っていることになりますが、この内に、「2台での同時視聴を可能とする」という内容を含むのかが争点となると思われます。

争点2について

DAZNの利用規約には下記の文言があります。

4.10 当社は、適宜、当社のサービスプラン及び当サービスの価格を変更することができます。

メール等で問い合わせたところ、DAZN側としては、上記の定めがあることを理由に今回の変更を行ったということでした。

契約というのは当事者が合意して、自由に内容や相手方を決めることができる(私的自治の原則・契約の自由)一方で、契約をした以上は、この内容に拘束されることとなります。

つまり、本来であれば、当事者の一方が、相手方の意向を無視して一方的に契約内容を変更することはできません。

ここで問題となるのは、今回の仕様変更の根拠となった利用規約4条10項が有効なのかということです。
すなわち、消費者契約法では、消費者の利益を一方的に害する契約条項は無効とすると定められているところ、これに該当するのかが、争点となると思われます。

消費者契約法(抄)
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

4.2 主張

争点1について

【結論】
IPアドレスにかかわらず2台同時視聴可能とすることは、契約上の給付内容である。

【理由】

  1. サービスの提供を受ける機会が損なわれること

  2. 2台同時視聴可能であることをもって、顧客を誘引していたこと

  3. 現在、同じように異なるIPアドレスに接続した端末で同時視聴するには月額980円を要すること

1 サービスの提供を受ける機会が損なわれること

DAZNは、利用者に対して、動画を配信し視聴させるというサービスをしています。
そして、利用者は、これを自己の端末(PC、スマートフォン、テレビ等)で、視聴して、そのサービスの提供を受けることとなります。

つまり、これまでは、何ら制限なく2台の端末でそのサービスの提供を受けることができており、年間3万円という料金を払って、2台の端末でサービスの提供を受けていたことになります。

一方で、同じIPアドレスに接続した端末でのみ2台同時視聴ができることとすると、同じIPアドレスの環境下で2台同時視聴という状況に意義があるのか不明であり、実際には同時視聴という状況が生じにくいと考えられることからしても、実質的には、1台での視聴しかできず、これまでのおよそ半分しかサービスの提供を受けられていないことになります。

2 2台同時視聴可能であることをもって、顧客を誘引していたこと

前述のとおり、DAZNは「2台同時視聴可能」とホームページに記載して、利用者を集めていました。

2台同時視聴可能であることをキャッチコピーとして、顧客の誘引に用いている以上、提供するサービスのうち重要な部分であることを証左するものと考えられます。

3 現在、同じように異なるIPアドレスに接続した端末で同時視聴するには月額980円を要すること

前述のとおり、現在では料金プランの改定に伴い、異なるIPアドレスに接続した端末で同時視聴するには、月額980円の追加機能を購入する必要があります。

すなわち、異なるIPアドレスに接続した端末で同時視聴可能とすることは、それ自体がサービスとなり得る上、少なくとも月当たり980円相当の価値を有するサービスの提供であることとなります。

争点2について

【結論】
利用規約4条10項は、消費者契約法10条に反して無効である。

【理由】
まず、消費者契約法10条の説明がやや難解にならざるを得ないのですが、ご容赦ください。

もう一度条文を見てみることにします。

消費者契約法(抄)
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条
 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

第一要件

法10条に該当するための、第一要件は、「法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」であることです。

ここでいう、「法令中の公の秩序に関しない規定」とは、任意規定のことを指します。
また、判例において、ここでいう任意規定は「明文の規定のみならず、一般的な法理等も含まれると解するのが相当である。」とされています(最二判平成23年7月15日

任意規定とは
法令中の規定には、当事者の意思の如何を問わず無条件に適用され、その規定に反する当事者間の特約を無効とするという効力を有する規定(いわゆる強行規定)もあるが、それとは反対に、その規定よりも当事者間の特約が優先し、当事者がその規定と異なる意思を表示しない場合に限り適用される規定もある。後者のような規定を任意規定という。

そこで、DAZNとの契約についてみると、利用規約4条10項は、DAZN側が一方的に契約内容を変更することができるとしています。
しかし、前述したように、本来、契約は私的自治の原則や契約の自由といった一般的な法理から、当事者間の合意がなければ、契約内容を変更することはできません。
すなわち、利用規約4条10項の条項がなければ、一般的な法理に従って、当初の契約通り、利用者は接続したIPアドレスにかかわらず2台同時視聴ができるということになり、この権利を制限する条項であるといえます。

第二要件

法10条に該当するための、第一要件は、「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」です。
民法1条2項は「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」とされていて、信義則といわれる内容になります。すなわち、権利の行使及び義務の履行に当たっては、相手方の信頼を裏切らないように誠意を持って行動することが要請されています。

そこで、契約条項が信義則に反するものか否かは、「消費者契約法の趣旨、目的に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきである。」とされています(前記最二判平成23年)。

今回のDAZNとの契約についてみると、①DAZNが、2台の同時再生ができることをもって顧客を誘引していたこと、②本件変更につき、合理的な理由が存在しないこと、③本件変更後において、変更前仕様と同等のサービスを受けるには月額980円の追加機能を購入する必要があること、④サービスの主要なコンテンツであるJリーグ開幕の直前であったことといった事情が指摘できます。

このような事情の背景からすると、一方的にサービスプランを変更することは、不意打ち的かつ消費者が期待する内容に反するものであり、信義則に反するといえます。

結語

したがって、同時視聴可能台数の仕様を変更したことは、債務不履行を構成し、損害賠償責任を負うものと考えます。

5 実際の訴状

実際に裁判所に提出した訴状は、こちらからご覧ください。
住所、氏名などは伏せてあります。

6 最後に

この問題は、多くのJリーグサポーター、DAZNユーザーを困らせており、大きな影響があると思いました。誰も訴訟をやらないのであれば、自分がやるしかないと訴訟の提起に踏み切りました。

進捗があり次第、また更新したいと思います。裁判は時間がかかる上、外国会社を相手とした訴訟なので、通常よりさらに時間がかかると予想されます。気長にお待ちください。

ご質問やご意見もいただけたら嬉しいです。

その間、なにか違う内容でブログ更新できたらなとも思っています。

さて、自分のTwitterより先に、冒頭で狂った友人のTwitterを紹介してしまいましたが、よければこちらのフォローもお願いします。

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