見出し画像

映画に出てくるワインを考察します。⑥「メルシィ!人生」

ワインが好きすぎて、映画の中に登場したワインでも気になります。銘柄は?なんでこれ?そういう飲み方ってあり?スルーされがちなディテールを追いかけながらゆるく考察してみます。今回は2001年のフランス映画「メルシィ!人生」。だいぶ古い作品を取り上げた理由は、大好きなコメディだからです!今は配信されていないみたいなので、ぜひどこかのレンタルで(私は好きすぎてDVDを購入)お楽しみください。

原題は「Le Placard」。フランス語で「クローゼット」の意味。欧米ではカムアウトしていないLGBT QIの人々を、クローゼットと暗喩するそうです。「本来の自分をクローゼットにしまったまま」的な意味らしい。この含みのあるタイトルが日本だと「メルシィ!人生」ってずいぶん大雑把になっちゃってるけど、舞台は避妊具メーカーだし、LGBT的デリケートな部分もあるしで、ハッピーエンドのフランス映画、ってことだけしか表現できなかったんですかね。

主人公は、自信がなく気弱な中年男性ピニョン。コンドームの製作会社に勤務歴20年の真面目な社員ですが、リストラの対象になってしまいます。身投げするほど思い詰めていると隣に住む老人が見かねて救済策を提案。それは「ピニョンがゲイを偽装しカムアウトする」というもの。会社の立場からすれば、ゲイの社員をリストラするのはLGBT差別と取られかねず、イメージ面でも売り上げ面でも損失を免れないから、クビは撤回されるというのです。ピニョンはストレートなので躊躇しますが、他に策はない。結局、隣人がどこからか入手したハードゲイ風セクシースタイルの他人の画像を、ピニョンの顔に差し替え、差出人不明で会社に送りつけたところ、あっという間に社内に広まり、噂の的になります


で、結果的には目論見通り「LGBT差別をする会社だと世間から誤解されたくない」という理由でクビはつながります。「差別はいけない」のではなく「差別してるように見えたら困る」ということなので、ちょっとどうなのと思うけど、この映画の公開は22年前。こういった問題にようやく意識がいくようになった日本とくらべて、フランスはずいぶん先を行ってたんですね。

さて、クビが回避されても安穏とはできないピニョン。心ない社員からは、好奇の目で見られたり、嘲られたり……。そして直属の女上司だけは、ピニョンの偽装を疑います。「彼がゲイとは思えない。あの写真では二の腕にタトゥーが入っていたから、ピニョン本人の腕を見て同じ人物なのか確かめる!」

というわけで、残業の休憩中、職場のテーブルにテイクアウトのお弁当と、ワインのフルボトルがどーん!

ワインはシャルドネかソーヴィニヨンブラン?銘柄もよくわかりません。



「6年も一緒に仕事してるのに食事で同席するのは初めてね。最初の食事のお祝いよ」とそのワインをコップになみなみと注ぎ乾杯。ピニョンを泥酔させてシャツを脱がせタトゥーを確認するという魂胆です。そういう魂胆ですが、この場の雰囲気がけっこう自然で、残業中飲むなんてことはよくある状況、という風に見える。ピニョンも登場したワインに驚いてる感じではない。もしや、残業中の休憩時にワインを飲むって、フランスでは普通なんですかね?(そもそもフランスって残業しなさそうだけど)ちなみにこの二人は経理部員です。この後業務は大丈夫?私の方が気が気でないよ。まあ、どっちみち上司は仕事どころじゃないんですが。


この映画では、色々な食事のシーンがあり、その都度ワインが出てきますが、それがみな違うところが好感です。一般的にはレストランのシーンで複数のテーブルがあっても、提携スポンサーの看板商品だけを置いてたり、画一的にボルドーボトルだったりするんですが、この映画内では各シーン、各テーブルに違うものを置いていました。監督のフランシス・ヴェベールさんは「奇人たちの晩餐会」という他の作品でもワインを重要な小道具として使っていたので、ワインにこだわりのある監督なのかもしれません。


さて映画の結末ですが、自分のついた嘘で何度も窮地に陥りながら、それを乗り越えることでピニョンは精神的に強くなっていきます。「ピンチはチャンス」っていうけどまさにこのピニョンのケースでした。ピニョンはダニエル・オ―トゥイユ、ゲイを目の敵にする人事部長にジェラール・ドパルデュー、社長がジャン・ロシュフォ―ルとキャストもさりげなく豪華。笑って明るく終わる楽しい1本でした。オートゥイユもドパルデューもシリアスな役が多い印象でしたが、コメディにもはまってます。さすがの演技派。舞台のコンドームメーカーはなんと相模ゴムのパリ工場だそうです。(今もあるのかな?)オフィスのシーンに出てくるスケルトンMacも超懐かしい!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?