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スポーツアナリティクスジャパン2021感想

2021/01/30に開催されたスポーツアナリティクスジャパン2021に参加したので聴講したトラックについて感想をまとめます。内容が充実していたので備忘の意味も込めつつ。

(未聴講トラックについてはアーカイブ聴講したら追記するかもしれない)

このイベントは2014年から始まったスポーツ分野におけるデータ分析のカンファレンス。今年はコロナ禍の影響でオンライン開催となっています。冒頭挨拶に始まり全部で11トラックが用意されていました。


今年のテーマは「人間回帰」とのこと
主催者からの冒頭挨拶にてテーマ「人間回帰」に込めた想いが語られていましたが、様々な意味がこもったもの。
テクノロジー先行になりすぎないこと。コロナ禍において人と人の関係性の大事さを改めて見つめ直していること。などなど。いくつかのトラックで「人間回帰」というテーマとのリンクが感じられるものがありました。振り返ってよいイントロだったのだなと思いました。

ここから聴講したトラックについて記載していきます。

Keynote「PITCH DESIGN 〜サイ・ヤング賞の原動力とデータ革命の現在地〜」

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個人的には今回のベスト。
サイヤング賞受賞のトレバー・バウアーさんの日々の取り組みをご本人から説明してもらうという豪華な内容。
期待値そんなに高くないところからのスタートだったのですが完全に舌を巻きました。このトレバー・バウアーさん超一流のアスリートというだけではなく超一流のビジネスパーソンでもありました。

とにかく超がつくほどの計測マニアですバウアーさん。バイオメカニクスや血液検査を定期的に実施し、自身のコンディションを定量的に計測することを徹底しています。血液検査に至っては毎日実施し微量栄養素の変動にも注目するなど普通ではないです。

球種の軌道分析も行っています。例えばMLB選手が4シームを投げたときの軌道の平均値と、自分の4シームの軌道の違いを計測。打者が打ちづらくなるように平均的な軌道と異なる軌道を描くようにピッチングを調整していく(驚愕)。こういうレベル感で戦っているというのは本当に驚きました。

バウアーさんが講演を通じて言っていたのが「現在地を計測し、理想像を定義し、そのギャップを明確にする。そして計画を立てる。あとはやるだけ」というもの。これは完全にビジネスの考え方ですね。バウアーさんはメジャーリーガーにならなかったとしてもビジネスの世界で成功していたのでは、と思いました。

この徹底した計測については何かのメソッドを使っているものではなく、自分(たち)で考えて計測と分析を行っているもの。分析者の行動様式ですよね。「おそらく他のメジャーリーガーでここまでやってる選手はいないんじゃないか、一部の指標は測っている選手もいると思うけどね」とのこと。

そんなバウアーさんですが、分析に頼り切るわけではありません。中盤で「練習はサイエンスで、試合はアートだ」と言い切っていました。バッターやピッチャーのコンディションや精神状態、温度湿度などに影響も受ける。分析したことを考えるのは練習まで。マウンドに立ったらキャッチャーミットに集中することだ。と。(このあたり、わたしは分析に携わる者でありつつシビれますね。施策でも現場導入は最後はアートみたいなところありますし・・・)

バウアーさんはこうした取り組みをYouTubeでナレッジ公開しています。「野球自体を前に進めていきたいんだ」と。とんでもないナイスガイで完璧超人です。すっかりファンになりました。

ちなみにこのトラック、事前収録の映像に字幕を付けたものが流されました。いままではセミナーといえばリアルタイム登壇が暗黙のルールだったようにも思いますが、コロナ禍になって事前収録は増えてきていますね。制約がなくなった分、コンテンツの幅が広がったのではないでしょうか。大歓迎です。

「日本サッカーをマジで強くするアナリティクスとは?」

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サッカー分析者のLeo the footballさんのインタビュー形式のトラック。
ちょっと講演タイトルと内容に微ズレ感がありましたね。「日本サッカーを強くする分析」という形の提言めいた内容ではなかったです。Leo the footballさんのここまでのキャリアと現在の取り組みを深堀りすることで、特定のチーム・団体に属さない「個人分析官」という新たな分析者像を示すという意味合いでは興味深いものだったので、その観点でさらっと。

Leo the footballさんは元お笑い芸人でYouTubeでのサッカー分析動画配信をきっかけに職業としてのサッカー分析者に転身されているとのこと。生来の分析好きの素養があり「サッカーをなんとなく見るのではなく、なんでこういう戦況になっているのか」を自然に考えるようになったということです。

こだわっておられたのが言語化すること。事象に名前をつけることで共有/指導しやすくなるというのは王道ですが難しいところですね。

YouTubeでの分析が評判になり、いまではサッカー選手個人の分析を請け負ったり、監督もしているということで、今っぽい経緯と働き方だと思います。こういう事例は今後も増えていくんでしょうね。

「ファジアーノ岡山とSPORTS TECH TOKYOが挑むメンタルトレーニング革命」

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電通さん仕掛けのSports tech tokyoの取り組みとして、ファジアーノ岡山ユースチームでのメンタルトレーニングwithテクノロジーという事例。
よく練られた取り組みの仕立て現場感あふれまくるエピソードがバランス良く、興味深いトラックでした。

取り組みにはOmegawaveという脳波と心拍を計測し可視化するデバイスが使われています。このデバイスを使うことで、いままで計測が難しかった選手のメンタル状態を可視化すること、そしてパフォーマンス改善につなげることを企図しています。

具体的には試合前に集中するための瞑想時間を設け、その時間内に脳波や心拍がどのようになるかを測ります。集中状態に入ると脳波や心拍が安定するということで、早く安定状態に入ることができるようになるとメンタルコントロールが巧みになったと見做す。という考え方です。

こうした取り組みでは得てして計測して終わりになりそうなところですが、計測数字の意味付けのところを丁寧に運用されていました。計測数字を選手に示しながら、メンタルトレーナーの方が丁寧にインタビューをして、計測した時のパフォーマンスやメンタルを言語化/意味付けしていました。

おそらくここが肝なのではと思います。大人でもメンタルコンディションを言語化するのはなかなか難しいもの。成長過程にある高校生年代ではなおさらなのではと思います。ここの仕立てを丁寧に実行し、次第に高校年代の選手が自分自身で言語化できるようになっていったということで、とても素晴らしいことだと思います。スポーツだけでなく将来にわたって有用な能力を身につけられたのではないでしょうか。

一方、そんな丁寧な仕立てをしていても現場導入は順調ではなかったとファジアーノ岡山のコーチの方が仰っておられました。説明をしても半信半疑だったり、脳波などを計測しているときに周りの選手が茶化してみたり、せっかくメンタルトレーナーと言語化したメンタルコンディションと、チームの監督コーチ陣との見解が食い違ってしまったり。(おそらく監督側は「もっとやれるはずだ」という願望が入り交じっていたのではと推測)

こうした課題がありつつ、デバイスが示す選手のメンタルコントロールは向上していき、また選手にも好意的に受け止められるようになった。ということで。仕立てを丁寧にしつつ導入は粘り強くという王道ではありつつ難しいプロセスが感じ取れてよいトラックでした。

「CBF’s Legacy: ブラジルサッカー連盟の野心的なビジョンと取り組み」

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US発のスポーツ分析プラットフォームHudlの紹介トラック
不勉強で全く知らなかったのですがこのHudlはスポーツ分析の分野ではChampion的なポジションを取っているソフトウェア/エコシステムのようです。

海外では講演タイトルにあるCBFの他、プレミアリーグ、ベルギーリーグなどが全般的にこのHudlを導入。また国内では2021シーズンJ1の20チームのうち19チームが、またBリーグやらラグビートップリーグでも導入が進んでいるとのことでした。(なお、我らがマリノスもこのHudlを使っているとTwitterで教えていただきました)

事例ではベルギーリーグが取り上げられており、全スタジアムにHudlの設備が設置されており各チームの分析者は接続するだけで簡単にHudlが使えるということ、試合中リアルタイムにHudlを使ってプレーへのタグ付けや分析を行うことができるということ、それを使ってハーフタイムのみならず前後半途中にベンチに分析状況を共有できるようになっていることなどが紹介されていました。

もうそんな時代なんですね(驚愕)

このHudlはプロダクトとしての成熟度がかなり高くなっているように思いました。選手のプレー映像やスタッツをDLできるようなAPIが展開されているということでHudl無しでは分析や編成などのシーンで劣位になるような状況になっているのかもしれないです。

ここまで強いプロダクトになると、選手のほうからこのプラットフォームに自身のプレー動画をUploadするような引力が発生しそうですね。ここがオープン化されてくるとアマチュア選手がHudlを通じてプロチームに入るというような夢が広がりそうです。(もうそうなっているのかもしれない)

「コロナ禍のスポーツ観戦。体験価値(CX)再構築の行方とは?」

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我らがマリノスのマーケティング部長永井さん登場のトラック。
コロナ禍におけるJリーグの観客の観戦状況の変化の紹介を経て、こうした状況下におけるマーケティングの取り組みや展望を語るものでした。こちらも良トラックでした。

まずコロナ禍における観戦状況がJリーグのマーケティング担当の方から紹介されました。リーグALLで客数、リピート率ともに20pt以上の大きな減少となっているとのことでした。強い制限が課されていたこともありますがかなり大きな数字ですね。

ただJリーグに対する興味関心がなくなったという回答はごくわずかという数字も紹介されており、登壇されたお三方ともに嬉しいと仰っておられました。(1ファンのわたしもなんだか嬉しかった)

2020シーズンの来訪客に対して観戦時に不安を覚えたシーンはあったか、というようなアンケートも行っていて、試合終了後混雑やコンコース通過時に不安を感じている人が多いので対策していこうというようなお話をされていました。こういう数字をもとに運営の改善を図っていくことが改めて分かりJリーグは心強いなというように思いました。

このパートではJリーグがしっかりデータを取っているなということと、データの先にいるファンサポーターを見て分析しているなということが、内容と言葉から感じられて感動しました。やはりJリーグ最高であります。

リーグの観戦概況を経て、2020シーズンの各クラブのマーケティング活動をマリノスの事例を軸に語られました。

まず、マリノスではコロナ禍においてマーケティングを細かく調整していったということが紹介されていました。
来場者数が5000人以下に制限されていた状況下においては広告を打たず、2019シーズンに来場がかなり多かった層に絞ってメールマーケティングを行い、50%以下の段階になってから、ライト層にもメールマーケティングのターゲットを広げていったこと。当初は安全安心のアピールをメインとしながら、少しずつエンタメ路線の情報を入れるように調整していったことなど。

Jリーグの方とのやり取りの中で「この状況下で2万人を集客するということは、普通の状況下で4万人集客することと同じくらいか、それ以上に大変なことだった」というようなお話をされていました。本当に頭が下がりますね。

次に話はコロナ禍でみえた可能性や2021シーズンの展望にシフトしていきます。

まず意識を変える必要があるということが繰り返し語られていました。「スタジアム観戦を軸とした体験」から「どのようにして体験してもらうか」にマインドセットを変える必要があるということ。そのうえで収益化ありきではなくファンサポーターとのエンゲージメントの維持/拡大を目的とした施策を展開し、それがゆくゆくは収益化につながるという順番で考える必要がある、という熱っぽい議論が交わされていました。「うんうん!」と頷きながら聞いていました。

そうした体験の最大化という観点からJリーグとしてもマリノスとしてもノンマッチデーにJリーグ/クラブにどう触れてもらうかが今年のテーマとのこと。リーグやクラブの発信だけではなかなか難しいのでSNSを通じてファンサポーターと一緒に拡げ盛り上げていく必要がある。というお話でクロージングとなりました。

Jリーグ好きなのでバイアスかかりまくるわけですが大変興味深いトラックでした。

なお余談めいていて恐縮ですが、議論の途中で、Jリーグのマーケティング担当オフィサーの濱本さんが「マリノスとマリノスサポーターの関係性はリーグ全体を通してみても清々しいものがある」「お互いがお互いを気遣っているような感じがある」と仰っておられましてニッコニコです。そうなんですよね~。

感想まとめ

というわけで未受講トラックたくさんありますが現時点撮って出し的な雑文でした。ここまで読んでいただいた方がいらっしゃいましたら大変感謝です。

バウアーさんの話やファジアーノの話、マリノスの話など分析やテクノロジーはありつつ大事なのは感覚や関係性というようなメッセージが随所に感じられカンファレンスのテーマ「人間回帰」のニュアンスがひしひしと。全体として完成度の高いコンテンツだと思いました。

個人的には久しぶりのSAJ参加でしたが前回参加時よりも興味深く聴かせてもらいました。この分野の成熟度が上がってきていることを感じました。関係者のみなさんおつかれさまでした。(来年もオンライン配信希望ですw)


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