母とメダカ
私の母は看護師をしている50代の普通のどこにでもいる母親だ。
だけど少しばかり、いや大分変わっているところがある。
家ではおちゃらけることが多く、変な踊りをしたり歌ったり、父親もそんな具合なので家の中はいつもにぎやかでとてもうるさい。
それに嫌気がさして今でも「静かにして!」としょっちゅう喧嘩をしている。
冗談を言い合ったり同じ言葉を狂ったように繰り返し言ったり、他の家庭からしたら相当変わっていると思う。もし似たような家族がいたら教えて欲しいぐらいだ。
とにかくおとなしくすることをしらないのだ。
母は7年くらい前から親の介護などで定期的に実家へ帰ったり病院に行って面倒を見たりしている。昔から親との折り合いが悪くて喧嘩になることも多いらしく、精神的に疲れていっているように見え、次第に涙もろくなっていた。
昔は子供の前で泣くなんてことなかったのに、いつも元気でいた母が変わっていくのを見ていた私はどうにかして元気づけたいと思ったが、そればかりか逆に私が元気付けられてばかりだった。
今の母の生きがいは何かと聞いてみると子供の成長とメダカだと言った。
母にとってメダカもうちの子なのである。
家の裏には睡蓮鉢がたくさんあり、その中には多くの種類のメダカが元気に泳ぎ回っている。
日に日にその種類や数は増えていき、毎朝エサをやっては睡蓮鉢に顔が入りそうなくらい近づきメダカの様子を観察している。
うちでは昔、知り合いに頼まれて子犬を預かったことはあったが、動物を飼うことはなかった。父親が動物が苦手なのと、みんなズボラで世話をしないだろうという結果だ。
しかし、メダカだけは違った。母は毎日熱心にエサをやったり水草を整えたり水を交換したり、かなり可愛がっていた。
うちは田舎で川や田んぼもあるので夏になるとカエルがよくやってくる。
カエルはメダカの天敵で、夏になるとカエルにかなり悩まされている。
メダカは他の大きい生き物の餌食になったりするので可哀想だなと思いながらもなんとか母はメダカを守っている。
最近はメダカが鉢から飛び出して地面に打ち上げられて死んでいることが多いらしく、それが悩みだそうだ。天敵から守るためにもネットでもすればいいのにと思うが母には母のやり方があるかもしれないので口出しはしない。
少しでも辛い気持ちから離れていけているだろうと私は思っているし母も思っているだろう。
メダカと母との暮らしはこれからも続いていく。
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