Yale大学 英語の夏期集中コース 2 「3単現」を英語で言いなさい
前回はYale大学の寮について書きましたが、訂正があります。寮の名前について「Berkeley Collegeという名前だったような気がする」とも書きましたが、当時の写真などを見ていてDevanport Collegeだと分かりました。上の写真がそのDevanport Collegeです。
さて今回は具体的なクラス分けやクラスの様子について「Reading」「Writing」クラスに焦点を当てて書きます。
・クラス分けはアメリカ大学への「進学予定」の有無で決まる
・「観光組」のクラスへの過小評価
・三単現のSも分からないの?
・クラス変更に動いてみた
クラス分けはアメリカ大学への「進学予定」の有無で決まる
入寮した次の日にランゲージラボでクラス分けのテスト(placement test)がありました。英語のコースは「Reading」「Writing」「Listening & Speaking」の3つに分かれていて、それぞれの技能ごとにクラスが3レベル(ABC)に編成されました。その結果、私は「Reading」と「Writing」がCクラスで「Listening & Speaking」がBのクラスになりました。
前に書いたようにインディアナ大学付属校では7レベルで上から2番目のクラスでしたが、それより半年前の夏にはまだ英語の力が低かったんですね。「Reading」と「Writing」がCクラスになってしまいましたから。ただ、これは単純にplacement testの結果だけではなさそうです。
Yale大のサマーコース申し込み用紙に「アメリカの大学に進学予定があるか」という質問があり、申し込む時点では留学の「り」の字も考えていなかった私は当然「予定なし」に〇をつけました。後で聞いた話ですが、このサマーコースでは、クラス分けの際に進学予定のある人とそうでない人で大きく二つのグループに分けてしまうのだそうです。進学組はAクラスに入れ、進学しない組はCクラス。そして、進学組だけどクラス分けテストの点が低い人、進学しないけれど点の高い人をBクラスに入れて調整するのだとか。
前の記事にも書いた通り、Yale大のサマーコースを教える先生たちは基本的に全米から「夏の出稼ぎ」に集まった先生たちです。ですからYale大学のサマーコースで英語を勉強したと言っても、Yale大の先生に教えてもらったわけでもありません。もちろん各自ESLの先生としてトレーニングも受け、学位も取っている人たちで、それなりの授業はするわけですが。
「観光組」のクラスへの過小評価
私は「Reading」と「Writing」がマイク(仮称)という先生で、「Listening & Speaking」はジョン(仮称)という先生でした。女性の先生が多い中で、二人とも男の先生でした。
私は残念ながらマイクのクラスは好きになれませんでした。マイクは人柄は悪くないのですが、Cクラスということで学生のレベルを過小評価している感じで、それが嫌でした。
彼がCクラスのために選んだ教科書もAやBクラスに比べてかなり薄いもので、韓国系の学生などは「何、この教科書…」と失望を露わにしていました。
三単現のSも分からないの?
ある日の授業でマイクが文法について受講者に質問しました。それは基本中の基本のような質問で、「文の主語が[he]なので動詞には『三単現』(三人称・単数・現在)の『s』がつく」というのが彼が求めている答えでした。
私は質問を聞いた瞬間に「三単現」という日本語が口をついて出そうになりましたが、「あ、でも英語で答えなくちゃいけない。『三単現』って英語で何て言えばいいんだろう」と言葉を飲み込みました。
他のクラスメートもおそらくは同じ状況だったと思います。文法の知識はあっても、それを英語で何と表現すればいいのか知らないのです。クラスはシーンとなりました。
するとマイクはクラス中を眺めまわし、顔にはっきりと失望の色を浮かべました。そして「分からないのか」とつぶやいたのです。これはショックでしたね。馬鹿扱いされたわけですから。
「違うよ。英語で『三単現のs』をどう言えばいいのかが分からないだけ」と心で叫んでも伝わるはずもなく…。
しばらくしてスペイン語系の学生が口を開いて、ゆっくりと言いました。「”S” in the third person singular in the present tense」。
その表現を聞いた瞬間に「ああ、そう言えばいいのか。なるほど」と思いました。やはりヨーロッパ言語は語彙が似ていたりするから、「三単現」を英語に直すのも比較的やさしかったのかもしれません。
マイクはホッとしたように「そうだね」と言ってクラスを続けたのですが、それ以降、その学生ばかりを指しました。
まあ、こっちは指名されても英語で文法の説明できなかったですけど…ね。おそらくアジア系の学生は皆同じ口惜しさを味わったと思います。
最近でこそ日本でも英語の文法は英語で説明しろ的なことになっているみたいですが、当時は母語で文法説明を受けるのが一般的でしたからね。「三人称」が”the third person”なんて思いつきもしませんでした。
このクラスで、「文法そのものが分からない」のと、「文法用語の英語を知らないから文法知識を言い表せない」のとの区別もつかないマイクにかなりがっかりすると同時に[the third person singular in the present tense]という表現は私の心に深く刻まれました。
与えられたのが薄い教科書だったので、Cクラスは宿題も少なく楽なクラスでした。ただ、私も含め「勉強したい」と思ってこのサマーコースに参加した受講者にとっては、この宿題の少なさも失望の種でした。AクラスとBクラスはかなりの宿題が出て、皆ヒーヒー言って宿題に取り組んでいました。その分、成長もあるということでしょう。ところが、こちらは1時間もすれば宿題は終わってしまい、取り残されたような気分になってしまいました。
ある日、珍しく少しやりがいのある宿題が出て、やっとBクラス並みに宿題が出るのかなと期待していたら、南米系の学生が「no more, please!」と叫びました。するとマイクは「そうだね。じゃ、これだけにしよう」と言って、それ以上出そうとはしませんでした。
そう、Cクラスは大雑把に分けて「もっと勉強したい」派のアジア系学生と「今のままで十分。もっと余暇を楽しみたい。観光したい」派のラテン系学生とでクラスへの期待値が大きく違っていたのです。そしてもっぱら後者の期待に沿った内容になっていたと思います。アジア系受講者は落胆し、休憩時間などにこの状況について文句や愚痴を言いあっていました。
もちろんこれは大雑把なくくりで、もちろんラテン系学生の中にも熱心な人はいましたよ。
クラス変更に動いてみた
私がクラス変更の可能性について事務局に問い合わせたのは、こんな状況があったからでした。コース開始後2週間ほどしてから、「もう少しチャレンジングなクラスで勉強したい」と申し出ました。
Cクラスになったのは、自分のクラス分けテスト結果がよくなかったからだろうけれど、AとBクラスの受講者がコースのカリキュラムに沿ってたくさん勉強できるのに、Cクラスでは簡単な練習ばかりしていて、コースのペースに合わせていたら「上達」が難しいと思いました。
事務局長と話し合った結果、運よくReadingのクラスはBクラスに変更してもらえました。でもWritingはBクラスに空きがないので、Aクラスに入るのはどうかと言われてしまいました。でも、いきなりAクラス(進学組)に入るのはちょっとレベル差も大きいと思ったので、Bレベルのクラスが適当だと思うと粘りました。すると事務局長はあれこれ資料を見ていましたが「来週まで待てるなら、6週間のコースが来週から始まるから、そこのBコースはどうですか」との提案がありました。私はそのアイデアに賛同し、ReadingもWritingも今までとは違うクラスに入ることになりました。
私がクラスを変更した翌日、Cクラスにいる韓国系の受講者に「どうやったらクラス変更できるの」と聞かれました。事務局に相談したことなどを話すと、彼女は喜んで「私も相談してみる」と言っていました。
でも結局彼女はクラス変更をしませんでした。というのも同じCクラスにいた男性の韓国人受講者を思いやったからでした。ReadingのBクラスの空きが一人分しかなく、彼女がその空きに移ってしまうと、その男性受講者だけがCクラスに取り残されることになり、そうなったらその男性受講者は「このコースを辞めて国に帰る」とまで言ったそうなのです。きっと同郷同士で仲が良かったのだろうし、少しでもできる学生を心の支えにしてCクラスに耐えていたのだと思います。
クラス運営は難しいな、と思います。易しすぎても難しすぎても不満が出るでしょうし、サマーコースですから、学生たちの参加目的も「観光半分」から「がっつり勉強したい」まで色々です。先生も大変ですよね。でも学生として大事なのは、もし不満があれば誰かに相談して、少しでもよくなるように行動していくことなのかな(特にアメリカでは)と思います。
クラスを変更してからの様子や、まだ書いていないとても楽しかった「Listening & Speaking」クラスについては、次回以降にお伝えしたいと思います。お楽しみに。