ベンチャーの新卒採用が悩ましい

ベンチャー企業が組織ができてくると、新卒採用をすべきか、との議論がおきてくる気がします。その理由は、知名度の低いベンチャーでは、中途より新卒のほうがいい人材が採用しやすい、とか、企業文化は新卒採用を主体としたほうが作りやすい、とか、外部から話を聞きました。

個人的には、ある会社では新卒採用をし、別の会社では新卒採用をしなかったので、両方経験しましたが、なかなか悩ましい問題だな、と思っていました。

新卒もした経験として、新卒でポテンシャルが高い人材が取れる可能性は事実です。特に、高学歴で選択肢があるのに、ベンチャーを選ぶ人材も一定数いて、面白い人材が採用できる可能性があります。ただ、ベンチャーとはいえ、上場して一定規模になると、安定思考だが、大企業にはいけなかった層も来る場合もあります。

企業文化のほうも事実ですが、企業文化は結局、新卒の上司となる中途も含めた幹部に浸透していない限り、その上司あるいはその部署の文化だけが浸透するので、結局、企業文化の仕組み次第な気がします。

ちょっと、話はズレますが、新卒一括採用という仕組みは、欧米だけでなく、世界的に見ても、日本が稀有な存在だと聞いています。企業には、その事業目的があり、それにあわせた組織があり、その組織に必要な人材のみを足りない部署だけ採用するのが、効率的です。ジョブ型といわれる働き方の組織ではそれが一般的です。新卒には極めて不利な環境だし、ポジションもどうしても限定的になります。ある面、ジョブ型では、新卒と中途の区分なく、ジョブに必要な知識や経験を持っていること、と、企業文化があっていることが採用要件になります。

日本の人事制度は、ジョブ型ではなくメンバーシップ型です。メンバーシップ型とは、端的にいえば、全員、複数の事業や地域を見る幹部候補です。また、幹部候補という名目と、解雇規制という日本国の制度もあり、日本の大企業では人事部が新卒をまとめて採用して、全国、全世界、あらゆる部署の人員配置を考えます。採用したうえで、配置するという考えです。最近は、マイナス面が強調されていますが、学生から見ると、大学で職業訓練がされていなくても、専門性を勉強していなくても、大企業を中心に企業で数年間、追加教育をしてくれ、解雇規制で守られ、ある程度までは給与も必ずあがります。企業からみても、戦略や誰か抜けた場合の組織の柔軟性の観点では、多能工的にいくつかの部署を見れる幹部を育成できれば、組織の持続性にはプラスでもあります。

ベンチャーでは、スタートアップの初期は幹部を目指したい、あるいは起業したいメンバーが集まるので、なんでもやりますというメンバーがあつまりますし、メンバーにとっても短期間で、猛烈な学習ができます。メンバーシップ型ではないですが、こちらに近い部分はあります。一方で、自分の専門分野で極めたいフェーズになると、組織の機能分化がはじまります。この採用では、ジョブ型に近づいていきます。もちろん、欧米のジョブ型とはまったく同じではないですが、徐々に配置換えや転勤、など難しく、一方で同じ部署での専門性が求められます。この段階に入ってからのほうが長いのですが、この段階で、大企業の新卒一括採用の流れにベンチャー企業が乗りつつ、専門性がないポテンシャル採用で各部署に配置すると、かなりの率で離職します。仮に離職しなくても、幹部候補生として採用したはずの新卒なのに、10年経っても管理職にならなかったりします。それは、ジョブ型の組織に、メンバーシップ型の採用をおこなったような感じになります。

ここでいいたいことは、新卒採用が悪いという話をしたいのではありません。ベンチャー企業でもうまくいっているスタートアップもあります。それは、ベンチャーでもジョブ型にせず、ローテーションを回して、メンバーシップ型の組織運営ができている、とか、ちゃんと、新卒の中から、幹部候補生を明確にして、部署任せだけにしない、とか、そもそも事業の新規性が高すぎて、ジョブが明確でない、とか、新卒を採用することの意味を理解し、それを制度として組み込んでいる場合な気がします。もしくは、新卒でも専門性があり、ジョブ型でも活躍できる人材が採用できる場合もありますし、ベンチャーではこのほうがあっている気はします。ITエンジニアとかは一番、わかりやすいですし、営業も育てやすいのかもしれません。

個人的には、ベンチャーの中でも、あまりこれまでの事例のない新しい技術の会社であるが、真逆ですが、営業主体の会社で、かつ、ちゃんと育てる人材がいる、更に、急成長で人材を早期に育成する必要がある、とかであれば、新卒採用が経営的には合理的な気がします。

個人的には、中途でもいい人材が採用できるのであれば、新卒と中途とそれほど区分する必要はなく、まさにジョブ型で採用するほうがいいと思います。ベンチャーでは当初はそれほど人件費の枠で余裕がないので、将来の幹部候補を育てる余裕ができるまでは、中途採用ベースのジョブ型のほうがいい気がします。新卒 も反対ではないですが、インターンで実績がある、あるいは、専門性が高い、などジョブ型的新卒採用を前提としてですが。

最近、経団連などもジョブ型について、提案しはじめていますし、在宅勤務もジョブ型に向いています。新卒の就職のあり方は大きく変わるかもしれませんし、結果、大学での過ごし方も大きく変わるかもしれません。

ちなみに、私の少ない経験では、ベンチャー企業で新卒採用した人材は、残念ながら、自社で幹部になった人材はいませんでした。一方で、新卒で採用した方は、起業した、あるいは、起業メンバーになった人の比率が多く、それはそれで、今となっては面白いメンバーがいたとは思います。その時の会社の余裕度にはよるので、余裕がなかったので、当時の会社全体にも、新卒そのものにも、かなりの負担を強いてしまった反省もあるのですが。

新卒採用されるベンチャー企業の方のご参考になれば。

ジョブ型、メンバーシップ型について、またいずれ。

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