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第十二話 衛生委員会の事前準備③

産業医の訪問が数日後に迫っていた。

当たり前だが、ただ客を迎えて話をして帰すというだけのイベントではない。千里は少しだけ不安だった。

通常であれば1ヶ月に1回1時間訪問のところを、2ヶ月に1回30分(料金約4割引き)というお手頃な案を提示してもらったためだ。

30分という短い時間で効率よく進めなければならない。千里はもう一度当日の流れを振り返った。

 14:00-14:10 職場巡視
 14:10:14:25 衛生委員会
       議題 ①衛生委員会とは
          ②過重労働者の報告
          ③各職場で問題がないかの確認
          ④職場巡視に関して

職場巡視は大丈夫だと思う。危ない場所はないし、荷物などで通路や階段や非常用扉を塞いだりしていないのは確認済みだ。

問題は衛生委員会の方だろう。特に初回は、衛生委員会に出席しても給料が増えるわけではないメンバーに、それでもこの委員会は会社にとってとても大切なことだということを理解してもらわなければならない。

できれば自分はとても重要で大切な委員会のメンバーになったんだという自覚を持ってもらえればありがたい。

「そのためには、これでもかというほど上手な説明が必要ね」

千里は手元の資料を見直した。

衛生委員会の目的は<労働災害防止の取り組みを労使が一体となって行うことだ。

労働契約法上、企業には安全配慮義務(=従業員が安全かつ健康に労働できるようにするため企業が負う義務)が課されている。

俗にブラック企業と言われる会社はこの安全配慮義務を無視するか軽視しており、褒められたものではないし、労働者も面接に行くべきではない。

企業というものは本来、従業員の健康や安全を率先して守るものなのだ。

その窓口となるのが衛生委員会である、ということだ。時間外労働が増えていないか、過重労働者がいないか、いるとしたらその数はどれくらいか、各職場環境で問題はないか(照明が暗くて視力を落とした人がいないか、冷暖房が効きすぎて体調を崩した人がいないかなど)を常時確認、把握する。

衛生委員会のメンバーは産業医以外は社員である。理想論かもしれないが、全員で会社をよくしていこうという制度なのだと千里は解釈した。

「初回の目標は30分という制限時間に慣れることね。巡視はササッと、委員会はガツンといきましょう」

通常であれば、職場巡視は衛生管理者は週に1回以上、産業医は月に1回以上行わなくてはならないのだが、産業医による職場巡視は<衛生委員会で同意を得る><事業者から産業医に所定の情報を毎月提供すること>の2つの条件を満たすことで、2ヶ月で1回でも問題がなくなる。

「2ヶ月に1回の訪問巡視の同意を取るのを忘れないようにしないと」

 メモに書き込み、千里は一通り衛生委員会開催前の事前準備を一通り終える。

「これでなんとかなりそうね」

 何事もなく終わりますようにと祈りながら、当日に備えた。

■次回予告
いよいよ衛生委員会当日。千里は産業医の訪問を迎え入れる。<次へ進む>


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